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第162話 喪失!自由の名のもとに!

 西北校舎を舞台に生徒会長・ソウソウと一大決戦を行ったバチョウが再び反乱を起こした。バチョウはソウソウから西北の管理を任されているイコウらの教室を包囲し、降伏を迫った。


 これに対し、ソウソウ配下のカコウエン軍はイコウ救援のためにバチョウ軍に戦いを挑んだ。しかし、バチョウ軍に増援が合流し、カコウエンは敗北。撤退してしまった。


 そして、カコウエン軍の撤退により、包囲を受けていたイコウはバチョウへの降伏を決定した。


「イコウ様、お考え直しください。


 降伏すればこれまでの艱難(かんなん)は無に帰し、名を不義に(おとし)めます!」


「ヨウフの言う通りです。


 バチョウは降伏すれば危害は加えないとは言っておりますが、何の保証もありません」


 イコウの部下・ヨウフ、チョウコウの二人はこう言ってイコウを説得した。だが、イコウの意思は変わらなかった。


「ここにいる生徒は私を慕っている者たちではない。私が預かっている者たちだ。


 私はここの生徒の身を第一に考えなければならない。これ以上危害が及ぶのは私の我儘(わがまま)だ。救援の道が(つい)えた今、ここで終わりにせねばなるまい」


 西北担当官・イコウは生徒の安全を保証することを条件に、反乱者・バチョウに降伏を申し入れた。


「ついにイコウが降伏したか。


 これで我らは再び領土を手に入れた」


 バチョウはこの降伏を受け入れた。


 これまで固く閉ざされていたイコウらの教室の扉は開け放たれた。戦っていた生徒たちは武器を置き、頭を下げてバチョウ軍を迎え入れた。


 こうして、金髪碧眼(へきがん)の女生徒・バチョウらは入室した。


 その彼女を、細い目に眼鏡をかけ、スーツを着た男子生徒・イコウらが出迎えた。


「私がこの西北校舎の管理を担当しておりましたイコウと申します。


 そして、後ろの二人が部下のヨウフ、そしてチョウコウです」


 イコウは、(ほお)()せこけた、背の低い男・ヨウフ、凛々(りり)しい眉にふくよかな体型の男・チョウコウの二人を指し示しながら紹介した。


 低頭平身(ていとうへいしん)の姿勢で出迎えるイコウら三名に対して、バチョウは征服者然とした堂々たる立ち振る舞いでこれに答えた。


「出迎え御苦労。


 イコウ、お前はソウソウから派遣された者か? それとも西涼(せいりょう)の生徒か?」


 バチョウに尋ねられ、イコウは正直に答える。


「私は元中央校舎の生徒です。


 ソウソウ生徒会長から担当官の役目を仰せつかり、こちらにやって来ました」


 西北校舎に所属する生徒の大多数は元西涼(せいりょう)高校の生徒であった。だが、生徒会長・ソウソウから派遣された生徒も少なからずいた。イコウもその一人であった。


 バチョウは後ろにいるヨウフ・チョウコウの二人に目をやり、先ほどと同じ質問をした。


「お前たち二人はどちらだ?」


「私たちは二人とも元西涼(せいりょう)の生徒であります。


 イコウ様に採用され、部下となりました」


 二人が元西涼(せいりょう)生と聞き、若干だがバチョウの顔が(ゆる)んだ。


「そうか、二人は西涼(せいりょう)生か。ならば良い。


 イコウ、お前に再び問う。


 お前は元ソウソウの配下だそうだな。だが、今、降伏したからには、このバチョウに仕えるという認識で良いか?」


 バチョウからの重い問いかけがなされる。


 イコウはかつてソウソウの腹心・ジュンイクの推薦を受けて取り立てられた人物だ。彼個人としては今も心はソウソウにある。


 だが、その思いを生徒の安全を第一に考えるイコウは捨てねばならなかった。


「……はい、降伏した以上は、これからはバチョウ様に忠義を尽くします」


 その答えにバチョウは表情一つ変えなかった。さらにバチョウは彼に言った。


「これより降伏者、並びに我が配下を集めて集会を開く。


 イコウ、お前はその皆の前で、ソウソウを捨て、アタシに忠誠を誓うことを宣言しろ。


 それがお前の最初の仕事だ」


 イコウからすれば罰に等しい行為。だが、彼は応じる以外の選択肢は無かった。彼は静かに(うなず)いた。


 カコウエン軍の敗退、そしてこのイコウの降伏を受け、他でバチョウ軍の包囲を受けていた教室も次々と降伏を申し出た。これにより西北校舎の南部一帯のエリアはバチョウの支配下に入った。


