第145話 盲点!知られざる天敵!
この頃、東校舎のソンケンは北側に本拠地を移し、更に防衛を強化していた。それは北側の勢力・ソウソウとの対決姿勢を表すものであった。
これに対して生徒会長・ソウソウはソンケン討伐を決定。そして、その討伐軍の軍師には副会長・ジュンイクが任命された。
だが、両者多忙のため、ソウソウとジュンイクは別々に出発し、現地合流となった。
「ソウソウ会長、ジュンイクただいま到着致しました」
「待っていたぞ、ジュンイク」
既に到着していた赤黒い髪と瞳に、赤みがかった長い黒髪、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートの生徒会長・ソウソウに対し、ショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な少女・ジュンイクが頭を下げて挨拶をする。
彼女たちがいるのは中央校舎東部。眼前の渡り廊下を進めば、ソンケンのいる東校舎という最前線であった。
しかし、その渡り廊下の前をソウソウ軍が堅め、既に防備は万全であった。
周囲を見渡し、改めて自分が最前線に来たことを認識した丸眼鏡をかけた女生徒・ジュンイクはソウソウに話しかけた。
「まさか、再びこのような場所に呼ばれるとは思いませんでしたよ」
「そうだな。軍師・ジュンイク、この肩書も久しぶりだろう。昔は常に私の側にいたものだがな」
ソウソウが選挙戦に臨んだばかりの頃、ジュンイクはその軍師を務め、常に傍らにいた。しかし、勢力が拡大するにつれ次第に留守を預かることが多くなった。彼女が副会長に就いてからは尚更、戦場に同行することはまずなかった。
その頃を懐かしみながらソウソウはジュンイクに語りかけた。
「最近はお互い忙しくなり、ゆっくり話す機会もなくなってしまった。お前とは話したいことがいくらもある。
バチョウはとんでもなく強かったぞ。だが、カコウエンたちも相応の成長を見せてくれた。後、西北にはお前そっくりの女の子がいた。今度使者に来た時、お前にも会わせてやろう」
「バトウを追放処分とされましたね」
嬉々と語るソウソウに向かって、水をかけるようにジュンイクは切り出した。それに対してソウソウは重たそうに口を動かした。
「……ああ、奴はバチョウの兄だからな」
「乱に参加したヨーシューには今まで通りと軽い処分で済まされました。
対してバチョウの兄というだけでバトウを追放という重い処分にするのは少々チグハグではありませんか?」
ヨーシューとバトウ、二人の処遇の差をジュンイクは問いかける。だが、ソウソウも譲らない。
「まだバチョウに与した軍閥がいくつも残っている。ここでヨーシューに重い処分を降せば他の連中が徹底抗戦を行う恐れがある。
だが、首謀者であるバチョウだけは重い処分を与えねばならない。兄のバトウに重い処分を与えたのはその意思表示だ」
「……世間ではヨーシューを軽い処分で済ませて批判を集めたために、バトウに厳しい処分を与えて批判のはけ口とした、という意見も出ておりますが」
「……根も葉もない噂だ」
ソウソウは笑い飛ばすようにそう答えた。
この話をこれ以上しても無駄と悟ったジュンイクは次の話題に移った。
「ここ最近のソウソウ会長は働きすぎです。もう少し仕事量を減らした方が良いのではないでしょうか?」
そのジュンイクの言葉に言わんとすることを察したソウソウは重たい雰囲気のまま、その口を開いた。
「それは私の理事就任の話のことだな?」
その問いにジュンイクは黙って頷いた。仕事を減らせとは裏を返せば、これ以上の仕事を増やすなということだ。その反応を見てソウソウは続けて答える。
「ふぅ……お前とはもっとゆっくり話したかったんだがな。
ジュンイク、君はあの理事就任の話を断るべきだと言うのだろう。だが、私はあの話を受けようと思っている」
ソウソウの回答にジュンイクが問う。
「それは何故ですか?」
「まず一つに赤壁での責任を取る必要があるからだ。
私の失態のためにさらなる混迷を生んでしまった。そのために私の信用に揺らぎが生じ、いくつもの反乱を招いてしまった」
そのソウソウの言葉は、ジュンイクの胸にズキリと響いた。
「それは私があの時に、あなたの責任だと責めたからですか?」
ジュンイクの罪悪感を払拭するように、ソウソウは首を横に振る。
「そのせいではない。
