第59話 別離!それぞれの道!
北校舎・別室(リュービ仮拠点)~
「お帰りなさい。リュービ」
俺を出迎えてくれたのは野球帽に、ジャージ姿の女生徒・チョーウンだ。
「チョーウン、皆を集めてくれ」
俺は武勇に秀でたチョーウンに、俺の部隊の再編と、訓練を一任していた。
「わかったよ。あれから逃げ散ったリュービ軍も次第に集まってきて、ほぼ元の通りの人数になったよ」
チョーウンに預けた部隊は強靭さに磨きがかかったようだ。数は少ないかも知れないが、一人一人はソウソウ軍に決して負けない猛者たちだ。
それから離れ離れになっていた部下たちも無事合流できたようだ。
豪胆な勇士・チョーウン、俺の先輩・コウソンサン、温厚な才女・ビジク、その妹・ビホウ、新たに加わった男子生徒・ソンカン、そして悪友・カンヨー…
「って、カンヨー?お前いつの間に!」
金髪の男・カンヨーはへらへらしながら俺に答えた。
「やだなー、リュービ軍と言ったらカンヨー、カンヨーと言ったらリュービ軍。
いて当たり前じゃないかー」
「お前、戦いとなると消えるくせに、いつの間にかいるよな」
「まー、これが友情というやつですなー」
まるで気にしない様子で、カンヨーはへらへら笑っている。特に役に立つ男じゃないけど、まあ、こういう生徒の居場所を作るのも俺の役目か。
「まったく…とりあえず俺たちの部隊は中央校舎南部に移動する。
だが、先に言っておく。俺はエンショウから離れるつもりだ。もうエンショウの部下は終わりだ。
俺は改めて南部で独立しようと思う。もし、エンショウ軍に残りたい者がいれば遠慮なく残ってくれ」
俺とエンショウではその勢力は雲泥の差、さらに加えて俺は博打を打とうとしている。エンショウに残るものがいても仕方がない。
だが、俺の部隊は誰も手を挙げなかった。
「リュービ、それは野暮ってもんさ」
ボブの髪型に、何故か未だにメイド服を脱がない女生徒・コウソンサンが俺にそう声をかけた。
続けてくせっ毛にメガネをかけた女生徒・ビジクが声を上げる。
「私たちがここまでついてきたのはリュービさんを慕ってです。エンショウではありません。
私たちはリュービさんにお供いたします」
皆、同意するようにこちらを見ている。
「ありがとう、みんな」
俺は部隊をまとめ上げると、最後に今まで世話になった友人・ケンショウに別れの挨拶を告げた。
「ケンショウ、今まで世話になった。俺はこれから南部に行くが、おそらくここに戻ってくることはないだろう。
ここだけの話だが、俺はエンショウは敗れると思う。君も俺たちと来ないか?」
エンショウの敗北。確証のある話ではない。だが、エンショウ陣営には隙がある。その隙を見逃してくれるほどソウソウはお人好しではない。
それに対して毛皮帽子をかぶった男子生徒・ケンショウは怪訝な顔を示す。
「この状況で敗れるというのか…
いや、君の事だから何か思うところがあるのだろう。ありがとう。
だけど、俺の所属する部がある以上、俺はここから離れる気は無いよ」
「そうか、気をつけてくれ」
彼は仲間を見捨てるような男ではない。無理を言ってしまった。
「なに、例え負けても、ここは後方だ。俺のところまでは来ないさ。
でも、一応、負けた時の備えもしておくよ」
「じゃあ、俺はもう行くよ。ケンショウ、またいつか会おう」
「ああ、今度は選挙戦が落ち着いた時にゆっくり話でもしよう。リュービも気を付けて」
俺はケンショウと別れ、チョーウンたちと共に中央校舎南部に向けて出発した。
中庭・ソウソウ陣営~
一方、義妹・カンウは、今まで世話になった赤黒い髪と瞳の女生徒・ソウソウを訪ねた。
「おやカンウ、戻ったのか?
