第17話 会合!コウソンサンとエンショウ
俺、リュービは、選挙戦で少しでも自身の知名度を上げるため、義妹、カンウ・チョーヒと共にコウソンサン先輩の元へ向かった。
「そういえば先輩、馬術部部長に戻ったんだったな。
その様子見も兼ねて行ってみようか」
コウソンサン先輩は俺が中学の時に世話になった人で、北校舎の更に北端で馬術部部長をやっている。
一時、トータク戦の時に離れていたが、騒動も収まり、再び部長に戻ったという話である。
ボブカットに少し太めの眉とタレ目気味の目。
何かと面倒見のいい先輩で俺のことを実の弟のように気にかけてくれて
「リュービ!お姉ちゃん会いたかったよ!」
俺のことを見つけると全力で抱きついてくる人だ。
先輩は上着はほとんど羽織らず、ブラウスだけの場合が多いから、抱きつかれるとかなりダイレクトにその感触を味わうことになる。
「だからなんですぐ抱きつくんですか!」
「アニキから離れろ!」
カンウ・チョーヒが俺を引き剥がそうとしている。先輩の大きな胸に顔を埋めているとなんかこのままでいいような気もするが、そうもいかないんだろう。少し惜しいが、カンウ・チョーヒに協力して先輩から離れる。
「ぷはっ、先輩、お久しぶりです」
「リュービ、なかなか会いに来てくれないから、お姉ちゃん寂しかったよ。どうだい?もう一度私の胸の中で旧交を温めないかい?」
先輩の提案はとても興味深いが、後ろのカンウ・チョーヒの二人が凄い睨んでいるのでやめておこう。
「コウソンサン先輩!なんで兄さんにすぐ抱きつくんですか!」
「カンウ、これは姉弟のスキンシップさ。君達もよく抱きしめてもらってないのかい?」
「な、そ、そんなことしません!」
顔を赤らめてどぎまぎしているカンウはちょっと新鮮だな。
妹とのスキンシップか。カンウの大きな胸に包まれるように抱き締められるのもいいな。チョーヒは体が小さいから反対に俺が包み込むように抱き締める形になるかな。それはそれでなかなか…
「兄さん、何を考えていますか?」
「え、いや、別に、そんな…ははは」
「兄さん!エッチなこと考えてないでしょうね!
でも、その…そういうのではなく普通のスキンシップとしてでしたら、その…私はやるのはやぶさかではないと言いますか…」
「ア、アニキ、オレもアニキがどうしてもと言うんなら、オレは別に…」
二人が恥ずかしそうにしているとこちらまで恥ずかしくなってくる
「ふふふ、さて、イチャイチャするのはこれくらいにして、本題に移ろう。
リュービ、生徒会役員になる気はあるかい?」
「え、いや、俺はそんな…」
「はい、もちろんです」
「アニキならきっといい学園を作ってくれるぜ!」
俺の意思とは別に、二人とも曇りのない目で即答する。弱ったな…
しかし、ここまでまっすぐ言われると否定しづらい…
カンウ・チョーヒの返答を受けてコウソンサン先輩は話を続ける
「そうか、ならもっと交友を広げないといけない。それで私のところに来たんだろうが、私ではリュービの力になってやれない。もっと強い人を頼らなきゃ。
生徒会役員になるなら次期生徒会長に協力して代わりに役員を報酬としてもらう。それが一番の近道だ。
今一番会長に近いのはエン姉妹だ。恐らくどちらかが生徒会長になるだろう。ソウソウも票を伸ばしつつあるが、この二人を倒さないと会長は無理だろう。
今、多くの部活はこの二人の庇護下に入ろうとしている。勿論、選挙に我関せずの部活もあるがね。
リュービもせっかく連合軍でこの二人と知り合ったんだ。何かコネを作っておくべきじゃないかな」
前生徒会副会長だったエンショウと会計だったエンジュツの双子の姉妹。やはり下馬評では、この二人のどちらかが次期生徒会長になるという予想であった。
「うーん、知り合ったといってもほとんど面識なんてなかったですし、向こうは覚えてないと思いますよ」
エンショウとはソウソウと一緒に少し話したが…いや、ほぼソウソウが喋ってたな。さすがに俺の名前なんて覚えてないだろう。
「そこでだ。私と一緒にエンショウの下にいかないか?」
「先輩はエンショウにつくんですか?」
「ああ、馬術部とエンショウで同盟を結ぶという話が出ててね。今度、エンショウが部室に遊びに来ることになってるんだ。その時、リュービに接待をしてもらいたい」
「接待なんて俺にできるかな」
「なに、ちょっと話してくれればいいんだ」
生徒会役員になりたいなんて思ってないんだが、カンウ・チョーヒの応援やコウソンサン先輩のお膳立てを考えると断りづらい…
まあ、生徒会選挙なんて簡単に勝てるものじゃないし、ダメ元でやってみるか。それで落ちたらみんなも諦めてくれるだろう。
「うーん、わかりました。やってみます」
「そうかい、やってくれるかい。頼むねリュービ!
