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第175話 勇戦!兵士の一分!

 チョーヒ軍は西校舎の北部へと進軍した。


挿絵(By みてみん)


 それに対して北部軍の総司令官・ホーギはリイ将軍を派遣してこれを防がせた。


「おい、ゲンガン。敵のホーギってどんな奴なんだぜ?」


挿絵(By みてみん)


 頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けていた小柄な女生徒・この軍の指揮官・チョーヒは、元リュウショウ軍の将、髭面(ひげづら)の男子生徒・ゲンガンに敵の情報を尋ねた。


「ホーギは先代・リュウエン部長の頃からいる重鎮(じゅうちん)で、先代には弟のように可愛がられておった。


 元々、リュウショウの第一の家臣はチョウイという者で、北部軍の総司令官でもあった。だが、南校舎のリュウヒョウと組んで反乱を起こした。


 その反乱が鎮圧され、チョウイが追放されると、ホーギが繰り上げでその総司令官の役職を引き継いだ。


 今では総司令官として威張っているが、本来はその器ではない。肝心のチョウロ戦ではロクに勝ってはいない。それこそリュービ様に頼らねばならぬほどにな。


 なので、ホーギが自ら軍を率いて来ることはないでしょう。今もリイに任せて、自分は高みの見物のようですしな」


 ゲンガンは半分笑うような口調で答えた。ホーギは本来、文官タイプの人物であった。それがコネと序列で棚ぼた的に最上位の総司令官職に就任している。実直なゲンガンには面白い話ではなかった。


「じゃあ、そのリイって奴はどんな奴なんだぜ?」


 チョーヒの質問に、ゲンガンは今度はリイについて答えた。こちらもあまり好感情を持っていない様子であった。


「リイは元々、先ほどのチョウイの部下の一人だった。チョウイが反乱を起こしてその後劣勢になると、いち早く寝返り、チョウイを捕えてリュウショウに差し出した。


 その功でホーギの一番の将軍となった。さらには反乱鎮圧に一番貢献したとして、西校舎一の勇将・忠臣なぞと持ち上げられて、調子に乗っている。


 だが、それだけの実力はない。その上、小心者だ。大方、大軍の影に隠れて奇襲でも企んどることだろう」


「へっ、奇襲なんて来ると思って待ち構えてりゃ脅威でも何でもないんだぜ!」


 チョーヒ軍が北部に到着すると、敵軍が進行を(ふさ)ぐように廊下に布陣していた。


 その陣容を観察しながら、チョーヒはゲンガンに語りかけた。


「敵兵は二百数十ってところだぜ。


 オレたちの兵より少し多いみたいだぜ」


「ホーギのところは兵が多いはずだが、思ったよりは来ていないな。


 どうやらこれまでの戦いで随分兵を失ったようだな」


「ここを攻略すれば後はデカい敵はアニキのとこくらいなんだぜ!


 お前ら思いっきり行くんだぜ!」


 チョーヒの大音声(だいおんじょう)とともに戦いの火蓋(ひぶた)は切られた。チョーヒ軍の兵士はチョーヒ自身によって鍛えに鍛えられた精鋭たち。さらにここに来るまでのゲンガン戦、チョーエー戦と実戦を積み、練度は非常に高まっていた。


 対して敵軍は、数こそチョーヒ軍に勝ったが、大半の兵士の戦い方は素人(しろうと)同然。ロクに戦おうともせず、逃げ惑うばかりであった。


 戦いは一方的にチョーヒ軍の優勢であった。


「へへ、オレの兵士たちがようやく使い物になってきたんだぜ!


 この調子ならオレも後方の指揮に専念できるんだぜ!」


 今回の戦いでチョーヒの役目は北方の攻略以外にもう一つあった。それは兵の育成。来たるべき戦いに備えて自分の軍団を最強の軍に育て上げる必要があった。チョーヒは兵士の戦いぶりを見て、その成果を実感しつつあった。


「チョーヒちゃん!


 この調子ならこの戦いもすぐに終わりそうね!」


 チョーヒのゴキゲンな様子を見て、嬉しそうに話しかけてきたのは、薄い桃色の長い髪に花の髪飾りをつけた女生徒、チョーヒのガールフレンドにして副将・カコウリンであった。


「おい、リン!


 お前は弱いんだから前線に出てくるんじゃないんだぜ!」


 そんなカコウリンにチョーヒは強めに注意をした。実際にカコウリンの役目はあくまでチョーヒの補佐や後方支援で、彼女自身に武力はない。


「もう、チョーヒちゃんのイジワル!」


 カコウリンもそんなチョーヒに怒ったような態度を取るが、彼女なりに心配しての発言なので本気で怒りはしない。


 二人がじゃれ合っていると、突如、部隊の側面より声が上がった。


「今だ! チョーヒ軍の側面を突け!」


 その声とともにどこからともなく敵兵がわらわらと湧き出して、攻撃してきた。


「へ、やっぱり伏兵を仕込んでやがったんだぜ!


