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第20話 共闘!信義の美丈夫!

「リューービーどーのー!!!」


桃園で義兄妹の誓いをしたリュービ・カンウ・チョーヒの俺達三兄妹が、コウソンサン先輩のもとを後にして、ソンケンの空手部を目指し、歩いていると、彼方より土煙をあげながら何者かが俺達の前に滑り込んできた。


「リュービ殿ですね?あなたのお力をお借りしたい!」


力強く俺の手を握ってそう懇願してきたのは、背中に『信義』と大きく書かれた真っ赤な羽織に長い黒髪をうなじのところでひとつ結びにした女生徒だった。


何かスポーツをやってるのか適度に筋肉のついた腕だ …しかし、デカいな。カンウに勝るとも劣らない身長…そして同じくらいのサイズの胸…


「兄さん…どこ見てます?」


「え!いや、あはは…ごほん。確かに俺はリュービだが、何の用事かな?」


「リュービ殿はコウユウ先輩をご存知でしょうか?」


「え…確か選挙放送の時に名前が呼ばれてたな。環境委員長だったかな」


「おお、ご存知ですか!ならば話が早い!


今、コウユウ先輩は、いや、環境委員は未曾有の危機に瀕しております!


北東にあるその教室を黄巾党残党が奪い取ろうと包囲しております!


敵の大将の名はカンガイ!是非、貴方達三兄妹に援軍に来ていただきたい!」


「そんなことが…君も環境委員なのかい?」


「いえ、違います。おっと、申し遅れました!

拙者は信義の美丈夫(びじょうふ)にして未来の生徒会長!太史慈(おおふみ・めぐむ)!又の名をタイシジ!」


腕を歌舞伎の型のように前後に大きく広げ、決めポーズを取るタイシジに若干の不安を覚えるが、なおも彼女の話は続く。


「拙者は同じ環境委員でもなければ、コウユウ先輩と親戚関係にあるのでもありません。


ただ、彼の名声と立派な志を慕い、協力しているのです。


そんな彼が今、カンガイの暴虐に晒され、孤立無援、絶体絶命の大ピンチ!


そんな時、コウユウ先輩は言われた。


リュービ殿は仁義に篤く、二人の義妹カンウ・チョーヒ殿は武勇に優れていると!


彼等三兄妹は仁愛をもって黄巾の乱を鎮め、義侠をもってトータクの暴政に立ち上がった真の勇士だと !


コウユウ先輩はあなたを尊敬し、拙者は先輩を助けようと敵の包囲を突破してあなたのもとにやって参りました!


どうか、拙者と共にコウユウ殿救出にご助力していただけないでしょうか!」


「そうか、コウユウ先輩は俺達のことを知ってくれていたんだな」


黄巾の乱、反トータク連合…半ば巻き込まれる形とはいえ、解決しようと尽力してきた。


隣にソウソウみたいな凄い人がいたからだろうか、自分たちは力になれてないんじゃないかと思うこともあったが、コウユウ先輩みたいに見てくれてる人がいたのか。


「カンウ、チョーヒ…」


「行きましょう、兄さん」


「オレたちをご指名となりゃあ行かないわけにはいかないぜ!」


「二人とも…よし!


タイシジさん、行こう!コウユウ先輩を助けに!」


「リュービ殿…ありがとうございます!」




普段、生徒が利用しない北東の端にその教室はあった。頭に黄色いバンダナを巻いた連中が教室を取り囲む形でたむろしている。百人以上いそうだ。数が多過ぎて階段にまで溢れている。


「凄い人数だな。タイシジさん、よくあの包囲を突破できたね」


「ふふ、リュービ殿、よくぞ聞いてくれました!」


あ、ヤバい。変なスイッチ押しちゃったかも…


「拙者も最初はこの包囲を突破できるのだろうかと不安でした。


しかし、なにがなんでも突破しなければならない!そう思った拙者は頭を働かせました。


拙者、こう見えても手裏剣術が得意でして、手裏剣と的を用意して彼等の前で百発百中の腕を披露しました。


最初は警戒していた黄巾の連中も、何度も繰り返すうちに飽きてこちらを見なくなりました。

その隙をつき、拙者はバッタバッタと敵を薙ぎ倒し、包囲を突破したのであります!