…いや、戻るのはここでは無いようだな」
既にソウソウはカンウの表情から全てを察したようだった。
「はいソウソウさん、今までお世話になりました。このような苦境で陣営を抜けるのは心苦しいのですが…」
カンウは申し訳なさそうにソウソウに告げる。
「気にするな。今のお前をここに留めても使い物になるまい。
自分の道は見つかったようだな」
「はい、おかげさまで」
その時のカンウの微笑みは、ソウソウ陣営にいた頃の迷いのある顔とは全く別であった。
「カンウ、次、君と会う時は敵だろう。手加減はせんぞ」
「はい、その時は私も全力であなたを倒します」
「ふふ、大きく出たな。
険しい道になるだろうが、自分で選んだ道だ。精々、足掻いて見せろ」
「はい。
では、私はこれにて失礼させていただきます」
カンウは心地よい返事と共に深々と頭を下げ、その場を退席した。
「ふふ、リュービ、お前が羨ましいぞ」
ソウソウは少し寂しげな笑みを浮かべ、カンウの影を見送った。
「ソウソウ様、このままカンウ殿を行かせてしまうのですか?」
青髪に道着姿の男子生徒・チョーリョーはソウソウに意見する。
「もはや意思の無い者を無理に留めても仕方がなかろう」
「しかし!」
「あいつはリュービの妹だ。帰るべきところに帰るだけだ。無理に追ってはならない」
「…わかりました。別れの挨拶だけしてきます」
チョーリョーはカンウの後を追うように退出した。
「カンウ殿!」
「チョーリョーさん」
カンウはチョーリョーに呼び止められ足を止めた。
思えばカンウとチョーリョーは、幾度も戦い、ソウソウ陣営においては共闘もした。敵にでありながら最も親しい相手とも言えた。
「カンウ殿、やはり、行ってしまわれるのか」
「すみません、やはり兄さんと同じ道を歩むことにしました」
「そうか、行く前に一つだけ、あなたに言いたい事がある…
私あなたの事が好きだ!一人の女性として私はあなたに好意を持っている」
「え!そ、そんな突然…すみません…
お気持ちは嬉しいのですが、私は他の男性の方とお付き合いする気はありません」
「すまない。あなたの返事はわかっていた。わかっていたが、言わずにはおられなかった。
これで思い残すことはない。次会った時は全力であなたを倒す。一人の武人として」
「わかりました。
その時は私も武でもって返事といたします」
「では、私はあなたに届くよう精進していきます。カンウ殿、それまでお元気で」
「チョーリョーさんも」
恋愛感情ではなかったが、カンウにとってチョーリョーは好感の持てる男性だった。
「さて、後は忘れ物を取りに行きましょうか」
カンウが中庭の端に赴くと、待っていたとばかりに一人の男が出迎えた。
カウボーイハットをかぶった、ツンツン頭の男子生徒・シューソーだ。
「カンウの姐御!ソウソウのところを去ると聞きました。
どうか俺を連れていっていただけんでしょうか」
シューソーは地面に正座し、深々と頭を下げた。
「その姐御って言い方やめて貰えませんかね。
私もまた兄さんの力になることを決めました。あなたも私の力になりたいというのでしたら、止めはしません。ついてきたいのであればついてきなさい」
そのカンウからの言葉に、シューソーの顔はパアッと明るくなり、立ち上がった。
「姐御!ありがとうございます!」
「だから、その姐御という呼び方どうにかなりませんか」
「姐御は姐御ッスよ!」
「兄さん、遅くなりました」
カンウが南部の俺たちの拠点に無事戻ってきた。遅かったので、ソウソウに引き留められたかと思ったが、杞憂だったようだ。
「待ってたよ、カンウ。
そっちの男は?」
「俺はカンウの姐御の一番弟子・シューソーです。リュービの兄貴、よろしくお願いします!」
カウボーイハットをかぶったその男は膝に手をついて挨拶する。
「姐御はやめなさい!
まあ、新しい部下みたいなものです」
「よし、これで皆揃った。新生リュービ軍、再起動だ!」
「 おー!」
カンウ、チョーヒ、ビジク、ビホウ、ソンカン、カンヨー、コウソンサン、チョーウン、リューヘキ、黄巾党、カコウリン、シューソー、部隊のみんな…
戦いの中、いなくなってしまった者もいるが、新しく加わってくれた者もいる。こんなにも多くの仲間が俺についてきてくれている。ここから俺の、俺たちの新たな道を始めるんだ。
「ところで、兄さん。なんで女性が増えてるんですか…?」
カンウの目がギロリとこちらを睨む。
「え、いやいや、新しい仲間だよ。
紹介するよ、チョーウンだ。前に一緒に戦ったことがあるだろ」
「どうも、チョーウンです。よろしく」
長い眉に、大きな瞳、野球帽にジャージ姿の女生徒・チョーウンが挨拶する。
それに続けて隣の長めのボブカットにメイド服姿の女生徒も挨拶する。
「そして、私が愛人のコウソンサンさ」
その瞬間、緊張の電撃が走る。
「え、いや、愛人ってのは言葉のあやでね、そういう意味じゃ…」
「主にリュービの性欲処理を担当してるよ」
コウソンサンはニコリと笑ってそう答える。
「兄さん…」
「アニキ…」
「リュービ…」
「ま、待て、てか、いつもより多いな…」
カンウ、チョーヒに加えてリューヘキも怒りに震えてこちらに向かってくる。
教室の一角で三発の打撃音が響いた。
リュービ率いる新生リュービ軍は、中央校舎南部の技術教室を拠点に、南校舎のリュウヒョウ、東校舎のソンサク、反乱者のチンラン達と連絡を取り合い、東南部のソウソウ陣営への攻撃を開始した。




