第158話 再戦!リョウコウの乱!
西北校舎。かつて西涼高校が後漢学園に吸収合併し、三国学園と名を変えた時、西涼校生が編入された校舎。
その処遇に不満を抱いた元西涼校生・バチョウらは反乱を起こしたが、生徒会長・ソウソウによって鎮圧された。
今、一度平和になったこの地で再び戦乱が巻き起ころうとしていた……!
「俺は西涼の狂犬・リョウコウ様だ!
テメーら、殺されたくなけりゃー俺に従え!」
多くの子分を引き連れたリーゼントに学ラン姿の男はバットを肩に担ぎ、西北の生徒たち相手に凄んだ。
彼の名はリョウコウ。かつて西涼のバチョウとともに反乱を起こした十番長の一人。ソウソウとの先の戦いに敗北してからは、バチョウらとともに逃走。長らく行方をくらませていた。
今、そのリョウコウがバチョウらと離れ、西北校舎の東部にて反乱を起こした。
「さー、今日からここは群雄・リョウコウ様の領土となった。
テメーら、周辺の教室を襲い領土を拡大しやがれ!」
彼は西北の生徒、約五百人を脅して従えると、教室を占拠して、独立を宣言した。
〜〜〜
この反乱に対して生徒会は後手に回っていた。
生徒会長・ソウソウの学園理事への推薦の一件は、長年の腹心・ジュンイクとの別離という一悶着はあったが、つつがなく就任する運びとなった。
しかし、その準備に追われ、生徒会では周辺の変事に対応しきれなくなっていた。リュービの西校舎侵攻もそのためにソウソウからの妨害をほとんど受けずに進めることが出来た。
この度のリョウコウの反乱もこの間隙をついたものであった。
この反乱に対して生徒会長・ソウソウからこの地の守護を任されていた男子生徒・テイコンは、わずかな兵力での対処を余儀なくされた。
「テイコンさん、敵のリョウコウはバチョウ一派の中でも凶暴さで知られた男です。そのリョウコウが多くの生徒を吸収し、勢いは盛んです。
対して我らは寡兵。ここは逃げて、生徒会に助けを求めましょう!」
部下の一人はこう熱弁したが、テイコンは決して首を縦には振らなかった。
「ならん。
ここは西北校舎の付け根に当たる場所だ。ここを失えば敵は中央校舎になだれ込み、ますます勢いを強くしてしまう。何としてもここで食い止めねばならん。
それにカコウエン将軍には先ほど伝令を出した。じきに助けは来る。それまで我らは時間を稼ぐぞ」
「ですが、どうやって時間を稼ぐのですか?
我らにはとても真正面から挑める兵力はありませんよ」
テイコンの強気な姿勢に部下は疑問を発する。
部下はテイコンの姿を改めて見回す。彼は背は高いものの痩せ細っており、とても荒事に向いているようには見えない。
だが、テイコンはなおも堂々とした態度で答えた。
「敵は多勢と言っても、その多くはリョウコウに脅されて仕方なく従っている者たちだ。元よりリョウコウに従う兵士は百人いるかどうかだろう。
まずは脅されてやむなく従う者の罪は問わないことを広く宣言しろ。
そして、一人でも敵兵を捕まえた者には恩賞を与えるとも伝えろ。これで降伏を促せ」
テイコンは敵の帰順が進むよう敵兵に懸賞をかけた。さらに机椅子をかき集めて、廊下に並べて防壁とし、守りを固めた。
その間にリョウコウ軍内部では徐々に崩壊の兆しを見せていた。リョウコウにやむなく従う兵士たちは、テイコンの宣言に飛びついた。
「おい、俺たちがリョウコウについたことは罪に問わないらしいぞ。
脅されて仕方なく寝返ったが、このまま隙を見て逃げ出すか?」
「いや、敵兵を一人でも捕らえたら恩賞が出るそうだぞ。
リョウコウ相手には勝てぬかも知れんが、敵兵一人くらいなら数人でかかれば勝てんこともない。
小遣い稼ぎに一人くらい捕らえてから投降しよう!」
テイコンの策によりリョウコウの兵士たちの中から投降者が続出。さらに彼らは行き掛けの駄賃とばかりに、兵士を一人二人捕らえて降っていった。一つ一つの被害は小さくても、積もり積もれば大きな被害となる。
中には古参の兵士ですらこれを機に投降する者もおり、リョウコウ軍内では、誰が投降するつもりなのか、誰が自分を捕らえようとしているのかわからず、疑心暗鬼に陥った。
この状況はリョウコウを大いに悩ませることとなった。
「このままではマジーな。これじゃー誰が味方がわからねーぞ。
仕方ねー、ヤローども、一度退いて手頃な教室に籠城するぞ!