拙者の機転と手裏剣の腕がなければ危ういところでした!」


「おい、誰だ!そこにいるのは!」


どうもこのタイシジという娘は話が長い。その上、声もデカいから案の定見つかってしまった。


「まずい、見つかったようだ。タイシジさん、ここは一旦退いた方が…」


「今、拙者が喋ってる最中ですぞ!」


彼女は胸元から扇子を取り出すと、黄巾の男目掛けて投げつけた。その扇子は寸分の狂いもなく男の眉間に命中し、そのまま後ろに倒れこんだ。あの男、さては胸元に目がいって避けられなかったな…


しかし、この命中精度、先程の手裏剣の達人という話はあながち嘘では無さそうだ。


「凄い腕だね。でも、敵に完全に見つかってしまったみたいだ」


「アニキ、こうなりゃ戦うしかなさそうだぜ!」


「少し敵が多いですが、私とチョーヒなら倒せない数ではありません」


二人の義妹は可愛い顔して物騒なことをさらりと言う。しかし、この二人ならやっつけてしまいそうだ。問題はタイシジさんの方なんだが…


「やってやりましょう!リュービ殿!カンウ殿!チョーヒ殿!」


カンウ・チョーヒに触発されたのか、鼻息荒くタイシジさんが立ち上がる。


「落ち着いてくれ、タイシジさん。君も腕は立つようだが、相手は大人数だ。ここは態勢を立て直した方がいい」


「ごちゃごちゃうるせーぞ!今さら逃げられると思っているのか!」


黄巾の男達が取り囲むように襲いかかってくる!


タイシジは静かに腕を振るうと、先頭にいた二人の黄巾党が白目を剥いてその場に倒れた。


「コウユウ殿からは一人で無謀な突撃はしてはいけないと言われておりましたが…四人がかりなら無謀とは言えませんよね?」


タイシジは唖然とする黄巾の男達をよそに静かに前に歩き出し、指を掲げて叫んだ。


「拙者は信義の美丈夫・タイシジ!未来の生徒会長になる女だ!


さあ、不良どもよ!


この名を耳に刻め!この姿を目に焼き付けよ!」


決まったと満足げな顔をしているタイシジさんとは対照的に敵の黄巾党は若干引いているようだ。


百人以上の前で何故この人はこうも堂々とできるのだろうか?


