第152話 直言!無二の軍師!
我らリュービ軍は、リュウショウ軍の将・ゴイ・ゴハン・トーケンの三人の登用に成功。彼らと協力し、敵拠点の一つを攻略した。
俺は新たに占領した大教室に入り、しみじみと周りを見回した。俺がこの教室に足を踏み入れたのは、これで二度目であった。
「そう言えばこの教室は、俺たちが最初に西校舎に到着した頃、リュウショウの歓待を受けた教室だったな」
俺はその時のことを思い返した。
あの時は内通者のチョーショーがリュウショウをその場で捕らえようと提案してきて驚かされたな。
だが、あそこでチョーショーの言う通りにしていたら、その後のチョーショーが捕えられるという悲劇もなかったかもしれない。しかし、その時は今ほど上手く事が運んだかどうか。こればかりは時の運でわかりようもない。
「うん、あまり思い詰めても仕方がないか」
俺は軍師・ホウトウらのいる方に振り返り、提案した。
「せっかく、この広い教室が手に入ったんだ。それにゴイら多くの仲間も加わってくれた。
初戦の勝利と歓迎会を兼ねた祝賀会を開こう!」
「んん、祝賀会ですかな……?」
ホウトウは少し渋い顔をしたが、すぐ隣に立つホーセーらは賛同してくれた。
「良いと思います。今は新たに加わった兵士の数は元のリュービ軍より多くなりました。友好を深めるのも良いかと思います」
「では、早速開こう。
だが、警戒を怠ってはいけない。コーチュー、タクヨー、それにギエンらを交替で警護に当たらせよう」
俺たちは盛大に宴会を開いた。
俺を中心に、左側にホウトウ、ホーセーら元からいた生徒たちを、右側にはゴイら新たに加わった生徒らを座らせた。
もちろん、出される飲み物はジュースではあるが、初戦を大した苦も無く勝利したことで、より美味しく感じられた。
「へー、君たちは生徒会に所縁があるのか」
俺は細目で長身の筋肉質の女生徒、新武将・ゴイらとの話で盛り上がった。
ゴイらが語る生徒会というのは、今ソウソウらが仕切っている現生徒会ではなく、俺たちが入学したての頃に運営されていたカシンを生徒会長とする旧生徒会の方だ。
「ええ、といっても私たちは生徒会の仕事を少し手伝った程度ですが」
そう言って、ゴイは隣に座る同じようにガッチリした体格の男、自分の従弟のゴハンを指し示しながら話した。
「このゴハンの兄・ゴキョウは前の生徒会長・カシン先輩の部下でした。その縁で私も少し生徒会の仕事に関わったことがあります。
ですが、カシン会長が学園を去り、トータクが生徒会を牛耳るようになると(※詳しくは第二章参照)、私たちはトータクから逃れ、ゴキョウの友人であったリュウエン(リュウショウ兄、前の西校舎盟主)を頼ってこの西校舎にやって来ました」
ゴイの口からはかなり懐かしい話を聞くこととなった。俺はカシンやゴキョウといった先輩とは面識はないが、トータクは知っている。忘れたくても忘れられない名前だ。
「そうか、トータクか……
あの時の反トータク連合に俺も加わっていたな。もし、君たちがリュウエンの元に逃れてなかったら、あの敵兵の中に君たちも混じっていたのかもしれないんだな」
俺は懐かしく思い返した。思えばあの時はまだカンウとチョーヒしか仲間がおらず、今や宿敵となったソウソウに付き添うように反トータク連合に参加していたな。
「あの時の私たちはカシン会長の恩を受けながらも、ただ逃げるしかありませんでした。ですが、リュービ様は立ち向かい、トータクを追い払ってくれました。
リュービ様には感謝してもしきれません」
「いやぁ、あれは俺一人の手柄じゃないし」
「それでもリュービ様への感謝が薄れることではありません。
そのリュービ様が今、西校舎の新たな盟主にならんとするのは運命でしょう。我ら一同忠義を尽くさせていただきます」
俺はゴイらの言葉に気を良くしてジュースを呷った。ふと目を横に向けると、この手の会は楽しむタイプのはずの軍師のホウトウがムッとした表情で静かに過ごしていた。
俺は内心、コウメイと違って人見知りするタイプではなかったはずだがと思いつつ、彼女に話しかけた。
「どうした、ホウトウ?」
「リュービさん、はしゃぎ過ぎですぞ」
彼女は表情も変えずに、一言そう答えた。
「いや、せっかく楽しい会なんだからさ、いいじゃないか」
「他者を征伐する最中に楽しむのは、仁者の行いではありませんぞ」
いつも以上にぶっきらぼうに返すそのホウトウの物言いに、今度は俺がカチンときて、言い返した。
