第35話 偽帝!エンジュツ会長!
時間を少し遡る。オーインの入院により、エンショウが新生徒会長代理、ソウソウが新会計代理となり、新臨時生徒会が発足した。
しかし、その生徒会メンバーに彼女の名は無かった…
「エンショウめ!ソウソウめ!この私を全く無視するなんて!」
濃い紫の長い髪に、幼い容貌の少女。エンショウの双子の妹・エンジュツである。
「まあいいわ。これでオーインがいなくなったのだから。偽生徒会の一つや二つ関係ないわ。
ヨウホウ!カンセン!」
エンジュツに呼ばれ、二人の男子生徒が返事をした。短髪に眼鏡のヨウホウと、坊主頭のカンセンだ。
「二人ともオーイン失脚作戦、ご苦労様。
でもね、リカク・カクシをけしかけてオーインを脅せとは命じましたが、あそこまでしろとは言ってませんわ。しかも学園長にまで危害を加えてどうゆうつもり!」
ビビりながらヨウホウが答える。
「も、申し訳ありません…まさかあそこまでするとは…なにしろただのチンピラなもんで…」
「お黙りなさい!とにかくこの失敗の償いはしてもらいますからね!」
「は、はい…」
力なく返事をする二人の横で、灰色髪のメイド少女・チョウクンが口を挟んだ。
「まあまあ、エンジュツ様。リカク・カクシが捕まったところでそれはエンジュツ様とは何ら関係ないことではありませんか。何しろ証拠はもう無いのですから」
「まあ、それもそうね。
さて、エンショウ・ソウソウの新生徒会発足は明らかな反逆行為です。
よってこの会長承認印を持つ私、エンジュツが新たに会長に就任し、この学園を統治したいと思います」
「お待ちください!それは周囲に敵を作るだけ、最悪学園からも睨まれる悪手です!お止めください!」
待ったをかけたのは眼鏡の男子生徒・エンショー。彼は前回、会長承認印を入手したエンジュツが生徒会長を名乗ろうとした時も反対していた。
「エンショー、また貴方ね!貴方はいつもいつも私のやり方に反対してどういうつもり!」
「わ、私はエンジュツ様の事を考えて…」
「お黙りなさい!だいたい貴方、エンショウと名前が似ていて気に入らないのよ!」
「そ、それを今さら言われますか!」
「とにかく貴方はクビよ!さあ、誰かこの者を追い出しなさい!」
「な…追い出しは結構。私は私の意思でここを去ります。では、エンジュツ様、さようなら」
エンショーは自らエンジュツの元を去り、二度と戻ってくることはなかった。
「全く生意気な奴ね。他に反対者はいないでしょうね!」
一連のやり取りを見ていたエンジュツの部下達はシンと静まりかえってしまった。
その様子を見計らってチョウクンがさも一同を代表したかのように発言した。
「我等一同、エンジュツ生徒会長の誕生を心よりお祝いいたします」
「貴方は素直でいいわ。
さぁ、偽生徒会のエンショウとソウソウへは弾劾文を、コウソンサン、ソンサク、リョフ、チョウシュウに協力要請文を送りなさい!
さぁ、今日は就任パーティーよ!じゃんじゃん騒ぎましょう!」
「エンジュツ新会長万歳!
ほら、皆さんも!」
「…エンジュツ新会長万歳!」
チョウクンに促され、エンジュツの部下達は声高に万歳を叫んだ。
エンジュツは先代会長より密かに会長職と会長承認印を託されていたと称し、自ら新生徒会長代理に就任すると発表した。
リョフ陣営・文芸部~
長身ポニーテールの女生徒・リョフは一人、リュービが滞在していた準備室にこもっていた。
「うう…リュー…ビ…」
「大変です、リョフ様!エンジュツが…」
準備室に飛び込んだチンキュウだが、彼が目にしたのはスカートの中をまさぐり、思いに耽るリョフの姿であった。両者に気まずい沈黙が流れた。
「…これは失礼!」
「勝手に…入る…な!
