第173話 神速!チョーウンの策略!
西校舎・南方〜
コウメイ・チョーヒとは別ルートを進んだもう一人の援軍の将・チョーウン。彼女は未だ手つかずとなっている西校舎南方を味方につけつつ、リュービと合流するのを役目としていた。
対するリュウショウ陣営の南方の管理者たちは、チョーウン軍を防ぐためにテイキを総大将にして各教室から生徒を集め、防衛軍を組織した。
「カソウ様の配下・チョウヨクと申します。只今、部隊を率いて参上しました」
そう爽やかに挨拶する青髪の女生徒に対して、刈り上げた頭髪にキツネ目の男・テイキは喜んで答えた。
「うむ、よく来てくれた。これで兵士は全部だな」
集まった生徒を整列させ、大将を務めるテイキは壇上にて挨拶を始めた。
「君たち、今回はよく集まってくれた。
ここにいるのは普段は付き合いの薄い別教室の生徒たちだ。さらには対立していた者たちもいる。いつもなら一同に会することもない者たちだ!
だが、今回は違う!
この西校舎の南方を乱そうと敵が侵入してきた!
敵将の名前はチョーウン!
有名な武将であるが、恐れる必要はない! 我らが力を合わせれば必ず撃退できる!」
テイキの激励に、集まった兵士たちは歓声を上げて答える。彼が南方の各教室から掻き集めた兵力は約百五十人。それは敵のチョーウン軍百人を上回る兵力であった。
〜〜〜
一方、南方に進行したリュービ軍の将軍・チョーウンは、まず真っ先に軍師・コウメイより渡されたメモを読み返していた。
「ふむふむ……
『トウワ、清廉潔白で内政能力に秀でている。南方第一の人物。
カソウ、占いを得意とする行政官。
テイキ、かつてリュウショウとホーギの和解に貢献した。頑固で責任感の強い人物。
この人たちは西校舎の統治に大いに必要な人たちなので、極力味方につけて欲しい』か……
全く、うちの軍師様は気軽に言ってくれるね」
帽子をかぶり、ジャージの上着にスパッツ姿のボーイッシュな見た目の女生徒・チョーウンはメモを手にそうボヤいた。
軍師・コウメイからの指示はただ南方を攻略すればいいというものではなかった。極力、敵将を味方につけろというのが彼女の指示であった。
メモを手にボヤくチョーウンに向かって、丸顔の男が急ぎ足でやって来た。
「チョーウン将軍! 敵軍がこの先にて待ち構えております。敵兵およそ百五十」
敵軍発見の報告だが、チョーウンは冷静な態度であった。
「ふむ、百五十か。兵力はボクらより上だね」
「すぐに攻めますか?」
「いや、南方の人たちと無闇に戦うわけにはいかない。まずは情報を集めよう。
リュウヨウ、斥候部隊を連れて情報を集めてきてくれ」
「わかりました」
チョーウンの指示を受けた丸顔の男・リュウヨウはすぐに敵軍の情報を集めた。
チョーウンは彼の集めた情報を元に対策を練る。
「ふむ、大将はテイキ。コウメイのメモにあった人物だな。
部隊は寄せ集めの混成軍か」
「混成軍なら烏合の衆でありましょう。真正面から攻めても充分戦えると思いますが、いかが致しますか?」
報告を終えたリュウヨウは大将・チョーウンに尋ねた。
「いやいや、混成軍といえども、今は集められたばかりで意気が盛んだ。油断しちゃいけないよ。
その上、敵は地の利を把握して、既に堅固な防御陣を組んでいる。そこに真正面から挑むのは兵力を失うばかりで良い勝ち方とは言えない。
それに大将のテイキもコウメイに仲間にするよう言われている人物だ。討ち取るわけにはいかないしね」
チョーウンは慌てず騒がず、情報を整理していく。チョーウンの武勇はカンウ・チョーヒにも匹敵するが、彼女の長所はそれだけではない。何物にも動じない豪胆さ。そして、豪胆からくる余裕が生んだ冷静さを持ち合わせていた。
「まずは敵の防御陣を崩そう。
よし、部隊を二つに分けるよ」
「敵より少ない兵力をさらに分けるのですか?」
「ボクの兵士は烏合の衆に簡単に負けるほど、やわな鍛え方はしてないよ。
リュウヨウ、君に半分の部隊を任せるよ」
「お任せください」
リュウヨウは力強く答えた。
チョーウンの参謀として配属されたこのリュウヨウは、初めての戦場で多少気張ってはいるが、元来は忠実で落ち着いた人物。与えられた任務を着実にこなす良き相棒と言えた。
チョーウンは部下のリュウヨウに半数の兵を任せると、防御の陣形を取る敵の真正面に配置。同じく防御の陣形を取らせて、さも持久戦をするかのような構えを見せた。
〜〜〜
対する南方のテイキ軍。
「ついに敵軍が来たか!」
キツネ目の大将・テイキは眼の前に現れた敵の陣形に目をやった。
「うむ、我らと同じく防御の構えだな。敵は持久戦を取るつもりなのか?
