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第139話 説伏!西の陣営!

 ここ西校舎で今まさに重臣会議が開かれていた。


「では、ホーセー、君が使者として見聞きしたリュービ殿の人となりを教えて欲しい」


 太めの体格で温和そうな男子生徒、西校舎の盟主・リュウショウに(うなが)され、会議の末席に座る片眼鏡の女生徒・ホーセーが立ち上がる。


 彼女は先ほど、リュウショウの命で南校舎の盟主・リュービの元に使者として派遣された。


 表向きは挨拶(あいさつ)だが、その実はリュービの人となりを観察し、自分たちの勢力の協力者になってくれるかどうかを見極めるのが役目であった。


 だが、そこでリュービの人物を見込んだ彼女は、裏でリュービ陣営に寝返り、同志・チョーショーらと画策して西校舎をリュービに譲り渡そうと計画していた。


(しかし、そのためにはまず、リュービ様を彼らに信用させねばならんな)


 片眼鏡の女生徒・ホーセーは立ち上がりながら、胸の内でそう考えていた。


 だが、立ち上がり、まさに喋りだそうとしたその時、別の生徒によって彼女の言葉は(さえぎ)られた。


「お待ちいただきたい。


 リュービ殿の元に既に使者を送っていたという話は私どもは聞いておりませんが?」


 そう言って会議を止めたのは、長い髪を一つ結びにし、ダブルのスーツにネクタイをつけた男子生徒であった。


「コウケン、ホーセーはあくまで挨拶(あいさつ)に行ったに過ぎない。話をそれ以上は進めてはいない」


 盟主・リュウショウからそう言われても、ダブルのスーツの男子生徒はまだ納得していない表情をしていた。


 彼の名はコウケン。普段はリュウショウの秘書官を務めているが、厳格な態度で知られ、西校舎の御意見番のような人物であった。


 そのコウケンに対して、ホーセーの同志、背の低い女生徒のチョーショーがなだめるような口調で発言する。


「コウケンさん、リュービ殿は南校舎の盟主になるほどの意気盛んな勢力ですよ。その勢力の隣にいるのですから、西校舎の安全を考えれば挨拶(あいさつ)ぐらいしておくべきでしょう」


 あくまでもにこやかに対応しようとするチョーショーに対して、コウケンの向ける目はひたすらに厳しいものであった。


「やはり、チョーショー、君の差金(さしがね)か。


 君の最近の行動は目に余るぞ。


 君が今その席に座っているのは、あくまでも君の兄・チョーシュク殿の後任としてだ。その事を努々(ゆめゆめ)忘れること無く、(つつし)(たま)え」


 スーツの男・コウケンはキツめの口調で背の低い女生徒・チョーショーに注意を与える。コウケンとチョーショーはともに幹部側の席に座る西校舎の重臣であったが、コウケンの彼女に向ける態度は生意気な妹と(さと)す兄のようであった。


 今、チョーショーは補佐官筆頭として幹部席に座ってはいるが、それは元々、その席にいた彼の兄が、チョウロ防衛の任務のために抜けた後釜として与えられた役職であった。もちろん、能力を加味しての任命だが、その地位に見合うだけの功績はまだなかった。


