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第45話 微傷!リュービの絆!

 ソウソウから付けられた監視役、シュレイ・ロショウの二人は帰っていった。これで第一関門は突破できた。


「ここまで離れれば大丈夫だろう。エンジュツ、出てきていいぞ」


 特徴的な大きなリボンや変形制服を脱ぎ、体操着に着替え、長い紫の髪をポニーテールに結んだエンジュツが部隊の端より姿を現した。その後ろに同じくメイド服から体操着に着替えたチョウクン・キレイが続く。


(かくま)っていただき…ありがとう…ございましたわ」


 普段いい慣れてないのか、エンジュツはぎこちない様子で感謝を伝える。


「君たちの格好は目立ち過ぎる。


 あのまま逃がしてもシュレイたちに捕まってしまっただろうし」


「でも、よかったんだすか?我が軍で(かくま)ってしまって」


 カンウがもっともなことを聞く。これはソウソウに対する裏切り行為だ。当然の反応とも言える。


「たった三人では残り選挙戦どうにもできないだろう」


「いえ、そうではなく…」


「そう言えば、生徒会長の認証印はどうした?」


 俺はカンウからの質問をはぐらかして、話題を変えた。


「あれならジョキュウという者に預けていましたが…」


「シュレイたちが連れていった捕虜の中にいたのなら、本人が隠しでもしない限りソウソウの手に渡るだろうな」


 エンジュツ軍のほとんどは捕虜としてシュレイたちが連れていってしまった。認証印を持っていた生徒がその中に含まれているのかわからないが、いた可能性は高いだろう。

 

「それで良かったのよ。思えばあれを手にしてから実力以上の地位を望み、多くの人を振り回してしまったわ」


 エンジュツは吹っ切れた表情で、髪を結っていたゴムを外した。


「私は選挙戦から身を退こうと思います。


 チョウクン・キレイ、今までありがとうございました。これからは好きにして構いませんわ」


 この提案にチョウクンとキレイは互いに顔を見合わせた。だが、すぐに(うなず)いてエンジュツに向き直った。


「では、私は友人としてエンジュツ様と共に行きたいと思います」


「私も同じく」


「あなたたち…ありがとう」


 エンジュツは眼を潤ませて彼女たちの手を取った。


「俺たちはもうお前たちを追う気はない。どこへなりとも行けばいい」


「リュービ…ホントに私の体が目的じゃないの?」


「しつこい!」


「リュービ、ありがとう。さぁ、チョウクン・キレイ行きましょう」


 エンジュツたち三人はどこかへと去っていった。


「行ってしまいましたね。良かったんですか?逃がしてしまって…」


「ああ、出来ればもう一度くらい反抗してくれても良かったが…目的も達したしね」


「え?…兄さん、いい加減どういうつもりなのか説明してください」


「そうだぜ、アニキ。エンジュツ捕まえるのが今回の目的だったはずだろ」


「すまない、二人とも。その件については文芸部に移ってから話そう」




 中央校舎の東端、図書室を拠点に活動している部活が文芸部である。かつてリュービはトウケンより文芸部部長を任されたが、一時所有はリョフに移り、現在はソウソウの支配下に置かれていた。


「久しぶりだな。まずはビジクたちに挨拶をするか」


「おや、リュービさん、どうされたのですか?」


 まず俺たちを出迎えてくれたのは、見覚えのない男子生徒だった。


「ええっと、君は?」


「直接お会いするのは初めてでしたね。


 私はソウソウ様より文芸部部長を任されたシャチュウと申します」


「そうでしたか。エンジュツ捜索の任務のため、文芸部を活動拠点に使わせていただきたい」


「なるほど、エンジュツ討伐の件はソウソウ様より伺っております。


 空き教室で良ければご自由にお使いください」


「リュービさん、よく戻られました。私が案内します」


 次に出迎えてくれたのは、くせっ毛の髪に、眼鏡をかけ、大人びた雰囲気を漂わせたよく見知った女生徒・ビジクだった。

挿絵(By みてみん)



