第5話 崩壊!後漢学園!
チョウ三姉弟が交換生徒として旅立って一週間が過ぎた頃、我が後漢学園に激震が走った。
後漢学園生徒会長・家信遂子、通称、カシン。
抜群のスタイルから男子生徒から高い支持を得ていた彼女が援助交際を行っていたことが発覚!しかもその相手が学園長、教育委員会役員、市議会議員…と次々と明るみになり、連日マスコミが押し掛ける大騒動に発展してしまった。
この突然の大事件に生徒会副会長・円紹子、通称、エンショウ以下生徒会役員達はうろたえるばかりで何も対策ができなかった。
だが、そこに救世主が現れた。
チョウカク達と入れ替わりできた西涼高校からの交換生徒・董卓、通称、トータクは、手慣れた様子でマスコミ対応をこなしていき、事態を鎮めることに成功した。
しかし、この騒動により生徒会役員は支持を失い、トータクが事実上のこの後漢学園の支配者となってしまった。
長身細身、整った顔、髪は七三に綺麗に分けられ、乱れ一つない制服、教師ならばクラスに一人は欲しい優等生風な装いの彼こそ、今や生徒会室の新たな主となったトータクその人である。
「では、董君、学園の運営についてこれからもよろしくお願いいたします」
「はい、新学園長。この董卓、転校された家信生徒会長に代わり誠心誠意尽くしますのでなんなりとお申し付けください」
今やトータクは新学園長以下、後漢学園の多くの教師から最も信任厚い生徒となっていた。
「クックック フハハハ ワーッハッハッハ!とうだ!真の悪役にしか許されない完璧な三段笑いだ!」
「見事ですトータク様!流石ですトータク様!立派ですトータク様!」
隣にいる女生徒がトータクを讃える。茶髪のショートカットに眼鏡が特徴の彼女は、同じく西涼高校からの交換生徒・李珠理、通称、リジュ。
「リジュよ、最早、後漢学園は我輩の支配下と言っていい状態だ。見たか、西涼高校のボンクラ共め!」
「流石はトータク様、見事なお手並みでございます」
眼鏡をクイと上げながらリジュが答える。
「残念なのはあのエロ会長が転校したことだ。我輩の女にしようと思ってんだが…まあ、ジジイの中古と思えば惜しくもないか」
下品な笑みを浮かべ、舌なめずりをするトータク。
「我輩の狙いはエンショウ・エンジュツ姉妹!そしてソウソウ!奴等を屈服させて我輩の女にしてやる!ワーッハッハッハ!」
「流石トータク様!女性問題で西涼高校の生徒会を追い出されたのに全く懲りてない!」
「いかんいかん。我輩の真の目的は女漁りではない。後漢学園を従え、我輩を追放した西涼高校をぶっ潰す!それこそ我輩の真の目的だ!女はついでに過ぎん!」
「流石はトータク様、どんな時でも女性の事を忘れない!」
「しかし、それはそれとしてイチモツの猛りが収まらん。リジュ!奥で一発付き合え!」
トータクはリジュの肩を抱くと、強引に引き寄せた。
「はい、トータク様!リジュはお供致します!」
少し顔を赤らめながらリジュが答える。
「どうだリョフ!お前も一緒に寝んか?」
トータクの振り向いた先には長身ポニーテールの女生徒が立っていた。
「下品…」
長身の女生徒は一言呟くと、そのままトータクの目の前を通って教室から出ていった。
「ふん、リョフめ、未だに我輩に股も心も開かん。まあいい。奴がいる限り我輩は無敵だ!ワーッハッハッハ!」
「ああ、生徒会長転校しちゃったなー。こりゃ我が校の美少女ランキング荒れるなー」
放課後、俺が帰り支度を始めると、前の席の男子生徒が話しかけてきた。
「なんだよ、そのランキング?」
「校内裏新聞読んでないのかよー。お前変わっちまったなー。カンウ・チョーヒとつるんでるからなー」
コイツは簡田庸介。アダ名はカンヨー。悪い奴ではないが良い奴でもない。クラスでは唯一の同じ中学校出身なのでちょくちょく話しかけてくる悪友だ。
「いいよなーお前は。あんな可愛い子と兄妹の契りまで結んでさー。俺もカンウに『兄さん』って呼ばれてーなー。兄妹プレイとか飛ばしすぎだぜチキショー」
この男の話し方はいつも本気なのか冗談なのかよくわからん。しかし、チキショーにいつもより感情がこもってた気がする。結構、本気で悔しがってるのか?
