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第144話 驚天!蠢く計画!

 生徒会長・ソウソウはバチョウ残党の一人・ヨーシューを降伏させると、新たな反乱の鎮圧のために北校舎へ向かった。


 北校舎で反乱を起こしたデンギン・ソハクに対し、留守を預かるソウソウの弟・ソウヒは将軍・カシンを派遣。これにソウソウが先行して派遣したソウジンが加わり、ソウソウが北校舎に到着する時には反乱は鎮圧されていた。遅れて到着したソウソウは経過報告を受け取ると、そのまま中央校舎の生徒会室へと向かった。


 〜〜〜


 場所は変わって中央校舎・生徒会室。ソウソウがここに戻るより少し前、こちらでも大きな動きが起ころうとしていた……。


「……もう一度、言っていただけますか、トウショウ」


 この声の主はショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な少女、生徒会副会長・ジュンイクであった。


挿絵(By みてみん)


 今、生徒会室にはこの少女ともう一人の女生徒の二人のみがいた。


「はい、ジュンイクさん。


 私たちはソウソウ会長にこの学園の理事になっていただこうと思っております。これにジュンイクさんも賛同していただきたい」


 そして、彼女に向かい合って座るのは、金髪の頭にヘアピンをいくつもつけ、口には棒付きキャンディーを(くわ)えた、日焼け肌にミニスカートの女生徒、同じく生徒会の一員・トウショウ。


 彼女の見た目に似合わぬ丁寧な口調に対し、ジュンイクもまた穏やかな態度で答えた。


「……学園の理事というのは学園の運営に関わる立場です。生徒会とは全く異なるものですよ」


 その突拍子もない計画に対して、ジュンイクは眼の前の彼女に改めて尋ねた。


 理事はその学校法人を代表し、その業務を執行していく組織。数名によって運営されるが、それはこの三国学園も例外ではない。


 トウショウはその理事の一人に現生徒会長・ソウソウをねじ込もうと画策していた。


「わかっております。


 しかし、トータクがこの学園を支配した時に、ソウソウ会長はいち早く立ち上がり、以来、今日に至るまで多くの悪童を更生させ、学園の安寧に貢献して参りました。


 これまでの功績を思えば生徒会長という地位だけでは到底足りないとは思いませんか?」


 そう語るトウショウの見た目は金髪ギャルだが、その目には冷徹さを含んでいた。


 だが、ジュンイクもまた冷静に答えた。


「未だ学園に平和は訪れておらず、ソウソウ会長は道半ばです。順序で言えばリュービ・ソンケンら反乱勢力を討伐するのが先でしょう」


 その言葉にわずかにトウショウの目が(くも)る。


「そのリュービ・ソンケンは今や勢力は隆盛しております。彼らを倒すためにも生徒会長以上の立場が必要なのです」


 その言葉にジュンイクは軽くため息をつく。


「そちらが本音ですか。


 いえ、それだけではないですね。本来の目的はソウソウ会長の権力の継承。ソウソウ会長の卒業後、その生徒会長の地位を円滑に後継者に譲るためにより高位の地位につけようとしている。


 つまり、あなたはもう、ソウソウ会長の代で学園統一は叶わないと判断したわけですね」


 このジュンイクの言葉にトウショウはようやく声を荒げた。


「仕方がないでしょう!


 ジュンイクさんも赤壁(せきへき)の一件以降、学園の空気が変わっているのを感じているでしょう。


 何もソウソウ会長には学園統一は不可能とは申しません。しかし、保険をかけておくに越したことはないでしょう!


 ソウソウ会長の卒業と同時にこの陣営が崩壊したとあっては、ついてきた後輩に申し訳がないでしょう!」


「それで理事というのは悪手でしょう。


 そもそも、理事というものは簡単になれるものではありませんよ」


「今、ソウソウ会長以上にこの学園の功労者はいますでしょうか?」


「確かに規約には理事就任者の資格に学園の功労者とはありますが、それは学園の設立や運営に関わった功労者や社会で功績を上げた者という意味です。現役高校生がなるようなものではありませし、私たち生徒が賛同したぐらいでなれるものでもありません」


「わかっています。生徒の賛同はあくまでソウソウ会長にやる気になっていただくために行うものです。多くの生徒がソウソウ会長の理事就任を望んでいると解かれば会長も無碍(むげ)にはされないでしょう。


 そして、(しか)るべき人物に推薦者になっていただき、その後ろ盾を得ればなるのも可能です。ソウソウ会長の父は名士として名高く、さらに今はエンショウ様が我らの陣営についております。かの実家の後押しに加えて、今ならリューキョー学園長から推薦をいただくこともできるでしょう。この他、生徒会の役員の家族には有力者も多い。


