第23話 迅撃!東校舎平定戦!
ソンサク陣営~
リュウヨウ陣営の前線基地を占拠したソンサク達は続けてサクユウの陣地に攻撃を仕掛けた。
しかし、防御に徹するサクユウ軍を攻めあぐねていた。
「ああ、もう。バリケードに阻まれて上手く攻められないよ」
「さすがのチョーヒ様でも敵が出て来ないんじゃ戦いようがないぜ」
「しかし、おかしいですね。サクユウは粗暴な生徒と聞いていましたのに、挑発にも応じず、お行儀よく守ってるなんて」
「シュウユさん、それは私達を恐れてということはないですか?」
「カンウの言うとおりだ。ソンサク軍は敵の基地を数分で占拠してしまった。守りに徹してもおかしくないんじゃないのか?」
「ですが、リュービさん。永遠に守りに徹するわけにはいきません。全体をみるべきです」
「全体を…敵が俺達を倒すためには…例えば背後を取るとか?
そうだ、背後には占拠した基地がある。そこを奪い返されたら俺達は挟み撃ちだ」
「そうです、基地の守りにはソンフン・ゴケイを残していますが、主力部隊はここに集結しています。全力で攻められれば危ない」
「兄さん、冴えてます!」
「さすが、オレたちのアニキだぜ!」
「いやぁ、シュウユの言葉があったからだよ」
「よし、じゃあすぐに基地に引き返そう!」
しかし、基地に引き返すより先に、基地を守っていたはずのゴケイ・ソンフンがソンサク陣営に帰って来た。
「すまない、ソンサク。基地を奪われてしまった」
「お、俺は悪くねーぞ。あんな少ない戦力じゃあ誰だって守りきれねーぜ」
「ソンフン、お前は黙ってろ」
ゴケイに小突かれて、顔を背けるソンフン。
「思ったより敵の進軍が早かったようですね。
サクちゃん、どうしますか?」
「よし、今ならまだ敵の準備は整ってないはずじゃけー、一気に攻めて基地を奪い返そう!」
「サクユウにはどうしますか。いくらか部隊を残しておきますか?」
「いや、うちらの部隊は数は少ないから分散はしない。
守りに徹していてはすぐには動けない。サクユウが動くより先に基地を奪う!」
疾風の如く進軍したソンサク軍は、敵の迎撃体勢が整う前に基地に到着した。
「ここからは時間との勝負じゃ!
さぁ、みんな!サクユウ達が動き出す前にこの基地を奪い返すよ!突撃!」
ソンサクの合図と共に部隊一同、基地に雪崩れ込んだ。
「何の騒ぎなの、ウビ?」
「ハンノウ、大変よ!ソンサク軍が攻めてきたわ!」
「もう来たの!早く守りを固めるよう指示を出しなさい!」
「その必要はないよ。
うちはソンサク!あんたらが大将じゃね。おとなしく捕虜になってもらうよ」
「大将自ら敵陣中央に乗り込んでくるなんてバカな奴ね。
あなたを倒せば私達の勝利よ」
赤髪の女生徒・ウビは果敢にもソンサクに襲いかかったが、ソンサクの敵ではなく、足払い一つでその場に倒れ込んだ。
その強さを目の当たりにした茶髪の女生徒・ハンノウは腰が引けながらも、その場から逃げ出そうと立ち上がった。
「逃げるな!」
「ひぃぃ~」
ハンノウはその場にしりもちをつくと、そのまま動けなくなってしまった。
「なんてことなの、基地がこんなに早く落とされるなんて…早く戻ってリュウヨウ部長に報告しなければ」
「おっと、逃げんじゃねーぜ」
「退きなさい!退かないなら力ずくで押し通るわよ!」
「やれるものならやってみやがれ」
青髪の女生徒・チョウエイも、相手が一騎当千の美少女・チョーヒと知っていれば一目散に逃げ出しただろう。
だが、彼女はチョーヒに挑んでしまった。そして、その力の差を身をもって知ることとなったのである。
リュウヨウ軍の将、ハンノウ・ウビ・チョウエイを捕らえたソンサクは、休む間もなくサクユウの陣地に戻った。
サクユウもまたハンノウ達が前線基地を取り戻したとの一報と共に出陣準備に入っていたが、彼らの準備が整った時には、既にソンサクは基地を取り戻し、サクユウの陣地目指して進軍している最中であった。