 その南部エリアの中にある体育館。ここに降伏した生徒が一同に集められた。さらにその周囲をバチョウ軍が取り囲むようにして並ぶ。筋骨隆々のバチョウ軍の生徒たちが、まるで監視するように取り囲むその様に、降伏した生徒たちは生きた心地がしなかった。


 取り囲むバチョウ軍は降伏者に手こそ出さなかったが、態度は明らかに勝利者のそれで、それがますます降伏者の肩身を狭くした。


 そんな空気の中、バチョウの集会が開催された。


 壇上に上がるのはもちろん、彼らを率いるこの軍の総大将・バチョウ。金髪碧眼(へきがん)の彼女の威風堂々とした立ち振る舞いは(いや)(おう)でも周囲の視線が集まる。


 さらに彼女に続いて壇上に上がるのは、西北校舎をソウソウから任せられていた担当官・イコウ。


 だが、今の彼にその肩書は無く、降伏者代表というべき立場であった。スラリとした背丈に、比較的整った顔立ちのイコウは普通なら目立つ容姿の男子であった。だが、絢爛(けんらん)豪華なバチョウの隣では、眼鏡をかけ、スーツを着た地味な青年といった印象を与えた。降伏者という肩身の狭さが、より一層彼を貧相に見せていた。


「あれではイコウ様がまるで引き立て役ではないか。


 降伏したといってここまで見世物にしなければならないのか!」


 それを見るイコウの部下・ヨウフは小声で憤慨(ふんがい)した。


 恐らくこの構図はバチョウの意図したものだろう。自身をよりよく見せるために、イコウを不当に(おとし)めるやり方は、ヨウフを苛立(いらだ)たせた。


「落ち着け、ヨウフ。


 降伏した以上、このぐらいは仕方がない。イコウ様も覚悟の上で降伏されたのだ」


 小声とはいえ文句を口にするヨウフを、彼の隣に立つ同僚のチョウコウは注意した。


 彼ら二人は壇上に上がることを許されなかった。そのため、壇上の脇にてことの成り行きを見ていた。


 ここにはバチョウの部下もすぐ側にいる。小声とはいえ聞こえないとも限らない。せっかく、上司のイコウが耐えているのに、部下の自分が台無しにしては元も子もない。ヨウフは口をつぐみ、集会の推移を見守った。


 異様な空気の中、集会は始まった。


 まず、バチョウがマイクを手に衆人に挨拶(あいさつ)を述べる。


「皆、よく集まった。


 アタシが西涼(せいりょう)(きん)バチョウ、馬道蝶々(ばどう・ちょうちょう)だ!


 これより君たちの新たな支配者となる。


 そして、アタシの隣にいるのが旧支配者のイコウだ。それではこれよりイコウに挨拶(あいさつ)をしてもらおう」


 バチョウよりイコウにマイクが手渡され、彼が一歩前に出る。ここで彼がバチョウに降伏し、その配下となることを宣言する。既に降伏はしている。見世物と言われればそうなのだろう。


 だが、自分が見世物になることでここにいる生徒の安全が保証される。担当官としてのイコウの最後の仕事だ。


「私は生徒会長・ソウソウよりこの西北校舎の担当官を任されておりましたイコウと申します。


 この度、バチョウ様に……」


 その演説の最中、突如、バチョウはイコウよりマイクを奪い取った。


「な、何をされるのですか、バチョウ様!」


 突然の打ち合わせの無い出来事にイコウは動転した。しかし、バチョウはそんな彼を押し退()けて前に出ると、マイクに向かって話し出した。


「皆も聞いたな!


 彼こそ我ら西涼(せいりょう)の生徒を支配していたソウソウの手先である!


 今ここに! 西涼(せいりょう)の生徒の自由のために! この男に天誅(てんちゅう)を下す!」


 バチョウはイコウの方へと振り返ると、マイクを持ち替えて右腕を振りかぶった。そして、躊躇(ためら)うこともなく、戸惑うイコウの腹目掛けて拳を繰り出した。


「な、何故……」


 イコウは理由も分からぬまま、バチョウの渾身(こんしん)の一撃で意識を失い、その場に静かに倒れ込んだ。


 そして、バチョウは再び前に振り向くと、マイクに向かって喋り出す。


「今ここにお前たちの自由を奪いし、ソウソウの手先は滅んだ!


 これより我ら西涼(せいりょう)生徒は自由となった!」


 イコウを倒したバチョウは高らかに宣言した。


 あまりの出来事に、降伏した生徒たちはシンと静まり返る。だが、周囲を取り囲むバチョウ軍は一斉に歓声を上げて「自由」の語を連呼する。


 その熱気に当てられたのか、それとも身を守るためか、降伏した生徒たちも次第にバチョウ軍に同調して歓声を上げだした。


 ついに体育館中がバチョウへの歓声、喝采(かっさい)で満たされていった。


 だが、その中に怒りを(あら)わにする生徒が一人いた。


「何故だ!


