第18話 伏寇!エンショウの罠!
エンショウとの開戦が決まると、早速コウソンサン先輩は部員を集め、準備にかかった。
「なんでこんな事態になっちゃったんだろう…」
「兄さんはエンショウのものになりたいんですか?」
「そういうわけじゃないけどさ」
「良かった。私も兄さんをあの人のものにさせたくありません」
「オレもだぜ!アニキはオレたちのアニキなんだ!誰にもやったりしないぜ!」
二人にここまで言われたら悪い気はしない。しかし、こんな解決法しかないのか…
コウソンサン先輩が集まった部員達の前に立って話を始める。
「エンショウは弟の敵だ…お前達エンショウを全力で潰すよ!」
「いや、先輩、俺死んでない」
「カンウ・チョーヒ、あんたらも協力してくれるね」
「当然です」
「アニキの敵討ちだ!血祭りにあげてやるぜ!」
「いや、だから俺死んでないって!」
なんか知らんが、俺の敵討ちという名目での戦いとなってしまったようだ。
こんな理由での戦いで部員達は納得するのか?
「部長が一度キレたら誰にも止められない!」
「でもこうなった部長は最強!しかも武勇で名高いカンウ・チョーヒもいる!」
「これはいけるかもしれない。エンショウを破れば選挙の行方も変わってくる」
…部員達もノリがいいみたいだ。
でも、確かにこの戦いで先輩が勝てば選挙戦は大きく変わる。先輩は前から馬術部部長だったが、エンショウが本格的に部下を集め出したのは選挙開始後だろうし、これは勝てるかもしれない。
「ゲンコウ、お前が先陣だ!我らの強さをあの軟弱お嬢様に見せてやれ!」
「ゼンケイ・デンカイ、君達は第二陣だ」
指名されたのは、学帽をかぶった男子生徒・ゲンコウ、スポーツ刈りの男子生徒・ゼンケイ、髪をアップにした女生徒・デンカイの三人。
「あのガンリョウ、ブンシュウには私達が当たります!」
カンウとチョーヒの二人が自ら歩み出て先輩に提案する。
「あの二人はエンショウ軍の武勇の二枚看板だと聞いている。君達でなければ勝てないだろう。頼むよ!」
「はい!」
「はいだぜ!」
「では、先陣はゲンコウ、カンウ・チョーヒ!第二陣はゼンケイ・デンカイ!リュービは私と共に本陣よ。
狙うはエンショウの首!行くよ皆!」
「オーッ!」
「いや、首は取っちゃダメだろ」
かくしてどこまで本気でどこまで冗談なのかよく分からない戦いが始まった。
校庭北部~
「 逃げずに現れたことを誉めてさしあげますわ!」
どこからともなく拡声器を通したエンショウの声が聞こえてくる。向こう側にはエンショウ軍数十人が陣取っていた。おそらく向こう陣営のどこかにエンショウもいるのだろう。
「それはこちらのセリフさ。軟弱お嬢様に喧嘩の恐ろしさ教えてやるよ!」
迎え撃つコウソンサン陣営も百人以上の部員を率いてエンショウ軍に対面している。
もはや冗談では済まない状態なんだが、大丈夫だろうか。
そんな中、エンショウ軍の先頭にいる男が、拡声器片手に前に進み出た。
「たっぷりお返ししてやるぜ、コウソンサンよぉ!」
「お前はキクギ!」
「知り合いなんですか、先輩?」
「あいつは前にリカク・カクシと馬術部にたむろしてた不良グループの一人さ。こんなところで会えるとはね
ゲンコウ!馬術部を占拠してくれた礼をしてやりな!突撃!」
コウソンサン先輩の掛け声により戦いの火蓋は切って落とされた。先陣のゲンコウがカンウ・チョーヒと共にエンショウ軍のキクギ隊に突撃を開始した。
「ふん、エンショウめ、喧嘩慣れしたのを連れてきたつもりなんだろうけど、キクギなんてトータク軍崩れを先陣にするなんて焼きが回ったね」
「 キクギ!あの時のお返しだ!」
ゲンコウを先頭にコウソンサン軍はエンショウ軍に雪崩れ込んだ。
「馬に乗ってると人間まで馬みたいに突撃してくるのかね?確かにあんたら馬術部の突撃は脅威だが、その突撃も封じてしまえば怖くはない!」
「うわー!」
ゲンコウ達の叫び声が聞こえたかと思うと先頭集団が次々と姿を消していった。
「何事なの!」
「落とし穴にこんなに綺麗に嵌まるとはな。俺の顔見たらお前らのことだ、全力で突っ込んでくると思ったよ!