教室に籠もり、互いに監視してこれ以上、裏切り者が出ねーよーにしろ!」
ソウソウ陣営のテイコンの策に翻弄されたリョウコウ軍は部隊の半数が降伏。やむなく教室に立て籠もり、防備を固めた。
一方、その間にテイコンの陣営には、西北方面軍のカコウエンらが合流した。
「よく耐えてくれたわね、テイコン。
その上、敵を後退させるなんて大手柄よ」
駆けつけた女将軍・カコウエンは、テイコンを賞してそう伝えた。
「カコウエン将軍、労いの言葉痛み入ります。
敵はあちらの教室にて籠城する構えを見せております」
テイコンの指し示す教室を見て、カコウエンは余裕な様子で答えた。
「籠城したのなら話が早いわね。
それでバチョウらの姿は見たの?」
テイコンは首を横に振って答える。
「いえ、バチョウら他の残党が合流した素振りはありません」
「ふむ、今バチョウらの目撃情報が各所から流れてきているわ。でも、同時多発的に現れて、どれが真実かわからない。
バチョウと繋がっている可能性の高いリョウコウを逃がすわけにはいかないわ」
リョウコウの反乱と時を同じくして、各所でバチョウが乱を起こしたとすでに情報が流れてきていた。しかし、情報を真に受ければバチョウが数人いなければ説明がつかない。虱潰しに探せば、今真のバチョウの被害を受けている者への対応が遅れる。本物はバチョウは今どこにいるのか。カコウエンたちは情報を欲していた。
「バチョウたちの援軍を一応警戒しておきましょう。
でも、敵はもう袋の鼠。私たちの手にかかればすぐに落城するわ」
意気込むカコウエンに対して、燃えるような赤い逆立った髪に、鋭い目付き、緑玉の首飾りを下げた、赤いリストバンドを腕につけた長身の男子生徒が進み出てきた。同じく討伐軍の一員・ジョコーであった。
「カコウエン、リョウコウ攻めの先鋒はこのジョコーに任せてくれないか」
ジョコーは先の戦いでもリョウコウと戦って勝利している。その役に不足はない。
「ふむ、あなたは前の戦いでリョウコウ軍と直接対決していたわね。
いいわ。先鋒はジョコー、後詰めこのカコウエン。残りのチョーコーたちは敵を包囲しつつ、敵の援軍が来ないか周囲を警戒しなさい!」
カコウエンの号令一下、部隊は迅速な速さで敵城包囲へと動き出した。
〜〜〜
対してこちらは籠城するリョウコウ軍。カコウエン軍が迫ってきていることはすでに把握していた。
だが、把握はできていても、あまりにも相手が悪すぎた。
「チッ、討伐軍がもう来やがったか!
カコウエンにジョコー、チョーコー……どいつもこいつも先の戦いで散々俺たちを痛めつけてくれた奴らだな」
リョウコウの記憶の中に忌まわしく、屈辱的な過去が蘇る。以前の彼なら矢も盾もたまらずに敵陣に斬り掛かったことだろう。
だが、今の彼はその選択を取りはしなかった。
彼の表情は一見キレているようであったが、その内実は極めて冷静であった。
「キンフ! チョウセイリュウ!」
リョウコウは二人の子分の名を叫んだ。名を呼ばれ、リョウコウのように頭をリーゼントにセットした二人の男が前に進み出る。
「リョウコウさん、俺たちが先鋒ですか!」
「いつでも行けますぜ!」
二人ともリョウコウの子分だけあって血の気が多い様子だ。命令一つで今にも敵陣に特攻を仕掛けることだろう。しかし、今のリョウコウはそんな事を命じはしなかった。
「いや、お前たちは敵の包囲が完成する前に部隊を率いて逃げろ」
「逃げろ」という言葉は以前のリョウコウからは決して出ない言葉であった。その言葉に二人の子分は驚いた。だが、彼らもリョウコウの変化を感じ取っており、すんなりと受け止める事ができた。
「まさか、リョウコウさんの口から逃げろと言われる日が来るとは思いませんでした」
「ですが、考えがあっての事でしょう」
従う二人の子分に、リョウコウは落ち着いた様子で答える。
「ああ、そーだ。
敵がカコウエンらじゃどんなに粘ったところで落城は免れねー。だが、俺たちは少しでも時間を稼がなきゃならねー。
だから、お前らは今のうちにどこかに隠れろ。そして、俺がやられたら反乱を起こして、少しでも敵の注意を引きつけろ!」
「わかりました。我ら落ち延びましょう」
「そして、少しでも敵の足止めをしましょう」
自信をもって答える二人の子分に、リョウコウも満足した様子であった。
「頼むぞ」
リョウコウの思わず出た「頼むぞ」の一言に、古くから彼に従う者たちは驚きつつも感極まり、涙を出す者さえいた。
すすり泣く音を背に、子分を代表するようにキンフが発言した。
「リョウコウさん、あなたは変わられた。
以前のあなたなら子分の名さえロクに呼びはしなかった。それが今では「頼む」とまで言われるようになった」
昔のリョウコウならこう言われただけでキレ散らかしたことだろう。だが、今の彼にはそれに落ち着いて返せるほどの余裕があった。
「以前の俺は自分がテッペン取ることだけ考えていた。だが、今は他にテッペンを取って欲しい奴がいやがる。
お前たち、もう少しだけ俺のワガママに付き合ってはくれねーか?」
それは古参の子分でさえ初めて見るような、穏やかな表情であった。
「我ら一同、リョウコウさんに最後まで従います!」
その言葉を受け、リョウコウはバットを構え、子分たちの前に進み出た。
「よし……よし!