「別にプレイとかそういうのじゃないから」
俺・リュービは、少し前に起きた黄巾党の騒動の時、同級生のカンウ・チョーヒと義兄妹の誓いを立てて二人の兄貴分となった。
義兄妹といっても絆を深めるためのお遊びみたいなものだが、カンウもチョーヒも校内有数の美少女だ。
確かにこの二人から兄と慕われるのは悪くない。だが、あくまで友情の証だ。変な勘違いをされても困る。
「紳士ぶるなよー。カンウ、美少女ランキングの順位結構高いんだぜー」
「え!」
カンウは美少女だし、しかもメチャクチャ強いということでかなりの有名人だ。しかし、このマンモス校で、入学早々でもうランキング入りしているのか。変な虫がついたりしないだろうか。
「お前だって多少の下心はあるだろー。それとも狙いはチョーヒかー?あの子もマニアックな人気あるからなー。そうかそっちかー」
「誰がマニアックだって…!」
いつの間にか後ろで中華風のお団子ヘアーの女の子が眼を光らせている。
「え!あ、チョーヒ…さん!本日はお日柄も良く…あ、もうこんな時間。僕部活行かなきゃ!」
カンヨーは逃げるように教室を飛び出した。
「まったく。アニキ、友達は選んだ方がいいぜ」
「ああ、そうするよ」
カンヨーはマニアックと言っていたが、チョーヒだって美少女だ。そりゃ多少、体型が子供っぽくて、胸も小さいが…いや、全くないわけではないのだが、チョーヒ自身は結構気にしているみたいで、本人の前でうかつなことは言わない方がいい。
「では、帰りましょうか。兄さん、チョーヒ」
綺麗な長い黒髪の女の子もこちらにやってきた。もう一人の妹・カンウだ。こちらは長身で高1とは思えない程胸が大きい。確かにいつも一緒にいるチョーヒが比べてしまうのも仕方がないかもしれない。
「しかし、生徒会メチャクチャになってどうなるんだろうか」
帰り道、俺はふと呟いた。
「生徒会長は転校。生徒会役員だったエン姉妹は雲隠れ。トータクさんが生徒会長になるんでしょうか?」
「あいつ余所者だぜ」
しかし、その余所者のトータクが、今や生徒会長代理のような立場なのは誰もが認めるところだ。
「ソウソウも行方不明だしな…」
風紀委員のソウソウも姿を消してしまった。どうもトータクと一悶着あったらしいが、詳しいことはよくわからない。
「私ならここにいるぞ」
「わ、ソウソウ!なんでこんなところに!」
赤黒い髪に眼、胸元を大きく開け、ヘソ出し、ミニスカートの、相変わらず風紀を糺す側なのか乱す側なのかよくわからない女の子がいつの間にか俺の真横に立っていた。
「リュービ、お前に話があってな」
「俺に?」
一瞬、ソウソウの顔が照れたように見えた。
「付き合ってくれないか、リュービ!」
「え?それって…」
「何こんなところで告白してやがる!」
「そうです!うちの兄さんにはまだお付き合いとかそういうのは早いと思います!」
俺が喋るより先にチョーヒとカンウがソウソウに詰め寄る。待て待て、まだそうだと決まったわけじゃない、落ち着け。そりゃソウソウはちょっと怖いけど、美少女だし、そんな子に告白されて嬉しくないわけないけど、付き合うとなると、ほら、急なことだし…
「…ああ、言い方が悪かったな。リュービ、そしてカンウ・チョーヒ。話があるから私についてきて欲しい。」
…ほら、そんなことだと思ったよ。うん、わかってた、わかってた。
とりあえず、他に予定もないので、俺達はソウソウについていくことにした。