第55話 窮弊!蝕まれる大地!
中央校舎と北校舎の間に位置する中庭。ここを舞台に、ソウソウ軍とエンショウ軍の決戦が遂に始まった。
木の板や机椅子でバリケードを作り、防衛に徹するソウソウ軍に対し、数で勝るエンショウ軍は弓道部による射撃、敵が怯んだところを突撃部隊によるバリケードの破壊、敵が出撃すれば射撃と交互に繰り返し、徐々に陣地を侵略していった。
中庭・ソウソウ陣営~
「いやー、劣勢ですな。敵の突撃部隊を倒そうと飛び出せば良い的になってしまう。練習用なのか殺傷力のない矢だが、当たるとなかなか痛い」
燃えるような赤い逆立った髪に、緑玉の首飾りをつけ、赤いリストバンドをした、長身の男子生徒・ジョコーが妙に朗らかに話す。
その隣に座る、橙色の髪に、細身で中性的な顔立ちの男子生徒・ソウジンがそれに答える。
「後ろが生徒会室だから遠慮してか陣地攻撃は弓矢だが、敵陣まで攻め寄せれば平気でエアガンまで出してくるしな。
その攻撃をかいくぐったとしても、数で劣る俺たちじゃ袋叩きになるだけだし」
「ソウジン、特攻してみたら?中学の時、不良校を入学後、1ヶ月で完全にシめたアンタならできるんじゃないの?」
その更に隣に腰かける、ピンク髪をツインテールにまとめた、小柄な女生徒・ソウコウがソウジンを茶化すように話に加わった。
「ほぉ、ソウジンにそんな過去が」
ソウコウの暴露にジョコーが食いついた。
「地元じゃ有名な不良だったの」
「ソウコウ、余計な事を言うな。昔の話だ」
彼らはソウソウ軍の歴戦の武将たちだが、さすがに攻めあぐねてしまい、盾を背にして雑談して暇潰すようになっていた。
「おーい、チョーリョー。お前も隅で筋トレなんてやらずに、話に加わらんか?」
「いや、結構。体が鈍る方が武人の恥だ」
ジョコーの誘いを、青白い髪にハチマキをつけ、青い道着を着た男・チョーリョーはにべもなく断り、黙々とスクワットを続けた。
「あいつ付き合い悪いなぁ」
眉をひそめるジョコーをよそに、ソウコウが話を続けた。
「誰か呼ぶにしてもガクシンも無口だしねー。そういえばカンウはどうしたの?」
その問いかけにソウジンが答える。
「カンウなら今は偵察に行く時間だろう。シカンでも呼ぶか」
そんな雑談に興じる三人の後に、一つの人影が忍び寄る。
「ちょっとあなたたち!いつまでも喋ってないで守備につきなさい!」
いつまでもくっちゃべってる三人に、黒髪ロングに眼鏡、切れ長の目といかにも風紀委員という感じの女生徒・ウキンの雷が落ちた。
「うわー委員長が怒った」
「ちょっと!誰が委員長ですか!ソウコウさん、待ちなさい!」
ウキンに怒られて、三人は蜘蛛の子を散らすにように逃げ帰っていった。
一方、ソウソウはエンショウ軍攻略のための策を参謀たちと協議していた。
「こうも防戦一方だと我が軍の強味の機動力が活かせんな」
中央に座るのがこの軍の主、赤黒い髪と瞳に、白い肌、制服の胸元を大きく開け、ヘソ出しミニスカートの女生徒・ソウソウである。
「敵の情報を集めていますが、なかなか難航しているようです」
そう発言したのは新たに参謀に加わった、セミロングの茶髪に、Tシャツに黄色のパーカー、ショートパンツ姿で、首にヘッドフォンをかけた細身の女生徒・カク。
「まだ始まったばかりだ。敵も引き締めているだろう。時間が経ち、油断し出せばあるいは…」
「しかし、劣勢の今、時間経過は我が軍にも不利です」
「我が軍劣勢と聞けば、他の群雄たちがエンショウ方につく可能性は高いですね」
「西校舎のリュウショウ・東校舎のソンサクとは協定で、エンショウ派の南校舎のリュウヒョウを押さえ込んでくれていましたが、こうなるとどちらに転ぶかわかりませんね」
髪をおさげに結い、地味めな眼鏡をかけた、おっとりした雰囲気の女生徒・ジュンユウ、 セミロングの茶髪に、ツリ目、この中で最も背の高い女生徒・テイイク、茶髪のポニーテールに、男装をした、長身の女生徒・カクカが次々と発言する。
目の前のエンショウはもちろん、他勢力の情勢も気にかけねばならない。ソウソウ不利のこの状況を見逃してくれるほど甘くはない。
更にジュンユウが付け加える。