 でも、事前に予想されてりゃ奇襲は失敗なんだぜ!


 行け! ゲンガン!」


 チョーヒの掛け声とともに後方に残っていたゲンガンの部隊が盾を手に奇襲部隊を立ち向かった。


「そんな見え透いた手に引っかかる我らではないわ!」


 ゲンガン軍の活躍で、奇襲に出てきた敵軍はあれよあれよと言う間に取り囲まれた。


 チョーヒもゲンガン軍の優勢に気を良くしていたが、そこは歴戦の勇士。敵軍の動きに違和感を覚えた。


(なんだぜ、あの敵の不甲斐(ふがい)ない動きは?


 練度が足りないだけでは説明できないんだぜ……指揮官がいないんだぜ?)


「キャー!」


 その時、チョーヒの後ろでカコウリンの悲鳴が上がった。


「しまっただぜ!」


 チョーヒが急いで振り向くと、目つきの悪い金髪頭の指揮官らしき男にカコウリンが捕まっていた。男はサバイバルナイフを手に、カコウリンの顔に向けている。敵の男の隣には赤髪の男が立っていた。


「俺がこの軍の将軍のリイだ!


 この女を無事に返して欲しくば大人しく負けを認めろ!」


 どうやら敵の大将は狙いは奇襲ではなく、人質であったようだ。先ほどのチョーヒの違和感も、彼が奇襲部隊の指揮を捨てていたからだろう。


「チョーヒちゃん! 私のことはいいからコイツをぶっ倒しちゃって!」


 敵将・リイは暴れるカコウリンの口を押さえながらチョーヒに向かって叫んだ。


「えーい、黙れ!


 チョーヒ! そこから一歩でも動けばこの女がどうなっても知らんぞ!」


「指揮官のくせに人質頼みとは卑怯な奴なんだぜ!」


「何とでも言え! 戦いは勝てば良いのだ!」


 チョーヒは敵将の隙を(うかが)う。チョーヒはリイ相手なら一瞬で片を付ける自信があった。


(普通にやればすぐに倒せるけど、ナイフは厄介なんだぜ……下手に動けば反射的に刺す可能性があるんだぜ……


 それに隣の兵士も多少出来そうなんだぜ……リンにもしものことがあったら……)


 チョーヒは思わず二の足を踏んでしまい、迂闊(うかつ)に動けなかった。


 そんなチョーヒに代わって意外な人物が敵将・リイの前に立ちはだかった。


「リイ将軍、このような卑怯な真似はお止めください!」


 そう叫んだのは、敵将・リイの側に立っていた部下の赤髪の男であった。


「俺の盾の分際でなんのつもりだ!」


 リイはその兵士相手に激昂した。


「リイ将軍、あなたは非戦闘員を強制連行して戦いに使い、さらには女性を人質に取って脅している。


 あなたは将軍の器ではない!」


「うるさい!


 お前のような役立たずはクビだ! 何処へでも行け!」


 リイはカコウリンに向けていたナイフの刃を赤髪の男へと向けた。


「クビはあなたの方だ!」


 赤髪の男はナイフの刃が自分に向けられるや否や、リイとの距離を一気に詰めた。リイは部下の突然の行動に驚き慌てて、ナイフの刃を光らせて脅しをかける。


 だが、赤髪の男は勇敢にもリイの懐に飛び込み、ナイフを持つ腕を絞め上げて、囚われのカコウリンを救出した。


 リイは痛みに負けてナイフを落とした。その瞬間、赤髪の男の注意がナイフに向くと、リイはその隙をついて拘束を抜け出し、脱兎(だっと)の如く何処(いずこ)かへと逃げていった。


「しまった、逃げられたか。


 お嬢さん、大丈夫でしたか?」


 彼に助けられたカコウリンは礼を言い、さらにチョーヒも彼に感謝を伝えた。


「うちのリンを助けてくれてありがとうだぜ!


 お前は大した男なんだぜ!」


 大将のリイが逃げ出すと、すでに彼の率いた奇襲部隊は半ばゲンガン軍に無力化されていたこともあってあっさりと降伏した。


 チョーヒは部隊が降伏すると、先ほどカコウリンを助けた男に声をかけた。


「お前、オレの軍の部隊長にならないかだぜ?」


 思いがけない申し出に、赤髪にスマートな体型の軍服姿の男子生徒は、恐縮した様子で答えた。


「ありがたい申し出ですが、私はまだ兵卒の身分でして……」


 男は自身の身分の低さを理由に断ろうとしたが、チョーヒは気にせず答えた。


「兵卒? そんなの大したことじゃないんだぜ!


