第34話 災厄!乱世の申し子!
サッカー部・部室~
今やサッカー部の庇護者となったソウソウの元に、サッカー部マネージャー・カクが活動の許可を取りにやってくる。
「南校舎のリュウヒョウに不穏な動きが見えます。様子を探りたいので我が部員を動かす許可をいただきたいのですが」
「そうか、構わん」
「それとリュウヒョウが本格的に動いたのなら我らだけでは対処しきれません。
よろしければソウソウ様の部隊をお貸しいただければ幸いです」
「良かろう、許可する」
サッカー部・ロッカールーム~
「カク、どうだった?」
「チョウシュウさん、上手く行きました。
これで我が部員が多少動いても怪しまれない。それにソウソウの兵力を遠ざけることもできそうです。
これで今サッカー部に残っているのはソウソウとリュービ、そしてボディーガードのテンイ、後はわずかな部下のみ」
「しかし、この状況でまだサッカー部から帰らぬとはな」
「下手にスウを連れて帰れば本拠地の本妻と揉めるからじゃないですか」
「まだ他に女がいるのか!
な、なんと羨ま…けしからん奴だ」
「さて、コシャジ、いますね」
「ここに」
脇に控えていたサッカー部員の一人が前に進み出た。
「これは睡眠薬です。これをテンイに使い見張ってなさい。
万が一、テンイが起きた場合は貴方が取り押さえなさい」
「わかりました」
コシャジは薬を受けとると、ロッカールームから退出した。
「カクよ、さすがに薬を盛るのは不味くないか?」
「ええ、不味いですよ。ですからコシャジに責任を負わせます。これはテンイに個人的恨みをもったものの犯行です。
でも、テンイはこれでいいですが、ソウソウはそういうわけにはいきません。
チョウシュウさん、あなたにソウソウを捕らえていただきます」
「わ、わかった」
「さて、では私は残ったリュービの足止めをしておきましょう」
俺・リュービはチョウシュウより呼び出しを受け、一人で体育倉庫に赴いていた。
「チョウシュウさん、どこですか?
リカク・カクシの極秘情報を伝えるという話ですが?」
なぜ、俺一人を呼び出したのかわからないが、俺じゃないと伝えられない話ということであった。
その体育倉庫に、チョウシュウではなく、小柄な女生徒が入ってきた。
「リュービさん、わざわざこんな人気のない所まで出向いていただきありがとうございます」
「貴方はカクさん?チョウシュウさんはどうしたのですか?」
「ふふ、実は極秘情報というのは私に関することなんです」
「え……」
カクはツカツカと俺の前に歩み寄ると、顔を目の前まで近づけてきた。
「リュービさん、実は私は貴方を好きになってしまいました」
一方、ソウソウのいる部屋の前を守っているテンイにも異変が訪れていた。
「ふぁ…なんだか眠気が…」
目をこするテンイに、一人のフードを被った女生徒が近づいてくる。
「大丈夫ですかテンイさん?少し寝られてはどうですか?」
「いや…寝るわけには…ソウソウ様を守らなくては…」
「では、少し仮眠されてはどうですか?何かあればすぐ起こしますよ」
「しかし…」
「少し寝た方が頭が冴えますよ。フラフラでは反ってソウソウ様に迷惑をかけてしまうかもしれません」
「そうだな…では少し横になる…何かあったら起こしてくれ」
「はい、勿論です…」
一方、ソウソウは保健室のベッドでスウと肌を重ねていた。
「あ…んあ…ソウソウ様…」
蕩けるスウの表情を味わいながらも、ソウソウはその耳にこちらに向かって来る無数の足音を聞き取った。
「どうやら私の敵が現れたようだ。スウ、逃げるぞ」
しかし、激しいソウソウとの一仕事を終えた後のスウに、それは難しい話であった。
「はぁ…はぁ…今の私では足手まといになります。お一人でお逃げください」
「すまん…例え何があろうとも私のお前への愛は変わりはしない」
保健室の扉が勢いよく開けられ、チョウシュウ以下サッカー部員が飛び込んできた。
「ソウソウいるか!」
そこには服を整え、椅子に座るスウが一人いるだけであった。
「ソウソウならここにはいません!」
「スウさん…」
少し赤みを帯びたスウの表情に、チョウシュウの心は揺さぶられた。
「近寄らないで!男に触られるくらいなら私は舌を噛みます!」
「な、俺はそんなつもりは…
女性部員、スウさんを頼む。後の者はソウソウを追うぞ!」
ソウソウ追跡の音が大きくなり、別室で休んでいたテンイも目を覚ました。
「なんだこの音は!ソウソウ様はどこに…」
テンイは立ち上がろうとしたが、目眩が襲い、その場にへたりこんでしまった。
そこへ傍らの女生徒がテンイを落ち着かせようと、水を持ってテンイの前に現れる。
「まだ眠気が残っているようです。お休みください」
「そういう…わけにはいかない!」