だが、今この流れを一度断ち切る必要がある。そのためにもここで威信の再構築が必要なんだ。
更に言えばリュービが私に並ぶほどの英雄になってしまった。私の信用の揺らぎを的確に見抜き、その受け皿になってしまっている」
またしても出るリュービの名。その名にジュンイクは激しく反応する。
「私は入学時に全ての生徒を見て回りました。その時のリュービは到底、ソウソウ会長に並ぶほどの人物とは見えませんでした……。
ソウソウ会長、リュービは確かに大きな勢力となりましたが、それを過剰に反応すべきではありません」
そのジュンイクの言葉に、ソウソウは少し笑みをこぼして返す。
「ジュンイク、人は成長するものだ。
それに私の及ばぬ部分の受け皿になるのなら、何も私と同じ能力を持つ必要はない。あいつは私と全く違う方法で私と並んだ」
思えばこれまで二人三脚でやってきたソウソウとジュンイクの二人であったが、リュービを巡っては意見の一致を見なかった。
リュービを認めなかったことが今のこの事態に繋がったのかもしれないと、ジュンイクも考え直すようになっていた。
「わかりました。私の認識を改めます。
しかし、それでもソウソウ会長を超える存在にはなり得ません。ソウソウ会長が理事にならずとも充分に倒せる相手です」
その言葉にソウソウは続けて返す。
「リュービ以外にも懸念はある。ジュンイク、君が全校生徒を見たのは入学時だったな。
まだお前の知らぬことがある。
ついてきてくれ、前線に出るぞ」
ソウソウはジュンイクをと武装した自軍を引き連れて、敵・ソンケンと対する最前線、渡り廊下の直前まで前進した。
「見よ、ジュンイク」
「こ、これは……!」
ジュンイクの眼前に広がるのは人、人、人。
渡り廊下の入口から廊下の奥に至るまで、ソンケン軍の兵士が準備万端といった様子でこちらを窺っている。今もソウソウ本軍が全面に出たことで一瞬にして臨戦態勢が整えられていた。
「入学時に全校生徒を見たきりならば、一学年下のソンケンを知るまい。奴もまた私やリュービに並ぶもう一人の英雄だ。
おや、ソンケン自らお出ましのようだ」
渡り廊下の対岸に赤紫の髪をした男が奥より現れ、ソウソウと対峙するように立っていた。遠目からは少年のようなか細い体格に映るが、その目はしっかりとこちらを見据え、強い意志が感じられた。
「あれがソンケン……校東の碧眼児……」
「せっかくだ、話をしよう。ジュンイク、ついてこい。他の者は同行を禁じる」
たった二人でソンケン軍の真正面に行こうとするソウソウをジュンイクは血相変えて止めに入る。
「お待ち下さい、危険です!
ソンケンが応じるとは限りません!」
「応じるさ」
そういうとソウソウは渡り廊下に踏み出し、対岸のソンケン目掛けて語りかけた。
「ソンケン! 渡り廊下の中央で話をしよう!
私は部下を一人連れて行く。君も一人連れてこい」
そう言うとソウソウは軍師・ジュンイク一人を伴い、渡り廊下の中央へ向けて歩き出した。
一方、ソンケンも一人の女生徒を伴い渡り廊下を歩き出した。連れ出した生徒も背が低く、長い髪に、黒い漢服(中国風の着物)を身に纏った女性で、あちらも軍師のようであった。
両陣営の間を繋ぐ渡り廊下のちょうど真ん中で、両雄は対面した。
「よく来た、ソンケン」
「ソウソウ自ら何用ですか?」
ソウソウに返すソンケンの言葉遣いはあくまで丁寧であったが、その語気に謙る様子は見られなかった。
そんな彼に対し、ソウソウはあくまで尊大に応じる。
「ソンケン、我が姉弟よ。
何故、生徒会に逆らい、リュービに従い罪を得たのか?」
ソンケンはまっすぐにソウソウに向い、答える。
「ソウソウ、あなたは生徒会長の地位を利用し、生徒の自由を奪った。
僕は東校舎の代表として生徒を守るために立ち上がっただけだ。戦うためにリュービと同盟を結んだが、彼に従ったからではない」
その答えにソウソウはフッと笑う。
「なるほど、あくまで自分の意志によるものか。
私の後ろにいる大軍が見えるな。君はこれを相手にする勇気があるか?」
ソウソウはあくまで威圧的な態度をとるが、ソンケンは表情一つ変えはしない。
「我が軍が赤壁で破った敵軍はこれより多かったですよ」
「ふふふ、赤壁は我が軍で風邪が流行ったから撤退したにすぎない。ましてやその時の司令官・シュウユは引退した。
果たして君に勝てるかな?」
その言葉にソンケンは始めて笑みを見せて答える。
「試してみますか?
