第153話 奮激!リゲンの孤立!
西校舎・リュウショウ陣営の砦〜
西校舎の盟主・リュウショウからリュービ討伐を任されたリュウカイ軍。だが、配下のゴイらの反乱もあって敗北、一つ目の砦を失った。
敗走したリュウカイらは二つ目の砦に逃げ込んだ。しかし、そこには既に増援の将・リゲンが到着していた……。
「あなた方はリュービを甘く見過ぎだ!」
灰色の髪に、黒のコートと短パン姿の女生徒・リゲンは、敗走してきたリュウカイらを叱るような口調で話し出した。
その言葉に、ショートの茶髪にタレ目の、パーカーを着た男子、討伐軍の総指揮官・リュウカイはその肩書にそぐわないような及び腰で答えた。
「しかし、そうは言うが、まさかゴイらが裏切るとは思わなくて……」
「ゴイらが寝返るより前から劣勢だったと聞いておりますが?」
黒コートの女生徒・リゲンは相手をギロリと睨みつけた。この言葉と眼力にリュウカイも黙りこくってしまった。
「良いですか! 以降はこのリゲンの指示に従っていただきます!」
そのリゲンの言に、リュウカイとともに逃げ帰った武将、白髪で三白眼の、迷彩服を着た男・チョウジンが絵に描いたような不服顔で反論する。
「リゲン、それは横暴ではないか?」
「チョウジン、はっきり言おう、君たちでは経験不足だ。
リュウカイは特に軍事経験はない。
チョウジン、君もチョウロ軍相手に手柄を立て、勇敢と持て囃されたかもしれないが、それでも私から見ればリュービを相手にするには足りない。
私はかつてソウソウ軍ともリュウショウ軍ともチョウロ軍とも戦った。そして、今迫るリュービとは戦術論を語り合ったこともある。
私と君たちでは経験値が違う」
こう語るリゲンは、かつて南校舎のリュウヒョウに仕え、西校舎のリュウショウ軍との境界線を守っていた。その時にリュウヒョウの客将であったリュービとも親交があった。
後にソウソウ軍が南校舎に侵攻した時に、境界線を越えてリュウショウに降伏した。これまであまり大きな戦いを経験してこなかったリュウショウ軍の中では、かなり経験豊富な将と言えた。
「大変です! リュービ軍がすぐそこまで来ました!」
言い合うリゲンらの元にリュービ侵攻の急報が入る。
「来たわね! 敵の陣容は?」
「先鋒のコーチュー・タクヨー軍のみこちらに向かっています。リュービ本軍はまだ姿を見せておりません!」
その報告を聞くなり、リゲンは瞬時に判断して、両将に指示を出した。
「ふむ、恐らくリュービは周辺の守備隊を攻略するために遅れたってところね。
チョウジン、あなたは一軍を率いてリュービ軍の動向を確認しなさい。
リュウカイ、あなたは後軍として私の後を守りなさい。
先鋒は私が務めるわ。戦いとはどうするか見せてあげるわ!」
リゲンらは砦の前に軍勢を整えて、敵軍を待ち構えた。
彼方より敵軍が姿を現した。整然と足並みを揃えて歩を進め、それだけで敵軍の練度の高さが窺えた。
そして、その敵軍の真ん前には、先の戦いで圧倒的な武力で兵を薙ぎ倒してきたカンフー衣装の女生徒・コーチューが、威風堂々とした出で立ちでこちらに向かって来ていた。
その敵将・コーチューが声の届くほどの距離まで迫った時、リゲンは彼女に声をかけた。
「コーチュー先輩!」
その声に応じ、コーチュー軍は歩みを止めた。
「リゲン、久しぶりじゃな!」
コーチューも元リュウヒョウ配下、お互い知らぬ仲ではなかった。
「先輩、そろそろ引退して進路を考えたらいかがですか?」
「ハッハッハ、お主がさっさと降伏してくれたら進路に専念しよう!」
リゲンの挑発的な物言いに、コーチューは笑って答える。それに対してリゲンは、敵のコーチューを指差し、より一層大きな声で叫んだ。
「どうやら、雌雄を決するしかないようですね!
