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第172話 迎撃!西の生徒たち!

 西校舎で停滞するリュービを救うためにチョーヒ・チョーウン・コウメイの三将が援軍として出撃した。


 初戦、援軍の先鋒・チョーヒと防衛軍・ゲンガンの勝負ではチョーヒが勝利。これにより西校舎の玄関口を押さえた。


 続いて援軍は三つに別れ、チョーヒが北道、コウメイが中道、チョーウンが南道をそれぞれ進み、三ルートによる攻略を開始した。


挿絵(By みてみん)


「なあ、コウメイ」


挿絵(By みてみん)


「なんですか、チョーヒさん?」


 援軍の将、頭の左右に中華風のお団子カバーをつけた小柄な少女・チョーヒは少々不服そうな様子で、隣を歩く、彼女よりさらに背の低い華奢(きゃしゃ)な少女、同じく援軍の将・コウメイに話しかけた。


「三つに別れて進むのに、なんでオレとお前が隣同士で歩いてんだぜ?」


「途中まで同じ道なんですから一緒に行けばいいでしょう。


 ほら、もう少し先の交差路で分離しますよ」


「ここまで一緒ならやっぱりオレが中道でも……」


 チョーヒがブツブツと文句を言っていると、先行部隊のリュウホウが急いだ様子で二人に駆け寄ってきた。


「チョーヒさん、コウメイさん!


 前方に障害あり! 敵が交差路の前で待ち構えているようです!」


 駆け寄ってきたリュウホウは、木訥(ぼくとつ)な雰囲気の地味な男子生徒。だが、リュービの弟分として加わった人物であった。この援軍ではコウメイ軍の先鋒を務めていた。


「ああん、こんなところで時間取られちゃたまらないんだぜ!


 さっさと攻略するんだぜ!」


「まあ、待ってください、チョーヒさん。


 まずは相手の様子を(うかが)いましょう」


 チョーヒ・コウメイらは敵陣地の真正面に出て、その陣形を(じか)に確認した。


「あれが敵陣だぜ?


 げっ、面倒くさい防壁作ってんだぜ」


 そこには机椅子が綺麗に組み上げられ、しっかりとしたバリケードが誕生していた。まさに進軍を妨げる防壁のような陣形であった。


 その防壁を見て、チョーヒはため息をついたが、一方、コウメイの方は感心した様子で敵陣を(なが)めていた。


「なかなかしっかりとしたバリケードですね。この短時間に見事な出来です。


 敵の大将はどなたでしょうか?」


「はい、コウメイさん。敵将はチョーエーという者のようです」


 武将・リュウホウから敵将の名を告げられたコウメイであったが、その名は彼女が事前に調べていた西校舎の人名に無い名であった。


 コウメイは自分の調査に穴があったことを恥じつつ、人を介してリュウショウ陣営の降将・ゲンガンを呼び寄せて、チョーエーの事を尋ねた。


「敵の大将はチョーエーですか。


 あいつは軍事に関わったことはまだなかったはず。リュウショウ陣営の人不足もいよいよという感じがしますな」


 敵将の名を聞いた降将・ゲンガンは(なげ)いて答えた。


「で、そのチョーエーって奴は強いんだぜ?」


「いえ、頭の回転の早い奴ではありますが、本来は文官で、荒事などは不得手です」


 将軍・チョーヒの問いに、ゲンガンは即座に否定した。彼はチョーエーのことを平時ならばいずれ幹部に出世するだろうぐらいには思っていたが、いくら非常時とはいえ戦場に出てくるとは思いもしなかった。


 だが、チョーヒは敵将が文官と聞くと、すぐに行動に移そうと始めた。


「なら、話は早いんだぜ!


 ゲンガン・リュウホウ、付いて来るんだぜ! 敵の陣地ごとぶっ飛ばしてやるんだぜ!」


 すぐに敵陣に突撃しようとする将軍・チョーヒを軍師・コウメイは呼び止めた。


「チョーヒさん、お待ちを!


 敵将のチョーエーさんは出来るだけ傷つけないようにお願いします」


「ああ、任せとくんだぜ!」


 チョーヒは意気揚々と敵陣に突撃していった。


 敵陣は防衛ばかりで、後ろに隠れているのか敵兵の姿は見えない。堅固なバリケードに守られた陣地であるから、敵も防御に徹しているのだろう。


 しかし、そのような障害を乗り越えるのはチョーヒにとっては朝飯前である。拳一つで粉砕し、真正面の防壁を取り払った。


 チョーヒが敵陣に雪崩(なだれ)込むと、その真正面にそばかす顔の白衣を着た女生徒がこちらを(にら)んでいた。


「テメーが大将だぜ!」


 チョーヒが敵将を視認すると、それとほぼ同時にその白衣の女生徒は右手を上げて合図を送った。


「今です!」


 その合図に合わせて左右に隠れていた敵兵が一斉に縄を引いた。それに連動して左右に並べられた椅子が崩れて、侵入したチョーヒたちへと降り(そそ)いだ。


 椅子の雪崩(なだれ)がチョーヒを襲う。


「こんな椅子の雨でオレを防ごうなんて甘いんだぜ!」


 だが、相手は歴戦の(つわもの)・チョーヒ! 降りかかる椅子を蹴散らしてあっという間に罠から脱してしまった。


「こんな罠お茶の子さいさいだぜ!


