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第146話 訣別!王佐の軍師!

 ソウソウの告白、それは彼女には実弟の評価が出来ぬというものであった。ソウソウは能力の有無で人を認識する。しかし、幼い頃より一緒に暮らす弟は能力関係なく名を覚えている。


 ソウソウが弟の名を覚えているのは弟だからなのか、能力があるからなのか、それが彼女にはわからなかった。


 さらにソウソウは、彼女の向き合って立つ軍師・ジュンイクに対して続けて話しかける。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「かつてソウヒをチョウオンが生徒会に招こうとしたことがあったな」


 ソウソウの言葉にジュンイクが過去を思い返しながら(うなづ)く。


 ソウソウには三つ子の弟がいた。


 何事もそつなくこなす長弟・ソウヒ。


 武芸に秀でた次弟・ソウショウ。


 文芸に才を発揮する末弟・ソウショク。


 彼ら三人の処遇を巡っては、ソウソウの弟ということもあって、既に生徒会内部にて陰に陽にいくつもの働きがあった。件のチョウオンの話もその一つであった。


「ええ、ですが、ソウソウ会長は自分に(おもね)った意見だとして反対にチョウオンを罷免(ひめん)しました」


「あの時、推薦者がジュンイク、君であったならまた違ったかもしれない。その後、結局周囲の推薦を受けて弟たちを生徒会に招いた時も、君は否定的であった。


 ジュンイク、君の目から見て私の弟たちは本当に傑物なのか?」


 ソウソウの視線はジュンイクに注がれる。ソウソウにとって最も信頼できる鑑識眼を持つ人物、それがジュンイクであった。


「……才はあります」


 だが、ジュンイクは、ただただそう答えるしかなかった。


 ソウソウは重ねて尋ねる。


「ソンケンと比べては?」


 そのソウソウからの問にジュンイクの心に一瞬、迷いが生まれた。ここで弟たちの方が才があると答えた方が良いのはわかっている。だが、それはジュンイクには出来ぬことであったし、ソウソウが本当に望んでいる答えではないこともわかっていた。


「ソンケンは先程見たばかりなので私には判断がつきかねます……」


 俯き気味にそうジュンイクは答えた。彼女なりに正直な意見であった。


「では、私と比べてはどうだ?」


 その問いに、ジュンイクは先ほどまで下に向けていた視線をソウソウに移し、しっかりとした口調で答えた。


「ソウソウ会長の存在は唯一無二、とても比べられるものではないでしょう」


 それが本心であるかは、ソウソウに向けた目が十分に伝えていた。


 その目を受けて、ソウソウはフッと笑った。その笑い方はいつものとは違うものであった。


「君は嘘をつかないし、(おもね)ったことを言わない。だから信用できる。それが弟たちの公平な評価なのだろう。


 私の弟たちは私を超えぬし、おそらくソンケンも超えぬのであろう」


 いつもの面白がる笑い方ではなく、どこか空虚(くうきょ)を含んだ笑い声でソウソウはそう答えた。


「もしや、ソウソウ会長が理事になられようとする一番の理由は弟に後を継がせるためなのですか?」


 薄々と感じ取っていたことではあったが、ジュンイクはあえてソウソウに疑問をぶつけた。


 ソウソウは弟に後を継がせたい。そのために自身が学園の理事になろうとしている。これははっきりさせねばならない問題であった。


「もちろん、弟以外に適任者がいるならばその者に譲っても良い。だが、誰に継がせても揉めるだろう。もし、この陣営が分裂でもしようものならそれこそソンケンに吸収されるだろう。


 ならば弟に継がせるのが無難だ。だが、無難であって最善ではない」


 ソウソウの言葉はその通りであろう。弟に継がせたら世襲(せしゅう)といって批判を浴びる。だが、それ以外の者であればもっと批判を浴びるだろう。ソウソウに並ぶほどの功績を持った者が一学年下にいれば違うだろうが。


「ですが、理事は学校の経営に関わるものです。卒業してしまえば生徒会に関わることまではできませんよ」


「それでも後継者が陣営をまとめ上げる助けにはなるだろう。


 これは私が始めた物語だったが、私には終わらすことができそうにない。ならばせめて次の世代に引き継げるよう務めるべきだろう」


 そう語るソウソウの表情は、かつてジュンイクが君主と心に決めたその時の表情ではなかった。これはジュンイクには看過(かんか)できぬことであった。


「ソウソウ会長、かつてのあなたはまずご自身が楽しまれていた。そして、それを皆に与えて楽しませる人であった。


 それが今はどうですか。皆の楽しみを守ろうとご自身を殺そうとされている」


 そのジュンイクの(つめ)るような物言いに、ソウソウも強く反論する。


「それが人の上に立つということだろう。拡大は必要だが、今あるものも守っていかねばならない」


 だが、ジュンイクはさらに強くソウソウに噛み付く。


「そのためにあなたが犠牲になっていいはずがない!


