第3話 決戦!黄巾党!
「姉さん!大変です!」
後漢学園の校庭の外れにあるボロい建物・旧部室棟に、低い女性の声が響き渡る。
この騒がしく建物を駆け抜けるロングの金髪に、ピンクの特攻服を着た女性は、不良グループ・黄巾党のボスの一人、チョウ三姉弟の次姉・チョウホウ。
彼女の所属する不良グループ・黄巾党は、今はもう使われいないボロボロで閑散とした旧部室棟を根城としていた。
彼女は、その旧部室棟の一階、一番奥、かつて茶道部が使っていた畳敷きの部屋の扉を勢いよく開け、そこに鎮座する人物の元へとやってきた。
「宝子、騒々しいぞ…」
その奥に座る人物は、落ち着いた声で、落ち着きなく入ってきたチョウホウを、彼女の本名でたしなめる。
しかし、呼ばれたチョウホウは、全く落ち着く気配は見せず、勢いそのままに話し始めた。
「大変なんですよ、姉さん!
梁の奴が風紀委員に捕まりました!
オマケに風紀委員がここに攻めてくるって話です!」
彼女たちの末弟・チョウリョウこと黄張梁は既に風紀委員に捕らえられ、さらにはその風紀委員による黄巾党一掃が既に始まっていた。
チョウホウは急いでそのことを姉に伝えるために、ここまで駆けてきたのである。
チョウホウから事の次第を聞いたその“姉”は、大きくため息をつき、老婆のようにゆっくりと、落ち着いた口調で話し始めた。
「なんということだ。
私は、私やお前たちの居場所が欲しかっただけだと言うのに……
しかし、お前たちは事を大きくし過ぎた。
これは仕方がないことかもしれぬ」
「アタイたちは姉さんにこの学園のてっぺんを取ってもらいたくて…それで…」
どこか諦観を見せる姉に対し、妹のチョウホウは悔し涙をかすかに浮かべ、その場に屈み、手を畳に付けて、彼女に頭を下げた。
しかし、そのチョウホウの願いは、姉は本意ではかった。
「私は学園のてっぺんなんて興味はない。
梁もまた、どうしようもない弟だが、見捨てるわけにはいくまい。
なんとか交渉できないものか……」
目の前でうずくまって泣く妹・チョウホウを尻目に、姉は目を瞑り、思案に入った。
しかし、彼女の思案は早々に、新たに部屋に入ってきた大声の主によって打ち切られることとなった。
「大変ですぜ!姉御!」
「キョウト、騒々しいぞ!」
突然、部屋に駆け込んできた無精髭を生やした男に、それまでうずくまっていたチョウホウが、自分のことを棚に上げ、怒鳴りつけた。
「すみません、チョウホウの姉御…」
キョウトと呼ばれたその男は、その大きな体に似つかわしくないほどに恐縮して、目の前の二人に頭を下げる。
「何があった?」
チョウホウが姉に代わり、その男に訊ねる。
「へい、風紀委員の連中が、既にこの部室棟の前に集結しておりやす。
連中、我ら黄巾党の解散と俺たち全員の自主退学を要求してきてやす」
耳を外に傾ければ、玄関の方で喧騒が聞こえる。どうやら入口の方で黄巾党と風紀委員で、既に押し問答が始まっているようだ。
この状況に黄巾党のボスである長姉は、ただただため息をつくばかりであった。
「全員退学か、困ったな……
せめて私一人なら応じられるんだが……」
気弱な声でそう洩らす姉に対し、妹のチョウホウは力強く反対した。
「姉さん! 何言ってんすか!
姉さんの退学なんてアタイは認めませんよ!
そもそも風紀委員のせいで姉さんは……そんな連中の要求に姉さんが応じることはありません!」
その意見に無精髭の男・キョウトも賛同する。
「そうですぜ!
姉御あっての俺たちです!
