第47話 始動!エンショウ軍!
ここは北校舎の中央に位置する会議室。コウソンサンを降し、今や北校舎最大勢力となったエンショウはこの教室に重臣一同を集め、今後の方針について協議させていた。
やや赤みを含んだ薄い紫にウェーブのかかった長い髪、小鳥の髪飾りをつけ、胸元に一際大きな金色のリボンをつけ、白いマントを翻し、上座にて、きつめの口調で発言するのが、この勢力の主・エンショウである。
「北校舎を制圧した今、最大の敵は中央校舎のソウソウです。
あの娘を倒せば私の生徒会長当選は間違いないでしょう。 ソウソウにどのような対処をすべきか。あなたたち、意見を述べなさい」
これに対し、エンショウの右隣に座る女生徒が挙手して立ち上がった。エンショウ同様ウェーブのかかった長い黒髪に、落ち着いた雰囲気の彼女は、エンショウ軍の総指揮官を務めるソジュである。
「意見を申し上げます。我が軍はコウソンサンとの戦いが終わったばかりで疲弊しております。
ここは長期戦を取るべきです。文芸部のリュービ、南校舎のリュウヒョウと協力し、ソウソウを締め上げていけば確実に勝利を得ることができます」
ソジュに対して、少し離れたところに座る茶髪を整髪料で固め、金のネックレスをつけた男子生徒が反対意見を述べた。事務官・カクトである。
「いえ、もう選挙戦の残り時間も少ない。ここは短期決戦をすべきです。
我らの戦力ならソウソウに必ず勝てます」
続いて意見を述べたのは、エンショウの左隣に座るサラサラな白髪に、執事服を着た男子生徒。彼はエンショウ軍の参謀総長であり、エンショウ専属の執事を兼ねるデンポウである。
「私はソジュさんの意見に賛成です。
ソウソウは戦争に強い。現在、我が方が票数的に有利なら、無理に決戦をして危ない橋を渡ることはないと思います」
デンポウに対して発言するのは、金髪をツーサイドアップにまとめ、切れ長の目に、痩せ型の女生徒。事務長官・シンパイである。
「いえ、今、決戦をすべきです。
票数的に我らが有利といえど、まだまだ逆転される可能性はあります。今、弱腰な態度を見せれば日和見な連中がどちらに転ぶかわかりません」
他にも何人かが発言したが、長期による包囲戦、短期による決戦、この二つの意見に集約された。
ある程度意見が出揃ったところで、エンショウが皆の発言を止め、自ら口を開いた。
「わかりました。私の胸の内は決まりましたわ。
これよりソウソウとの短期決戦を行います!皆わかりましたね」
エンショウ陣営の最終決定権はエンショウにある。部下の序列ではデンポウ、ソジュが一位と二位であるが、党首であるエンショウの決定が絶対である。
続けてエンショウは対ソウソウ戦に向けての人事を行った。
「シンパイ・ホウキ、あなたたちに留守を任せます」
呼ばれて返事をしたのは、エンショウの近くに座る金髪ツーサイドアップの女生徒・シンパイと、黒髪ポニーテールに、メガネ、ネクタイを着用した女生徒、監視官・ホウキであった。
「エンショウ様、お任せください」
「そして対ソウソウ軍の編成ですが、全軍総指揮をソジュ、参謀をデンポウ・キョユウ・ジュンシン、将帥をガンリョウ・ブンシュウに命じます。各々準備に取りかかりなさい」
エンショウの左右に侍るデンポウ、ソジュ、そしてデンポウ側の列に座る褐色の妖艶な女生徒・キョユウ、メガネに長身の男子生徒・ジュンシン、ソジュ側の列より近衛師団のガンリョウ・ブンシュウが立ち上がって返事をした。
しかし、その発言に待ったをかけた者がいた。先ほど、真っ先に短期決戦を主張した事務官のカクトが起立して述べる。
「エンショウ様、お待ちください。
我が軍がここまで大きくなったのに、いつまでもソジュ一人に全軍の指揮権を一任すべきではありません。
それにソジュは今回の戦いに反対しております。積極的に戦えるとは思えません」
これにはソジュも声を荒げて反論する。
「何を言うのですか!私が裏切るとでも言うのですか!」
しかし、その声はエンショウによって押し止められた。
「ソジュ、待ちなさい!