先輩、あなたと一騎打ちを所望します!」
「面白い、受けて立とう!」
リゲンの言葉を受け、コーチューはただ一人、中央へと進み出した。
それを見てリゲンは後ろに振り返り、部下に指示を出した。
「前に伝えた通りに動け」
それだけ伝えるとリゲンも中央へと進み出した。
ちょうど両軍から等間隔に離れた場所で、二人の女武将は相対した。
挑戦を受けたコーチューは先のリュウカイ軍を鎧袖一触で蹴散らした勇将、笑みを浮かべて立ちはだかる。
しかし、対するリゲンも自ら一騎打ちを申し出ただけあって、余裕の表情を見せていた。
「さあ、コーチュー先輩、久しぶりにお相手願おう!」
「ハッハッハ、リゲンよ、過去に一度でもわしに勝てたことがあったか?」
その瞬間にリゲンは黒コートを翻して宙に舞うと、大上段から足を鋭く振り下ろした。コーチューは瞬時に判断してそれを両手を交差させて受け止めた。
「先輩! いつまでも過去の栄光に縋るのは良くないですよ!」
「フッ、そういうのは攻撃を当ててから言うものじゃぞ!」
コーチューはリゲンの足を払い除ける。それによりリゲンが大きく後退すると、コーチューは一瞬で距離を詰めて、突きを放つ。彼女の拳が唸りを上げて、空を引き裂く。
リゲンは即座に側転してその拳を躱し、コーチューの左側面を取ると、中腰のまま両手で体を支えて右足を振りかざし、敵の足を刈り取るように振り切った。
コーチューは宙に跳んで回避すると、そのままリゲン目掛けて落下し、彼女の頭を抑えつけて取り押さえた。
「フォッフォ、お主、随分鍛えたようじゃの。
だが、わしの相手をするにはまだ不足!」
コーチューに腕を捕まれ、頭を床に押し付けられていたリゲンであったが、未だその余裕の表情は崩してはいなかった。
「それはどうですかね」
その時、コーチュー軍の背後より一斉に喊声が上がった。コーチューの視点からでは状況は不明だが、敵の襲撃を受けたであろうことは予想がついた。
「奇襲か!」
コーチューが後方に気を取られた隙に、リゲンは彼女の拘束から抜け出すと、不敵に笑い出した。
「ハッハッハ、コーチュー先輩、前にばかり気を取られ過ぎましたな。
我が軍も攻撃だ! 全軍、コーチュー軍に向けて突撃!」
リゲンの合図に合わせ、背後にいた彼女の軍隊も一斉にコーチュー軍に攻めかかってきた。コーチュー・タクヨー軍は前後から挟み打ちを受ける形となった。
「むむむ、一騎打ちに水を差しおって……」
コーチューは腹を立てて詰るが、リゲンは一向に意に返した様子を見せない。
「ハハハ、戦争は所詮、騙し合いの潰し合い。そこに勝手な美学を持ち込まないでもらおうか!」
コーチューは悔しそうな表情を見せたが、敵軍迫る今、指揮官の自分がいつまでも孤立しているわけにもいかない。やむなく彼女は自軍に舞い戻った。
帰還したコーチューに、同僚のタクヨーが駆け寄ってくる。
「コーチューさん、背後の敵はチョウジン軍です! リゲン軍よりは数が少ないです!」
「相わかった。わしがチョウジン軍に突っ込み血路を開く! タクヨー、お前には全体の指揮を託す! わしの後に続け!」
コーチューが先頭に立つと、軍は矢先のように姿を変え、敵陣を射抜くかのように突撃しながら撤退していった。
その様子を見て、リゲンは程々にコーチュー軍に追撃を与え、合図を出して立ち止まった。
「リゲン将軍、追わなくてよろしいので?」
「いいわ。この程度の包囲であのコーチューを倒せるものじゃないわ。
チョウジンにも深追いしないよう言い含めているし、私たちはこのくらいで撤退しましょう」
〜〜〜
コーチューらの軍を撃退したリゲンは得意満面な様子で砦へと帰還した。それに続けてチョウジン軍も帰還してきた。
その二将を総指揮官・リュウカイが笑顔で出迎えた。
「いやぁ、よくやってくれた、リゲン!