姉御一人に責任なんて押し付けられやせん!」
二人は鼻息荒く黄巾党のボスである姉に訴えた。
だが、姉はただその意見に困惑するしかなかった。
俺たち三人は、校舎の二階の窓から事の次第を見下ろしていた。
この窓の端に見える旧部室棟がどうやら黄巾党の本拠地であったようだ。
その入口で黄巾党の男たちと風紀委員の押し問答が繰り広げられている。さらにその後ろには風紀委員は柵を立て、椅子を並べ、陣地を作り、長期戦も辞さない構えを見せている。椅子に座る人影の中には、先日会ったソウソウらしき姿も見える。
俺たちはこの様子を、ただ見てることしかできなかった。
俺、リュービは、ともにこの光景を見守る、黒髪の美少女・カンウ、お団子ヘアーの美少女・チョーヒの方に向き直った。
「大変な事態になってしまったね。高校なのにこんなことが起こるなんて……」
俺はカンウ・チョーヒに話を振った。
「まさか学園で籠城戦が行われるとは思いませんでしたね」
「このままオレたち見てるだけなんだぜ?」
「うーん、俺たち関わるなって言われてるしなぁ」
今現在、風紀委員の大捕物が行われているエリアは、封鎖され、一般生徒の進入が一切禁止されている。
「生徒会の肝入りとはいえ、風紀委員も随分強権的なことをするなぁ。
これもあのソウソウという娘の指示なんだろうか」
俺は先日会ったソウソウの威圧感を思い出していた。あの娘ならこういうことをするのも納得出来る気がする。
しかし、やり方があまりにも強引過ぎる。噂によればどうも、黄巾党の生徒は全て退学させるとも聞く。これまた先日会った黄巾党のボス・チョウホウを思い返すが、彼女も退学にさせるほどの悪人だっただろうか?
俺は意を決して、二人の方に話しかけた。
「……カンウ・チョーヒ!
やはり俺はこの争いを止めたい!
そりゃ黄巾党には散々困らされたけど、流石に全員退学はやりすぎだと思う。
それに、このまま強行策に行けば一般生徒にも被害が出るかもしれない。
二人とも止めるのに協力してくれないか?」
俺は真剣な表情で二人に思いを伝えると、二人とも頷いてくれた。
「わかりました、リュービさん。
私も同じ思いです。協力します」
「ああ、協力するんだぜ、リュービ!
オレたちは仲間だしな!
で、何するんだぜ?」
カンウもチョーヒも同意してくれて、良かった。
しかし、止めるといってもどうしたものか?
俺は二階の窓から様子を見下ろし、しばし、思案した。
旧部室棟に籠もる黄巾党と、その前方を取り囲む風紀委員。風紀委員も完全に包囲しているわけではないようだ。特に旧部室棟の隣に立つ体育倉庫の辺りは包囲が手薄に見える。
「見たところ隣の体育倉庫の辺りは風紀委員があまりいないように見える。
あの辺りからなら旧部室棟に近付けるかもしれない」
俺はカンウ・チョーヒの同意を得て、三人でこっそりと体育倉庫の方へと向かった。
俺たち三人は、存外あっさり体育倉庫の裏へと進入することができた。
体育倉庫といっても隣の旧部室棟同様、今はあまり使われていない建物だ。表の方はまだしも、裏手は雑草が生い茂り、あまり手入れが行き届いていないことが察せられる。だが、隠れる分にはむしろ好都合だ。俺たちは身を屈めて、旧部室棟が目に届くところまで接近した。
「簡単に入ってこれたね。
ソウソウたちも案外、本気で黄巾党を叩き潰そうとは思ってないのかもしれない」
俺のすぐ後ろに続くカンウが、より前に詰めようと声をかけてくる。
「そんなことよりリュービさん、もう少し寄ってください」
「ああ、そうだね……うおっ!」
俺は側で奥に詰めようとする黒髪の美少女・カンウの言葉に振り返ると、思わず声を洩らしてしまった。
カンウはその……一際胸が大きい。それが身を屈めることでより強調され、その胸が俺が振り向いたちょうど目の前に現れたもんだから、思わず変な声を上げてしまった。
「リュービさん! 突然、大きな声上げないでください! 見つかったらどうすんですか!」
「ごめん…」
カンウが小声で俺をたしなめる。
どうやら俺の視線には気づかれなかったようだが、俺はただ謝るしかなかった。
「まったく、リュービは何やってるんだぜ!」
その後ろに続くチョーヒも呆れた様子でこちらを見る。
この点で言えば、チョーヒは手のひらサイズだから安心感がある。歩く順番を間違えたかな。
「おい、リュービ。
なんか失礼な事考えてないかだぜ?」
「い、いや別に!」
チョーヒの鋭い指摘に、俺は思わずドギマギしてしまった。
「二人とも静かに! 誰かこちらに来ます!」
カンウの静かな一声とともに、俺たちは息を潜め、耳に神経を集中させて、聞こえてくる音を拾った。
向こうも静かに動いている。かすかに聞こえてくる足音から二人くらいだろうと察せられる。どうも、こちらに近付いてきているようだ。どうする、逃げるか? そんなことを思案していると、近付いてくる人影から何やら話し声が聞こえてきた。
「姉さん、この辺は風紀委員がまだいません。
今のうちに早く!」
「皆を置いて脱走なんて気が進まないが…」
「何言ってんだよ姉さん!