 だが、それを指摘されて(ひる)むようなチョーショーではなかった。彼女はすぐに反論した。


「私も過分な待遇であるというのはよくよく心得ております。


 だからこそ、私は西校舎の安全を第一に考えて行動しているのです!」


 チョーショーとコウケン、両者の間に緊張感が走るが、二人の主・リュウショウはその空気を察して両者を押し留めた。


「両者ともそれぐらいにしてくれないか。


 コウケン、君たちに伝えずに使者を派遣したのは悪かったが、既に使者は帰ってきている。


 まずは使者の意見を聞こう。ホーセー、始めてくれ」


 リュウショウの言葉に両者は収まり、ようやくホーセーの話す順番が回ってきた。


 満を持して片眼鏡の女生徒・ホーセーが話し出す。


「先ほど、リュウショウ様が(おっしゃ)られたように、私は南校舎のリュービ殿の元に挨拶(あいさつ)に行って参りました。


 リュービ殿については、高い理想を掲げ、文武に優れた人物という印象を受けました。彼は今の学園の情勢と南校舎の地の利をよく理解し、既に万全の体制を整えております。


 リュービ殿の陣営と言えば、文にはコウメイ、武にはカンウ・チョーヒが有名ですが、彼自身も優れた雄略の持ち主と言えるでしょう。


 リュービ殿ならば、充分チョウロに対抗できることと私は考えます」


 そのホーセーの言葉に、盟主・リュウショウは深く(うなず)いた。


「なるほど、なるほど。


 チョウロを撃退するならば、やはり、リュービ殿に協力を求めるのが良いだろうか」


 盟主・リュウショウの心がリュービに(かたむ)くのを見て取り、スーツの男子生徒・コウケンはすかさず反論を行った。


「お待ち下さい、リュウショウ様。


 言われるように確かにリュービ殿は優れた人物でありましょう。


 しかし、リュービ殿は既に群雄としてその名を知られております。


 今、彼を招き、かつてのリュウヒョウのように武将として扱えば、リュービ殿は満足しないでしょう。ですが、群雄として扱えばこの西校舎に二人の主がいることになります。


 リュービ殿が優れていればいるほど、リュウショウ様は累卵(るいらん)の危うきに身を置かれることになります。


 対してチョウロは小さな勢力に過ぎません。ここは守りをよく堅め、情勢の変化を見守るべきでしょう」


 去年であればいざ知らず、リュービの名は既に学園中に(とどろ)いている。その能力は反対派のコウケンも認めるところではあるが、それだけに彼は危険視していた。我が主・リュウショウではリュービを制御しきれぬと。


 コウケンのこの意見に、リュービとの同盟を是が非でも進めたいチョーショーはすぐに反論しようとしたが、彼女より先に発言する者が現れた。


 その発言する金髪でツリ目の女生徒は、小柄な体格ながら格式張った口調で話し出した。


「リュウショウ殿、私もコウケン殿に賛成です。


 言われるようにリュービは英雄です。だからこそ害が大きいのです。ここに入れるべきではありません」


 こう発言する金髪の女生徒の名はリュウハ。かつて赤壁で敗れたソウソウに派遣され、南校舎に侵攻するリュービに対抗しようとしたが失敗した人物であった。策は失敗に終わったが、その智謀はコウメイを認めるところで、リュービが彼女を仲間に加えたがっていたが、そのまま行方を(くら)ましてしまった。(※第102〜106話参照)


 一度は行方を(くら)ませた彼女であったが、今はリュウショウの特別顧問としてに西校舎に所属していた。


「そうか、しかし、うーん……」


 コウケン・リュウハという二人の幹部の反発に、リュウショウは頭を抱えて、なんとも歯切れの悪い返事を発した。


 この流れはまずいと、背の低い女生徒・チョーショーはすぐに反論を行う。


「お待ち下さい。


 コウケンさんは守りを堅めてチョウロを防げと申されるが、そうやって今、北半分をチョウロに侵略されているのが現状です。そのやり方では西校舎はいずれチョウロの物となるでしょう。


 お二人が(おっしゃ)られるように、リュービ殿の雄才は皆が認めるところでございます。チョウロを撃ち破れるのは彼を置いて他におりません。


 チョウロだけではありません。今、ホーギやリイらは手柄を頼んで付け上がり、この会議の席にさえ出席しておりません。


 今、西校舎には外にチョウロがおり、内にホーギらがおり、危険な状態にあります。


 もはや、猶予(ゆうよ)は無いのです」


 チョーショーは勢いで押し切るかのような剣幕で、盟主・リュウショウに迫った。


「ま、待て、チョーショー。


 ホーギらは対チョウロ軍の指揮官だ。その任務があるために会議に参加していない。それは今に始まったことではないだろう。


 確かに一時期、ホーギとは不仲になったが、それはもう解決している」


 リュウショウはホーギの件を訂正したが、チョーショーの勢いはまだ収まらない。


「ホーギらの先任であるチョウイが南校舎のリュウヒョウと結託し、反乱を起こしたのをお忘れですか?