それに敵兵の数が情報より少ないようだが……?」
敵陣の様子を確認するテイキに、青髪の部下は確認を取る。
「いかがされますか?
敵兵が少ないのならこのまま一気に攻めてしまいますか?」
「いや、せっかく組んだ防御の陣形を簡単に解くのは危険だ。伏兵があるかもしれない。まずは周囲の情報を集めよ!」
テイキは斥候を放った。彼は熟練の指揮官だけあって手堅い戦術を取る人物であった。敵兵が少ないからといってすぐに油断することはしなかった。
だが、慎重に事を運ぼうとする彼の元に、急報が届いた。
「テイキ様、大変です!
チョーウン率いる別働隊が後方のトウワ様、カソウ様らが籠もる教室へものすごく速さで進軍しております!」
「しまった! 敵の狙いは後方か!
ここに兵を掻き集めてしまったから後ろに兵は残っていないぞ!
仕方がない。部隊を二つにわけ、半分はチョーウンを追撃せよ!」
テイキはすぐさま指示を飛ばすが、彼の側に立っていた青髪の部下が待ったをかけた。
「お待ち下さい。その部隊は誰が指揮を執るのてすか?
ここは所属がバラバラの混成軍です。全体を指揮できるような立場の方はテイキ様以外おりませんよ?」
そう指摘され、テイキは思わず窮してしまう。
確かに彼女の言う通りで、手の空いている者をとにかく搔き集めて出来た即席軍だから、どの兵士もあまり階級は高くない。片一方はテイキ自身が指揮を執ればいいが、もう一方の隊長に適任者がいなかった。この場で隊長を指名しても良いが、誰を指名しても角が立って、指示に従う保証もない。
「うう、兵をかき集めたのが仇となったか!
だが、後方の教室を落とされては元も子もない!
やむを得ん! この陣地を捨てて後方の救出を優先する!」
テイキはせっかく築いた防御陣地を捨てて、急ぎチョーウン軍を追撃した。
だが、それはチョーウンの思惑通りであった。
「防御陣が崩れて浮足立った軍なら、例え兵数で勝っていてもボクの敵じゃないよ!」
チョーウンは敵軍がこちらに向かったと知ると、急旋回して向きを変え、迫りくるテイキ軍へ突撃した。急な作戦変更で慌てていたテイキ軍の兵士たちは、勇将・チョーウンの猛攻の前にどんどん蹴散らされていった。
こうなると烏合の衆の弱さが露呈する。大将・テイキの指示も聞かず、兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「お前たち逃げるな! 戦え!
クソ、これがチョーウンの強さか! 兵力差がどんどん覆されていく!」
迫りくるチョーウン軍に焦りを覚えるテイキの前に、先ほど彼に助言した青髪の女生徒が駆け足で寄ってきた。
「テイキ様、我が軍は持ちません! 撤退を!」
「ならん! 敵を前にして逃げることはできん!
こうなればチョーウンと刺し違えてでも勝ってみせる!」
テイキはその女生徒を押し退けて、前に進もうとする。
だが、彼の前に一人の女生徒が立ちはだかった。
「その意気は買うよ」
ジャージの上着にスパッツ姿の二枚目然としたその姿にテイキはすぐに思い当たった。
「貴様がチョーウンだな! 覚悟!」
「でもね、喧嘩は相手を見て売るものだよ」
チョーウンは襲いかかるテイキをさらりと躱し、その場に引き倒して、ものの数秒で捕らえてしまった。
「さあ、大将・テイキはこのチョーウンが捕えた!
