第22話 猛虎!新たなる一歩!
俺リュービと、カンウ・チョーヒの三兄妹は空手部新部長に就任したソンサクに合流し、その勢力拡大に力を貸すことになった。
「サクちゃんが空手部新部長に就任しましたが、部員は未だに前部長ソンフンの指揮下で水泳部と戦っています。まずはソンフンから部長職を引き継ぎ、そのまま水泳部を倒しましょう」
サクちゃんことソンサクの幼なじみで、ゴスロリ風に着飾った金髪美女・ユーちゃんことシュウユが俺達に状況を説明してくれた。
「ソンフンってソンサクの従兄なんだよね」
「うーん、そんなんじゃけど、昔からソンフンとはあまり仲良くなくて、おとなしく部長を譲ってくれるじゃろうか」
いつもは元気なツインテールの美少女・ソンサクが気弱そうにそう答える。
「ソンフンは口では強気な事を言いますが、内心は臆病な方ですから、エンジュツの許可があると言えば強くは出れないと思います」
「そうだね、ユーちゃん、やっとエンジュツの許可を取ったんだから強気にいこう」
「それよりも私達の敵は水泳部です。
水泳部部長のリュウヨウは、成績優秀、スポーツ万能、ルックスもよく、兄リュウタイとともに女性からの人気が高い人ですね。
彼を倒さなければ私達に居場所はありません」
水泳部のリュウヨウといえば、選挙戦の放送で有力候補の一人として名が上がっていた人だ。
校内放送で顔写真見たが、確かに爽やかイケメンといった感じだった。その上、勉強もスポーツもできるのか、個人的に倒したくなってきた。
「大丈夫、ユーちゃんに、リュービ・カンウ・チョーヒが手を貸してくれるんだ。
私達なら必ず勝てるさ!
それに更に仲間も呼んでおいたよ」
ソンサクは三人の生徒を連れてきた。
一人は茶色の髪を両サイド縦ロールにした小柄な女生徒。
「私はソンサクの友人のリョハンですわ。以後、お見知りおきを」
キラキラしたネックレスやブローチをつけて、なにやらお嬢様っぽい雰囲気の娘だ。
「リョハンはうちのクラスメートで、名前は柳呂範子と言うんだよ」
「ソンサク…私の本名はわざわざ言わなくてもいいですわ」
リョハンの顔が少しひきつる。よく見るとアクセサリーも安物っぽいし、シュウユに感じた本物感がない。なんちゃってお嬢様っぽい娘だな。
もう一人の女生徒は更に小柄で、両サイドを小さめなツインテールにし、赤いリボンで結んでいる娘だ。
「うちは呉孫愉可、通称ソンカ。ソンサクとは親戚になる」
なるほど、言われれば顔もどことなくソンサクに似ている。小ソンサクみたいな娘だ。
最後の一人は男子生徒だ。背は少し高い程度だが、横の二人が小柄なため随分高く感じる。彼の左掌には赤いバンダナが巻き付けてあった。
「俺は除川近徳、通称はジョコン。ソンサクとはいとこだ」
いとこだが、こちらはあまりソンケン・ソンサクと顔は似てないようだ。
ソンサクの親戚の二人は赤い布をつけている。ソンケンが部長の時代からいたのだろうか。
「リョハン、ソンカ、ジョコンも仲間に加わってくれるし、これに空手部のテイフ、カントウ、コウガイ達を加えればかなりの戦力になると思うんよ」
「リュウヨウの兄リュウタイはテニス部部長ですが、今は黄巾党にやられて入院中という話なので、救援は出せないでしょう。今なら充分勝機はあると思います」
仲間を揃えた俺達は、水泳部と渡り廊下を挟んで硬直状態となっている空手部に向かった。
「なにー、俺の部長職をソンサクに譲れっちゅうんかい!」
茶髪に色黒の柄の悪そうな男・ソンフンが俺達にくってかかる。
「はい、こちらにエンジュツさんからの正式な任命書もあります。これよりソンサクが部長として水泳部との戦いに当たります」
金髪美女・シュウユはソンフン相手に怯まず、そのままテキパキと話を進めていく。
「ソンサクなんか入学したての一年生にじゃろうがい!何ができるいうんじゃ!」
「落ち着け、ソンフン」
「なんじゃいゴケイ、お前だって副部長から降格するいうのに、いやに冷静じゃねーか」
「考えてもみろ、このまま成果が出ねば俺達はエンジュツの元に出頭することになるぞ。ここは降格でもソンサクに役を譲った方がいい」
「エンジュツに目をつけられると、何をされるかわからんしのぉ。仕方がない。ここはソンサクに任せてしまうか」
「どうやら話はついたようですね」
「おう、ソンサクに部長を譲ろう。だが負けたら、お前らがエンジュツの元に申し開きに行けよ」
「大丈夫、うちらは負けたりしない!」
空手部部長に就任し、部員を仲間に加えたソンサクは、早速リュウヨウ陣営の前線部隊に攻撃を仕掛けた。
「よおし、みんなうちに続け!水泳部を叩くよ!」
「腕がなりますわ!」
「行こうソンサク!」
ソンサクを先頭にリョハン・ソンカが飛び出して行った。
「全く、とんだじゃじゃ馬だな。みんなソンサク新部長に続け!」
