第143話 郷愁!ソウソウの帰参!
一方その頃、西方の雄・バチョウを破った学園最大勢力、生徒会長・ソウソウはその戦後処理を行っていた。
「ソウソウ会長、バチョウ一派に加担していた興国高校のアキを捕らえました」
そう言いながら縄で縛った男を連れて、茶色いショートヘアーに凛々しい容姿、すらりとした長い足、黒いジャケットを着て、ジーパン姿の女生徒、ソウソウ軍十傑衆の一人・カコウエンが現れた。
「ご苦労、カコウエン」
彼女を出迎えるのはもちろん、赤黒い髪と瞳、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートでお馴染みの生徒会長・ソウソウである。
「ようこそ、アキ。センバンと同じ様に部下を見捨てて逃げたかと思ったぞ」
煽るように語るソウソウに対して、縛られた男・アキは反抗的な態度で言い返す。
「俺はあいつより義理堅いんだ!
お前には何一つ協力せんぞ!」
啖呵を切るアキの言葉を、ソウソウは鼻で笑って返す。
「構わんぞ。
私の交渉相手はお前の高校だ。
おい、この男とセンバンの部下たちを生徒会室へ送れ」
ソウソウの指示を聞き、周りの兵士たちが悪態をつくアキを連行していった。
その光景を見送り、ソウソウは武将・カコウエンに話しかけた。
「これで中央校舎の西部は一段落だな。
しかし、バチョウらの行方は未だ知れず、西北校舎もまだ手付かずだ。やることが多いな」
ソウソウ対バチョウら西北連合軍の戦いはソウソウの勝利で終わった。だが、敵のバチョウら群雄の何人かは未だ行方がわからぬ状況であった。
これにカコウエンは答える。
「連合の一人・カンスイは既に西北校舎の奥深くに潜んでいるとの情報があります。行って捕らえますか?」
ソウソウは首を横に振って答える。
「いや、今行っても奴は姿を隠して捕まえさせんだろう。別の機会を窺おう。
だが、このまま西北校舎に足を踏み入れない訳にはいくまい。
カコウエン、お前はジョコー、シュレイ、チョウゲンを率いて西北校舎に入れ。できるだけ堂々と威圧的に進軍せよ。それだけで反抗的な西北の生徒も大人しくなるだろう」
「ついでに逃げた群雄の行方も調べればよろしいですか?」
そのカコウエンの言葉に、ソウソウはニヤリと笑って答える。
「そうだな、それで見つかれば完璧だ。
私はチョーコーを従え、中央校舎西部の慰撫を行いながら西北に入る」
武将・カコウエンはソウソウと別れて西北校舎へと入り、反抗的な生徒を平定して行った。
一方、ソウソウは戦火に見舞われた西部を慰撫して回った。
「お初にお目にかかります。
西北担当官・イコウの部下・ヨウフと申します」
生徒会長・ソウソウの前に、頬の痩せこけた、背の低い男がやってきて頭を下げた。
「よく来てくれた、ヨウフ。
イコウは無事であったか」
ヨウフの上司・イコウの就任している西北担当官は、以前より西北校舎の治安維持を任されていた役職。そして今回のバチョウの乱の被害者であった。その被害状況を伝えるため、担当官・イコウの部下・ヨウフがソウソウの元に派遣された。
「はい、我ら一同、なんとかバチョウの被害を逃れることができました。しかし、その爪痕は大きく、イコウは未だ忙しく動き回っております。
そのため、私が代わりにやって参りました。どうかお許しください」
そう言って頬の痩せた男・ヨウフは再度、深々と頭を下げる。だが、ソウソウは笑ってそれに答えた。
「ヨウフ、君なら何の不足があろうか。
君の話は前より聞いている。以前に断られてしまったが、生徒会に招いたこともある。覚えているか?」
「その節は失礼致しました。まだ西北校舎も安定しておりませんもので」
ソウソウの言葉に、ヨウフは恐縮した様子で答える。それに対してソウソウはあくまで優しく接する。生徒会に招いたとは、ソウソウに才を認められたと同義、ソウソウは才を認めた相手には寛容であった。
「だが、君たちが西北にいてくれたおかげでバチョウの乱にも対応できたと言えるな」
「滅相もございません」
「それで今後の復興についてなのだが……ん?」