 今のこの状況を使えば、後はソウソウ会長がその気になりさえすれば充分可能であると考えております」


 エンショウは財閥(ざいばつ)の令嬢で、かつてはソウソウと対立していた。しかし、カントの戦いでソウソウに敗れてからは彼女の陣営に加わっていた。また、リューキョー学園長も今はソウソウの保護下にある。


 そういう力を使い、ソウソウを理事の一人に据えようというものであった。


 その計画を聞かされジュンイクも思わず言葉を失ってしまった。


「……驚きました。まさか既にそこまでの算段を整えているとは……」


 ジュンイクはそう呟き、正面に座るトウショウに改めて目を向けた。彼女は格好こそ奇抜(きばつ)だが、かつてはエンショウ陣営にいた。さすがは両陣営で用いられた知恵者といったところだろうか。


「ご納得いただけましたか。既にエンショウ様とも学園長ともこの話は進めております。


 そして、さらにこれだけの者がソウソウ会長の理事就任に賛同しております」


 金髪ギャル・トウショウは巻物を取り出すと、机に広げた。そこにはソウソウ陣営の重臣たちの署名がずらりと並んでいた。


 ジュンイクはつぶさにこの署名群に目を通した。


「ん……最初の署名がジュンユウですか。


 それにショーヨー、リョウボウ、モウカイ、カコウトン、オウチュウ、センウホ、テイイク、カク、オウサン、フソン、エンカン、オウロウ、トシュウ、ソウコウ、カンコウ、ソウジン……。


 この他の署名者も生徒会の役員ばかり……よく集めましたね」


 書き連ねられた名はジュンイクもよく知る人物ばかり。その中には名家の子も多い。向いに座るトウショウはその実家の力も(あて)にできると言いたげであった。


「もうじき、西北の変事も一段落することでしょう。そうなれば今、西北に赴いているカコウエンさんたちも帰ってきます。きっと彼女たちもこれに署名していただけることでしょう。


 しかし、そこまで待たずとも、ジュンイクさん。あなたは長きに渡りソウソウ会長の腹心を務めてきたお方だ。その事は学園の誰もが存じ上げております。そこにあなたの署名が加わればきっとソウソウ会長も納得していただけるでしょう」


 トウショウはそう言いながら、彼女に万年筆を差し出した。


「なるほど、ソウソウ会長より先に私の説得ということですか。


 ですが、私は署名する気はありません」


「何故ですか?」


 ジュンイクの言葉に、一瞬、トウショウが顔を(ゆが)めたが、彼女はあくまで丁寧な態度を崩さずに尋ねる。


「ソウソウ会長が初め選挙戦に(のぞ)まれたのは、生徒会長になってこの学園に安定をもたらすためです。学園の安定を(あきら)め、自陣営の安定のみを望むのはソウソウ会長の本位ではありません。


 それに理事は生徒会長と違い、学校卒業以降も続けていくものです。あなた方は自分の願望のために卒業以降も彼女をこの学園に(しば)り続けるつもりですか?」


 そのジュンイクの毅然(きぜん)とした態度に、トウショウはこれ以上の問答を(あきら)め、差し出した万年筆を引っ込めて答えた。


「わかりました。この場は引き下がりましょう。


 しかし、それでも私はこの計画をソウソウ会長に伝えます」


「私は反対します。それだけは申し上げておきます」


 ジュンイクの意志はあくまで固く、トウショウの話し合いは決裂して終わった。だが、これが始まりであることをジュンイクは薄々感じ取っていた。


 〜〜〜


 このような話が進行しているとは(つゆ)知らず、ソウソウは中央校舎に帰還した。


 だが、長く中央校舎を空けていた生徒会長であるソウソウには仕事が山のように()まっており、副会長であるジュンイクも多忙であり、ソウソウの理事推薦の話は後回しにされていた。