テイフの指揮の下、カントウ・コウガイらの空手部面々も敵に突撃していく。
「よっし、行くぜ、アニキ!カン姉!」
「待ちなさいチョーヒ!」
続けてカンウ・チョーヒも飛び出して行く。しかし、行くぜと言われても俺はカンウやチョーヒのようには戦えんぞ。
「リュービさんは戦われないんですか?」
隣でシュウユが俺に話しかけてくる。なかなか痛いところを突いてくるな。
「恥ずかしい話だが、俺はカンウやチョーヒのようには強くはないから。シュウユさんも行かないんですか?」
「私はサクちゃんのようには戦えませんから」
そういえばシュウユは病弱だと言ってたな。あまりこういう場には連れてくるべきじゃなかったかな。
「だから私は全体を見ます。私はサクちゃんのように先頭切って敵を倒していくことはできません。
でも、後方で全体を見渡して戦場の采配をとるという道もあります。
私はそういう形で勝利に貢献したいと思います」
「戦場の全体を見る…か」
戦いは既にソンサク軍有利で進行していた。
いつものようにカンウ・チョーヒは多くの敵兵をなぎ倒しているが、中でも先頭を駆けるソンサクの活躍は目覚ましく、あっという間に本陣を占拠、敵将は部室棟へと逃げていった。
「今回は戦力も士気もこちらの方に分がありました。どうやら後方での仕事はなさそうですね」
水泳部・リュウヨウ陣営~
「ソンサクがここまで早く前線基地を落とすなんて…」
部室最奥で頭を抱えているのは、銀髪長身の美青年、水泳部部長・リュウヨウ。
「申し訳ありません。リュウヨウ部長」
「私達が油断したばかりに」
「100人足らずの部隊に負けるなんて」
頭を下げるのは先程ソンサク軍に敗れたハンノウ・ウビ・チョウエイの三人の女生徒。
「君達が気に病むことはないよ。しかし、やはりエンジュツに逆らうべきではなかったか…」
「そんな事ありません!」
「あんなワガママ娘より絶対部長が会長になるべきです!」
「私達にもう一度チャンスをください!リュウヨウ親衛隊の名に懸けて必ずソンサクを倒してみせます!」
「ありがとう君達。君達がいてくれれば僕はまた頑張れそうだよ」
「「「部長!」」」
「でも、相手は格闘技経験者、君達をこれ以上危険な目に合わせるわけには…」
「ならば拙者にお任せください!」
末席より誰よりも響く声で、一人の女生徒が名乗りを上げた。
背中に『信義』と書かれた赤い羽織を着て、長い黒髪をひとつ結びにした女生徒はリュウヨウの前に進み出ると、こう話始めた。
「この信義の美丈夫、タイシジにお任せください!拙者は格闘技にも自信があります。
拙者に全軍の指揮を任せて頂ければ、拾ってくれたリュウヨウ部長に恩返しができると思います!」
「タイシジ…確かに君は腕に自信があるそうだが…全軍の指揮となると…ソンショウ、どう思う?」
リュウヨウは隣にいた水泳部らしからぬ痩せた男子生徒・ソンショウに話かけた。
リュウヨウは選挙戦が始まると広く人材を集めていた。タイシジやソンショウもそうやって集まった生徒であった。
「確かにタイシジ君なら空手部のソンサクとも対等に戦えると思います。ここは任せてみてはどうでしょうか」
「お待ち下さい。タイシジは水泳部員でもなく、最近加わった者です。彼女に全体の指揮を任せるのは混乱を招くだけでは?」
反対意見を述べたのは、小柄だが鋭い目付きの男子生徒・シギであった。
「そうだな、全体の指揮を任せると喧嘩になるかもしれない。タイシジ、君は足も速いと聞く。代わりと言ってはなんだが、偵察係としてソンサク軍の様子を見てきて欲しい」
「そうですか、仕方がありません!ならば偵察係として存分に働いてみせます!」
言うやいなやタイシジは部室を飛び出して行った。
「リュウヨウ部長、よろしいのですか?」
「ああ、ソンショウ。確かにタイシジは腕も立つが、その…少々変わり者だ。
今、ここにはキョショウ先輩が来ている。あまり変な人事をして見損なわれたくない」
「そうですか、ならば仕方がありません」
「しかし、ソンサクには手を打たねばならない。サクユウ部長」
おう、という柄の悪い声を発しながら、坊主頭に数珠を持った男子生徒・サクユウが前に進み出た。
「サクユウ部長、君達はソンサクが奪った基地とこの部室の間に陣地を築いて、そこを守って欲しい」
「おうおう、わい等はあんたを盟主決めて協力してきた。なんでもしてやろうじゃないか」
「ハンノウ・ウビ・チョウエイ、君達はソンサクがサクユウ部長の陣地を攻撃したら、その隙に彼女らに占拠された前線基地を奪い返すんだ。
そして、サクユウ部長と協力して前後挟み撃ちにして空手部を倒そう」
「はい、わかりました」
「さすが、リュウヨウ部長」
「運動もできて、頭もキレる。まさに会長の器です」
「ありがとう君達。空手部といえど前後からの挟み撃ちには対処できないだろう」