姉さんさえ無事ならまたやり直せる。
連中も納得してくれたろ」
「これでは何の解決にもならないのだが…」
聞こえてくるのは二人の女性の声。 少々かすれ気味の女性の声と、女性にしてはいやに威厳のあるだ。二人とも小声のつもりなのだろうが、片一方はあまり小声になっていない。その小声になっていない、少々かすれ気味の声には聞き覚えがある。それもつい先日だ。
先日戦った黄巾党のボスを名乗る娘の声だ。確かチョウ三姉弟の次姉・チョウホウ。
そのチョウホウの会話を聞くに、もう一人は彼女の姉ということになる。姉ということは、彼女こそ黄巾党の真のボス、チョウ三姉弟の長姉なのではないか。
これはまたとないチャンスだ!
黄巾党のボスと直接話をすれば、何かこの事態解決の糸口が掴めるかもしれない。
俺は後のカンウ・チョーヒに合図を送ると、足音を立てる二人の前に飛び出した。
「待ってくれ、チョウホウ!
黄巾党のことで話がしたいんだ!」
そこにいたのは特攻服の女生徒・チョウホウ。先日会ったばかりだから、向こうも俺たちを見つけると、すぐに誰か気付いた。
「テメーはリュービ!
それにカンウ・チョーヒ!
テメーら、風紀委員の手下だったのか!」
特攻服の女生徒・チョウホウは、驚きと怒りに満ちた声を上げる。どうやら、俺たちのことを風紀委員側の人間だと思っているようだ。今の状況ならやむを得ないが、ともかく、その誤解を解かないといけない。
「違う!
俺たちはこの学園で起きている争いを止めたいんだ!
チョウホウ、君のお姉さんと話をさせてくれ」
チョウホウわざと肩肘を張り、自身の背中で隠そうとしているが、その背後に見え隠れする黄色い服と人影がおそらく姉なのだろう。
「何言ってやがる!
そう言って他の風紀委員が来るまでの時間を稼ぐ気だな!」
ダメだ!
疑心暗鬼に陥ったチョウホウは、まったく俺の話を聞いてくれそうにない。
「やめろ宝子!」
その時、チョウホウの後ろから一喝する声が響く。
その声ははっきりとしたよく透るもので、威厳に満ちていた。なるほど、曲がりなりにも数多の不良を束ねるボスとなると、声一つ取っても違うものだなと感じ入った。
「このままでは事態は解決しない。
せっかくの提案だ。話だけでも聞こうではないか」
チョウホウの後ろから一人の影がこちらに向かってゆっくりと歩き出してくる。
ついに黄巾党のボスと対面だ。
姉というからには女性なのだろうが、大勢の不良をまとめてきた人物だ。
出てくるのは、威厳と慈愛に満ちた女王のような人か。それとも筋骨隆々の女武将か。はたまた、神算鬼謀の女軍師か。声と雰囲気だけでも只者でないことを感じ取れる。俺はその人物の登場に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
地面に届きそうな長い白髪、制服の上に黄色い道士服を羽織り、手には九つの節のついた杖をもった一人の女性が……女性が……?
「あなたが……君が黄巾党のボス?」
俺は思わず確認した。
出てきた女性は俺が思ってたより小柄な……いや明らかに小さい。
言われなければ小学生と思ってしまう程小さくて、華奢な子供だ。
確かにチョウホウの影に隠れられるくらいのサイズだったのだから、このくらいなのだろうが、本当にこんな子が学園の不良を束ねる黄巾党のボスなのか?