「征伐と言うが、この戦いはそもそも君の立案に基づいた策だろう。それに新たな仲間を労っているのに、なぜ、仁者じゃないと言えるのか。
そんなに気に入らないなら帰れ!」
俺が突然、怒鳴り声をあげたので、皆が一斉にこちらを見る。しかし、ホウトウはそんなことで取り乱したりはしない。
「そうさせていただきやす」
ただ、一言そう言うと、ホウトウは振り返ることもなく、スタスタと教室を出ていってしまった。
残された俺たちはシンと静まり返り、誰も話し出そうとはしない。
俺もむくれて押し黙っていたが、しばらく考えて頭を冷やした。
思えば、降将たちは先行き不安だから、無理に俺に気を使い世辞を使っている。考えればわかることなのに、俺はそれに浮かれて喜んでしまっていた。これでは降将に媚びることを奨励しているようなものだな。
それにこの様子が敵に伝われば、俺に不快感を覚え、降るのを良しとしない者も出てくるだろう。
ホウトウが戒めたかったのはそういうことなんだろう。
「あの、リュービ様……」
黙って考え込む俺に、降将・ゴイは申し訳なさそうに話しかけてきた。思えば彼女は今回の降伏した兵士たちの代表者のような立場だ。兵士たちのことを思えばこそで、何も好き好んで持ち上げているわけではないだろう。
「ゴイ、君たちの立場を思えば、無理におべっかを使うのは仕方のないことだろう。俺は君の人となりを聞いている。とても剛毅で仲間思いの人物だと。
恐らく、仲間の身を按じて無理にお世辞を言っていたのだろうが、その必要はない。それで君たちや今後新たに加わる降将たちを冷遇するつもりはない」
その言葉に、初めてゴイは笑顔を見せた。
「お心遣いありがとうございます。
私も今後の西校舎の有り様が関わってくると気負って、無理に下手に出過ぎておりました」
頭を下げる彼女に、俺は再び声をかけた。
「今後は友人として接してほしい」
「わかりました」
そのやりとりを見届けると、軍師・ホーセーが俺に話しかけてきた。
「その様子なら大丈夫でしょう。ホウトウを呼んできましょうか?」
俺は彼女に頼んでホウトウを再び呼び寄せた。
戻ってきた彼女は怒るでも笑うでもない表情で、特に何も言わずにそのまま席について、そのまま飲み食いを始めだした。
そのあまりの何も無さに俺は内心笑ってしまったが、周囲は気が気でない様子で俺たちを見てくる。これではさすがにまずいので、俺はホウトウに尋ねた。
「ホウトウ、先程はどちらが間違っていたかな?」
その言葉にホウトウはこちらに座り直して、いつになく真面目な面持ちで答えた。
「あれはどちらも間違っておりましたな」
その言葉に俺はついに声に出して笑い出した。
ホウトウ、彼女の言葉は一見、装飾が多いようで、飾り気がない。それでいて芯がある。コウメイとはまたタイプが違うが、彼女もまた俺に欠かせない軍師だ。大事にしよう、この無二の軍師を。
「ハッハッハ、そうか、そうだな。
ならば、この話はここで終わりだ。さあ、我らは友好を深めよう!」
俺の言葉に応じて、再び祝賀会は大いに盛り上がった。
〜〜〜
祝賀会も終わり、俺たちは再び西校舎への進行を開始した。
「このままリュウショウの教室までまっすぐ進んでもいいが、まずは地盤を固めたい。
まずは周辺の教室に降伏するよう使者を送ろう」
俺たちは東西の二教室にそれぞれ使者を出して、降伏を促した。
この二教室には元からの守備隊はいるものの、新たな増援は来ていない。先ほどの俺たちの快勝は伝わっているだろうから、降伏に応じるんじゃないか。俺はそう思っていたのだが、どうやらこの判断は甘かったようだ。
両教室とも答えは否。使者を追い返すと、それぞれの教室は守りを固め、以降、一切の交渉に応じようとはしなかった。
「リュービ様、いかが致しますか? 強引に攻め込みますか?」
片眼鏡の女生徒、新軍師・ホーセーが俺に尋ねるので、俺は先に籠城する相手について尋ねた。
「二つの教室の将はどんな人物かわかるか?」
「はい、東の守備隊長はオーレンという人物です。
西の守備隊長はあのコウケンです。」
オーレンは初耳だが、コウケンの方には聞き覚えがあった。
「コウケンというと……ああ、リュウショウの参謀で俺たちを招き入れるのを反対してた人物だったな」
「はい、その時にコウケンはリュウショウの機嫌を損ね、ここの守備隊長に左遷されたとのことです」
コウケンは俺の西校舎進出を阻もうとしていた一人だ。聞く限り切れ者だという話だ。
「どうするか?
