第6話 招待!ソウソウ邸
ソウソウに付き合うこと十数分、俺達はやたらデカイ豪邸の前に連れてこられた。
「ソウソウ、ここは?」
「私の家だ。入るぞ」
え、この豪邸がソウソウの家?漫画かアニメでしか見ないようなデカイ洋館に、庭に噴水まであるこの家がソウソウの家?
「もしかしてソウソウってお嬢様?」
「エンショウ程じゃない。入るぞ」
せっかくなので内観もじっくり見たいところだが、ソウソウはさっさと部屋に入ってしまった。おそらくリビングだろう、机・ソファーのあるだだっ広い部屋だ。同い年くらいだろうか、そこには既に三人の若者が座っていた。
「帰ったぞ」
「帰ったかソウソウ。その三人がリュービ・カンウ・チョーヒか」
そのうちの一人の男性が立ち上がって俺達を出迎えてくれた。
「リュービ、紹介しておく。コイツは私のイトコの夏侯惇、通称はカコウトンだ」
「俺はカコウトン。同じ後漢学園の一年だ。よろしくな」
ツンツンヘアーやアゴヒゲよりも左眼の黒い眼帯が一際眼を引く、それは怪我なのかお洒落なのか。気になるが聞く勇気はない。
「隣が同じくイトコの夏侯縁。通称はカコウエンだ。」
「カコウエンよ。私も同じ後漢学園の一年生だから、よろしくね」
隣の女性が立ち上がって挨拶してくれた。茶色いショートヘアーにすらりとした足の長い女性だ。黒いジャケットにジーパンで凄い凛々しく見える。
「この学園には、私の親戚で協力者が他に二人いるのだが、今は別件で出ていてここにはいない。奥にいるのが、協力者の鎮宮公大。チンキュウと呼んでいる」
奥の男性が立ち上がる。ひょろりとした体格に眼鏡と、いかにも頭脳労働担当といった印象だ。
「チンキュウです。ソウソウと同じく元風紀委員でした。よろしく」
「ソウソウと同じく元風紀委員?ソウソウ風紀委員辞めたの?」
「あー、そこから話さねばならんな」
俺が驚くと、ソウソウはすまんなと言った表情でこれまでのいきさつを語りだした。
「知っての通り連日のゴタゴタで生徒会は壊滅した。そして代わりにトータクが勢力を伸ばした。風紀委員も例外ではなくてな。委員長の席が空白なのを奴に目を付けられ、奴は自分の部下のリョフという奴を風紀委員長に任命しやがった」
「リョフ?聞いたことある名だぜ!」
「聞いた噂ですと、西涼高校に鬼神と恐れられている最強の生徒がいるとか。その方の確か名がリョフと」
チョーヒとカンウがリョフの名に反応する。二人とも武術の達人だから強い者同士で噂が入ってくるんだろうか。しかし噂とはいえ、鬼神とはどんな奴なんだ?
