第183話 再開!リュウショウ包囲戦!
俺・リュービはバチョウの説得に成功。彼女を味方に付けることが出来た。
一足先に自陣営に戻ってきた俺はバチョウの到来を今か今かと待っていた。
「アニキィ、ホントにバチョウの奴が来るんだぜ?」
俺の隣にいる頭に中華風のお団子カバーを左右に二つつけた小柄な女生徒、義妹・チョーヒは少々面倒臭そうにそう話しかけてきた。
「来るさ。
あの時のバチョウの目には嘘がなかった。必ず来てくれるよ」
俺も群雄として各地を彷徨って長いが、なんとなく人の話の真偽がわかるようになってきた。前回の直談判で見た彼女は嘘を付いているようには思えなかった。これでもし騙されていたら、俺の見る目がなかったということだろう。
しかし、チョーヒはなおも膨れっ面で俺に詰め寄ってくる。
「だいたい、オレはアニキが黙ってバチョウのとこに行ったこと許してないんだからな!
せめてオレには言っておいて欲しかったんだぜ!」
前回、俺はリカイに同行してバチョウの陣営に潜り込んだが、それは仲間の誰にも内緒の行動だった。もちろん、チョーヒにも伝えなかった。
「悪かったよ。
でも、もしチョーヒに言っていたら付いて来ようとしただろ?」
「当たり前なんだぜ!」
チョーヒは憤慨しながら即答した。
彼女ならそう答えると思っていたが、それでは困る。
「チョーヒは前のバチョウとの一騎討ちで名も顔を知れ渡っているからね。チョーヒが護衛についてたらすぐに俺がリュービだってバレちゃってたよ」
バチョウの前に行くまでは俺がリュービだとバレるわけにはいかなかった。チョーヒを護衛につけては、自分がリュービだと名乗っているようなものだ。
「そ、それでもアニキの身に何かあったら一大事なんだぜ!」
しかし、チョーヒが悲しげな顔でそう言われれば謝るしかない。俺はとにかく頭を下げて謝った。
「本当に悪かったと思ってるよ。
ああいう真似はもうしないよ」
「約束だぜ。
まったく、アニキは昔より偉くなったのに、昔より危なっかしいことするようになったんだぜ」
チョーヒに危なっかしいと言われるのはよっぽどだ。確かに軽率な行動だった。もうしないようにしないとな。
「リュービ様、バチョウの一軍がこちらに向かって現れました!」
「来たか!」
そうこうしていると部下よりバチョウ到来の一報が入る。報告を聞いて遠方に目をやると、バチョウが全軍をあげてこちらに向かって来ている。
「お前たち、万一に備えて臨戦態勢を取るんだぜ!」
チョーヒは一応の用心にと自軍に戦闘態勢に入るよう指示を飛ばす。
しかし、遠目から見る分にはバチョウ軍は整然とした行進で、殺気立っているようには見えない。恐らく、チョーヒの心配は杞憂に終わることだろう。
バチョウ軍は俺たちの陣営の手前で立ち止まると、先頭に立っていた女性が単身、前へと進み出てきた。
美しく輝く長い金髪に、光を放つ碧い瞳、着崩した制服に長いスカート、首や左腕にアクセサリーを身に着けた女生徒、西涼の金獅子・バチョウ、その人だ。
彼女は部下の案内で俺の前へと誘導される。
「玄徳殿、お待たせした。
バチョウ軍一同、これよりあなたの傘下に入る!」
彼女は俺の眼の前までやってくると、そう高らかに宣言した。
バチョウの挙動は礼儀に適ったものではなかったが、しなやかな身のこなしと堂々とした態度は、絵画を観ているかのような美しさであった。
「バチョウ、よく来てくれた。
我が陣営をあげて歓迎しよう!」
バチョウ、自身の西涼高校が三国学園に吸収された義憤から、ソウソウに反逆した女生徒。ソウソウをあと一歩まで追い詰め、うちのチョーヒと互角の一騎討ちを見せた西涼の生んだ傑物・錦バチョウ。
その彼女が俺たちの陣営に加わってくれた。また一人、俺はソウソウに抗う力を得た。
「なあ、アニキ」
俺が感慨に浸っていると、隣のチョーヒが何やら小声で話しかけてきた。
「どうした、チョーヒ」
「あいつの言ってるゲントクってどういう意味なんだぜ?
