第141話 出立!新たな校舎!
俺たちリュービ陣営の遠征軍は、リュウショウを助け、チョウロを討つという名目で、西校舎へ行く事になった。名目こそチョウロ討伐だが、実際には天下三分の実現のために、西校舎を得ることを真の目的としている。
「では、コウメイ、行ってくるよ。
留守の間、南校舎を任せることになるから、大変だと思うけど、よろしく頼むよ」
俺の言葉に対して、目にかかる長さの薄水色の髪、背は低く、とても華奢な少女、我軍の軍師・コウメイが答える。
「大半は今までの業務と同じです。お任せください。それに補佐としてバリョウやハンシュンがおります」
大半は今までの業務と同じと、答えるところに、彼女に任せた負担の大きさが伺えて、申し訳なくなる。コウメイはなんでも自分でやってしまうところがあるから、補佐をつけたこの機会に、他人に仕事を任せるということを覚えて欲しいものだ。
「じゃあ、カンウ・チョーヒ、後は任せたよ」
俺は向き直り、二人の少女に挨拶をした。
一人は背が高く、腰まで届く長く美しい黒髪、お嬢様のような雰囲気を纏う少女。
もう一人は背が低く、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けている、元気そうな雰囲気の少女。
俺の義妹・カンウとチョーヒだ。
「兄さん、お気をつけて……」
「オレたちがいなくても頑張るだぜ、アニキ!」
「はは、わかってるよ。じゃあ、行ってくるね」
俺が行こうとすると、長い黒髪の義妹・カンウに呼び止められた。
「あの、兄さん!」
振り向き様のカンウの表情はさみしげであった。彼女は今回の留守番に特に渋っていた。一応、納得はしてくれたが、未だ思うところがあるのだろう。
「どうした、カンウ?」
「いえ……その……頑張ってください」
「ああ、もちろんさ」
俺は今度はみんなの方に振り返った。
「じゃあ、みんな。南校舎のことは頼んだよ」
今回はコウメイやカンウ・チョーヒだけじゃない。チョーウンら長らくともに戦ってきた仲間の大半を置いていく。その事に一抹の不安はあるが、留守の間に南校舎を失っては元も子もない。
〜〜〜
リュービたちが過ぎ去って行くのを見届け、お団子ヘアーのリュービの義妹・チョーヒが隣の長い黒髪の義姉・カンウへ話しかけた。
「カン姉、今回はいつになく粘んだぜ、アニキと離れ離れになって寂しーんだぜ?」
「そんなんじゃありません!
ただ、なんとなく胸騒ぎがしたんです……」
「胸騒ぎだぜ?」
「もう、兄さんに会えなくなるような、そんな胸騒ぎが……
おかしいですよね、隣の校舎に行くだけなのに。さあ、仕事に戻りましょう!」
〜〜〜
こちら所変わって西校舎のリュウショウ陣営。
リュービに援軍を依頼した盟主・リュウショウであったが、彼の耳にもリュービ軍が西校舎へ向かって出発したという情報が入ってきた。
「そうか、リュービ殿がもう来てくれるのか。それもリュービ殿直々に来てくれるとはありがたい。
依頼した私がここでふんぞり返っているわけにもいかないだろう。私も彼の歓待に向かおう」
太めの体格に温和そうな雰囲気の男子生徒、西校舎の盟主・リュウショウは自ら来てくれたリュービを出迎えようと立ち上がった。
だが、またしても彼に反対する者が現れた。前回の会議でリュービの招聘に反対した、長い髪を一つ結びにし、ダブルのスーツにネクタイをつけた男子生徒、秘書官・コウケンであった。
「お待ち下さい。リュウショウ様自らがリュービ殿を出迎え、彼に礼を尽くせば、それこそどちらが主かわからなくなります。
その上、御身を危険に晒すことになります。どうかご自愛くださいますようお願い申し上げます」
彼の諫言に、温和なリュウショウもまたかという表情になった。だが、続け様に同じく反対派であった少女のような小柄な体型の、金髪の女生徒、特別顧問・リュウハもこれに同調した。
「リュービを使ってチョウロを討たせるのは、チョウロに代わる新たな敵を作るのに等しい行いです。どうか、お考え直しください」
その二人の諫言に、また新たな人物が割って入った。
「まだ言うか、あなた方は!」
二人の諫言に割って入ったのは、リュービ招聘の提案者であるやたらと背の低い、長い髪に瓶底のようなメガネをかけた女生徒、補佐官筆頭・チョーショーであった。
「リュウショウ様、この二人の意見を聞くべきではありません。早くリュービ殿を出迎えに向かいましょう」
そのチョーショーの意見に、反対派・コウケンは叱りつけるような口調で返した。
「何を言うかチョーショー!」
これにチョーショーもすかさず返す。
「それはこちらのセリフですよ、コウケンさん。リュービ殿自ら我らのためにわざわざ来ていただいているのに、リュウショウ様が自ら出向かなければ失礼というものです。
さらに言うに事欠いて御身を危険に晒すとはいかなる意味か。リュービ殿がリュウショウ様を害そうとするとでも言うのか!