 さあ、次はなんだぜ! ん、あん?」


 罠を吹き飛ばしたチョーヒが敵陣を見回すが、先ほど指揮を()っていた白衣の女生徒も左右も兵も姿がどこにもない。陣はもぬけの(から)となり、後にはチョーヒに降り(そそ)いだ椅子の山と、通路を埋めるように綺麗に並べられた机椅子が残されるばかりであった。


「逃げやがったんだぜ!


 てか、片付けていけだぜ!」


 チョーヒが腹を立てていると、後ろよりコウメイらがやって来て合流した。


「どうやら我々は一杯食わされたようですね。


 おそらく敵の狙いは時間稼ぎ。この机椅子をどかして進むには、さぞ時間のかかることでしょう」


 多少の罠でチョーヒはやられないだろうと判断したコウメイは()えて止めなかった。しかし、どうやら初めから勝利ではなく時間稼ぎが目的だったと悟り、敵将の手並みに感心した。


「あ、あの、ゲンガンさん。


 それで敵将のチョーエーさんはリュウショウ陣営ではどのような扱いでしたか?」


 コウメイは出会って間もないゲンガンに人見知りしつつも、敵将・チョーエーのことを確認した。


「チョーエーですか。


 うむ、賓客(ひんきゃく)であるキョセイ殿が高く評価したので、一目置かれてはおりました。


 しかし、まだまだ下っ端の文官ですよ」


「な、なるほど、キョセイ先輩が評価された人物ですか……」


 キョセイの名はコウメイにも覚えがあった。従兄弟(いとこ)のキョショウとともに人物評価の才能で知られた先輩だ。中央の戦乱を避けて各地を放浪していたが、今はリュウショウ陣営に所属していた。


「これだけの短時間で物資を用意して運ぶ手腕。撤収時の手際の良さ。確かにチョーエーという方はキョセイ先輩が評価するだけの才能を持っているようです。


 どうやら西校舎にはまだまだ人材が眠っているようですね。楽しみになってきました」


 敵将・チョーエーの攻撃により足止めされたチョーヒ・コウメイ軍であったが、障害をどけて進軍を再開。二軍はこの地で別れて別ルートを進軍した。


「では、ここでお別れですね。


 チョーヒさん、ホーギ軍はお任せしますが、もし万一にも北のチョウロが攻めてきた時は遠慮なく援軍を要請してください」


 コウメイの言葉にチョーヒの(まゆ)はピクリと動いた。


「なんでオレがチョウロごときに援軍なんて頼まなきゃいけないんだぜ!」


「援軍を呼べばリュービさんにいち早く会えるかもしれませんよ」


「確かにオレの軍はチョウロと戦うことまで想定してないんだぜ。お前の言う通り援軍を呼ぶべきなんだぜ」


「わかっていただけましたか。


 では、よろしくお願いします」


 この地で別れたチョーヒ軍は北上。その地を治める敵将・ホーギを倒しに駒を進めた。


 一方、コウメイは西方へ真っ直ぐ進み、リュービ本軍との合流を目指した。


 一方、二人とは別ルートを進むチョーウンは、西校舎の南方攻略を目的としていた。


 〜〜〜


 そのチョーウンが南方に侵入したという情報を得ると、南方の各教室を守っていたリュウショウ配下の生徒たちは一同に会して対策を講じた。


「ついにこの南方の地にもリュービの手が伸びた。私たちも対応を考えねばならない。


 恭順(きょうじゅん)か、それとも抵抗か」


 そう周囲に語りかけるのは、薄茶のロングヘアーに背の高い女生徒、教室の管理者の一人・トウワであった。


 その発言に隣に座る刈り上げた頭髪にキツネ目の男は強い口調で反発を示した。


「何もせずに恭順(きょうじゅん)なぞ有り得ぬ!


 教室の安全を守ることこそが我ら管理者の役目であろう!」


 そう語るこの男は同じく教室の管理者の一人・テイキ。


「しかしですね、私の占いによればリュービの勢いはこれから増すばかりですよ。対してリュウショウ様の勢いには(かげ)りが見えるのですよ」


 そう発言するのは大きなとんがり帽子にマントを羽織った小柄な女生徒・カソウ。彼女もまた教室の管理者の一人であった。


「何が占いか!