「リュービ!
うちの姉さんに文句あるのか!」
頭に疑問符が乱舞する俺を見て、妹・チョウホウが怒鳴りつける。
だが、すぐさま、目の前の子供がチョウホウを一喝して黙らせる。
「宝子、静かに!」
その一喝に、チョウホウが大人しく引き下がる。
あのチョウホウを一発で黙らせるなんて、やはり彼女が姉、そして黄巾党のボスで間違いないのだろう。
俺が納得したのを察したのか、改めてその目の前にいる道士服を着た子が厳かな口調で自己紹介を始めた。
「子供に見えるかも知れぬが、正真正銘、私がチョウ三姉弟の長姉、黄張角子。
通称、チョウカク。
黄巾党のボス……ということになっている」
予想外のサイズに少々驚いたが、口調から感じた威厳は全く損なわれていない。見た目に騙されてはいけない。この人は間違いなく黄巾党のボスなんだ。
ならば、今、この機会を逃すわけにはいかない。
俺はチョウカクに話を持ちかけた。
「チョウカク、俺たちはこの争いを止めたい。
矛を収めてはもらえないだろうか?」
俺の願いに対し、道士服の子・チョウカクの反応は予想外のものであった。
「私も戦いは本意ではない。
しかし、彼ら黄巾党の者たちの退学も望まない。
もし、私一人の進退で済むのならそれを受け入れよう」
黄巾党はこのチョウカクの指示で動いていると思っていたが、どうやらチョウカクはそういう人物では無さそうだ。話のわかる相手なのかもしれない。
だが、そう話すチョウカクに対し、特攻服の妹・チョウホウは凄い剣幕で抗議する。
「何言ってんすか!
姉さんが退学なんて許せるわけがない!
他の連中だって黙っちゃいないさ!」
そのチョウホウの剣幕から、チョウカクはこの妹や黄巾党の面々から本当に慕われていることが想像できる。
なるほど、チョウカクは自分一人で責任を負うつもりのようだが、他の連中がそれを認めないという状況なのか。
つまり、このチョウカクの退学を撤回できれば事態は解決できるのではないか?
うーん、別の罰を提案するか……しかし、黄巾党の連中はそれでも受け入れないかもしれないな……
「逃さんぞ! 黄巾党の!」
その時、野太い男性の声があたりに木霊した。
その声にカンウ・チョーヒはすぐに反応を示す。
「リュービさん、チョウカクさんたちとともに下がっていてください!」
黒髪の美少女・カンウが俺たちに指示を飛ばすのとほぼ同時に、彼方より赤いスカーフを首に巻いた男が突っ込んできた。
瞬時にカンウは俺たちの前に飛び出して、赤スカーフの男の突き出した腕に自身の手を添えると、間髪入れずにその男を頭上高く投げ飛ばした。
しかし、不発。
男は空中で体勢を反転させると、地面に着地と同時に拳を放った。
今度はカンウが防戦となる。敵の突きをさばきながら、再び投げる隙を伺うが、なかなかチャンスが到来しない。
「あのカンウの投げを防ぐなんて……」
その赤スカーフの男は、制服の上からでもわかる筋肉量で、俺とは比べ物にならないほどのたくましさだ。だが、これまでカンウが軽々と投げてきた黄巾党の大男たちに比べれば、むしろ痩せ型に入るだろう。体格差の問題ではなく、純粋にあの男がそれだけ強いということだ。
「カンウから離れやがれ!」
見かねたお団子ヘアーの美少女・チョーヒが突っ込む。
「ダメです、チョーヒ、本気を出しては!」
カンウは止めようとするが、チョーヒの勢いは止まらない。彼女の拳は唸りをあげて、男目掛けて繰り出された。彼女の拳は数多の不良を一撃のもと、粉砕してきた無敵の拳だ。受けて無事だった者を未だ知らない。
「なんの!」
赤スカーフの男は無謀にも自身の掌を突き出して、チョーヒ渾身の一撃を受け……止めた!
あのチョーヒの鉄拳を、男は見事、受け止め、ビクともしない。まさか、あの一撃を受けて、無事だった者がいるなんて……ん? 男の様子が……
「イッタァァァァー!!!