アニキのことみたいだけどさ」
チョーヒは不思議そうな顔でそう俺に尋ねてきた。
「ああ、どうも俺のことらしい。
どうやら俺の下の名前の玄徳を音読みしてゲントクと呼んでるようなんだよ」
バチョウは前の直談判の時にも、俺のことをゲントクと呼んでいた。どういう意味なのかはよくわからないが、どうも彼女の中では俺の呼び名はゲントクということで落ち着いたようだ。
しかし、この回答を聞くと、チョーヒは急に怒り出した。
「なにっ!
来ていきなりアニキを下の名前で呼びつけるなんて生意気な奴なんだぜ!
オレが身を持って教えてやるんだぜ!」
チョーヒが今にも飛び出そうとするので、俺は慌てて彼女を引き止めた。
「まあまあ、元々リュービの呼び名だって、苗字の流尾の音読みなんだし、下の名前の音読みでもいいじゃないか。
そもそもここでの呼び名は名前をもじった愛称で、下の名前を元にしている人だって少なくないんだしさ」
今さらだが、この学園では愛称呼びが一般的だ。愛称は漢字の音読みや短縮したものなど様々だが、だいたいは本名をもじったものだ。
俺は苗字の“流尾”を音読みして“リュービ”と名乗っているが、名前の“玄徳”を音読みして“ゲントク”と名乗る可能性もあった。
そう考えればバチョウが俺をゲントクと呼ぶのも不自然とは言えないだろう。
「うーん、アニキがそういうなら引き下がるけどよ、オレはやっぱりあいつが気に入らないんだぜ!」
「これからともに戦う仲間なんだ。喧嘩はしないでくれよ」
「うう、わかってるんだぜ……」
まあ、呼び方なんてのは些細な問題だ。威厳を損なったり、不利益を被るほどの呼び名でもない。バチョウが俺をゲントクと呼びたいのであればそれでいいだろう。俺はゲントク呼びを容認することにした。
〜〜〜
新たにバチョウを仲間に加えた俺たちは、西校舎の攻略へと戻ることにした。武将・カクシュンを再び防衛の将として残し、チョーヒ・バチョウの二将を伴っての帰還だ。
今現在、西校舎の攻略は残すところ敵大将・リュウショウの籠もる教室のみとなった。その教室を軍師・コウメイがチョーウンやコーチューらを率いて包囲している。
リュウショウが降伏するのは時間の問題だろう。
俺たちはこのリュウショウ包囲戦に参加するために、コウメイの陣へと向かった。
「リュービ様、お待ちしておりました。
コウメイ様の元に案内致します」
コウメイの陣に到着した俺たちを出迎えてくれたのは、どこかで見覚えのある薄茶の髪色の男子生徒であった。
「おや、君は確か……」
「あれ、兄さんじゃない。
こんなところで何をしているの?」
そう薄茶髪の彼に話しかけたのは、チョーヒの隣にいた薄い桃色の長い髪に、花の髪飾りをつけた彼女のガールフレンド・カコウリンであった。
彼女の遠慮のない言動に、薄茶髪の男は「仕事に決まっているだろう!」と怒り気味に言い返す。
だが、彼女の兄で俺は思い出した。
「君はカコウラン……いや、カコウサンか。
久しぶりだね」
「はい、カコウラン改めカコウサンでございます。ご無沙汰しております」
カコウリンの兄・カコウランはその名が示すように敵のソウソウやカコウトンらの親戚であった。だが、ソウソウからはあまり高く評価してもらえず、軍の末席にいた。昔の戦いで我が軍の捕虜となり、仲間になる時に名を“カコウサン”と改めたのだった(※第71話参照)。
そういえばコウメイが彼を自軍に編入したいと言っていたな。そんなことを思い出しつつ、俺はカコウサンの案内でコウメイの元へと向かった。
「コウメイ!」
「リュービさん。バチョウさんの登用おめでとうございます」
俺の姿を見つけるなり、薄水色の髪、幼い顔つきの小柄な少女が一礼して祝いの言葉を述べた。
彼女が軍師・コウメイだ。
バチョウの登用も元は彼女の発案であった。
「では、俺は仕事に戻ります」
俺がコウメイと合流したのを見届けると、案内役のカコウサンはそそくさと退散していった。