 そんなオカルトで降参するわけにはいかん!」


 キツネ目の男・テイキは彼女を一喝(いっかつ)した。とんがり帽子の少女・カソウはそれに萎縮(いしゅく)して口を(つぐ)んでしまった。


 その反応を見て、薄茶のロングヘアーの女生徒・トウワが怒鳴るテイキを(なだ)めつつ、反論する。


「テイキ、脅すような言い方はやめなさい。


 しかし、戦うとしてどうするのですか?


 北がリュービ軍の侵攻を受けている以上、援軍は望み薄です。


 この南方はチョウロと接する北方と違って強力な軍隊はありません。その上、(とぼ)しい兵力も南方の不服生徒を管理するのにほぼ使われております。


 戦うほどの戦力はありませんよ」


 そう言って彼女はテイキを(さと)した。ここ南方は、トウワの語るように全ての地域が西校舎のリュウショウの勢力圏に入っているわけではなかった。


 リュウショウは南方の不服勢力に対して無理に攻めることはせず、恭順(きょうじゅん)策を()った。南方の教室の管理者たちはここの不服生徒たちを時に優しく、時に厳しく接して今のところは仲良く付き合っていた。


「わかっている。


 だが、普段は従わぬ生徒たちも敵から攻められると聞けば協力する者も出てくるはずだ。


 加えて南方の教室全ての余剰兵力をかき集めれば百人くらいの部隊は作れるだろう。


 敵は強大だが部隊を三方に分けた。南方に来る兵力だけなら十分に互角な戦力だろう」


 ここにいる三人は教室の管理者として対等の立場であった。だが、先輩格である薄茶のロングヘアーの女生徒・トウワが事実上の代表者であった。


 トウワは部下に忠告するような口調で鼻息荒い彼に尋ねた。


「ですが、敵将のチョーウンはソウソウの大軍を縦横無尽に駆け抜けたという武勇の持ち主です。


 勝てる相手なのですか?」


「リュービ軍と言えばカンウ・チョーヒこそ有名だが、チョーウンの名はそれより一段劣る。


 それに戦は一人でするものではない!」


 トウワは先輩格ではあったが、彼女は政治には熟達していたが、軍事には疎遠(そえん)であった。


 その点で言えば、かつて北方のチョウロ戦にも加わっていたキツネ目の男・テイキの方が発言力があった。


 テイキの強い言葉に押し切られ、トウワはやむなく承諾した。


「わかりました。


 それではあなたに防衛軍を一任します。チョーウンを防いでください」


「任された!」


 テイキはすぐに準備に移ろうとさっさと教室から退出していった。


 後に残ったトウワはため息()じりにこぼした。


「全く、頑固者なんだから……


 それで、カソウ」


 ロングヘアーの女生徒・トウワはテイキが出ていったのを見計らって、すっかり押し黙ってしまっていたとんがり帽子の女生徒・カソウに話しかけた。


「カソウ、あなたの占いの続きを改めて教えてもらえるかしら?」


 そう話を振られたカソウは少々、早口気味に自身の占いの内容を語って聞かせた。


「あのですね、私の占いではリュービの勢いはこれからどんどん強まっていくのですよ」


「それで、西校舎を取るほどに強まるというのですね?」


「はいです。


 いやですね、あの……私の占いによればリュービが(じき)に生徒会長になると……」


「生徒会長?


 それはさすがに信じられませんね。リュービが生徒会長になるということはあのソウソウを倒すということですよ?」


 カソウの一言にトウワは思わず耳を疑った。現在の生徒会長はソウソウだ。赤壁(せきへき)の敗戦で勢力に多少(かげ)りは見えたものの、それでも今も最大勢力であることに変わりはない。


 リュービが仮に西校舎を取ったとして、その勢いのままにソウソウまで倒すとは信じがたいことであった。


 だが、カソウはなおも食い下がった。


「そ、そうですよね。でもでも、私の占いだと確かに生徒会長だと……」


(にわか)には信じられませんが、あのジンアン先輩の一番弟子であったあなたが言うのならある程度、信憑性(しんぴょうせい)があるのでしょう。


 テイキも無事に戻ってくれば良いのですが……」


 トウワはこのカソウの占いの腕前を信用していた。生徒会長はともかくとして、リュービの勢いを阻止(そし)できるものではないと感じていた。


 一方、彼女らの心配を他所(よそ)にキツネ目の男・テイキは着々と敵将・チョーウンを迎え撃つ準備を進めていた。


 彼は自分の部下ばかりではなく、トウワやカソウの部下、さらには普段は対立している不服勢力にも声をかけて兵をかき集めた。予想以上に人が集まり、兵力は百数十に達した。チョーウン軍百人よりも上回る兵力となった。

最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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 次回は2月24日20時頃更新予定です。


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