今だ弓道部!一斉射撃で敵の先陣を崩せ!」
キクギの合図と共に左右から隠れていた百人程の部員が一斉に矢を放った。
さすがに矢に殺傷力は無いようだが、当たると痛いようで落とし穴を免れた部員達はてんでに逃げ散っていった。
「ふふふ、コウソンサン、あなたが馬術部を率いるように、私もこの度、弓道部を譲り受けましたわ。これで戦力は私の方が上よ!」
「はっはっは、馬術部の連中は相変わらずバカだなぁ。いや、このキクギ様が天才過ぎるということか。エンショウ、イイ買い物をしたな」
「しかし、あの男の性格だけは好きになれませんわね
でも、敵の先陣は崩れましたわ!ガンリョウ・ブンシュウ!左右から挟み撃ちにしなさい!」
「ゲンコウさん、手を!」
落とし穴に落ちたゲンコウを助けようとカンウが屈んで手を伸ばす。
「俺に構わず敵を倒してくれ!」
「わかりました!」
立ち上がったカンウの前に現れたのは白いブレザーの制服に長いスカート、右に牛の頭を象った肩鎧を装着した長身で、水色の髪の女性が立ちはだかる。
「私はエンショウ様をお守りする梁柱騎士団のガンリョウ!カンウ、私が相手です!」
「カン姉、ブンシュウはオレが行くぜ!」
「任せましたチョーヒ!」
「威勢だけはいいようね。この梁柱騎士団のブンシュウがあなたの実力を試してあげるわ!」
長身のピンク髪の女性・ブンシュウとチョーヒの一騎討ちが始まった。こちらもガンリョウ同様の白い制服を纏い、左に馬の頭の装飾が入った肩鎧をつけている。
「へん、そんな大口叩けなくしてやるぜ!」
「今よ!カンウ・チョーヒがガンリョウ・ブンシュウを抑えている間に、
第二陣のゼンケイ・デンカイは第一陣に合流して部隊を立て直しなさい!」
コウソンサン先輩の指示をうけ、第二陣が敵陣に向け動き出す。しかし、キクギ隊と弓道部の猛攻の前に芳しい戦果をあげられないようだ。
「先輩、このまま第二陣もやられてしまう。ここは撤退を考えた方がよくないですか?」
「リュービ、どうやらそのようね。クソ、エンショウめ!」
「ふふ、コウソンサン。私があなたをみすみす逃がすとでも思ったの?
今です、コウソンサンを捕らえなさい!」
突如、俺達がいる本陣に閧の声が轟く。背後よりエンショウ軍の旗を掲げた一部隊が現れた。
「ハッハッハ、コウソンサン。多くの兵を前線に割き、主だった将を投入した今、あなたの本陣はほとんど戦力は残されていない。
もはや、あなたの運命は風前の灯火となった!」
その部隊を率いていると思わしき男子生徒が俺達の前に進み出てきた。白い学生服を着、右腕に狼を模したブレスレットを付け、緑色の髪を後ろに一つ結びにした細身のその男子生徒は、二本の木の棒を持ってこちらに近付いてきた。
「私はエンショウ様が結成された梁柱騎士団が一人・チョーコー」
チョーコーと名乗るその男は持っていた木の棒のうちの一つをこちらに投げ渡してきた。
人の胸の高さ程ある、男子生徒が喜びそうな綺麗に加工された木の棒だ。
「さあ、武器を取れ。そして構えろ。正々堂々と戦うのが私の騎士道だ」
どうする?今ガンリョウ・ブンシュウと戦っているカンウ・チョーヒの救援は望めない。おそらくこのチョーコーという男もガンリョウ・ブンシュウに負けない強さだろう。
だが、先輩を戦わせるわけにはいかないよな。
俺は武器を取ってチョーコーの前で構えた。
「コウソンサン先輩、こいつの相手は俺がします。下がっていてください!」
「リュービ!その男気はお姉ちゃんとしては嬉しいけど、危ないよ、戻ってきて!」
「そうか、君がリュービか。聞くところによると今回の争いは君が原因らしいな。いいだろう、君を連れて帰ればエンショウ様もお喜びになる」
「やめろチョーコー!相手ならこのコウソンサンがするよ!」
「もはや彼は武器を取った。勝敗がつくまではおとなしくしてもらおう」
「先輩、俺もやれるだけのことはやってみます。だからここは俺に行かせてください。行くぞチョーコー!」
俺だってカンウ・チョーヒの特訓を受けてきたんだ。簡単にやられるわけにはいかない。
俺はチョーコーめがけて思いきり木の棒で突きを放ったが、彼はあっさりいなしてしまった。
いや、一撃目逸らされるのは想定内だ。俺はすかさず二撃目、三撃目の攻撃に移る。
「なるほど、筋はいいようだ。だが、それだけだ」
チョーコーは巧みに木の棒を操り、俺の棒を弾き飛ばすとそのまま俺の腹に一撃を与えた。
「リュービ!」
腹に一撃をくらった俺は低く呻き声をあげ、その場に倒れこんだ。
「さて、リュービ、君は捕虜として連れて帰ろう」
「待て、その手を放しな。このコウソンサンが相手をしてるよ!」
「その構え、素人ではないようだ。だが、私は強いぞ」
「ボクはもっと強いよ」
「誰だ!」
野球帽を目深にかぶり、学ランを着たその生徒はスケボーに乗って俺達の前に颯爽と現れた。