(ふふ、リュービが乗ってくれた!エンショウの事はあまり好きじゃないけど、あれが生徒会長になれば私とリュービを生徒会役員にしてもらおう。これでリュービと一緒にいられる!)
ふふふ、頑張ろうねリュービ!」
北校舎・馬術部部室~
「いいかい?エンショウを出迎えてお茶を出して少し話をしてくれ。数分したらお姉ちゃんが行くからそこで皆で会食だ
とにかくリュービの名前を覚えてもらうんだよ!そろそろ来るから頑張って!」
綺麗に整頓され、飾り付けられた部室で、俺は先輩の言いつけ通りにエンショウを待った。
しばらくしてノック音と共にエンショウの来訪を告げる声が聞こえてきたので、俺は扉をゆっくりと開け、エンショウを招き入れた。
「ようこそお越し下さいました、エンショウさん。どうぞこちらに」
やや赤みを含んだ薄い紫のウェーブのかかった長い髪に小鳥の髪飾り、胸元に一際大きな金色のリボンをつけ、白いマントを羽織った女生徒・エンショウが部屋に入ってきた。
エンショウのお付きの人だろうか、彼女の後ろから水色とピンクの髪の色をした二人の長身の女生徒が続いて入ってきた。
エンショウは美人でスタイル抜群だが、近寄りがたい雰囲気でどうも苦手だ。しかし、せっかく先輩が用意してくれた舞台、失敗するわけにはいかない。
「ええ、お邪魔しますわ。
…あらアナタどこかで会ったかしら?」
完全に忘れられていることも覚悟していたが、どうやらエンショウは俺の顔を覚えていたようだ。
「はい、お…私は流尾玄徳、リュービといいます。先日の連合軍で一緒になりました」
「そうだったのね、連合軍で…」
それで納得したのか、会話が終わってしまった。
ここで話が終わってはなんのための接待役かわからん。しかし、エンショウは話しかけづらいな。後ろの二人から話してみようか。
「後ろのお二人もお茶をどうぞ」
「この二人は私の部下だから気にしないで」
エンショウにあっさり却下されて、またしても話が終わってしまった。
うーん、どうしたものか?
「思い出したわ!貴方ソウソウの彼氏ね!」
エンショウが突然立ち上がって俺を指差す。何を言い出すんだこの娘は?
「え、いや、お、俺は別にソウソウと付き合ってるわけじゃ…」
「ふーん、まだ付き合ってなかったの…
じゃあ、リュービ、貴方、私のものになりなさい!」
「え、え、え、いやなんでそんな突然…」
「貴方がソウソウのお気に入りなのは間違いないわ。それなら私のものにしてソウソウに自慢してやるの」
ホント、この人ソウソウのこと好きだな。でも、そんな理由で所有物にされちゃたまらない。
「もの扱いなんてごめんだ。対等に扱ってくれるならまだ…」
「対等ですって!
ま、まさか、それは、こ、こ、こ、恋人になれってことですの!」
「恋人ってなんの話かな!」
エンショウの張り上げた声が聞こえたのか、コウソンサン先輩が部屋に入ってくる。明らかに不機嫌な顔だ。これはちょっとまずいかもしれない…
「違いますわ!私はただこの男が欲しいと言っただけです!」
「いや、違うんだ、先輩!」
「な、な、な…よくも私の弟に手を出してくれたな…!」
「弟?でも苗字も違いますし、先程先輩って…」
「苗字が違おうと、私とリュービは魂の姉弟なんだ!」
「貴方何わけのわからない事を仰ってるの?いいからその男を私に寄越しなさい!」
まあ、そうなるよね。魂の姉弟言われても困るよね。しかし、先輩をなだめなければ、怒らせると結構怖いんだよな。
「待ちなさい!うちの兄さんは貴方なんかに渡しません!」
「アニキから手を離せ!」
「貴方、何人兄弟ですの?」
「ですよねー」
ただでさえ、ややこしい状況なのにカンウ・チョーヒまで参戦してしまった。困ったな、俺はこの事態を収拾つける自信がない。
「早く離れなさい!さもなくば!」
「貴方が私を倒せると思っていますの?ガンリョウ・ブンシュウ、相手をしてあげなさい!」
カンウがエンショウに凄むが、相手は一向にひるまず、後ろの二人に命令する。
水色のセミロングの少女・ガンリョウとピンクのショートの少女・ブンシュウがカンウ・チョーヒの前に割って入る。
カンウ・チョーヒを前にしても一歩もひるまないところをみると、この二人も相当強いのだろう。一触即発の空気が流れる。
「待ちな…エンショウ。私の弟に手を出して無事で済むと思うなよ…戦争だ!戦争をしようじゃないか!」
「望むところですわ!私との格の違いを教えてあげますわ!」
こうしてコウソンサン先輩とエンショウとの開戦が決定した。
なんでこんなことに…?俺か?俺が悪いのか?