ソウソウが話を進めようとすると、彼女のスマホに連絡が入った。相手は西北校舎を進軍中のカコウエンである。ソウソウはヨウフに断りを入れてすぐに電話に出た。
「……ふむふむ、なるほどわかった。すぐに向かおう」
何かあったことはヨウフにもすぐにわかった。彼はソウソウの通話が終わると即座に尋ねた。
「ソウソウ会長何かありましたか?」
「バチョウ一派のヨーシューの所在が判明したようだ。悪いが私はすぐに向かい、カコウエンと合流しなければならない。
ヨウフ、道中に君の話を聞かせてくれないか?」
ソウソウの言葉に、ヨウフはすぐに頷いて返す。
「わかりました。バチョウ一派の早急な討伐は我らの願うところです。ご同行させていただきます」
「よし、チョーコー、我が軍の先鋒として西北校舎へ向え!」
「ハッ!」
ソウソウの指示に武将・チョーコーはいち早く教室を飛び出した。
ソウソウは本隊に命令を飛ばすと、瞬く間に部隊の準備が執り行われ、使者・ヨウフを同行させて、西北校舎へと飛んだ。
件の人、ヨーシューは西涼の番長の一人で、この度反乱を起こしたバチョウ率いる連合の一角を務めていた。ソウソウも彼については狡猾で手下の数も多いと聞いていた。できればこれを機に逃したくない相手であった。
「首尾は?」
ソウソウが現場に到着すると、既にカコウエンらは敵が籠もっていると思われる教室の四方を取り囲み、陥落寸前の状況であった。
ソウソウの言葉にカコウエンが応じる。
「ご覧のように逃げ場はありません。
あの中にヨーシュー本人が籠もっているのは確認済みです。まもなく降伏するでしょう」
カコウエンの言葉通り、まもなく教室の戸が開けられ、白旗を上げた一人の女生徒がソウソウの方へと歩いてきた。
「ヨーシューは男だと聞いていたが、あの子は部下か?
使者は私が担当する。お前たちはその隙にヨーシューが逃げぬよう警戒しておけ」
ソウソウはカコウエンらを持ち場に戻すと、投降者の女生徒を自身の元へ来るよう誘導した。
「君が降伏の使者か。よく来た、顔を上げてよい」
ソウソウを待っていたのは、地に平伏した長い黒髪を後ろで一つ結びに束ねた小柄な女生徒であった。
ソウソウの言葉に応じ、頭を上げた女生徒の顔を見た時、ソウソウは思わず心の中でアッと声を上げた。
そんな彼女の内心なぞ知る由もなく、降伏の使者の女生徒はソウソウに対して名乗りだした。
「はじめてご挨拶させていただきます。私、ヨーシューの名代・コーケーと申します」
コーケーと名乗るその女生徒の顔はソウソウの最も馴染みのある腹心の顔とよく似ていた。
あまりのことにソウソウは彼女の発した言葉のいくつかを聞き逃した。いつものソウソウらしくない失敗だが、それほど彼女は呆気にとられていた。
「……このようにヨーシューは反乱に加担したことをよくよく反省しております。どうかソウソウ会長に置かれては寛大な処置を何卒お願い致します……」
「あ、ああ……。ヨーシューの言い分はよくわかった。今まで通りの扱いを約束するから、武装解除して投降せよと伝えよ」
思わぬ事で前半を聞き逃したソウソウだったが、気取られぬよう何食わぬ顔で彼女に答えた。
「は、ははー、ありがとうございます」
ソウソウからすればただ話を合わせた返答だったが、今まで通りという言葉を貰えるとは思っていなかったコーケーからすれば予期せぬ返答であった。コーケーは予想以上の成果に喜び勇んでボス・ヨーシューの籠もる教室へと戻っていった。
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その様子を見て、同行してきた西北の生徒・ヨウフは顔を顰めてソウソウに苦言を呈した。
「ソウソウ会長、ヨーシューはバチョウの乱に加担した上に、この度は逃げ場を失ってから降伏しました。それで何の罰も与えず、待遇も元のままというのは少々寛容すぎませんか?」
「そうか……いや、未だ足取りのわからぬバチョウ一派は何人もいる。ここで厳しくすれば残りの者はますます反抗するようになる。少しぐらい寛容な方が良い」