放っておけば後ろに敵を残すことになる。歩みを止めることになるが攻略してしまった方が安全ではあるな」
俺がそう尋ねると、今度は軍師・ホウトウが発言した。
「放おっておきましょう」
ホウトウはそうキッパリ言うと、その利点を上げだした。
「まず第1に、敵の二人の守備隊長はともにリュウショウ陣営では名の通った人物。その義心を評価し、敢えて攻めなければ、リュービさんも義心を知る人物として評価が上がりましょうぞ。
第2に、敵には守備のための最低限の兵しかございやせん、放おっておいてもこちらを攻めてくる可能性は低く、脅威にはなりません。
そして、第3に、コウケンの存在です。話を聞く限りコウケンはリュウショウ陣営でも屈指の智将でございやしょう。無理に攻めても得るものより損害の方が大きい可能性がありやす。
そして、仮に落とせても万が一、コウケンを取り逃せばリュウショウと合流し、参謀に返り咲く危険がありやす。そうなればリュウショウ陣営全体が強化されましょう。ならば、敢えてここに釘付けにして、戻らせないようにするべきございやす」
「なるほど、ならばそうしよう」
俺はホウトウの意見を採用し、ここの守りに残す新将ホーヨウに命じた。
「我らはこのまま前進する。
ホーヨウ、君はオーレンとコウケンが連携することに注意してここを守れ」
「わかりました。
ついでにリュービ様が二人の義心に感服して敢えて見逃されたと噂を流しておきましょう」
「君はよく頭の回る男だな。ではそのように頼むよ」
〜〜〜
俺たちはさらに奥へと歩みを進めた。
リュウショウの籠もる本拠地・美術室の手前には大きな砦が後二つある。
リュウショウの教室のすぐ前、俺たちから見て奥の砦には、彼の実弟・リュウジュンが主将を務める。
俺たちから見て前の砦の守備隊長はヒシ。そして、リュウショウから派遣された援軍・リゲン。これに加えて先の戦いで俺たちから逃走したリュウカイ・チョウジンらが合流した。
「敵の指揮官はリゲンか……ん? リゲン?
リゲンってもしかしてリュウヒョウの配下だったリゲン?」
俺がそう聞くと、新軍師・ホーセーが答えた。
「はい、そのリュウヒョウの配下だったリゲンです。赤壁の前のソウソウ侵攻の折に、西校舎へと逃げ込んできました。
以来、実戦経験が豊富で有能な将として重宝されております。ご存知なのですか?」
「ああ、リゲンならリュウヒョウの客将をしていた時に面識がある。
そうか、行方不明だったが、ここに逃げていたのか」
リゲンはかつて南校舎のリュウヒョウの武将だった人物で、その時に俺とは面識があった。西方、つまり、リュウショウとの境界線を守っていたが、ソウソウが南校舎に侵攻してきて以降、行方知れずとなっていた。
「敵将があのリゲンなら、なんとか説得してこちらにつけることはできないだろうか?」
それには軍師・ホウトウが答えた。
「さすがに敵も警戒してございやす。すぐには無理でございやしょう。しかし、一度捕えてから交渉すれば、あるいは可能かもしれやせん」
「リゲンは有能な将だ。簡単に捕えられるか?」
「聞けばリゲンは有能ではありますが、その分プライドが高く、協調性に欠けるところがございやす。そこを利用しやしょう」
最新話まで読んでいただきありがとうございました。
三国志が好き、三国志に興味が持てたと思っていただけたのなら、レビュー、ブックマーク、ポイント評価、いいね、コメントをよろしくお願いいたします。
トベ・イツキtwitterアカウント
https://twitter.com/tobeitsuki?t=GvdHCowmjKYmZ5RU-DB_iw&s=09
↑作者のtwitterアカウントです。作品の話や三国志のことを話してます。よければどうぞ。
次回は10月7日20時頃更新予定です。