あなたの意見は、今、手を取り合って協力し合おうとする我らの絆を引き裂くものだ」
チョーショーの援護を受け、盟主・リュウショウもコウケンに反論した。
「そうだぞ、コウケン。既にリュービ殿に依頼し、今、来てもらっているという段になって、今更失礼を出来るはずがない。私は出迎えにいくぞ」
「しかし、リュウハ殿が申される通り、リュービ殿がチョウロに代わる新たな敵にならないとも限りませんぞ」
まだ止めようとするコウケンに、チョーショーが再び返した。
「しつこいですよ、コウケンさん。
あなた方はいつもそうだ。リュウショウ様を主に据えておきながら、何かしようとすると反対する。
それにリュウハさんも元々はソウソウ配下。果たして西校舎のためを第一に考えていると言えるのでしょうか」
このチョーショーの言葉に元気づけられ、盟主・リュウショウも彼らに反論する。
「そうだ、コウケン、君たちはいつもそうだ。裏で私を優柔不断と貶しながら、私がいざ決断すればケチをつける」
「リュウショウ様、私は決してあなた様を優柔不断と貶したことはございません。ケチをつけたくて言ってるわけではありません。全ては西校舎の安寧のため」
コウケンは反論したが、その言葉はリュウショウには虚しく響く。
「それでチョウロの害が防げたか!
コウケン、君をリュービ殿に会わせるわけにはいかない。君を秘書官から解任し、新たに北方警備の隊長とする。
そんなにリュービ殿を疑うなら、君自ら西校舎を守れ」
「うう……わかりました。その役お引き受けいたします」
次にリュウショウは、同じく反対派のリュウハに向き直った。
「それとリュウハ。君の立場もよくわかっている。
君をソウソウの間者とは思わないが、君のために西校舎の方針を考えることはできない。過去にリュービ殿と因縁があるなら私が間を取り持つから、今は君の意見は不要だ」
リュウハはかつてソウソウの命でリュービと戦い、彼に追い出される形で西校舎にやってきた。当時のリュウショウはソウソウとの縁を重んじていたからこそ、リュウハを特別顧問にしたが、同盟相手をソウソウからリュービに鞍替えしようとする今、彼女の立場は極めて危ういものであった。
「わかりました。お心遣いには感謝しますが、気遣いは無用です」
「わかった。ならば、君には留守を任せる。
チョーショー、他の補佐官を集めよ。リュービ殿の歓待に向かうぞ」
「は、お任せあれ」
リュウショウたちが廊下へと出ると、天井から垂らした縄に足を括り付け、逆さ吊りとなった男子生徒が彼らの前に立ちはだかった。
「オウルイ、何の真似だ」
オウルイと呼ばれた逆さ吊りの男は答える。
「リュウショウ様、お考え直しくださいませ。リュービを西校舎に招いてはなりません。今すぐリュービと縁を切り、西校舎の防備を充実させてください」
「言いたいことはわかった。だが、逆さ吊りなのは何のつもりだ」
「もし、私の話をお聞きくださらぬのなら、この場で縄を切り、事故にして騒ぎを起こしてでも止める所存です」
このオウルイのの言葉に、側近・チョーショーは吐き捨てるように答えた。
「くだらない。リュウショウ様、聞くことはありません。
オウルイはコウケンらのように口が立たないのでこのようなパフォーマンスをしているのでしょう。
おい、衛兵、この男を降ろせ」
周りの兵士たちをオウルイを囲み、安全に降ろそうと縄を解いていった。
「やめろ、解くな。
くっ……私では止めることはできないのか!」
オウルイは衛兵に抱えられ、奥へと連れて行かれると、チョーショーは満足気な様子で、リュウショウの方へと振り返った。