これから我らリョウコウ軍の最後の大戦だ!
俺たちは存分に暴れて、敵をこちらに引き付ける!
全ては“バチョウ”のために!」
そう彼らリョウコウ軍の仕事は囮であった。かつての乱の首謀者・バチョウ。彼女は今こうしている間にも密かに勢力を築かんと動いていた。
だが、勢力をしっかりと抑える前にソウソウ軍に攻め込まれては、今のリョウコウのようにひとたまりもない。
そこでリョウコウはわざと目立つように暴れて囮となった。バチョウから敵の目を逸らさせるために、捨て石となる決断を彼はした。
ソウソウ軍の司令官・カコウエンらが迫りくると、リョウコウは一部の子分らを逃がし、徹底抗戦の構えを見せた。
だが、ソウソウ軍の先鋒はかつてリョウコウが辛酸を舐めさせられた十傑衆の一人・“勇壮のジョコー”。さらにその脇を同じく十傑衆のカコウエンやチョーコーが固めている。
対してリョウコウ軍は古参兵の士気こそ高かったが、多くは脅して従えた生徒たち。初めから勝負は決していた。
開戦とともに瞬く間に防備は崩れ去っていった。脅されていた生徒はロクに戦わずに降伏し、ソウソウ軍はどんどん奥へと突き進んでいった。
固く守っていたはずのリョウコウのいる教室の扉はこじ開けられ、ソウソウ軍が中へとなだれ込んできた。
その中心にいるのは燃えるような赤い逆立った髪に、緑玉の首飾りをかけた長身の男。リョウコウが忘れようにも忘れられぬ男・ジョコー。
そのジョコー目掛けて、リョウコウの子分どもが次々と襲い掛かる。だが皆、赤子の手をひねるかの如くあしらわれ、ジョコー一人に倒されていった。
「おい、追い詰めたぞ、田舎のヤンキー!」
リョウコウを追い詰めたジョコーの第一声は、かつてのやり取りを彷彿とさせるものであった。
「俺の名はリョウコウだ!」
怒鳴り返しながらリョウコウは、バットを振りかざし、ジョコーにガンを飛ばす。
「前に言っただろう。名を呼んで欲しければ……」
「希望ならある!」
食い気味に返すリョウコウに対し、ジョコーは一瞬呆気に取られたが、すぐにフッと笑った。
「そうか……ソウソウ会長に降れば俺の部下ぐらいにはなれただろうに、残念だ」
ジョコーのその言い草に、リョウコウはますます怒りを露わにする。
「誰がテメーの部下になりてーか!
てか、オメー調べたらまだ二年じゃねーか! 俺は先輩だぞ、敬え!」
「フッ、ハハハ……
そうか、そいつはすまなかったな、ヤンキー先輩」
今更、先輩面するリョウコウに、ジョコーは思わず吹き出してしまった。
「チッ、ナメやがって……
フフフ、ハッハッハ!」
リョウコウはジョコーに合わせるかのように笑い出すと、手にしていたバットを放して床に転がした。
「おい、ジョコー、テメーに手柄はくれてやる。
俺を討て」
「いいのか、一戦もせずに」
「テメー相手に戦っても時間稼ぎにもなりゃしねー。
さっさと討て」
ジョコーの問いかけに、リョウコウは即答する。
だが、その目は決して諦めていない者の目だ。自暴自棄で言い放った言葉ではない。それを理解したジョコーは彼の提案を受け入れた。
「そうか……今のお前を問い詰めたところで、情報を吐くことはないだろうな。わかった……。
天下の大逆人・リョウコウ!
学園騒乱の罪でお前を討つ!」
バチョウ残党・リョウコウの引き起こした反乱はここに鎮圧された。
「リョウコウのあの口ぶり……
やはりバチョウはすでに動いてやがるな……」
だが、それはまだ西北の乱のほんの序章に過ぎなかった。
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