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第154話 虚実!両軍の駆け引き!

亜 西校舎・リュービ軍最前線〜


 敵将・リゲンの伏兵により、先鋒軍が一敗地に(まみ)れたことは、いち早くリュービ軍の司令部へと伝えられていた。


「やはり、リゲンは上手く兵を動かすな。


 だが、これで作戦通りなのだろう、ホウトウ?」


 俺、リュービは今回の作戦指揮を()る軍師・ホウトウに尋ねた。


 俺に聞かれ、左目を(おおう)う伸びた前髪に、風来坊のような身なりの小柄な少女・ホウトウは嬉しそうに答えた。 


「はいはい、放った間者(かんじゃ)(スパイ)からの話を聞く限り、上手くいったようでごさんすな。


 リゲンは有能ではありますが、プライドが高くて人と馴れ合うのは不得手でござんした。そのために元のリュウショウ陣営でも別働隊として、本軍とは切り離されて動いておったそうです。


 今、敵の先鋒を破るという手柄を彼女一人が上げ、同僚との溝はますます深くなりやした。これでリゲンは軍中で孤立したことでしょう。捕える可能性は上がりました。


 それで、どうしやしょう? このまま捕虜にする方向でいきやすか?」


 嬉々として提案するホウトウに対し、俺は首を横に振って答えた。


「いや、そこから先は俺がやろう」


「ほう、リュービさん直々(じきじき)にでごさんすか?


 その心は?」


「俺はリゲンをできれば味方にしたい。


 それならば礼を尽くす方がより良いと思っただけさ」


 俺はホウトウにそう答えた。別にホウトウを超えるような優れた策があるわけではない。


 ただ、リゲンを登用するならば、捕虜としてこちらに連れてくるよりも、俺が直接赴いた方が成功率は上がるだろうという判断であった。


「なるほどなるほど。ではお任せしやす」


 俺はホウトウに送り出された。


 〜〜〜


 同じ頃、敵将・リゲンの部隊へ話を移す。


 灰色の髪に、黒のコートと短パン姿の女生徒、リュウショウ軍指揮官・リゲンは、砦前に自分たちの配下のみを集めた。


「いい、敵のコーチューら先鋒軍はこの廊下の先に陣取っているわ! だが、敵のリュービ本軍はまだ後方にいてここまで来ていない!


 敵は自分たちが攻める側、私たちは防戦一方と思って油断しているわ!


 これより我々は、その油断した先鋒軍に奇襲を仕掛け、これを討つ!」


 同僚のチョウジンらと決裂したリゲンは、敵の先鋒軍が本軍と合流する前に叩こうと、奇襲を計画した。


 前回は伏兵でもって先鋒軍を破ったリゲンであったが、今回は自部隊のみでの出撃。兵力も敵に劣るため、作戦は慎重に行われた。


「リゲンさん、周囲を偵察してきましたが、大軍は見当たりません。恐らくリュービ本軍はまだ合流していません」


 偵察軍を率いていたこの軍の副将、銀色のロングヘアに、白いストールを肩にかけた女生徒・ヒカンはそう、大将・リゲンに報告した。


「いいわね。リュービ本軍と合流されては今の兵力では勝ち目はないわ。その前に先鋒軍を叩き潰す。


 ここで先鋒軍を潰し、その功績で強引にでもチョウジンたちを従わせる。そうしなければリュービ本軍には対抗できない」


「わかりました。幸いにも地の利は我らにあります。敵の死角を通ってギリギリまで近づいて、一気に攻めかかりましょう」


 大将・リゲンの言葉に、副将・ヒカンは答え、彼女らの部隊は静かに敵軍へと迫っていった。


 〜〜〜


 一方、先のリゲン戦で撃退されたコーチュー・タクヨーの両軍は、戦傷を()やしながらも、対策を練っていた。


「リュービ本軍が合流するまで待つのが得策じゃろう。しかし、このまま何もせず手をこまねいていては、我らの名に傷がつく」


 先鋒の将・長い銀髪を三つ編みに結び、大人びた容姿に背の高いカンフー道着の女生徒・コーチューは、先の雪辱を返そうと意気込んでいた。


 それに対して、同じく先鋒の将、茶髪に額にバンダナを巻いた、ジャージ姿の男子生徒・タクヨーもともに雪辱(せつじょく)()たそうと策を練っていた。


「コーチューさん、先の戦いは伏兵によって撃ち破られたが、敵兵力は決して多いわけではない。敵将のリゲンさえ警戒すれば倒せない相手ではないでしょう」


「ふむ、そうじゃな。


 しかし、リゲンはなかなかに頭の回る奴じゃ。そう簡単に(すき)は見せまい。今こうしている間にも次の策を考えておるじゃろう」


 両将が頭を突き合わせて悩やましていると、突然、外から喊声(かんせい)が上がり、すぐに人と人がぶつかり合う喧騒音(けんそうおん)へと変わっていった。


「何事じゃ!」


 コーチューが外に向かって叫ぶ。


 それに答えるように外から次々と兵士が出入りして、今の状況をつぶさに伝えてくる。だが、その報告は人によってバラバラであった。


「敵の襲撃です!