ソウソウも内心、しまったと思ったが、それを安易に顔に出すような人ではない。堂々ともっともらしい事を言って返したので、ヨウフもそれに従うしかなかった。
「そうですか……わかりました」
〜〜〜
一方、戻ってきたコーケーの報告に、西涼の群雄・ヨーシューは上機嫌であった。
そのスキンヘッドの男はセンスを手に関西訛りの言葉で叫んだ。
「コーケー、上出来や。元通りなら充分な成果や。これでカンスイやバチョウが討伐されれば、西北でわてが一強になるのも夢やないで!」
その言葉に使者に赴いたコーケーも嬉しそうに返す。
「ヨーシュー様の言った通り、ソウソウは私の顔に見惚れて言いなりでしたよ」
ソウソウの内心を知らぬコーケーには、彼女の様子は自分の容姿に見惚れてのことと解釈していた。
「ほらな、言うた通りやろ。ソウソウは女好きで有名や。うちで一番目鼻の整ったお前を行かせて正解やったわ」
内心笑いの止まらぬヨーシューだが、いつまでも笑ってばかりはいられない。彼は教室を開放し、部下を手ぶらにすると、ただ部下のコーケーと二人のみでソウソウの前に現れた。
やってきた西北の群雄・ヨーシューに、ソウソウは声をかける。
「よく降伏した、ヨーシュー。約束通りお前の地位を保証しよう。これからは我が陣営の将として戦え」
そのソウソウの言葉にヨーシューは平伏して応じる。ソウソウはヨーシューに言う間も、隣の小柄な女生徒・コーケーが気になる様子で、チラチラと彼女の様子を窺っていた。
ヨーシューへの言葉が終わると、すぐにソウソウはコーケーへと顔を向けた。
「それで……コーケー。君はよくヨーシューを降伏に導いてくれた。それを見込んで君をヨーシューの監視役に命じる。ヨーシューの様子を逐一報告して欲しい」
「はっ、わかりました。このコーケー、ソウソウ会長のために働かせていただきます」
その両者のやり取りを見て、ヨーシューが隠れてほくそ笑んだのは言うまでもない。
コーケーらの帰る後ろ姿を見て、ソウソウは胸の内で呟いた。
(コーケー、それにしてもよく似ていた。眼鏡が無いことと髪が長いことを除けば、顔から背格好までジュンイクと瓜二つだ)
そこでふと、ソウソウはジュンイクの事を思い出した。思えば前に彼女を怒らせてからほとんど会っていない。生徒会室を随分長いこと空けてしまった。
「そろそろ戻る頃合いか……」
ヨーシューの降伏を機にソウソウは生徒会室へ帰還を決定し、部下たちを一同に集め、その事を告げた。
「北校舎のデンギン・ソハクが起こした反乱にはソウジンを向かわせたが、未だに鎮圧には至っていない。思えば私は長く生徒会室を空けてしまっている。東のソンケンや南のリュービへの対処も怠ることはできない。
私はこれから北校舎に向い乱に対処した後、生徒会室に戻る。バチョウら残党への対処はカコウエンに任せる」
だが、生徒会長・ソウソウのこの報告に待ったをかける者がいた。西北担当官から使者として派遣されたヨウフであった。彼は憤慨した様子でソウソウに詰め寄った。
「ソウソウ会長、この度捕らえたヨーシューは賊党の一人に過ぎず、バチョウこそ主犯です。
バチョウは伝説のOB・カンシンに匹敵する武勇を持ち、西北生徒の支持を受け、西域では畏れられております。
今、ソウソウ会長がお帰りになられ、その防備を怠ればこの西域一帯はソウソウ会長の力の及ばぬ土地となりましょう」
ヨウフはその小柄で痩せた外見に似合わず、毅然とした態度でそう言った。これにはソウソウも多少気圧された様子で答えた。
「ヨウフ、君の言わんとすることはわかる。
カコウエンを始めとして私の信頼できる武将を置いていこう。私がいなくともバチョウの好きにさせはしない。安心してくれ」
ソウソウは乱の首謀者・バチョウを捕り逃した状況で中央へ帰還した。
西部担当者に西北の事情通・チョウキを据え、ジョエキ、トキ、カキ、ユウソ、ソソク、テイコンらを西部各地の守護として配置し、軍隊にはカコウエン、チョウゲン、ジョコー、チョーコー、シュレイ、ロショウらを残した。
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