無駄な抵抗はやめて投降しな!」
兵の大半が逃げ散り、大将のテイキまで捕虜となった。残された兵士は観念し、全てチョーウン軍に投降した。
敵を降したチョーウンは、その足で後方のトウワらの籠もる教室に赴き、降伏を迫った。
「テイキがやられましたか。
これ以上兵士を失っては南方の維持もままなりません。降伏しましょう」
ある程度、勝敗を察していた教室の管理者・トウワらはすぐに降伏を決断。これにより西校舎南方はチョーウンによって平定された。
「お初にお目にかかります、チョーウン将軍。
私は教室の管理者・トウワ。こちらの小さな子が同じく管理者のカソウ。
私たちとあなたの捕虜となったテイキとでこの辺りの教室を治めておりました」
教室を明け渡し、チョーウンの前に挨拶にやって来たのは、薄茶のロングヘアーに背の高い女生徒・トウワ。そして、大きなとんがり帽子にマントを羽織った小柄な女生徒・カソウの二人であった。
挨拶を受けた将軍・チョーウンは、征服者のような横柄な態度は取らず、謙った態度で二人を迎え入れた。
「よくぞおいでくださいました。トウワ様、カソウ様。お二人のお噂はかねてより聞いておりました」
トウワ・カソウ、ともにコウメイより事前に味方につけるよう頼まれていた人物だ。チョーウンは丁重に二人に接した。
その態度にトウワらは感服して答えた。
「どうやらあなたは淑女であったようですね。
願わくば南方の生徒たちの安全に配慮していただきたい」
「ボクらは侵略者ではありません。
他の生徒たちにこれ以上の危害を加えるつもりはありませんよ」
そのチョーウンの言葉に降伏者・トウワはひとまず、安堵の表情を浮かべて答えた。
「それを聞いて安心しました。
私たちの進退はあなたに委ねます」
「承りました。
それでなんですが、テイキ様はボクらの捕虜となりました。ですが、未だに降伏を承諾していただけません。
お二人で説得してはいただけないでしょうか?」
チョーウンはダメ元のつもりでのお願いであったが、やはりトウワの返事は色良いものではなかった。
「すみません。テイキは頑固者で私どもの説得には聞く耳を持たないでしょう」
チョーウンも事前にテイキは頑固だという情報を得ていたので、その返答にすぐに納得した。
二人をリュービ陣営に加えると、続いてチョーウンは、テイキを配下に加えるために捕虜の兵士たちの元に向かった。
「トウワ・カソウの二人はボクらの陣営に加わってくれたよ。
テイキ将軍、どうだろう。君もボクらの味方になってはくれないだろうか?」
「それは出来ぬ。私はリュウショウ様よりこの教室を預かった身だ。リュウショウ様が未だ健在なのに私が先に降ることは出来ん!」
「ふむ、噂通り責任感の強い頑固者だね。
君は何故、そこまでリュウショウに忠義を立てるんだい?」
「忠義ではない。あの方が西校舎の盟主であるからだ。その方から教室を任された以上、その役目を全うするのは当然であろう」
「なるほど、忠義ではなく責任感なのか。
ならば、リュウショウがリュービさんに降伏して、リュービさんが新たな西校舎の盟主になったら従ってくれるかい?」
「……わかった。その時は西校舎の生徒として指示に従おう。
だが、それまでは私のことは捕虜として扱ってくれ」
「よし、じゃあその時に改めてお願いするよ。
それで君の部下のことなんだけど、彼らにも声をかけて構わないかい?」
「あの者たちは私が預かっていただけで部下ではない。付いていきたいという者がいるなら好きにすればいい」
チョーウンが捕虜にしたテイキ軍の兵士たちに声をかけ、南方に残りたい者、チョーウン軍に加わりたい者に分けた。
その中の一人、青髪をアップにまとめた、スレンダーな体型の軍服を着た女生徒が進み出て、チョーウン軍への参加を希望した。
「私は長良翼姫。通称、チョウヨクと申します。
チョーウン将軍の戦いぶりを間近で見て感服いたしました。是非、私を加えてください」
「そう言われると照れるね。
君はテイキ将軍の側に最後まで残っていた生徒だね。歓迎するよ」
新戦士・チョウヨクらを新たに加えたチョーウン軍は、代わりに参謀のリュウヨウを南方の守りに残して、リュービの元へと出発した。
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次回は3月2日20時頃更新予定です。