 あの時のお前の勇気は軍団随一だったぜ! そんな男が身分なんてちっぽけなこと(こだわ)る必要なんてないんだぜ!」


挿絵(By みてみん)


「わ、わかりました。では、謹んでお受けいたします。


 私はの名前は長岐嶷(ながき・たかし)、チョウギョクとお呼びください。


 よろしくお願いします!」


 チョーヒが新たにチョウギョクを加え、奇襲部隊を降した頃、前線でも敵軍との戦いに決着がついていた。


「私はリイ軍の参謀・キョウシンと申します。


 リイ将軍が逃亡されたので、私が代表して降伏を申し上げます。どうか我が軍の降伏を受け入れてください」


「ああ、歓迎するんだぜ!」


 正面軍の指揮を任されていたキョウシンは、強制連行された生徒を逃がすと、軍をまとめてチョーヒ軍に降伏を申し出た。


 さらにリイ軍の敗北は、彼の上官である北部軍の総司令官・ホーギを震え上がらせた。


「リイが逃亡し、軍が全てチョーヒに降伏したのか!


 これ以上兵を失えば、たとえチョーヒを倒せたとしても私の今の地位を維持するのは難しいか……


 だが、今の兵力を維持したままならば、たとえリュービ陣営でも粗略(そりゃく)には扱われんか……


 ……ここが決断時かもしれんな」


 チョーヒ軍の元に、朱鷺(とき)色の長い髪をした、一見すると華奢(きゃしゃ)な少女のような見た目の男子生徒が白旗(しろはた)を掲げてやって来た。


「私は北部総司令官・ホーギの特使・トーシと申します。


 ホーギはチョーヒ将軍への降伏を決断されました。どうか、寛大なご処置をお願いします」


「ついにホーギが降伏したんだぜ。


 ソウヨ、お前は兵を率いてホーギのところに行って指揮権をもらっておくんだぜ。


 オレたちはこれからカクシュンのところに行ってチョウロに備えるんだぜ!」


 チョーヒは軍師・ソウヨを降将・ホーギの元へと派遣し、軍隊を押さえさせた。そして、自軍は進路を変更し、北部の防衛を受け持っていたカクシュンの元へと進軍した。



 〜〜〜


 北部で孤軍奮闘するリュービ軍の将・カクシュンは立て続けにくる攻勢に、極限まで疲弊していた。


「カクシュン隊長!」


「次はなんだ! ホーギ軍か! それともチョウロ軍か!」


 頭にゴーグルをつけた男子生徒・カクシュンは部下から名を呼ばれただけで過剰なほど鋭敏に反応する。それほどまで敵の襲撃が絶えず行われていた。


 だが、部下の報告はそのどちらの襲撃でもなかった。


「違います! チョーヒ軍です! 味方のチョーヒ軍が到着されました!」


「何、チョーヒだって!


 おお!」


 カクシュンは急いで窓の外を見ると、遠方にチョーヒの大軍の姿が映った。


「やった! 俺たちは耐えたんだ!


 チョーヒがホーギを倒したぞ!」


 カクシュン軍の孤立無援の籠城(ろうじょう)戦は終わりを告げた。彼は喜んで到着したチョーヒを出迎えた。


「よく来てくれた、チョーヒ!


 君たちの来着を今か今かと待っていたよ」


「カクシュン、待たせたんだぜ!


 ホーギの奴は降伏したんだぜ!」


 北部軍のホーギは降伏し、西校舎北部はリュービ陣営の勢力圏となった。


 だが、北部の脅威はホーギだけではなかった。


「それでチョウロの動きはどうなんだぜ?」


 北の群雄・チョウロは今も西校舎侵略の隙を(うかが)っていた。今度はそのチョウロの脅威から西校舎を守らねばならない。


「チョウロだったら少し前に、その武将のヨーコーという男がやって来て、ともに教室の防衛をやろうと持ちかけてきたな。


 おそらく真の目的はこの教室の乗っ取りであろうから、『たとえ俺を倒しても教室は手に入らんぞ』と一喝したら退散していったけどな」


 カクシュンはハハハと笑って話す。


「やっぱり来てやがったんだぜ。


 でも、随分あっさり引き上げたもんなんだぜ。


 ……こりゃ、本腰入れて来るかもしれないんだぜ」


「もし来ても今なら俺とチョーヒが揃っているんだ。生半可な武将なら返り討ちに遭うだけだ。何も心配することは無いだろう」


「それもそうなんだぜ。


 こりゃ、アニキ呼ぶ必要も無さそうで、それだけは残念なんだぜ」


 二人が大いに笑い合っていると、兵士が息を切らして二人のもとにやって来た。兵士の口からはチョウロ軍襲来の報告が告げられた。


「来たようなんだぜ。さて、どんな大将は見てやるんだぜ……


 あいつは……!」


 チョーヒたちは敵影を見ると、その姿に思わず息を呑んだ。


 兵士を従え、先頭きって進軍するのは、金髪碧眼(へきがん)の女生徒の姿がそこにはあった。

 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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 次回は3月16日20時頃更新予定です。

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