 私はあの日、あの時、まだ一般生徒であったあなたの手を取り、あなたを生徒会長にすると誓った。ですが……その判断は間違っておりました」


 その言葉にソウソウは目を見開いて答える。


「それは私が力不足であったということか?」


「違います。それはソウソウをソウソウでないものに変えてしまうものでありました。


 ここでやめにしませんか?」


 ジュンイクの漠然(ばくぜん)とした問いかけに、ソウソウは強い口調で聞い返す。


「何をやめる?


 選挙戦か? 生徒会長か? それともこの覇業か?」


「その全て……!」


 ジュンイクは(うる)う目をソウソウにまっすぐ向けてそう告げた。その目を受けてソウソウはさらに強い口調で尋ねた。


「そんなこと出来るはずがない。ここまでともに歩んできた者全てを裏切る行為だ」


「ソウソウ会長に卒業後まで重荷を背負わせる者を気遣う必要はありません!」


「私にこの学園で得たもの全てを捨てろというのか!」


 そのソウソウの絶叫に、ジュンイクは一拍(いっぱく)置いて答える。


「全てではありません。私が残ります。


 このジュンイク、この時限りをもって生徒会副会長を辞めさせていただきます!」


「何だと?」


 ジュンイクの言葉に思わずソウソウは我が耳を疑った。だが、そう語る彼女の目は決して嘘や冗談のものではなかった。


「私はもう生徒会長・ソウソウの部下、副会長・ジュンイクではありせん。ただのソウソウの友人・ジュンイクです。


 どうか、ソウソウ様におかれましては生徒会長の役目を()し、ただの一般生徒・ソウソウとして私とお付き合いくださいませ」


「ジュンイク、お前は何を言っているんだ……?」


「あなたをここまでにした発端が私にあるのであれば私は全力で止めます。そしてどこであろうと付き合います。転校であろうと就職であろうとも」


「ならば副会長として私に今まで通り付き合え」


 ソウソウの怒りとも泣き言ともとれる言葉に、ジュンイクは首を横に振って答える。


「それはできません。あなた一人を地獄に落とすことを知りながら、これ以上、副会長として付き合うこもはできません」


「ならば、お前も理事になるか?」


「それもできません。元々、ソウソウ様お一人を理事にするのでも相当の無理を通しているのです。さらにもう一人なんて現実的とは言えません。


 それに今は私自身、すでに一つの派閥(はばつ)(おさ)となっています。私まで理事になればそれこそ陣営を二つに割りかねない」


 そのジュンイクからの言葉に、ソウソウは我に返ったように冷静な態度に戻った。


「……わかっている。無理を言った。


 しかし、急に私が生徒会長を辞めるなんて出来るはずがない。それは今までついてきてくれた者への裏切りだ」


 例え冷静になっても、いや、冷静だからこそ、ソウソウはこの一点だけは譲ることができなかった。


「そのためにご自身を犠牲にすることになるのですよ」


 さらにジュンイクの言葉が彼女に響く。だが、彼女はそれをはねのけた。


「構わん! それが始めた者の責任だ!」


「ならば、ここまでです」


 ジュンイクはくるりとソウソウに背を向けた。


「待て、どこに行く!」


「言ったはずです。私は副会長職を辞めると。辞めた以上、ここにいる理由がありません」


「どうしても、残ってはくれないのか?」


「例え残ってもソウソウ様を救えぬ無力な私では何の役にも立たないでしょう。


 ソウソウ様、あなたがそのしがらみから解放され、ただのソウソウとなった時、再び友人としてお会いいたします。


 それまでは失礼させていただきます」


「そうか、ジュンイク……お前は強情だからな。


 もし、私がどうしても耐えられなくなって逃げ出すようなことがあれば、お前を頼ろう。


 だが、その時までは……しばしの……別れだ……」


「はい……その時まで、お元気で」


 この日、ジュンイクは生徒会に関わる全ての職を辞し、ソウソウの元を去った。最初期からソウソウを支えてきた王佐(おうさ)(王者を補佐する才能)の賢者の突然の辞別(じべつ)に学園に激震が走った。