嬢ちゃん、そんなちっこい体でなんちゅう力しとんじゃ!」
男は悶絶しながら、辺りを飛び回った。
どうやら、チョーヒの一撃は効いてはいたようだ。まあ、倒されなかっただけでも、充分、頑丈と言えるだろう。
その時、彼方より聞き覚えのある声が轟いた。
「そこまでだソンケン!
そしてまた会ったな。リュービ・カンウ・チョーヒよ」
現れた女性は忘れもしない。赤黒い髪に赤黒い眼、白面の凛々しい面持ちに、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートという露出度の高い格好。先日会ったばかりの女生徒・ソウソウだ!
彼女が多くの風紀委員と思わしき生徒を後ろに引き連れて、俺たちの前に姿を現した。
俺はソウソウに話しかけようとしたが、それより先に仲間と思わしき赤いスカーフを首に巻いた男が話し出す。
「この娘らがあの噂のカンウ・チョーヒか! どおりで強いわけじゃ!
ソウソウ、お前、知っててワシをけしかけたのぉ!」
どうやら、男は知らずに戦っていたようで、ソウソウに対して怒りを向ける。
「すまんな。その娘らの実力を知っておきたかったのだ。
で、どうであった? 二人の実力は?
カンウとは互角に戦っていたようだが?」
「冗談を言うな。この娘は全く本気じゃなかった。
大方、ワシを風紀委員の仲間と見て、加減したんじゃろう。
本気でやっていたらワシの負けじゃ。
チョーヒにしてもそうじゃ。あんな突きを何度もくらえるか」
「ほう、お前でも無理か、そうか」
そう語るソウソウは残念そうな口ぶりであったが、その表情はどこか笑っているような雰囲気であった。
そこまで話すと、赤スカーフの男はこちらに振り返り、改めて自己紹介を始めた。
「改めて名乗ろう。
ワシは新空手部の主将を務めとる、呉孫堅文。
またの名をソンケンじゃ!」
赤スカーフの男・ソンケンは空手部の主将だったのか。なるほど、強いわけだ。
既に知っているようだったが、俺たち三人は改めて彼に自己紹介をした。
一通り挨拶したところで、ソウソウが口を開いた。
「さて、わざと包囲に穴を開けておいたが、見事引っかかってくれたな。
余計なものまでかかったが、まあ、良い。
久しぶりだな、チョウカク。このような形での再会に私も心が苦しい。
既にお前の弟のチョウリョウや、黄巾党の大将・チョウマンセイ、ハサイらは我らの捕虜となった。
もはや、お前の兵隊はいない。観念するんだな。
さあ、チョウカクを捕えよ!」
ソウソウが合図を送ると、前だけでなく、後ろからも続々と風紀委員が現れた。互いに重なりあって正確な数はわからないが、前後合わせれば優に百人は超える人数だろうか。俺たちは完全に包囲される形となった。
「リュービさん、ここは強行突破しますか?」
「オレたちならやれるぜ!」
カンウ・チョーヒは既に臨戦態勢だ。しかし、相手は百人以上の大人数。さすがに強行突破は……二人なら出来そうだな。いや、そうじゃくて……
「待ってくれ、二人とも。俺たちは戦いたいわけじゃない。
ソウソウ! 話がしたい!」
俺は目の前に立つソウソウに訴えた。
「話だと?」
「チョウカクは争いを望んではいない。
話し合いで解決できないか?」
俺の言葉に、すぐさま黄巾党のボス・チョウカクが続ける。
「そうだ、私は争いを望んではいない。
今回の件は私の責任だ。
私の退学で彼らを赦してはくれないだろうか」
俺たち二人は、ソウソウに和平交渉を持ちかけた。
「私も副会長に催促されている立場なのだがな。
まあ、いいだろう。お前たちが風紀委員の教室まで来る度胸があるなら応じてやる」
「テメー、そう言って捕まえるつもりじゃねーのか!」
ソウソウの提案に、チョウホウの妹・チョウホウが噛み付いたが、すぐにチョウカクに制止された。
「わかった。行こう」
チョウカクの同意により、俺たちは風紀委員の教室へと赴くこととなった。
しかし、未だ俺に具体的な解決策はない。何か良い案が出てくれれば、事態は丸く収まるのだが……
黄巾党・風紀委員、双方が納得する形でまとめられるだろうか……