フラフラになりながらも、ソウソウの元に急ごうとテンイは立ち上がった。
「ならば貴方をここで倒す!」
「何っ!」
介抱してくれていた女生徒の温和な表情は、一瞬で険しく変貌し、スカートの中から苦無を二本取り出し、テンイに向けて構えた。
「私はコシャジ。お前をここで倒す者の名だ」
カクは上の服を脱ぎ、下着姿になって俺に迫ってきた。
「私、胸無いんですけど…チョーヒさんを侍らせているリュービさんならストライクですよね?」
「別にそれでチョーヒといるわけじゃ…じゃなくて、カクさん、服を着て!」
「ふふ、そう言いつつ下半身はしっかり反応しておりますよ」
カクはズボンの上から俺の股関をさすり、そのままチャックに手をかけ、そのまま下に下ろした。
「では、少し味見を…」
「ダメだよカクさん!それは…」
「ふふふ…男とは情けないですね。少し弄ばれただけで興奮せずにはいられない。
でも、私は違います。私はただの男では興奮しない…私が興奮するのは混沌…狂乱…悪逆…
今貴方を抱けばその全てが手に入ると思うと、大変興奮します。さあ、私と一つになりましょう…」
カクにされるがままで頭が全く働かないが、彼女の言葉に何か引っ掛かるものを感じた。
そして、ソウソウの姿が俺の脳裏をよぎった。
「…ソウソウ!ソウソウに何かしたのか!」
「勘がいいですね。ですが今は忘れましょう。お互い疼いて堪らないことですし」
「ふざけるな!」
俺は力を振り絞り、カクをはねのけた。
「くっ…まさかここでフラレるとは思いませんでした。ですが、これだけは言っておきます。
貴方からは乱世の味がする。貴方がいる限りこの学園に平和は訪れない!」
「ふざけるな!俺はこの学園の平和を守ってみせる!ソウソウ今行くぞ!」
「ふふ…貴方は私と同じ…いやそれ以上の…乱世の申し子…」
リュービがソウソウの元を目指したのと時を同じくして、テンイ対コシャジも決着がついた。
「ソウソウ様…火急の危機に参上出来ず、申し訳ありません…」
「まさか…薬を盛ってなお相討ちとは…流石…テンイ…」
意識朦朧の中、テンイはチョウシュウ軍の勇士・コシャジを撃破した。しかし、テンイもまた再起不能の重傷を負っていた。
「すぐにサッカー部に救援を送ってくれ。頼んだぞ」
「いたぞ!ソウソウだ!」
「クッ、サッカー部と追いかけっことは分が悪い」
ソウソウは一人、中央校舎を目指し、茂みの中に隠れたが、ついにサッカー部に見つかるところとなった。
「チョウシュウ部長、ソウソウの部隊がこちらに急行しているそうです」
「合流されれば勝ち目はない!なんとしても合流前にソウソウを捕らえろ!」
チョウシュウ軍は一斉にソウソウ目掛けて群がった。
その時、彼方にソウソウ軍の将・カコウトンが姿を現した。
「黄巾党よ、ソウソウを助けろ!」
「カコウトン、私はここだ!」
だが、先にソウソウに追い付いたのはチョウシュウであった。
「 追い付いたぞソウソウ!お前の栄光もここまでだ!」
「この私の天運と張り合おうとは、いい度胸だなチョウシュウ!」
「ほざくな!」
「危ない!ソウソウ!」
チョウシュウの拳がソウソウに迫るその時、俺は思わずソウソウの前に飛び出していた…
「うう…ここは」
「あ、兄さん気がつきましたか?もう心配したんですからね。無茶しないでください」
俺が目を覚ますとカンウ・チョーヒが心配そうに俺を覗きこんでいた。確か俺はあの時、ソウソウを庇おうと咄嗟に飛び出して…
「そうだソウソウ!ソウソウは?」
「安心してください。ソウソウは無事です。兄さんが守ったおかげでね」
その時、扉が開き、ソウソウが部屋に入ってきた。
「おお、リュービ、目が覚めたか。今回はお前のおかげで助かった。ありがとう」
どうやらソウソウに怪我は無かったようだ。
「いやぁ、間に合って良かった」
「ところで私を助けた時、お前はナニが勃ってたが、何してたんだ?いやナニしてたのか。楽しみの邪魔しちゃったかな」
「そ、ソウソウ!」
ソウソウのニヤリ顔が今の俺には悪魔に見える。
「兄さん!」
「アニキ!」
「ま、待ってくれ二人とも。話せばわか…」
リュービの悲鳴を背中で聞きながら、ソウソウはそっと扉を閉めた。
「私のせいでテンイが戦線離脱してしまった。改めて見舞いに行かねば…
キョチョ!」
ソウソウの呼び掛けに、廊下で待機していた小柄な女生徒が返事をする。
「キョチョ、本来ならテンイと二人がかりでリョフと戦わせる予定だったが、計画変更になりそうだ。すまない」
「テンイの意志は私が引き継ぎます。お任せ下さい!」
「チョウシュウもいずれ倒さねばならない。いや、カクこそ真の敵かも知れんな。今に見ておれ。私は同じ過ちは繰り返しはしない」