「おい、誰かそこのバカを黙らせろ!」


黄巾党の奥にいる一際体が大きくて、口髭を生やした男が怒鳴りながら指示を出している。おそらくあれがカンガイだろう。


「バカとは心外ですね。拙者の成績は結構いい方ですよ」


タイシジは文句を言いながら俺達の方へ向き直った。


「皆さん、あれが今回の元凶・カンガイです。拙者がまっすぐカンガイのところに行って倒すので、皆さんはサポートお願いします」


「待ちなさい!そんな作戦とも言えないようなもので突撃する気ですか?」


カンウがタイシジの無謀な突撃を止めに入ろうとすると、黄巾党の中からざわめきが起こった。


「おい、あの長い黒髪のデカチチ女、噂に聞くカンウじゃないか?」


「あの武勇絶倫(ぶゆうぜつりん)と名高いカンウか!じゃあ、隣にいるチビは勇壮威猛(ゆうそういもう)のチョーヒか!」


カンウ・チョーヒとわかると黄巾党の連中が途端に逃げ腰になった。


そういえば俺達は入学当初に黄巾党を倒して回ってたから名が知れ渡っているということか。


しかし、何故、俺の名が出ない…


「まあ、言い方は下品ですが、名を知られているというのは悪い気はしませんね」


「まずオレのことチビと言ったやつからひねり潰してやるぜ」


どうやら威猛と(いもうと)二人がやる気を出してしまったようだ。


「タイシジさん、この方々は私とチョーヒで相手しますから、あなたはカンガイをお願いします」


「はい、カンウ殿、よろしくお願いします!」


「テメーら、敵はたったの四人だ!さっさと片付けろ!」


カンガイに怒鳴られて、俺達を取り囲んでいた黄巾党の連中が一斉に襲いかかってきた。


だが、百戦錬磨のカンウ・チョーヒの前では彼らが束になったくらいでは勝てるはずもなく、次々と倒されていった。


そしてもう一人、数多の黄巾党をものともせず、一人悠々と歩く女生徒がいた。


タイシジだ。彼女はペースを乱されることなく黄巾党を蹴散らしていき、まっすぐカンガイの元に歩いていった。


「おい、なんだコイツ!」


「バカだがつえーぞ!」


「うーん、拳一つで倒れるくらいなら拙者の邪魔をしないで欲しいですな」


「おい、誰でもいいから早くあのバカを止めんか!」


「こんな強いやつ相手できねーぜ」


「後ろの三人を先にやっつけよう!」


「バカ、カンウ・チョーヒに勝てるわけねーだろ!あれを見ろ!」


既にカンウ・チョーヒの横には倒された黄巾の連中が山を作っていた。二人は息一つ切らさず全然余裕といった様子である。


「頭、あんな連中相手にできませんぜ…ここは逃げましょう…」


「だらしねー奴らだ!俺があのバカを倒す!どけ!」


大柄の黄巾党・カンガイがタイシジさんの前に立ちはだかる。


「おお、そちらから来ていただけると、拙者の労力が減って助かります」


「ふざけたこと言ってんじゃねー!」


カンガイはその人一倍大きな拳を振り上げて、タイシジ目掛けて殴りかかった!


だが、タイシジはその拳を左掌で受け止めると、そのまま拳を握り潰した。


「ぐわっー!


てめー、どういう握力してんだ…」


「拙者との力の差はわかったと思います。


取引しましょう。あなた方がここの包囲を解き、生徒会選挙で拙者に投票してくれるというのならあなた達を見逃しましょう」


「ふざけんじゃねー!」


「拙者はいつだって本気ですよ!」


タイシジはカンガイの左拳をくぐり抜けると、顎に一撃、カンガイは音を立てて崩れ落ちた。


「交渉不成立ですか…残念です。


おや、他の黄巾党は?」


「寝転がってる奴以外はみんな逃げちゃったよ」


「ということは、コウユウ殿救出成功ですな!リュービ殿、カンウ殿、チョーヒ殿ありがとうございます。おかげで黄巾党を追い払うことができました。いやー良かった良かった」


「うーん、まあ、解決したし、いいかな」




黄巾党を追い払った俺達をコウユウ先輩は熱烈な歓迎で出迎えてくれた。


「おお、よく来てくれたリュービ君、カンウ君、チョーヒ君。私が環境委員長のコウユウだ」


俺達の前に現れたのは恰幅の良い、広い額と長い眉の男子生徒。彼が今回俺達に依頼したコウユウ先輩だ。


「タイシジ君もありがとう。君達のおかげで我々環境委員は無事だ。


君達のことは無二の友人と思っている。何か困ったことがあったら私に相談してくれ」


「コウユウ殿、ありがとうございます。では、拙者はこれでここを去りたいと思います」


「もう行ってしまうのか」


「はい、選挙に勝つために拙者の支持者を増やさねばなりませんから。リュービ殿、いや、リュービ、よく立ち上がってくれた。拙者も君達三人のことを友人と思っているぞ」


タイシジが手を差し出したので、俺も彼女の手を握り返した。


「タイシジさん、いや、タイシジ、またどこかで会おう」


「聞けばリュービ、君は生徒会長を目指しているんだってね。


義に篤く、少ない支持者ながらも生徒会長を目指しているということは、拙者と君は似た者同士かもしれないな」


うーん、タイシジと一緒にされるのはちょっと嫌かな。


「拙者が生徒会長になったら君達を生徒会に招きたい。もし、君が生徒会長になったら拙者を生徒会に招いてくれ。


では、友よ、いずれ会おう!」


タイシジは一人、旅立っていった。


「なんか凄い娘だったね」


「兄さんは凄い胸の方に興味があったようですけど」


「カンウ、それは誤解だ!」


「アニキ、やっぱり胸がデカい方が好きなのか!」


「違うからチョーヒ、落ち着いてくれ」


「アニキのバカー!」


「ぐわー!」

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