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第52話 迷乱!カンウとリュービ!

 中央校舎・臨時生徒会室~


 赤黒い長い髪に、露出の多い服装の女生徒・ソウソウは、美しく長い黒髪の、お嬢様然とした女生徒・カンウを呼び出した。


「カンウ、ガンリョウ討伐の功でお前に何か役職をやりたいのだが、あまり空席がない。私が生徒会長になれれば再編できるのだがな。


 そこでお前を仮に風紀委員の副委員長に任命する。しばらくはこれで活動して欲しい」


「すみません、ソウソウさん。もし空席ならば美化委員の副委員長に変えていただけないでしょうか?」


 カンウは深く頭を下げてお願いした。


「…いいだろう。美化委員は委員長にもしてやれるが、どうする?」


「いえ、副委員長で充分です。慎んで副委員長職をお受けします。それでは失礼します」


 カンウは一礼して退出した。


 ソウソウはその後ろ姿を見送りながら思った。


「美化委員長はリュービの職…副委員長を望むとは、まだ奴に未練があるか」


 中庭に出たカンウは物思いに耽りながら、思わず呟いた。


「兄さん…私は…」


『姉御!』


 カンウの物思いは野太い声で早々に中断された。


 カンウが後ろを振り返ると、そこにはカウボーイハットをかぶった、ツンツン頭の小柄な男子生徒が、膝をついてこちらに向いていた。


「あなたは…確か昔、兄さんとソウソウさんが文芸部で戦った時に捕まえた黄巾の!」


「へい、俺は周倉元福(ちかくら・もとよし)。シューソーと言いやす。姉御、改めてお願いしやす。俺を弟子にしてくれ」


 カンウは思い出した。当時、文芸部の部長であったトウケンの救援要請で、リュービ三兄妹で赴き、ソウソウと戦ったことがあった。その時、真っ先に飛び出し、自分が捕らえた黄巾党の青年がいた。あの時はこんな帽子はかぶってなかったが、確かにこんな顔であった(※第26・27話参照)。


 彼は捕らえられた後、カンウに弟子入りを懇願し、断ったはずだが、どうやらまだ諦めてはいなかったようだ。


「まだあなたそんな事を言ってたのですか…私は弟子なんて要りません」


 ため息をつきながらカンウは答える。


「姉御に負けたあの日以降、俺は修行に励みました。あの時、俺が姉御に何故そんなに強いのかと聞いたら、姉御は力になりたい人がいるからと答えました。その人のためにより強くなれると!」


「それは…」


「姉御が誰かの力になりたいように、俺も姐御の力になりたいんです!


 俺は姐御の言葉を信じて修行してきやした。まだ力は及ばないかも知れやせんが、足の速さなら自信がありやす。俺を側に置いていただけませんか!」


「いい加減にしなさい!」


 思った以上の大声に、カンウ自身が少し驚いてしまった。


「姉…御…」


 しかし、今さら退くわけにはいかない。カンウは怯まずに話を続けた。


「そんな昔の言葉なんて知りません!もう…私が力になりたい人は…


 とにかく、迷惑です!もうついて来ないでください!」


「姐御!待ってください姐御!」


 カンウはその場を去った。シューソーは待ってと言うが、あそこまで強く言われてはさすがについてはこないようだ。


 確かにあの時、文芸部でシューソーに言った言葉に嘘はない。だが、今はもうカンウの側に力になりたい人はいない。


「モテますな、カンウ殿」


 後ろを振り返ることなく進むカンウを呼び止めたのは青髪に道着姿の男子生徒・チョーリョーであった。


「からかわないでください、チョーリョーさん」


 チョーリョーは少し顔を強ばらせて、カンウに問う。


「あなたの心にまだリュービ殿はおられるか?」


「 …あなたまで何を言うのですか」


「個人的にリュービ殿を慕うのはいい。


 だが、仕える主まで同一である必要はないのではないか?


  ソウソウ様は私に新たな道と活躍の場をくださった。一介(いっかい)の武人が将として戦うことの喜びを知った。


 カンウ殿、あなたの実力があればソウソウ軍でも有数の指揮官になれる。その才能を共に生かし、ソウソウ様の下で働かないか?」


 チョーリョーはかつてリョフの武勇を慕い、ひたすらに研鑽を積んできた。その頃から一軍を率いてはいたが、武勇でもって従えるものでしかなかった。


 それがソウソウの将となり、人を率いること、指揮することに喜びを見いだしつつあった。


「確かにソウソウさんなら私に活躍の場を与えてくださるでしょう」


「ならば…」


「少し考えさせてください…」


 カンウはそのままチョーリョーからも去っていった。


 チョーリョーはこの顛末をソウソウに報告した。


「やはり、カンウの心にはまだリュービがいるのか…


 うーん、いっそ手籠めにして私の女に…でも恋する乙女を寝取るのは趣味じゃないしなぁ…」


 ソウソウの頭をその膝に乗せる、長い髪に花飾りをつけた美しい女生徒・スウが彼女のぼやきに返す。


「どの口が言うのですか?」


 それにニヤリと笑って返すソウソウ


「それはそれ、これはこれ」




 北校舎・エンショウ陣営~



 北校舎の主・エンショウは高らかに宣言する。


「第二渡り廊下を占拠いたしました。これより全軍を中央校舎に移し、一気にソウソウ軍と雌雄を決しましょう!」


 しかし、ウェーブのかかった長い黒髪の女生徒・ソジュがそれに待ったをかける。


「お待ちください!全軍一気に中央校舎に移れば、いざという時に撤退が難しくなります。


 全軍を二つに分け、中央校舎にある程度陣地を築いてから、徐々に移動していくべきです」


 自分の命令に意見され、不機嫌そうにエンショウはソジュを睨み付けた。


「ソジュ、あなたはまた私の邪魔をするの!  