「その結果、風紀委員もトータクの管理下に入ってしまった。その上、奴は私に共に学園を建て直していこうと言いやがった。奴はもうこの学園の支配者気取りだ」
話を続けるソウソウの表情が段々険しくなっていく。
「奴の私を見るあの時の目は忘れん。あれは発情したオスの目だ。奴は私を女として手に入れようとしている」
ソウソウは憎々しげな顔つきで拳を机に叩きつけた。
「それに奴のナニも勃ってたしな」
「ぶっ!ソウソウ!」
女の子の口からの予想外の単語に思わず噴き出してしまった。この子は突然何を言い出すんだ。
「おーすまんすまん。まあ、それで辞めてきたというわけだ」
ソウソウは舌を少し出して、ニヤニヤ笑いながら話をまとめた。
「私もトータクが信用できず、一緒に抜けてきたというわけです」
チンキュウが何事もなかったように話を続ける。とにかくまあ、いきさつはわかった。
「奴をこの学園から叩き出さんとダメだ。だが、そのためには仲間がいる。リュービ・カンウ・チョーヒ、君達も私の仲間に加わって欲しい」
ソウソウは一転、凛々しい顔つきに戻ると、俺に右手を差し出した。
「え、カンウ・チョーヒどうかな?」
協力してあげたいが、勝手に決めるわけにもいかない。俺は義妹二人の顔を伺った。
「アニキは協力したいんだろ?」
「では、私達は着いていくだけです」
あっさりと承諾してくれた。できた妹達だ。
「ソウソウ、わかった協力しよう!一緒にこの学園の平和を取り戻そう!」
俺はソウソウの手を握り返した。
「ハッハッハ。リュービ、感謝する。共に戦おう!」
満面の笑みになるソウソウ。黄巾党の騒動の時は怖い印象だったが、今日は色々な表情のソウソウが見れる日だな。
ソウソウが大量の書類を机に並べ出した。
「さて、我等はまだ人数が足りない。協力者を増やしたい。ここに学園の委員会役員、各部部長、その他学校有名人のリストがある。誰か仲間になりそうな人物はいるか」
そう言われても入学して間もない俺にピンとくる名前は少ない。
「やはり、エン姉妹に声をかけるべきでは?」
カコウトンが一番に口を開く。
「あいつは人間的にはあまり信用はできないのだが、まあ、顔は広し、役に立つか」
エン姉妹は俺にも分かる。生徒会のエンショウ・エンジュツという双子の姉妹だ。それ以上詳しくは知らないが、ソウソウからの評価は決して高くないようだ。
「後は空手部のソンケンでしょうか」
カコウエンがリストを指差しながら答える。
「勢力は小さいが、奴等の武勇は役に立つな。それに奴は義理堅い男だ。学園を見捨てたりはせんだろうな」
ソンケンは黄巾党の騒動の時に会った。あの時、風紀委員に協力してただけあって、ソウソウからの評価も高いようだ。
あの人は今のところ唯一、チョーヒの一撃に耐えた人だ。確かに心強い戦力になりそうだ。
「後は弓道部のカンフク、語学部のコウチュウ、テニス部のリュウタイ辺りは董卓の息がかかっていますが、内心嫌悪感を抱いてると噂です」
チンキュウが様々な人物の名をあげる。この辺りになるともう俺にはどんな人かわからない。他に俺がわかる人は…
「味方になりそうなのはその辺りか。後は…」
「コウソンサン」
リストに知っている名前を見つけて、俺はついポツリと呟いてしまった。
「ん、コウソンサン?馬術部の公孫部長か」
「いや、中学の先輩がいたからつい」
「知り合いか。ならちょうど良い。コウソンサンも加えよう」
そのままコウソンサンの名は協力者候補に加えられた。まあ、肩書きをもつ生徒はだいたい上級生だ。他に上級生の知り合いはいないから仕方がない。
一通り名前も出尽くしたところで、ソウソウは段ボールに入った用紙を机に乗せた。
「ここに私が書いたトータク打倒を訴えた檄文がある!お前達はトータク一味に見つからずに各勢力にそれを配り、味方に引き入れてくれ」
檄文にはトータクへの弾劾と勇ましい言葉が並んでいた。
「リュービ、君達はコウソンサンを頼む。後は他に頼めそうなのがいたら回ってきてくれ」
俺は了承した。まあ、コウソンサン先輩ならトータクに密告とかもしないだろう。でも、あの先輩に会うのか…
「では、私は友人のチョウバク、ホウシン辺りに声をかけるかな」
立ち上がろうとするソウソウをカコウトンが呼び止める。
「それとソウソウ、お前にはエンショウの方も頼む」
「うむ…メールじゃダメかな?」
「ダメですよ。幼馴染でしょ」
眉をひそめて、面倒そうな顔をするソウソウをカコウエンがたしなめる。
「小中と同じ学校だったというだけなんだが」
いやにソウソウのエン姉妹の評価が辛口だとおもったらそうか、昔馴染みだったのか。
「仕方ない。では各自檄文を持って解散!」
ソウソウの号令の元、俺達は檄文を手に各勢力の元へ旅立った。コウソンサン先輩か…何事もなければいいが…