第61話 逆転!カントの決戦!
「あれがチョウエイの陣か。」
キョユウを得てからのソウソウの行動は迅速であった。誰に気付かれることもなく、エンショウ後軍の第一陣まで迫っていた。
「この場は私とキョユウにお任せください。行くよ、キョユウ」
「え、ええ」
黄色のパーカーにショートパンツ姿の女軍師・カクがキョユウを伴い、たった二人で敵陣に近づいていった。
「止まれ、何者だ?」
案の定、見張りの生徒に止められるが、カクは取り乱すことなく、こう返した。
「無礼者!お前は自軍の軍師の顔も知らないの?
ここにいるキョユウ様は極秘の任務でこちらに来ている。速やかに部隊長のチョウエイに取り次ぎなさい 」
「そ、そうよ、急ぎなさい」
「は、失礼致しました!」
見張りの彼もエンショウの参謀であるキョユウの顔には見覚えがあった。彼は慌てて部隊長・チョウエイを呼びに走った。
しばらくして男が奥から現れた。この陣の部隊長・チョウエイだろう。
「キョユウ様、参謀を降格されたと聞きましたが…」
その問いにキョユウに代わりカクが答える。
「極秘の任務のため、あえてその噂を流したのです。
チョウエイ、あなたにも極秘任務に協力していただきます。ついてきていただけますか…」
「は、はい」
事態がいまいち飲み込めないチョウエイであったが、極秘任務と聞いては断ることもできなかった。加えてキョユウがエンショウの幼馴染みで親しいことは彼もよく知っていた。そんな彼女の命令を無視することもできなかった。
チョウエイはカク、キョユウに付き従い、少し離れた茂みへと歩いていった。そこにソウソウ軍が待ち構えているとも知らずに…
「キョユウ様、こんなところで何の用事ですか?」
「キョチョ、頼みましたよ」
恐らくチョウエイには自身に何がおこったのかわからなかったであろう。そのぐらいキョチョの行動は素早かった。チョウエイの真後ろに現れたかと思うと、次の瞬間にはチョウエイは気を失っていた。
「見事だ、カク」
「よくもまあ、あんな嘘がつらつらと…」
ソウソウは素直にカクを誉めたが、その一部始終を見ていたキョユウが半ば呆れ気味のようだった。
「さて、次はリョイコウの陣に行きましょうか?」
エンショウ後軍本陣~
赤いヘアバンドに、白いマントを着けた男子生徒が自軍の騒がしさに気付いた。
「何の騒ぎだ?」
この男子生徒が後軍総指揮官・ジュンウケイである。
「大変です、ジュンウケイさま!
ソウソウ軍がこの陣に襲撃をかけております!」
部下の突然の報告にジュンウケイは激昂した。
「なにぃ、何故、後軍の中心にある我が陣にソウソウが直接攻めてきている!
スイゲンシンたちは何をしていた!」
「それが、スイゲンシン様もカンキョシ様も他の部隊長全員と連絡がつきません!」
「何をしている!早く呼びつけて敵を挟み撃ちにするぞ!」
一方、ジュンウケイの本陣の周囲を守る各部隊の陣営は混乱していた。
「おい、スイゲンシン様はどこに行かれた?」
「カンキョシ様もいないぞ!」
「リョイコウ様もだ!」
「確かキョユウ様に連れられて、それから戻ってきてないぞ!」
本来なら指示を出すべき各陣の部隊長が揃っていなくなっていたからだ。
各陣の残らされた部下たちは、消えた部隊長を探すか、それとも自分たちでソウソウ軍に対処するか、その判断さえつかないでいた。
「どうした!他の部隊で何が起きている!」
「それが、部隊長全員行方不明で、部隊が混乱しております!」
エンショウ本陣~
「後軍が騒がしいようだけど、何事なの?」
薄紫の長い髪の女生徒、この軍の総帥エンショウの耳にも後軍の騒ぎが伝わっていた。
緑髪の男子生徒、前線部隊長のチョーコーがエンショウに報告する。
「大変です!
後軍がソウソウの襲撃を受けているようです!早く救援に向かいましょう!」
しかし、その意見を、茶髪に金のネックレスをつけた男子生徒、前軍指揮官のカクトが落ち着いた口調で押し止める。
「落ち着けチョーコー、後軍が少し攻められたぐらいで崩れるものか。
それよりも今、ソウソウ本陣は手薄です。エンショウ様、今こそ敵を叩き潰す好機です!」
だが、長い黒髪の女生徒、同じく前軍指揮官のソジュはカクトの意見を否定する。
「いえ、この騒ぎは少し攻められた程度ではあり得ません!
きっと何か一大事が起こったのです!すぐにショウキの部隊を派遣しましょう」
「落ち着きなさい、ソジュ!何か一大事ではわからないわ。
まず、ジュンウケイに連絡を取って事態の把握に努めなさい。
カクト、その間にソウソウ本陣を攻撃しなさい」
エンショウはカクトの意見を採用し、後軍への対処にはひとまず情報収集のみとなった。
「はい、お任せください。
おい、チョーコー、コウランと共に出撃し、ソウソウ本陣を攻撃しろ」
「お待ちください。
ソウソウの本陣は堅固です。攻略に時間がかかって、もし先にジュンウケイが敗れれば我らの負けです!」
「ならばお前らがさっさと攻略すればいい話だろ!