 デンポウの一件忘れたわけじゃないでしょうね?」


 だが、ソジュも怯まずに言い返した。


「受け入れられないのなら、クビにしていただいて結構です!」


「ソジュ、あなたまで!


 あなたの指揮権は取り上げます。でも、クビにはしません。参謀としてここに止まりなさい」


 エンショウは腹を立てたが、それでも冷静な判断を失うほどではなかった。


 デンポウにソジュと立て続けに主力二将を前線から外すのは、エンショウ軍全体に混乱を招きかねないとの判断であった。


「…わかり…ました…」


 ソジュはやむなくこの指示を受けると、エンショウは今度はカクトの方に向いた。


「カクト!あなたにソジュの軍を任せます。中央校舎移動の指揮をとりなさい」


「はっ、お任せください!」


 この予期せぬ昇進に、茶髪に金のネックレスをつけた男子生徒・カクトは意気揚々とこの指示を受けた。




 北校舎・リュービ軍~


 俺はエンショウからの出陣命令を受けとると、俺の部隊を待機させている別室に戻った。


 別室に入った俺も出迎えてくれたのは、野球帽に体操服姿の女生徒・チョーウンであった。


 腕の立つチョーウンが加入してからは、俺は自前の軍の訓練はチョーウンに任せていた。


「出陣命令だね。リュービ、ボクも同行するよ」


「いや、チョーウンはここでビジク達を守っていてくれ。今はガンリョウ軍を使う。俺の部隊を使うのはもう少し先だ」


 今の俺には文芸部時点で従っていた自前の軍と、エンショウより任されたガンリョウ軍の2つを指揮していた。


 この自前の軍は前のソウソウ強襲の時に四散したが、徐々に集まり出していた。だが、俺はこの部隊をエンショウには報告せず、チョーウンに任せて密かに再編成させていた。


「わかったよ」


 チョーウンは一礼すると、部隊の方に戻っていった。


 これでいい。今はまだ自前の軍を使う時ではない。いずれこちらの部隊を使う時は来る。


 だが、その前に立ちはだかる問題が俺の頭を悩ます。


 まもなく中央校舎に出陣となる。そうなればソウソウとの決戦だ。そして…カンウと戦うことになる…


 カンウは敵となり、チョーヒは未だ音信不通。結局、俺はソウソウへの私情だけで皆を振り回してしまったのか。


「悩んでるようだね、リュービ」


 どうやら声に出していたようだ。俺に声をかけてくれたのは長めのボブカットに太めの眉の女生徒・コウソンサン先輩だ。ちなみに何故かいまだに服装はメイド服のままだ。


「先輩、聞いてたんですか?」


「リュービ、先輩と敬語は禁止。悩み事があるなら言ってごらん」


「先…コウソンサン…俺は人の上に立つべきじゃないんじゃないか…」


 初めはただの高校生だった。それがいつの間にか部隊を率いるまでになった。だが、最初に行動を共にしたカンウ・チョーヒは今はいない。それもこれも原因は俺にある。


「私も私情で戦争を起こして、負けて全てを失ってここにいる」


 コウソンサンは静かに、そして力強く俺に問いに答えてくれた。


「リュービ、確かに君は私的な思いでソウソウに立ち向かったかもしれない。


 でも、まだ完全に負けたわけでも、全てを失ったわけでもない。確かに最初に躓いちゃったかも知れないけど、まだまだやり直しはきく。


 それにソウソウへは私的な思いと言うけれど、学園のため、生徒のためを考えて、本当にソウソウは生徒会長になるべきだと思うかい?」


「…思わない。ソウソウにこの学園を任せるべきではない…と思う」


 コウソンサンはニコリと笑って俺の肩を叩く。


「そう思うなら、それがリュービの進む道さ。


 道が見えているならリュービはまた立ち上がれる。前に進める。将来、生徒会長にだってなれるよ」


「ありがとう、コウソンサン。俺は自分の道を歩んでみるよ。


 その道がカンウやチョーヒと交わるかはわからないけど、もう少し足掻(あが)いてみようと思う」


「ふふ…お礼なら今度ベッドの上で返して欲しいね」


「な…途中までいい話だったんだけどなぁ」


「ふふふ、ごめんごめん。


 さぁ、リュービ、頑張っておいで。君の物語はまだまだ続くのだから」


 俺はコウソンサンに背中を押された。


「ああ、行ってくるよ。自分の道がこの学園に繋がるように」

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