 降伏すれば身の安全を保証するはず! 何故、イコウ様を!」


 それはイコウの部下・ヨウフであった。彼はその小さな背を突き抜けるほどの闘志を()き出しにし、その()せ細った身を怒りで震えさせて、今にも壇上へと歩み出さんばかりであった。


 だが、それを同僚・チョウコウは必死に押し止めた。


「耐えろ、ヨウフ!


 ここでお前が集会を台無しにすれば、イコウ様の行為も無駄にするぞ!」


「こんな非道が許されていいのか!」


 ヨウフはそう叫びながらも、歯を食い(しば)り、その場に踏み止まった。彼が今、壇上に上がったところで何も出来ない。上司であるイコウの痛みを無駄にするだけだ。彼にもそれはよくわかった。だが、それでも決して彼の怒りは収まらなかった。


 壇上のバチョウはなおも話を続ける。


「これよりこの校舎の名を西北校舎より西涼(せいりょう)校舎へと改める! そしてこのアタシ、バチョウが西涼(せいりょう)盟主となろう!


 さらに奸雄(かんゆう)・ソウソウを倒した(あかつき)には、この学園の名そのものを西涼(せいりょう)高校に改め、アタシが西涼(せいりょう)生徒会長に就任する!


 西涼(せいりょう)の自由を取り戻そう!」


 バチョウの演説は万雷(ばんらい)の拍手の中、盛況のうちに終わった。


 彼女は倒れるイコウを壇上に残し、一人堂々とした態度で降りてきた。そして、バチョウは降りるなり、まだ怒りの表情を見せるヨウフの前にまっすぐに進んだ。


「バチョウ様、何故、イコウ様を……」


 バチョウはヨウフに最後まで喋らせず、バチンと彼の(ほお)(はた)いた。目眩(めまい)のする一撃だが、気絶するほどではなく、彼女なりに加減したような一発であった。


「ヨウフと言ったな。壇上から見ていたぞ。


 お前も西涼(せいりょう)の人間なら、どちらが西涼(せいりょう)のためになるかよく考えよ」


 バチョウは表情こそ崩さなかったが、静かな怒りを(のぞ)かせていた。


 彼女は身一つで千人からなるソウソウ軍を駆け抜け、ソウソウを追い詰めた勇将。その事はヨウフも知ってはいたが、それでもヨウフはなおも(ひる)まなかった。


「ですが、降伏すれば我らの安全は保証するという話でした! それなのに何故、イコウ様を!」


「私が助けるのは西涼(せいりょう)の者だけだ!


 ソウソウの手先までは知らん!


 これ以上言うならお前もソウソウの手先と見做(みな)すぞ!」


 一触即発の空気の中、割って入ったのはヨウフの同僚・チョウコウであった。


「申し訳ございません!


 ヨウフはただ疑問に思っただけで、決してバチョウ様に逆らう意思はございません!


 そうだな、ヨウフ!」


 チョウコウは振り返り、ヨウフに同意を求める。ここで反論すればチョウコウまで巻き込んでしまう。ヨウフはやむなく彼に賛同した。


「そこまで言うならこの場は見逃す。だが、次は無いぞ!」


 チョウコウの取り成しのお陰で、バチョウは(ほこ)を収めた。二人は頭を下げてバチョウに臣従を誓った。


「チョウコウ、それにヨウフ。


 お前たちにアタシの部下として初の仕事を与える。


 お前たちの他にも今までイコウに従いこの地域を管理していた者たちがいるだろう。その者たちと手分けして、この度、降伏してきた生徒の名簿を作れ」


 二人は頭を下げたまま、バチョウの指示を承諾した。


 二人の態度に満足したバチョウが振り向くと、そこに一人の男子生徒が寄ってきた。それは彼女の側にいる腹心・ホートク・バタイのいずれでもない、モヒカン刈りにした頭に、革ジャンを羽織った男であった。


「バチョウ殿、挨拶(あいさつ)ご苦労さんです」


 モヒカンの男はヤンチャの入ったなりに丁寧な口調でバチョウに話しかけた。


「ああ、ヨーコー殿。では、約束通りイコウの身は君たちに任せる」


「へへ、お任せを」


 そのモヒカン男とバチョウとのやり取りを見て、ヨウフは内心、不可解に思った。


(ヨーコー“殿”?


 バチョウが敬意を払う相手なのか? あの男は一体何者なんだ……?)

最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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トベ・イツキtwitterアカウント https://twitter.com/tobeitsuki?t=GvdHCowmjKYmZ5RU-DB_iw&s=09 ↑作者のtwitterアカウントです。


作品の話や三国志のことを話してます。よければどうぞ。 次回は12月16日20時頃更新予定です。

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