 敵はリュウカイ軍と名乗っております!」


「いえ、敵はチョウジン軍と名乗っております!」


「いいえ、リゲン軍です!」


 報告を信じるならば、三部隊が同時に襲ってきたことになる。これを聞いて、タクヨーは驚き慌てて答えた。


「敵は全軍で押し寄せてきたのか!


 まさか、それだけの大軍が来て気付かなかったというのか!」


 突然()いた大軍の襲撃に狼狽(うろた)えるタクヨーに対して、コーチューは冷静に答える。


「落ち着け、タクヨー。


 喊声(かんせい)の規模からいって全軍とは思えん。それに全軍なら複数から攻めてくるはず。じゃが、声は一方からしか聞こえてこん」


 いつもは血気盛んな彼女だが、長らく戦乱に明け暮れた経験の分、冷静な判断を下だせていた。


「恐らく敵は少数。別の大将の名を使って多数に見せとるだけじゃ。


 こんな事をするのは……」


「リゲンですか!」


 コーチューの冷静な判断のおかげで、タクヨーも落ち着きを取り戻せた。その彼の返答に、コーチューも(うなず)きつつ答える。


「恐らく奴じゃろう。


 わしは声の先に行って応戦する。タクヨー、お主は軍を落ち着かせるよう全体の指示を頼む!」


「はっ、わかりました!」


 コーチューは喊声(かんせい)のした方へと駆け出して行き、続けてタクヨーも指示を出そうと教室を出た。


「待っていたぞ、タクヨー!」


 突然、名前を呼ばれたタクヨーは声のする方へと振り向く。だが、その最中に空圧を感じ、瞬時に首を()らして敵の初撃を(かわ)した。


 タクヨーはすぐに態勢を立て直し、先ほどの攻撃の主に視線を移した。


「お前はリゲン!


 何故ここに!」


 タクヨーの目線の先には攻撃を仕掛けて来たであろう敵の大将・リゲンがすぐ眼の前に現れていた。さらにその部下と思わしき数名が、自分のほんの数m先に囲むように出現していた。


 リゲンはジリジリとタクヨーとの間合いを詰めつつ、話し始めた。


「私の真の狙いはタクヨー、お前だ!


 武芸の達人であるコーチューを討ち取るのは難しい。だが、お前は違う!


 コーチューより討ち取る難易度が低い上に、倒せば敵の指揮系統に大打撃を与えられる!」


 リゲンに言われ、自身が狙われていることを知るタクヨー。だが、それでこの襲撃の意味を理解した。


「そうか、この奇襲そのものが囮であったか!


 だが、俺も一角(ひとかど)の武将、容易(たやす)く討たれはせんぞ!」


 タクヨーは自身を囲みつつある数名の敵に対して身構える。そして、瞬時に周囲を見回す。リゲンが選別したであろうだけあって、いずれの敵も腕に覚えのありそうな雰囲気だ。


 そもそも、リゲンもコーチューに引けを取らない武力の持ち主。タクヨー自身の実力では、とても切り抜けれそうにない。


 味方を呼びたいところだが、各所で乱戦が起きており、呼んでもとても駆けつけてくれそうにない。


「兵士が出払っている今が好機だ!


 奴を討ち取れ!」


 リゲンの合図の下、数名の部下はタクヨーを取り囲み、一斉に襲い掛かる!


 だが、タクヨーも黙って討たれはしない。


 襲い来る拳を(かわ)すと、その腕を(つか)んで後ろに回して締め上げた。そして、その一人目を盾にしつつ、二人目、三人目の攻撃をしのいでいく。


 しかし、多勢に無勢、盾にしていた一人目は(すき)をつかれて逃げられ、続く四人目、五人目には防戦一方で次第に追い詰められていった。


「タクヨー、そろそろ限界のようね!


 さあ、トドメよ!」


 疲労困憊(ひろうこんぱい)のタクヨーに、ついにリゲンが襲い掛かる。


 リゲンの拳が迫り、タクヨーもいよいよ覚悟を決めたその時、聞き覚えのある一声が響き渡る。


「リゲン、そこまでだ!」


 その声を聞き、誰もが一斉に振り返る。そこにいたのは誰あろう総大将・リュービ、その人であった。


 その姿を見て、最も取り乱したのはリゲンであった。リュービ本軍がまだ合流していないことは入念に確認したはずだった。だが、眼の前にいるのは紛れもないリュービであった。


「リュ、リュービ! バカな、本軍はまだ影も形も無かったはずなのに……?