後軍の事は我ら幹部に任せて、お前らはただ目の前の敵を倒せ!」
カクトの命令に、仕方なくチョーコーはコウランと共に出撃した。
一方、ソウソウ本陣では、黒髪メガネの女生徒・ウキンが急いでエンショウ軍の襲撃を留守を預かるソウコウに伝えた。
「ソウコウさん、エンショウ軍が攻めてきました!」
「ついに来たわね。
いい、ソウソウの勝利を信じ、私たちは戦い抜くのよ!」
エンショウ陣営・後軍~
後軍ではジュンウケイの怒号が響いていた。
「スイゲンシンたちの部隊はどうした!まだ動かんのか!
部隊長無しでもいいから早くこちらに向かわせろ!」
「ジュンウケイ!」
そのジュンウケイを呼ぶ一人の影、赤黒い髪が光を反射し、瞳が赤く輝くその少女は敵の総帥ソウソウ、その人であった。
「あれはソウソウ!あいつさえ捕らえれば全て終わるぞ!もう我らだけでいい出陣だ!」
「さぁ、ついてこいジュンウケイ!」
短いスカートをなびかせて、ソウソウはジュンウケイより逃走する。
「待たんかソウソウ!」
だが、ここでまた別の声が戦場に響いた。
「エンショウ様よりの命である!ジュンウケイが反乱を起こした!皆、奴を捕らえなさい!」
ジュンウケイがその声の主に目を向けるとそれは自軍の参謀であるはずのキョユウであった。
更にキョユウの隣に立つ黄色いパーカーを着た女生徒が声を上げる。
「ジュンウケイを捕らえた者を指揮官に出世させるわ!」
「あれはキョユウ!何を言っている?
そうか、奴は裏切り者だ!キョユウを捕らえよ!」
「ジュンウケイ様、ソウソウではなく、キョユウを捕らえるのですか?」
「えぇい、両方捕らえんか!」
だが、ジュンウケイの指示は、自軍の混乱に余計拍車をかけることとなる。
「ソウソウを捕らえろ!」
「捕らえるのはジュンウケイじゃないのか?」
「キョユウだろ?」
「それよりスイゲンシン様を見なかったか?」
後軍の部隊はどれが実行すべき指令なのかわからなくなってしまっていた。
「えぇい、静まれぃ!静まれぃ!
全部隊の指揮はこのジュンウケイが取る!お前らこっちを見ろ!」
全部隊の目がジュンウケイに向いたその時、白髪ポニーテールの小柄な少女がジュンウケイを呼び止めた。
「ジュンウケイ!」
「なんだ!」
ジュンウケイは、その少女がソウソウ軍の切り込み隊長・ガクシンであると気付く暇もなかった。
電光石火の早業で、ガクシンの拳がジュンウケイを撃ち抜き、一撃で昏倒させた。
そして、その倒された様は部隊のほぼ全員が目撃することとなった。
「おい、ジュンウケイ様がやられたぞ!」
「どうすればいいんだ!」
「ソウソウ軍の総攻撃だ!ジュンウケイが討たれた!早く逃げろ!」
混乱するエンショウ軍に更にカクの流言が追い討ちをかける。
「おい、逃げるぞ!」
「お、おう!」
指揮官・部隊長を失った後軍に、この事態を静めるだけの統率力を持った者はおらず、兵士たちは我先にと逃げ出した。
後軍の兵の一斉逃亡は、本陣にいるエンショウもさすがに動かざる得ない事態であった。
「何事なの!後軍の兵士が次々逃げ出してるわよ!」
茶髪の指揮官・カクトが血相変えてエンショウの前に走り込んでくる。
「大変です!ジュンウケイが討たれたようです!」
明らかに取り乱すこの男を、黒髪の指揮官・ソジュは叱りつける。
「カクト、あなたが余計なことを言わなければこんな事態にはならなかったわ!」
「い、いや、そもそもチョーコーたちがさっさとソウソウ本陣を攻略していればこんな事にはならなかった。
エンショウ様、あいつらに責任を取らせ、後軍のソウソウ軍を追い返させましょう!」
「なんでもいいから早くこの事態を収集させなさい!」
カクトからの指令は、前線でソウソウ本陣と戦うチョーコー・コウランに届けられた。
「ジュンウケイが討たれたのは俺たちの責任だからなんとかしろだと?」
「コウラン、どうやら私たちの居場所はもうエンショウ軍には無いようだな」
チョーコーたちからの返事は、カクトの指令に従うものではなかった。
「エンショウ様、大変です!
チョーコーたちがソウソウに降伏したようです。やはり奴らは信用できなかった…」
「黙りなさいカクト!」
ただ取り乱し、事態を悪化させるばかりの男をソジュは一喝した。
「エンショウ様、後軍が崩壊し、前軍の主力が失われた今、我が軍の敗北は決定的です。早くお逃げください!」
「わかったわ、ソジュ、あなたも早く」
「いえ、私はここに残り、部隊の指揮を執り、少しでも多くの部隊を北校舎に戻そうと思います」
「ソジュ、お、俺は…」
「カクト、あなたがいても足手まといです。
あなたはエンショウ様を守って早く逃げなさい」
「あ、ああ、そうか。
では、後は任せた。エンショウ様、早く逃げましょう!」
カクトはエンショウの手を引き、数名の部下と共に北校舎へと落ち延びていった。
一人残されたソジュは、寂しげに後を振り返った。
「私たちはここで負けてしまったのね…」