話は…チントウを…通せと…言った…はずだ…!」
「申し訳ありません!」
リョフは側にあった物を手当たり次第に投げつけ、チンキュウは急いで準備室から逃げ出した。
「あの日以来リョフは連日準備室に籠って自身を慰めるようになってしまった。おかげで男は一切近づけない。
これではチントウの言いなりになってしまうではないか!リョフめ!化け物の分際で何今さら恋愛にうつつを抜かしてるんだ!」
文芸部・書庫~
薄暗い部屋の奥に銀髪、三白眼の女生徒・チントウが不機嫌そうに座っていた。
「全く…なんで毎日リョフの自慰に付き合わなきゃいけないのよ。やり方教えろって私もそんなに詳しい訳じゃ…」
…もぞもぞ…
「リュービ…」
「おい、チントウ」
「ひゃい!
なんですか、兄さん!」
「どうしたんだ?リョフがお呼びだ」
彼女に声をかけたのは兄のチンケイだった。幸い暗がりで何をしていたのかは見えなかったらしく、彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「はい、すぐにいきます」
「おそらくエンジュツの新会長就任の件だろう。わかっているな?」
「はい兄さん、決してリョフをエンジュツとは組ませません」
リョフは男子生徒を遠ざけるようになっていた。しかし、リョフ陣営は男ばかり。文芸部もビジク・ビホウ姉妹がリュービについていった結果、チントウがリョフとの取り次ぎをほぼ全て任されるようになった。
チントウがチンキュウから渡された情報は案の定、エンジュツの会長就任の件であった。チントウは準備室に入ると、この事をリョフに報告した。
「なる…ほど…エンジュツが…新会長を…名乗った…か…
チンキュウは…確か…エンジュツと…組めと…言って…たな…」
「リョフ様、エンジュツと組むべきではありません。逆にソウソウと組んでエンジュツを倒すべきです!」
「何故…だ…?」
「新会長を勝手に名乗っても誰もついてこないでしょう。
それに…エンジュツはリュービを倒そうとした人ですよ。噂ではリュービのことをまだ諦めておらず、捕らえて奴隷にしようとしているとか…」
「何…それは本当か…」
「あくまで噂ですが…しかし執拗な彼女のこと、リュービに恨みがないとは思えません」
「わかっ…た…私は…エンジュツを…討つ…ソウソウと…組も…う…!」
リュービの件はチントウの誇張である。だが、リュービの名は今やリョフに絶大な効果を発揮するようになっていた。
「リョフ様、よろしければ私が直接ソウソウの元に行って話をつけてきます」
「許す…行け…
それと…リュービ…の…様子も…見て…きて…くれない…か…?」
普段は無表情かムスッとした表情しか見せないリョフだが、リュービのことは顔を赤らめ、照れながら話す。それをチントウは少し複雑な気持ちで受け止めていた。
「はい、わかりました」
ソウソウ陣営・新生徒会室~
チントウをソウソウ自ら出迎え、リョフ陣営の詳細が彼女から伝えられた。
「そうか、リョフはエンジュツと手を切ったか。
しかし、あの狼の子が恋煩いとはな…」
ソウソウは苦笑しながらチントウの報告を聞いた。
「もはやリョフは指導者の体を成しておりません。
リョフを倒す時は我等チンケイ・チントウ兄妹、ソウソウ様に協力いたします」
「君と知り合えたのは良い機会だ。これからよろしく頼む。
しかし、先にエンジュツと戦わねばならん。それに恋煩いはつらいものだ…少し休ませてやろう」
「はぁ…わかりました」
ソウソウのニヤリ顔に、チントウは少しその意味が読み取れなかった。
「それにしても、そもそもなんでリョフは生徒会選挙に色気を見せたんだろうかな」
「そういえば…何かやりたいことでもあるのでしょうか」
「ふふ…あの狼の子は今何を目指しているのだろうな」