それほどまでにソンサクの行動は早かった。
「よし、みんな!このまま一気にサクユウを蹴散らすよ!」
「サクちゃん、待ってください。こんな連戦では私達にも無理が出て来ます。ここは防御に専念してやり過ごしましょう」
「いや、まだサクユウはうちらがこんなに早く戻って来るとは思ってなかろうけー、今のうちに叩くべきじゃ」
「でもサクちゃん…」
ソンサクはシュウユの制止も聞かず、全軍に進撃を指示、自身も先頭をきってサクユウの陣地に向かって行った。
「サクちゃん、待って…ゴホゴホゴホ…」
シュウユは咳き込み、その場にうずくまってしまった。俺は思わずシュウユの側に駆け寄った。
「シュウユ、大丈夫か?」
「ゴホ…すみません、リュービさん…私は大丈夫です…それよりサクちゃんを…」
「わかった。ソンサクは俺が守るから、君は少し休んでいてくれ」
「頼みます、リュービさん」
既にソンサク軍とサクユウ軍の戦いが始まっていた。カンウ・チョーヒも前線に出ていてどこにいるのかわからない。とにかく、まずは先頭にいるであろうソンサクと合流しよう。
そういえばシュウユは全体を見ろと言っていたな。全体を見渡すと確かに勢いはソンサク軍にある。だが、疲れからか徐々にその勢いを失いつつあるように見える。何かの拍子に崩れなければいいが…
この時、遠くよりソンサクの動きを窺う一つの影があったことに誰も気付いていなかった。
「ふーむ、あの先頭の子がソンサクですかな。ここからでは少し遠いが、拙者がその実力試してしんぜよう」
その影は胸元から扇子を取り出すと、遥か遠くのソンサクに狙いを定めた。
「ソンサク!」
「リュービ、なんでここに」
「ソンサク、部隊に疲れが出始めている。ここは一旦退いた方がいいんじゃないか?」
「しかし、ここで退くわけには…」
その時、俺の視界の隅に小さな物体がソンサク目掛けて猛スピードで飛んでくるのが目に入った。
「危ないソンサク!」
咄嗟にソンサクを庇おうと、俺は彼女を抱き寄せた。
「リュ、リュービ!ダメだよ、こんな公衆の面前で…」
顔を赤らめるソンサクに、違うんだと言う前にその小さな物体が俺の額にぶち当たった。
「がっ!」
その衝撃に、ぐらりと俺の体は揺れ、そのままソンサクに覆いかぶさるように倒れ込み、そのまま気を失ってしまった。
「うーん、倒れたように見えるけど、ここからじゃよくわかりませんな。まあ、拙者の腕なら当たっただろう。
偵察をこなしながら敵の大将を倒すなんて、さすが拙者!このタイシジに不可能はない!
さあて、サクユウ殿にソンサクは倒したと伝えておくかな」
「ううーん」
俺が目を覚ますと、そこはもう戦場ではなかった。
「ここはどこだ?」
「リュービ!良かった、目を覚まして!」
体を起こすと勢いよくソンサクが俺の胸に飛び込んできた。おかげで目が一気に覚めた。
「こほん、ソンサクさん、なぜ兄さんに抱きついているんですか?」
「いや…これは違うけー…」
カンウが怖い顔でこちらを見ていた。チョーヒも隣でじとーっとこちらを睨んでいる。
「そ、そんなことより戦いはどうなったんだ?」
俺は話題を変えようと、状況説明を求めた。いや、本当に気になることではあるんだが。
「あの倒れた時に、みんなうちがやられたと思ったみたいで、混乱しちゃったけー、撤退したんよ。
ここは奪い返した前線基地じゃよ」
「そうか、ごめん。
ソンサクを守るつもりが結果的に足を引っ張ることになってしまって」
「いや、いいーんよ。
リュービがいなかったら本当にケガしてたんじゃし」
「そうですね。リュービさんに抱きつかれて、顔赤らめて動けなくなったのは事実ですし」
「ユーちゃん、変なこと言わんとって」
「でも、シュウユ、それだとサクユウとの戦いが…」
「私達の部隊が疲弊していたのは事実です。あのまま無理矢理攻めて、もし勝てても次のリュウヨウ軍までは倒せないでしょう。
ですから方針を変えます。今サクちゃんが本当に負傷したと嘘の情報を流しています。