 帰還後のソウソウがまず最初に行ったのは、反乱者・バチョウの兄で現生徒会役員の一人・バトウの追放処分であった。


 赤黒い髪と瞳の少女・ソウソウが眼前に連れ出された男に対して言う。その言葉にはどこか申し訳無さを含んでいた。


「すまんな、バトウ。


 今回の件はお前自身には(とが)がないことはわかっているのだが、ケジメをつけねば収まりがつかないようだ」


 彫りの深い顔立ちの大柄な男子生徒・バトウはソウソウの前に跪き、彼女の言葉を受け入れていた。


「わかっております。


 妹が素直に従うような人物で無いことがわかっていながら放置したのは私です。責任を負うには充分です」


「お前をバチョウとの交渉役として活用しようという話もあるがどうだ?」


 粛々(しゅくしゅく)と全てを受け入れようとするバトウに、ソウソウは聞き返す。


 だが、その言葉に対してバトウは首を縦に振りはしなかった。


「遠慮させていただきます。あの妹は兄の言葉に従うような奴ではありません。おそらく無駄に終わるでしょう」


「確かにあのバチョウという女は、どこまでも純粋でどこまでも真っ直ぐ、一点の汚れもない錦の二つ名に相応しい女であった。


 あんな女は私でさえ従えられる自信がないぞ」


 ソウソウの笑顔に、バトウは救われたような気持ちで答えた。


「まさか、ソウソウ会長からもお(すみ)付きを貰えるとは……


 おかげで自慢のじゃじゃ馬娘が、天下のじゃじゃ馬娘になりました」


「ああ、バチョウは誰にも従えられない、私でさえも。


 生徒会長としてはバチョウは見つけ次第処分を下す。


 だが、私個人としては、あのような(まぶ)しい才を持つ妹を持ったお前を(うらや)ましく思うぞ」


「ありがとうございます」


 バトウの追放処分は学園中に広く報道された。それは反乱者・バチョウに対して断固とした態度を取るというソウソウの意思表示であった。


 そして、この頃になるとソウソウの学園理事就任の噂が流れるようになっていた。


 〜〜〜


 時同じくして、副会長・ジュンイクのもとに、彼女の(めい)で同じく生徒会書記を務めるジュンユウが訪ねてきていた。


「ジュンユウ、あなたと二人だけで話すなんて久しぶりですね。何の様ですか?」


 丸眼鏡をかけ直し、その小柄な少女・ジュンイクは少しキツめの口調で眼の前の彼女に尋ねる。


 それに対し、ジュンイクの眼の前に座る髪をおさげに結い、地味めな眼鏡をかけた女生徒・ジュンユウはあくまでおっとりした雰囲気で対応する。


挿絵(By みてみん)


「イク姉さん、私とあなたは(めい)と叔母の間柄。親戚の二人が話をするのに理由なんていらないでしょう」


 ジュンユウはそう言って静かに出されたお茶をすすった。なお、血縁上ではジュンイクが叔母、ジュンユウが(めい)になるが、この二人の歳は同じである。


「ただの茶飲み話なら家でもできるでしょう。


 トウショウの差し金ですね。目的は私の足止めですか?」


「イク姉さんには敵いませんね。(おっしゃ)る通り今頃はトウショウが署名を手にソウソウ会長に理事就任の打診に行っております」


「その場に反対派である私がいては困るということですか。


 ジュンユウ、あなたも署名者なのは知っていましたが、まさかそこまで協力的とは思いませんでした」


 ジュンイクはジュンユウを(にら)みつけた。


「イク姉さんの言い分もわかります。ですが、それではどうにもならないほどこの学園は乱れております。


 南校舎のリュウヒョウ征伐前、私たちはもうじき学園統一がなると、うかれておりました。


 しかし、赤壁(せきへき)の敗戦でそれは夢と消えました。その失墜の負債は南校舎征伐以前よりも大きい。


 もし、赤壁(せきへき)の敗戦がなければこの度のバチョウの乱も起きなかったかもしれません」


「それもソウソウ会長が学園統一すれば解決する問題です」


 ジュンイクは彼女の話をピシャリと両断する。だが、ジュンユウも食い下がる。


「それはすぐにはできません。あの乱で西部の生徒に大きな被害を出しました。彼らに必要なのは今の安寧です。


 これ以上、戦禍(せんか)を広げたくないのです」


「それでソウソウ会長が理事になったらその問題が解決するというのですか?」


「しないでしょう。しかし、今すぐ打てる手の中では最善手でありましょう」


 ジュンユウのこの言葉にジュンイクは怒気を含んだ口調で返した。


「何が最善手ですか!


 それはソウソウ会長に(いばら)の道を進ませるだけの最悪手です!」


「やはりご納得いただけないのですね」


「ジュンユウ、時間稼ぎなら充分でしょう。


 もう帰りなさい」


 ジュンイクのソウソウの理事就任には反対する姿勢はなおも変わらず、ジュンユウはそれ以上のことは言わずに立ち去った。


 〜〜〜


 一方、ソウソウはトウショウから理事就任の要請を受けていた。


「トウショウ、君の話はよくわかった。


 だが、君から渡された署名の中にあるべき名がない。ジュンイクはどうした?」


「それは……署名はしないと」


「どうやら、ジュンイクと話し合う必要があるようだな」


 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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次回は8月12日20時頃更新予定です。

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