「さあ、リュウショウ様、早く行きましょう。先方を待たせるわけには行きません」
「あ、ああ、わかっている」
〜〜〜
西校舎でリュービの出迎えを巡って一騒動があった頃、当の本人・リュービは、渡り廊下を抜け、西校舎の入口に立っていた。
「俺は南校舎の盟主・リュービ。
西校舎の盟主・リュウショウの依頼により、チョウロ討伐のために参った」
その応対には大柄で髭面の男子生徒が当たっていた。
「某はこの渡り廊下の防衛指揮官・ゲンガンと申します。
リュービ殿のことはリュウショウ様より聞き及んでおります。
既にリュウショウ様はあなた様の歓迎会の準備をしております。ぜひ、お寄りください」
「それはありがたい。ぜひ、伺わせもらおう」
「わかりました。おーい、リカイ」
ゲンガンに呼ばれ、円柱のケピ帽に、白いローブを羽織った細身の男子生徒が現れた。
「この者は某の部下でリカイと申します。この者が道案内をしますのでお連れください」
「リカイと申します。よろしくお願いします」
「リュービだ。よろしく頼むよ」
俺たちはリカイの案内で、リュウショウの用意してくれた歓迎会へ向かった。その道中、親しげな顔つきで案内役・リカイは俺に話しかける。
「リュービ様の活躍はよく聞いております。
そのリュービ様の案内役を担えて光栄です」
その表情から察するに、彼は俺たちに対して悪感情は抱いていないようだ。
「そこまで評価してもらえてこちらこそ光栄だよ。リカイ君は一年生かな?」
「はい、一年生です。入学してすぐの赤壁の勝利は衝撃でした」
「そうか。だが、あの勝利は軍師のコウメイの知略や、カンウ・チョーヒの武勇があればこそだ。部下に変わって礼を言うよ、ありがとう」
「でも、リュービ様も戦えばお強いのでしょう?」
「そうだな、それはこの度のチョウロ戦でお見せしよう。よく見ておいてくれ」
「はい」
俺が案内役のリカイと他愛もない会話をしていると、後ろに控える新軍師・ホーセーが小声で何やら話しかけてきた。どうも他言できぬ内容のようで、俺は案内のリカイと少し距離を取り、聞こえない声量で彼女に尋ねた。
「なんだ?」
「同志・チョーショーからの連絡です。歓迎会に参加しているリュウショウの警護は手薄です。この歓迎会の場で彼を捕えてしまうのはいかがかと……」
聞けば、歓迎会の席でそのまま相手の君主を捕らえろという何とも大胆な提案であった。
「それは……少し急ぎすぎじゃないか?」
俺の質問に、同じようにすぐ側に控えるもう一人の軍師・ホウトウが口を挟む。
「あっしは悪くないんじゃないかと思いやす。
多少の暴動は起きるでありましょうが、西の盟主さえ手許にありゃ、後はどうとでもなりやしょう」
「うーん、やはり、だめだ。
俺は西校舎に来てまだ何も知らない。さすがに今すぐリュウショウと戦うのは性急すぎる」
「わかりました。すいません、チョーショーは少し性急なところがございます。こちらで注意しておきます」
「いや、ホウトウも賛同するぐらいだ。悪い策じゃない。ただ今は慎重に動く時期だ。そのようにチョーショーにも言っておいてくれ」
「わかりました」
〜〜〜
一方、リュービたちを見送った守将・ゲンガンは彼らの一行が見えなくなるのを見計らってボソリと呟いた。
「まるで虎を放って我が身を守るようなものだな。
……中央の幹部たちは一体、何を考えているのか」
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