いつでもお相手しますよ」
その言葉にソウソウは満足したようにニヤリと笑った。
「見事な度胸だ。その度胸に免じ、まずは君に一勝を与えよう」
ソウソウは踵を返し、引き上げようと一歩踏み出したが、思い出したかのように振り返り、ソンケンに再び尋ねた。
「そうそう、私の友人のソンフン、ソンホと連絡が取れないのだが、何か知らないかな?」
その問いにソンケンは一瞬、顔を引きつらせたが、すぐに何事もないかのように答えた。
「二人は僕の従兄弟ではありますが、それ以上の親交はないのでわかりかねます。
もし会う機会がありましたら伝えておきましょう」
その答えを聞くと、ソウソウは笑いながらジュンイクを連れて自陣へと戻り、それを見てソンケンも自陣へと引き返した。
〜〜〜
自陣に戻ったソウソウは大笑しながら、傍らに立つ軍師・ジュンイクに向かって話しかけた。
「ハッハッハ、見たかジュンイク。あれがソンケンだ。
まだ一年生ながら強い意志を持ち、脅しにも屈さずに毅然とした態度で返す。その上、堂々と嘘までつける豪胆さ。
隣の女生徒は参謀のチョウショウであろうが、ついぞ頼らなかった。
弟を持つならソンケンのような弟を持つべきだな」
「内向的な子と聞いておりましたが、まさかあそこまでの傑物とは思いませんでした」
ジュンイクの言葉を聞くと、一転、ソウソウは真面目な顔つきに変わり、再び話しだした。
「ジュンイク、私が理事になるもう一つの理由がこれだ。
私とリュービは同じ時に卒業する。だが、一学年下のソンケンは残る。その時、我が陣営はソンケンに呑まれないか?
例えば私の弟が後を継いだとしてソンケンに勝てるだろうか?」
「それは……」
その言葉にジュンイクはソウソウの本心を察した。彼女の一番の懸念がなんであるのか、何故、理事にまでなろうとしているのかを。
ジュンイクはその不安を拭い去るようにソウソウに言った。
「ソウソウ会長の弟、ソウヒ・ソウショウ・ソウショクの三人はいずれも傑物であります。ソウソウ会長からの目にはそう見えませんか?」
ソウソウは困ったような表情で視線を少し下に落とした。
「わからないんだ。私は才能を見込んだ者のみ名を覚える。世間では私に名を覚えられただけで一つのステータスになるようだ。
だが、弟は違う。産まれた時から接し、ともに暮らした弟たちは才関係なく名を覚えている。
私には最初から名を覚えている弟たちの才能がわからないんだ」
その告白はジュンイクに衝撃を与えた。
ソウソウは一度でも才能を見込めばその名を忘れることはない。反対に評価されなければ存在すら認識してもらえない。
それはソウソウ陣営においてある種、絶対の評価の基準。
だが、その評価の外にいる者がいた。幼い頃よりともに暮らす弟は当然、名を知っている。それは能力を認めたからではない。当たり前に知っている存在だからこそ評価を下せぬ存在、それが実の弟たちであった。
「ソウソウ会長の能力にそんな落とし穴があろうとは……」
ジュンイクも知らなかったソウソウの能力の欠点。それを知った今、かける言葉はすぐに出はしなかった。
しかし、それは避けては通れぬ問題であった。
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