「残党の方も心配です。我が軍は、倒した勢力の兵を全て吸収しているわけではありません。
我らに敗れ、恨みだけ抱えた在野の士も多くいます」
「私が滅ぼした勢力で最もエンショウと近しいのでいうと…
エンジュツか!」
中央校舎東南部(元エンジュツ勢力圏)~
エンショウはそれまで旧エンジュツ派の受け入れを拒否していたが、ソウソウ討伐に協力した者を受け入れると発表。
元エンジュツ軍のチンラン・バイセイ・ライショらが打倒ソウソウを掲げ立ち上がった。
更にエンショウはソウソウに属す大多数の生徒に手紙を送り、寝返りを持ちかけた。
ソウソウ所属・セパタクロー部
「部長、我らもエンショウにつきましょう」
「隣のハンドボール部やカーリング部もエンショウにつくそうです。我らマイナー部が一つだけ抵抗しても無駄ですよ」
「防衛部隊のカコウエンだってチンラン達の相手で手一杯で、こちらまで気が回らない状態じゃないですか」
「静まれヤロー共ぉ!エンショウは今は威勢がいいが、変なヤローに権力を持たせてやがる。ソウソウは賢い女だ。俺はソウソウを裏切る気はねぇぇ」
ソフト帽をかぶり、後ろ髪を一つ結びにして、ジャケットを羽織った男が部員たちを静める。彼がセパタクロー部部長・利守通ことリツウである。
「大変です、部長!クキョウ・コウキュウ・シンセイらが部を抜け出してエンショウ方に…」
「そいつらを捕らえてソウソウの元に送れぇい!討伐戦だぁぁ!」
リツウの絶叫がこだまする部室に、一人の男子生徒が入ってきた。
「リツウ、君はソウソウ陣営に残ってくれるんだな」
「おうよ!チョウゲン、我が友よぉ!」
このパーカーを着た小柄で童顔の男子生徒の名は長元伯然。通称、チョウゲン。彼は友人のトシュウ、ハンキンと共にソウソウ陣営に加わり、それぞれ東南部の部活の指揮を任されることとなった。
同じく東南部を預かるリツウは、チョウゲンの顔に似合わず勇敢な性格と寛大な人柄から進んで親交を結んでいた。
「リツウ、今、マンチョウがエンショウに寝返った勢力を倒して回っている。君たちにも加勢して欲しい」
「おう、任せろぉ!いいかヤロー共ぉ!今は苦しいかも知れないが、必ずソウソウが勝っつ!俺を信じてついてこいぃ!」
旧エンジュツ領一帯の中央校舎東南部にある多くの部活がエンショウ側への寝返りを表明した。
だが、東方面防衛指揮官のカコウエンをはじめ、マンチョウ・リツウ・チョウゲンらソウソウ軍の武将たちの活躍でチンランや寝返り組の侵攻は食い止められた。
しかし、彼らを完全に平定するまでにはまだしばらくの時間を必要とした。
東校舎・ソンサク本拠地~
「父は成金、その子はソウソウ♪
狡猾災厄、乱世の奸雄~♪」
鼻歌混じりで闊歩するツインテールに、三日月の髪飾りをつけ、ミニスカート、ブーツの細身の女生徒が、この勢力の主・ソンサクである。
「サクちゃん、その変な歌気に入ったんですか?」
「なんか口ずさんじゃうんよね」
ソンサクの隣に立つ長い金髪に、白い肌、頭には黒いレースのついた帯飾りをつけ、フリルのついた黒いロングスカートとハイヒールの女生徒が、ソンサクの幼馴染みにして、軍の副司令官を務めるシュウユである。
ソンサクは瞬く間に東校舎の各勢力を平定、今や東校舎最大勢力となり、小覇王とアダ名されていた。
長らく隣接する南校舎のリュウヒョウとは対立関係にあり、敵の敵は味方ということで、ソウソウとは協力関係にあった。
だが、ソウソウ不利の情勢となり、その関係は崩れようとしていた。
「リュービもエンショウについてるってゆーとるし、ソウソウと共倒れする義理はないしね。
じゃあユーちゃん、留守を頼むよ」
「はい、サクちゃんも気をつけて」
「さぁ、真打ちの登場じゃ!
逆賊ソウソウに引導を渡してやるけぇね!」
ついにソンサクは軍を率い、ソウソウ領への侵攻を開始した。
「うちらはこれより生徒会室を直接襲撃する!
これはソウソウへの宣戦布告じゃ!」
雷鳴轟き 猛虎が歩む
業火が燃えて 大海狂う
滅せぬ敵などあるものか~♪
さあ共に立ち上がろう!
学園の平和 生徒の安寧
全てはソンサクと共に!
こうしてまた一人、打倒ソウソウを掲げ、立ち上がった者が現れた。