確かにコウソンサンの勢力を併呑し、私たちの兵の数が多くなったのは事実ですわ。これを一人に管理させるのは大変です。
それでは軍を三分割にし、一つは引き続きソジュを指揮官とします。
カクト、あなたの地位をまだ上げてなかったわね。もう一つはあなたが指揮を執りなさい。
最後の一つは遊軍指揮官のジュンウケイに預けます。
以後、我が軍はソジュ・カクト・ジュンウケイの三人を指揮官とします」
エンショウの決定ではソジュもそれ以上反論できず、これに従った。
「では、これにて本日の会議を終了します。各々、戦争準備を行いなさい」
会議を終えたエンショウはメガネにポニーテールの女生徒・ホウキを伴い、北校舎の屋上にやって来た。
「エンショウ様、いよいよソウソウとの対決ですね」
「ええ、ホウキ。あなたも同じ中学で学んだ仲。
だからわかるでしょう。私とソウソウのこれまでを…
私の方が家柄も良いですし、成績だって負けていませんし、生徒会役員もずっと務めてきました。でも、人が集まるのはいつもソウソウの方でしたわ」
「そのソウソウとついに決着をつける時がきました」
「ええ、ついにこの日が来ましたわ…ソウソウ、白黒はっきりつけましょう。」
一方、赤黒い長い髪をなびかせて、胸元を大きく開け、ヘソ出し、ミニスカートの女生徒・ソウソウは思わぬ珍客を出迎えていた。
「ほぉ…お前たちが我が軍に降伏してくるとはな。
チョウシュウ、そしてカクよ」
セミロングの茶髪に、黄色のパーカー、ショートパンツ姿に、細身で背の低い女生徒・カクが跪き受け答えをする。
「はい、我らサッカー部一同、ソウソウ様に忠誠を誓います」
サッカー部マネージャー・カクの堂々とした態度に対し、サッカー部部長、短髪、色黒の、背の高い男子生徒・チョウシュウはその隣で頭を下げ、この状況に震えていた。
「よくもヌケヌケと…」
「前に降伏と偽り我が軍を奇襲し、その後も度々反逆しておいて…」
「テンイは未だに入院中だと言うのに…」
その場に列席するソウソウ軍の将たちから憎悪の言葉が口々に上がる。
「カ、カクよ…本当に大丈夫なのか…ここで捕らえられるのではないか…」
彼らサッカー部はかつて(※第33・34話参照)ソウソウに一度は降伏したが、再び叛き、奇襲により、ソウソウ親衛隊長のテンイ以下、多くの犠牲者を出し、その後も長らく対立関係にあった。
そんな彼らが何故今になって再びソウソウに降伏を申し出たのか。話は少し遡る。
サッカー部・部室~
「チョウシュウさん、先ほど、エンショウから使者が来ました。我々と同盟を組みたいそうです」
「おう、カク、ついにきたか。ソウソウと決戦か、腕がなる。それでその使者はどこだ?」
「はい、追い返しました」
「そうか、追い返したか。そうか、そうか…
って、え?追い返したのか!」
「その返し、爺臭いからやめた方がいいですよ」
「そんなことはいい!
何故、勝手にエンショウからの使者を追い返したんだ!」
「だって態度があまりに横柄でしたし、私エンショウって嫌いなんですよね~怖い感じ出してくるじゃないですか~」
怒鳴り付けるチョウシュウに対し、一切悪びれる様子もなくカクはタラタラと答えた。
そして、カクの表情は一転、鋭い目付きに変わった。
「それに…今賭けるならソウソウです」
カクはいつもふざけた態度を取るが、決して考えなしに動くことはない。そして常に最善の一手を打ってくる。それをチョウシュウは誰よりも知っていた。
「しかし、カクよ。エンショウは今や学園の最大勢力な上に、俺たちはソウソウの恨みを買っている。行けば何をされるかわかったもんじゃないぞ」
「いいですか、チョウシュウさん。
エンショウは生徒会長になることを目的と思っているのに対し、ソウソウはあくまで手段と考え、その真の目的は学園の統治です。そのような大望を持つ人物は過去の恨みに囚われはしません。
それにエンショウのところで余り、ソウソウのところで足りないのが兵です。あなたをより高く買い取ってくれるのはソウソウです」
「しかし…」
まだ迷うチョウシュウにカクはぐいと顔を近づけ、更に話を続ける。
「エンショウは失敗を許しません。
かつてコウソンサン戦で活躍したキクギは処分され、トウショウ・シュレイはエンショウから離れ、ソウソウに降りました。行けば何をされるかわからないのはエンショウの方です」
「わかった。ここまで俺たちが生き残れたのはカク、お前のお陰だ。お前の判断を信じよう」
時間は再び、チョウシュウ・カクがソウソウの元に降伏した頃に戻る。
「って言ったけど、この状況は不味くないか…」
チョウシュウは冷や汗が止まらなかった。臨席するカコウトン・カコウエン・ソウコウといった歴戦の将が自分に害意を向けている。ソウソウの号令一つでこの場で袋叩きにあってもおかしくはない。
そのソウソウが口を開いた。
「カクよ、お前は自らを乱世の申し子と称し、混沌・狂乱を愛すと公言しているそうだが、私につくのは私がそれだと言うことか?」
「はい」
カクは頭を上げ、真っ直ぐにソウソウを見つめて答えた。
傍らにいるチョウシュウも思わず頭を上げ、カクを見た。
「カク、そんなキッパリと…」
「混沌とは秩序の先に、狂乱は正気の果てに現れるもの。エンショウはただの“無”です。ソウソウ様にこそ相応しい」
「ふふ…よかろう、お前たちの降伏を受け入れよう。チョウシュウを部隊長に、カクを参謀として我が軍に加える!」
「ソウソウ様、ありがとうございます」
「あ、ありがとうござります…」
助かった、チョウシュウはホッと胸を撫で下ろした。カクが何を言ってるのかよくわからなかったが、とにかくソウソウに気に入られたようだ。今のチョウシュウにとって、その事実だけで充分であった。
「カクが私の許に来たか…天下に秩序をもたらすのは案外ああいう者かも知れんな…ふふふ」