まさか、チョウジン軍をリュービへの偵察と見せかけて、奇襲に使うとはな!」
初戦で散々に自分たちが打ち破られたコーチュー軍を撤退させたことで、リュウカイは上機嫌であった。
「これが経験の差というものです。
これで私の実力はお分かりいただけたかと思います。リュウカイ殿、私に総指揮官の地位をお譲り下さい!」
そのリゲンの言葉に、リュウカイはギョッとして返す。
「え、総指揮官の地位を……!
そ、そうだな。俺なんかより君の方が適任かもしれないな……」
リゲンに押され、リュウカイは今にも譲りそうな様子を見せる。だが、これにチョウジンが待ったをかけた。
「お待ち下さい!
コーチュー軍を追い払ったとはいえ、壊滅するには至っていません。そして、まだリュービ軍も健在です。
それになにより、総指揮官を決めるのは我らの盟主・リュウショウ様です。ここで勝手に決めていい話ではありません」
「そ、そうだな。すまんが、総指揮官の地位は俺の一存で譲ることはできん」
チョウジンの言葉に、一度は譲ろうと心が傾いていたリュウカイも彼に賛同を示した。
これにはリゲン、怒ったような口調で言い返す。
「この場に私以上の指揮官はいないのだぞ!」
だが、リゲンの言葉にチョウジンはまったく動じる気配を見せずに反論する。
「作戦の立案なら指揮権がなくてもできるはずです。その上で我らで話し合って決めればよい」
しかし、チョウジンのその言葉に、リゲンはまったく応じず、はねのけてしまった。
「話し合うまでもない。リュービ軍の撃退は私の部隊だけでやる。君たちはこの砦を守れ」
「それは無茶です。あなたの部隊だけで相手に出来る兵数ではない!」
リゲンの言葉に、チョウジンは即座に返す。先鋒を撃退したとは言え、リュービ本軍の兵数は多い。とても、リゲンの一部隊だけで相手できないことは、誰の目にも明らかだった。
だが、リゲンは決して譲らない。
「そういうことは君たちがリュービ軍に一矢報いてから言え」
「……では、もし、あなたが負けたら?」
「その時は君らが代わりに指揮を執れ。それまでは私の出番だ!」
そう言うとリゲンは立腹しながら、奥へと去っていった。
「まったく、無能どもめ!」
怒り心頭の黒コートの女生徒・リゲンが教室奥へと歩いていく。その形相から皆道を譲り、顔を反らして関わり合いにならないようにと避けていった。
しかしそんな中、銀色のロングヘアに、白いストールを肩にかけた女生徒が一人、彼女を恐れる様子もなく駆け寄ってきた。
「リゲンさん、どうされましたか?」
「ああ、ヒカン! 聞いてくれ!
奴らめ、この期に及んでまだ自分たちで上手くできると思っている。私に指揮権を譲れというのに従おうとしない!」
「そうでしたか……」
白いストールをかけた女生徒はリゲンの言葉に眉をひそめる。この女生徒はヒカン。西校舎のリュウショウに命じられ、リゲンの副将に任じられていた。
「奴らではリュービ軍を防げない!
こうなっては仕方がない。私は単独で再び先鋒軍を攻めようと思う。再び私が手柄を上げれば、奴らも私に従うしかなくなるだろう。
ヒカン、私についてきてくれるか?」
このリゲンの願いに対し、ヒカンは一礼して受けた。
「はい。私はリュウショウ様よりこの軍に派遣されてきました。言うなれば私の役目はリゲンさんの目付け役でしょう。
しかし、私は今のリュウショウ陣営にリゲンさん以上の指揮官はいないと思っております。リゲンさんの判断に従いましょう」
その言葉を聞き、リゲンは感激しながら彼女の手を取った。
「おお、ヒカン。君が副将に来てくれたことを嬉しく思う」
リゲンはよそ者な上にプライドも高く、同僚とは上手くいっていなかった。ただ、ヒカンだけはリゲンに敬意をもって接していたので、仲良くしていた。
「では、これより私たちはリュービ軍に攻勢をかける!」
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