「兄さん、そろそろ話してください。どういうつもり何ですか?」


「なんか…アニキ、様子がおかしいぜ。さっきから顔怖いしさ」


 どうやら顔が強ばっていたようだ。指摘されるまで気づかなかった。俺は無理やり笑顔を作り二人の方に向いた。


「そうだな…カンウ、チョーヒ、それとビジク、少し話がしたい。部屋を移ろう」


 俺は三人と共に隣の準備室に移った。この教室もリョフに譲ったり、自分たちが移ることになったりと色々な思い出のある場所だ。


「俺はソウソウから離れようと思う。ついてきてくれないか?」


 俺はここで初めて三人に胸のうちを語った。


「え!…そりゃアニキにはついていくし、ソウソウは気に入らねぇけどさ…」


「私も兄さんについていきます…でも…」


 カンウ・チョーヒは同意してくれた。しかし、俺がここまで黙っていたからか、二人とも歯切れが悪い。


「私もリュービさんに賭けた身です。ついていきます」


 ビジクも同意してくれた。こちらはこれまでのやり取りを知らない分、すんなりと受け入れてくれた。


「そうか、ありがとう三人とも」


「しかし、そうなるとソウソウさんと戦うことになりますが、どうされるつもりですか?」


 ビジクの質問ももっともだ。俺も真っ向からソウソウに挑んで勝てる自信はない。


「俺がエンジュツ捜索を(かた)ってここに赴いたのはソウソウの監視下を逃れ、この文芸部を活動拠点にするためだ。


 ここを拠点に俺はエンショウと手を組もうかと考えている。今、ソウソウは目の前のエンショウに手一杯だ。そこを俺たちが側面から突けば充分勝機はある。


 ビジク、この文芸部にエンショウと縁のある者はいないか?」


「そうですね…直接でなくても良いのなら、OBにジョウゲンさんという方がいて、去年エンショウさんはその方に大変お世話になったとか。


 うちの部員のソンカンはそのジョウゲンさんと家が近所で仲が良いと聞いてます。彼ならジョウゲンさんを通じてエンショウと連絡を取れるかもしれません」


「そのソンカンは信用できるか?」


「はい、少なくとも密告するような真似はしないかと」


「ではビジク、ソンカンを通じてエンショウと秘密裏に連絡をとってくれないか?」


「わかりました」


 ビジクは一礼して準備室より退出した。


 それを見送る俺の背中を複雑な表情で見つめる二人が、俺に詰め寄ってきた。


「兄さん、なぜ今になってソウソウさんと戦おうとしているのですか?」


 カンウが俺を睨み付けてくる。


「それは…」


「やはりソウソウさんと何かあったのですね…?」


「な、何を言い出すんだ!」


「私たちが何も気付いてないと思いましたか。ソウソウさんと度々会ってるのは知ってますよ」


「アニキ、もしかしてソウソウと付き合ってたのか?それで別れることになってこんなことを…」


「違う!そうじゃない…そうじゃないんだ…


 俺はソウソウを危険だと思ったから止めようとしてるだけなんだ。奴は独裁者なんだ、乱世の奸雄なんだ、だから俺は…」


「そんな曖昧な言葉では私たちはわかりません!


 兄さん…私ではソウソウさんの代わりにはなれませんか?」


 カンウが俺の右手を優しく握った。


「待ってくれ、カンウ。そういうことじゃ…」


「兄さん…兄さんのためなら私…この身を捧げます!」


 カンウは俺の手を自身の胸に押し付け、懇願するような眼でこちらを見つめてきた。


「カ、カンウ!」


「私を抱いてください!


 だから、兄さん…もうソウソウさんには…」


「アニキ!オ、オレもアニキになら…その…いいぜ…だから…」


 チョーヒも顔を赤らめながら俺に迫ってきた。


「二人とも何を言い出すんだ!


 違うんだ。俺はただ、この学園のために…」


「すみません、兄さん。


 今のは忘れてください」


 カンウはうつむき、そのまま教室を飛び出して行った。


「カン姉!


 アニキ、俺はアニキについていく。


 でも、そう言えるようになるまでの道のりはそんな簡単なことじゃ無かったんだぜ」


 チョーヒもカンウを追いかけて教室を出ていった。


「カンウ、チョーヒ…すまない…


 俺はソウソウを生徒会長にするのは危険だと思ったから立ち上がった…つもりだった。


 俺のこの気持ちは痴情のもつれなのか…恋慕をこじらせただけなのか…俺は今、誰のために、何のために動こうとしてるんだ…」


 俺は一人残された教室で頭を巡らせた。自分でもよくわからない。だが…


「だが…俺はもう後戻りはできない」


 戦う相手はソウソウだ。その目的だけははっきりしている。あのソウソウを倒さなければならないのなら、もはや一切の無駄はできない。時間も人も…


 俺はスマホを取り出し、ある人物にかけた。


「チントウ、話がある。準備室に来てくれないか?」




 少し時間をおいて、一人の女生徒が準備室に入ってきた。銀髪ショートに三白眼、小柄なその女生徒の名はチントウ、かつてここでリョフやソウソウと戦った時、なにかと俺に好意的に接してくれた人だ。


 しかし、彼女が今どの勢力に属しているのか、微妙な立場でもある。ここで味方につけておきたい。


「話とは何ですか?リュービさん」


「チントウ、君だけが頼りだ」


 俺はチントウの手を取り、顔を近づけた。


「わっ!と、突然どうしたんですか?」


「俺はソウソウを倒そうと思う。君に一緒に来て欲しいんだ…」


 俺のこの言葉にチントウの顔をみるみる曇り、睨み付けるような目に変わっていった。


「そういうことですか…


 私は協力できません。これまでの縁で、決起の時には兄さんを遠ざけておきましょう。


 でも私が手伝うのはそれまでです。次に会う時は私はあなたの敵です」


「チントウ…」


「手を離してください…


 あなたもこういう駆引きをするのですね…」


 チントウは俺の手をはねのけると、少し眼を潤ませながら、扉へと向かった。


「リュービさん…さようなら…」

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