 我らは包囲それているぞ、撤退だ! 撤退しろ!」


 リゲンの慌てる声に応じて、部下たちはすぐに逃走を計る。大軍に包囲されれば形成は逆転、逃げることすら難しくなる。


 だが、撤退指示を出したものの、リゲンはまだ()に落ちなかった。


「あれほどの大軍が気付かれずにここまで来れるわけがない……まさか!


 撤退中止だ! 戻れ!」


 だが、リゲンが踏み止まろうとしたその瞬間、後ろから二人の女生徒が襲い掛かる。


 一人は男物の学ランに、頭にハチマキをつけたギエン。もう一人はポニーテールの黒髪に長身のフユウ。


 この二人のリュービ配下の勇士に組み伏せられ、リゲンはあえなく御用となった。


「大将・リゲンは捕えた!


 リゲンの兵よ、降伏せよ!」


 リゲンの捕縛を受け、各地で交戦していた副将・ヒカンを始めとしたリゲン兵たちも次々と降伏していった。


 〜〜〜


 捕えられた敵将・リゲンが、俺、リュービの前に連れて来られた。


 リゲンは俺の周りにギエンらわずかな兵しかいないのを見て、合点(がてん)がいった表情をしていた。


「やはりそうか。リュービを見つけて、大軍が到着したと早とちりしてしまっていた。だが、わずかな供回りだけで急いで駆けつけたのか。


 やられたよ……


 しかし、随分、危険な賭けをしたものだな」


 彼女の言葉に俺は答える。


「ああ、もし、少数なのがバレれば俺の身も危ない危険な賭けだったよ。


 しかし、俺と面識のあるリゲン、君なら効果があると思ってやったのさ」


 彼女の言う通り危険な賭けだった。


 大軍を動かすには時間がかかるし、見つかる可能性も高い。だから、俺は数名の部下だけで急いでここに駆けつけた。


 俺と面識がある相手だからこそ取れる策だ。


「それでも危険な賭けには変わりない。一大勢力のボスがやる賭けではないな」


 確かにリゲンの言う通り、危険な賭けだった。


 だが、それだけに価値のある賭けにしなければならない。


「そうだろうな。それでも実行したのは、リゲン、君に会いたかったからだ。


 俺は君の能力を高く買っている。君はこんなところで終わって良い人じゃない。


 俺の陣営に入ってくれないか?」


 リゲンは危険を(おか)してでも、味方につけたい人物だ。


 俺の言葉に、リゲンはフッと笑って答える。


「まさか、私を口説くためにこんな危険な真似をしたとでも言うのか?


 しかし、私はリュウショウ様に恩を受けた身、裏切るような真似はできない」


 勧誘は一切受け付けないという顔でリゲンは答える。


 リゲンはプライドが高い。だが、それは自分自身の才能をよくわかっているからだ。


 まず、そのプライドを満たしてやらねばならない。彼女の自己評価からすれば今の立場は低いと思っているはず。そこを突く。


「君の才能は一部隊長で(とど)まるようなものではない。武将ならば多くの将軍を指揮する司令官、軍師ならば陣営の運営に直接関わるべき人物だ。


 それなのに、未だに部隊長として扱うリュウショウに恩があると言えるのだろうか?」


「しかし……」


 リゲンは反論しようとするが、俺は矢継(やつ)ぎ早に言葉を繰り出して、その口を(さえぎ)る。


「俺に降ったホーセーは軍師としてコウメイ、ホウトウに次ぐ立場につけた。ゴイらは将軍としてコーチューらと同等に扱っている。


 君の才能はホーセーらに劣らぬ物だと思っている。相応の待遇を約束しよう」


 ホーセーやゴイらの名にリゲンはピクリと反応する。彼女らが我が陣営でどのような待遇を受けているのか、リゲンも聞き及んでいるのだろう。


 今までの登用してきた人物の処遇は、これからの降伏者には保証としての効果を持つ。


 しばし、思案を巡らした後、遂にリゲンは首を縦に振った。


「……このまま戻ってもチョウジンらの下になるだけか……


 わかった。ヒカンら私の部下も助けてくれるのであれば降伏しよう」


 俺はその言葉に(うなず)いた。


「保証しよう」


 俺にに降伏したリゲンは、自ら副将・ヒカンらの説得に当たった。


「今やリュウショウ陣営にはリゲンさん以上の指揮官はいないでしょう。そのあなたが去ると言うのならば未来はないでしょう。


 わかりました。私も降伏します」


 リゲンを高く評価していた副将のヒカンはあっさりと応じ、その様子を見た兵士たちもすぐに降伏した。


 一同を率いて、リゲンは再び俺の前に現れた。


「リュービ様、これにて我らリゲン隊は一人残らず降伏致しました。


 つきましては、まず最初の働きとして、我らにリュウカイの(こも)もる砦の攻略を一任されたい」


「わかった。君たちが今更寝返るとは思わないから監視役はつけない。


 全て任せる」


「お任せください!」


 新たに俺の陣営に加わったリゲンは、自信に満ちた表情で出陣した。

 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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次回は10月21日20時頃更新予定です。

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