 だが、周囲もソウソウに対してどう声をかけて良いのかわからず、その衝撃はひとまず表面化することはなかった。


 だが、その訣別(けつべつ)に多くの憶測(おくそく)を生み、後々に大きな波紋を呼ぶこととなる。


 話は現在に戻る。参謀・ジュンイクは去ったが、眼の前のソンケンは去りはしない。ソウソウは傷心を()やす(いとま)もなく戦いは始まっていった。


 先に攻撃を開始したのはソウソウであった。ソウソウ軍は渡り廊下を抜け、強引にソンケン領へと侵攻した。


 対するソンケン軍の防衛指揮官は才気煥発(さいきかんぱつ)な若き武将・リョモウ。リョモウはソウソウ軍の先鋒を巧みに誘導して罠に()め、包囲して大打撃を与えた。


 その報告に東の盟主・ソンケンは気を良くした。


挿絵(By みてみん)


「良くやったぞ、リョモウ。


 よし、この勢いのままソウソウ軍を攻め、奴らを蹴散らそう!」


 赤紫の髪の少年・ソンケンは興奮気味にそう語るが、傍らの武将がそれに待ったをかけた。


「待て、ソンケン。


 敵を打ち破ったとはいえ、それはソウソウ軍全体から見ればわずかな被害だ。それに痛手を被ったソウソウが対策をしないわけがない」


「ソンユ兄さん、ソウソウ軍は強大なことはわかっています。しかし、みすみす好機を逃してはいつまでも打ち倒せません。


 ショーキン、先鋒を務めろ。我が軍は出撃だ!」


 ソンケンの従兄・ソンユらはこれを止めたが、勢いに乗るソンケンはそれらを無視してソウソウを攻めた。


 ソンケン軍がソウソウ陣営に近づくと異様に静かであった。ソンケン側からは人影すら見当たらず、もしや撤退したのではと、(いぶか)しみながらも恐る恐る近づくと、何処(どこ)からともなくソウソウ軍がワッと一斉に現れて、ソンケン軍に襲いかかった。


「しまった、罠だ!


 ソンケン様、あたいの後ろに隠れな!」


 栗色の髪をポニーテールにまとめた女武将・ショーキンが(あせ)った様子で声を上げる。


 だが、そんな状況でもソンケンは冷静であった。的確な指示で被害を最小限に食い止め、統制を失うことなく撤退していった。


「ふむ、見事だ、ソンケン」


 その撤退の様はソウソウすら感心するものであった。


 ソウソウはこの戦いでソンケンの武将・コウソンヨウを捕虜とする戦果をあげるが、こちらも致命傷を与えるほどの被害ではなかった。


 〜〜〜


 両者痛手を(こうむ)ると、それ以降は小競(こぜ)り合いこそあったものの、大きな戦いには発展せず、時間ばかりが経っていった。


「チョウショウ公、この度のソウソウの動きは精彩さに欠けるようだが、あなたはどう見る?」


 この陣営の長・ソンケンは、子供のように小柄な漢服(中国風の着物)を着た女生徒、相談役・チョウショウに尋ねた。


挿絵(By みてみん)


「噂にあるソウソウの理事就任という話が現実味を帯びてきたのかも知れませんな。そのために敵の意識が分散しているのやも。


 それと、これも噂ですが、ジュンイク殿が副会長職を辞めてソウソウから離れたとも聞いております」


 そのチョウショウからの言葉に、ソンケンは驚いて聞き返した。


「ジュンイクといえばソウソウの最初期からいる右腕だろう。何があったんだ?」


「噂によればソウソウの理事就任に反対してクビになったとも」


 この時、ソンケン陣営ではまだ、ジュンイクの辞職は噂段階であった。しかし、そう考えた方がむしろ()に落ちる状況だとソンケンは考えた。


「ふむ、軍師を失って体制にヒビが入ったのなら、この度のソウソウの動きにも納得がいく。


 このまま強引にでも攻めようか?」


 ソンケンにとってはまたとない機会。だが、ソンケンが攻勢に移るか迷っている時に、彼のもとに新たな悲報が届けられた。


 それはソンケンのもう一人の参謀・チョウコウが(やまい)のために休学するというものであった。


「なんということだ……


 ソウソウばかりか、僕までも軍師を失ってしまったか」


「いかがされますか、ソンケン様?」


「チョウコウが欠けたのなら僕らも体制の立て直しが必要だ。


 やむを得ない。ソウソウとは一時休戦しよう。この様子なら奴も応じるだろう」


 ソンケンはソウソウに手紙を送って休戦を呼びかけることにした。


 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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次回は8月26日20時頃更新予定です。

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