俺は彼の後ろ姿を見ながらコウメイに尋ねた。
「カコウサンはよく働いているか?」
「はい、彼はソウソウ軍で目付け役をやっていました。目付け役とはソウソウ軍の規律に則り兵士を監視するのが役目です。つまり彼はソウソウの軍規に精通した人物。
彼の知識は軍を再編する上で大いに参考になりました」
なるほど、コウメイは軍編成や陣形の研究を熱心にやっているとは聞いていたが、カコウサンの知識も参考になっていたのか。カコウサンの知識は本を辿ればソウソウから出た知識。確かに取り込めば大きな力になってくれることだろう。
「カコウサンは軍の末席にいたと語っていたが、決して無駄なことではなかったのだな」
「はい。確かに彼はずば抜けた武力や知力を持った人物ではありません。しかし、他者の話によく耳を傾け、人をまとめることの出来る人物です」
ソウソウがどういうつもりで彼を目付け役にしたのかわからない。だが、コウメイの眼鏡にかなったのなら、より良い地位につけるべきだろう。
「そうか。ならば西校舎を手に入れたら教室を一つ任せてみようか」
「それが良いと思います」
「さて、話が逸れたが、コウメイ。
今のリュウショウ戦の状況を教えてくれないか」
俺は改めて本題をコウメイに尋ねた。
「はい。
今は私の部隊とチョーウン軍、コーチュー軍、それに降伏してきた西校舎軍を使ってリュウショウの籠もる教室の四方を取り囲んでいる状況です。
こうして外部から威圧を与えつつ、内部へ圧力をかけております」
「内部から?」
俺はコウメイに聞き返した。彼女のことだから恐らく、既に策を展開しているのだろう。それを聞いておきたい。
「はい、この前にはキョセイ先輩の登用に成功しました。先輩は私たちの軍に降ると約束してくれました。
残念ながらリュウショウに発覚して捕らえられてしまったそうですが、それでも十分な効果を発揮してくれることでしょう。
キョセイ先輩は名士として名高い人物です。その先輩が率先して我が軍に降ろうとした事実は中にいる生徒に大きな動揺を与えたことでしょう」
キョセイの名は俺も聞いたことがある。人物評価で有名な人だ。確か過去にソウソウを『乱世の奸雄』と評価したのが……いや、あれはキョセイの従兄弟のキョショウの方だったか。
キョセイの方の具体的な事績が思い出せないな。確か過去にトータクの怨みを買って逃亡し、その後も戦乱を避けて各地を転々とし、流れ流れてリュウショウの元に辿り着いたという話だ。
味方になってくれるのはありがたい。だが、包囲されるといの一番に裏切ろうとする辺り、あまり頼りにはなりそうにないな。まあ、キョセイのことは後で考えよう。
「なるほど、それが君の策か」
「もはやリュウショウの降伏は時間の問題です。急ぐ必要はありません。
今はリュウショウより、彼に未だに付き従う部下たちの心を得ることを優先すべきです。
内部から動揺を誘い、部下の一人一人が自主的に降伏を望むようになるのが理想です」
コウメイは可愛い顔でなかなかえげつない策を立ててくる。しかし、彼女なりに最善を尽くした結果だ。この先のソウソウとの戦いを見据えるなら、俺はここで少しでも多くの配下を得なければならない。そのために彼女が立てた最善の策だ。ならば俺はそれを受け止めなければならない。
「よし、では、今教室の四方を取り囲んでいるチョーウン・コーチューに、チョーヒ・バチョウを加えよう。この四将の外圧でリュウショウ陣営をより追い詰めよう。
そしてコウメイ、内部を崩壊させるために次の策を……」
「なー、リュービ。
そのへんでやめにしねーかー?」
俺がコウメイにさらなる策を仰いだその時、後ろから別の人物が話に割り込んできた。
俺とコウメイは思わず後ろへ振り返った。
「お前は……」
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次回は5月11日20時頃更新予定です。