この情報でサクユウをおびきだし、迎え撃ちます!」
いかなる手を使ったのかわからないが、シュウユは自信に満ちた表情を見せた。
「ところで兄さん、兄さんの頭に当たったものがこれなのですが…」
カンウは俺に一つの扇子を差し出した
「見覚えのある扇子だ…嫌な予感がする」
「おう、ソンサクが倒れたという話は本当か?」
「はい、サクユウ部長。間違いありません」
栗色の髪をポニーテールにまとめた女生徒がサクユウに答える。
「あのバカ…タイシジからの情報だけだと信用できなかったが、そうか、ソンサクは本当に負傷していたのか…
よし、ウジ、今ならソンサクを倒せるはずだ!行って攻め落としてこい!」
サクユウは部員のウジに精鋭を預け、ソンサクが欠けたであろう基地へ攻撃を開始した。
「敵の部隊が来ましたか。
ではテイフさん、手筈通りにお願いします」
「ああ、任せておけ」
ウジの攻撃部隊に対し、ソンサク側は細身の眼鏡をかけた男子生徒・テイフが本隊を率いて迎え撃った。
「いつも先頭にいるソンサクがいない。やはり情報は本当だったか。
よし、一気に攻め込め!」
「そろそろ良いだろう。全軍撤退」
「敵が撤退を始めたぞ!このままソンサク軍を蹴散らせ!」
「ウジ先輩!後方から敵部隊です!」
「生意気にも伏兵か?どうせ雑魚だろ。さっさと蹴散らせ!」
「うちが雑魚とは言ってくれるじゃない!」
「げっソンサク!」
後方より突如現れた伏兵、その指揮官は紛れもなくソンサクであった。
ウジはここで初めて偽情報をつかまされたことに気付いたが、反転したテイフ軍と伏兵のソンサクに挟まれ、自身の部隊は散々に打ち破られてしまった。
「うちらはサクユウの精鋭部隊を蹴散らし、敵の戦力は半減している。今こそサクユウの陣地を攻め落とす時じゃ!者共続け!」
ソンサク軍は再び電光石火の速さでサクユウの陣地に進軍した。
「なに?ソンサクがウジを倒し、こちらに攻めてくるだと?
おい、プロレス同好会!これはどういうことだ!」
サクユウは偽情報を渡した栗色のポニーテールの女生徒と、その傍らにいる頬に十字傷をつけた男子生徒を問い詰める。
「そりゃ偽情報なんで仕方ないんじゃねーの」
栗色の髪の女生徒はあっけらかんと答える。
「貴様、どういうつもりだ!わいら弱小部は連合を組み、盟主リュウヨウを生徒会長にすると誓ったあの日の約束を反故にするつもりか!」
「なにが約束だい!上手いこと言ってあたいらを巻き込んで、家来のようにこき使いやがって!
あんたの家来ごっこは今日までだ!あたいらプロレス同好会はソンサクにつく!」
「勝手なことをぬかすな!」
サクユウは栗色の髪の女生徒に襲いかかった。
「シュータイ!行きな!」
「…おう…」
傍らにいた十字傷の男は、向かってくるサクユウにラリアットを決め、そのまま後方に吹き飛ばした。
「サクユウ部長!
…ダメだ、気を失っている…」
「ははは、カウントを取るまでもないようだね。
さぁ、どうする?
これまでの縁だ。逃げるなら見逃してやるよ」
「わかった。我々の敗けだ。ここは引こう」
こうしてサクユウの陣地は、ソンサクの到着を待たずして陥落した。
ソンサクが到着すると、プロレス同好会の二人はソンサクの元に赴き、挨拶をした。
「あたいはプロレス同好会の会長、将司琴音、通称ショーキン。
そして、こっちの頬に十字傷付けてる男が」
「…おう」
「しゃべれよ!」
栗色の髪をポニーテールにまとめた女生徒・ショーキンは、どこからともなくデカいハリセンを取り出すと、十字傷の男を叩いた。
「すいやせん、こいつ無口なもんで。
この男は同じ同好会の周泰洋平、通称シュータイ。
これより我ら同好会はソンサク軍に協力します」
「君達が偽情報を流すのに協力してくれたことはシュウユから聞いてる。喜んで歓迎するよ」
新たな仲間を加えたソンサク軍は、リュウヨウを討つため、水泳部が拠点にしている部室棟を目指した。