 何か起こってからでは遅いのです!」


 この発言にリュウショウも痛い所を突かれたといった面持ちで押し黙る。


 リュウショウ軍内で多くの兵士を持っているのは、チョウロと戦う部隊の指揮官だ。ホーギはその指揮官の中でも最上位に位置する。それ故に力を持ちやすく、盟主のリュウショウといえども大きくは出られない。今現在、ホーギとリュウショウの仲は良好ではあるが、先任のチョウイは反乱を起こし、かつてホーギと一悶着(ひともんちゃく)を起こしたことはここにいる皆が知っていた。そこを指摘されると、リュウショウとしては耳の痛い話であった。


 押し黙ってしまったリュウショウに代わり、スーツの男・コウケンが再び反論する。


「待て、チョーショー。起きてもいない反乱を想定し、君臣の仲を割くような真似は(つつし)むべきだ。


 それに西校舎を盗られては元も子もないだろう。


 リュウショウ様、かつてトウケンやリュウヒョウはリュービ殿の力を借りましたが、後にその領土はリュービ殿の治めるところとなりました」


 このコウケンの言葉に、チョーショーは間髪入れず反応する。


「コウケンさん、それは違いますよ。


 トウケンは自身の意志によりリュービ殿に部室を譲り、南校舎はソウソウの領土となったので奪い取ったまでです。どちらもリュービ殿が領主と戦って奪い取ったわけではありません!」


「わかった。両者もう良い!」


 チョーショー、コウケンの口論が加熱していくのを見て、先ほどまで押し黙っていたリュウショウがついに口を開いた。


「両者の言い分はよくわかった。


 だが、私はリュービ殿に援軍を以来する事に決めた」


「なんと!


 お考え直しを!」


 コウケンは止めようとするが、リュウショウは応じようとはしなかった。


「もう決めたのだ。これ以上は言うな。


 チョーショー、リュービ殿にチョウロ討伐の依頼をする使者は誰が良いと思うか?」


 そのリュウショウの質問に、願いの叶ったチョーショーは喜々として応じる。


「はい、ホーセーは既にリュービ殿への使者の任務を果たし、親交を深めております。再びホーセーに任せるのがよろしいかと」


「なるほど、ホーセー頼めるか」


 事の推移(すいい)を見守っていた片眼鏡の女生徒・ホーセーは、(ひざまず)いて答える。


「お任せ下さい、と言いたいところですが、一つお願いがあります。


 リュービ殿に軍を率いてチョウロを討っていただくならば、こちらからも兵を貸し出し、守りのための兵力を補填(ほてん)する必要があります。


 また、今回の使者が公式のものであることを強調するためにも、私に一部隊を預けていただけないでしょうか?」


 ホーセーはもっともらしくリュウショウに進言した。実際のところ、リュービの元に帰参するなら少しでも多く手土産(てみやげ)が欲しかったというのが本心であった。


 だが、リュウショウは彼女の意見に納得した。


「確かに、一方的に向こうの持ち出しでは引き受けてはもらえないだろうな。


 だが、ホーセー、君は兵を率いた経験がない。誰か副将を付けよう」


 そのリュウショウの言葉に、すかさずチョーショーが意見を述べた。


「ならばモウタツはいかがでしょうか?」


 モウタツはチョーショーらの同志である。副将は時に大将の監視役にもなる存在だ。それならば自分たち側の人物の方が都合(つごう)が良い。


 だが、この人選にコウケンは反対する。


「待ち(たま)え、チョーショー。モウタツも新参だろう。兵を率いた経験はないはずだ」


 これにチョーショー、


「ですが、西校舎の軍隊の指揮経験者は皆、何かしらの仕事を受け持っております。勝手に動かすわけにはいかないでしょう」


 と、もっともらしい言葉で応じる。


「ならば、私がやろう」


 事もあろうに秘書官・コウケン自らが副将に名乗りを上げた。これにはチョーショーも狼狽(うろた)えた様子ですぐに反対する。


「コウケンさんほどの人物を副将には出来ません。そうなるとコウケンが正使者、ホーセーが副となります。


 しかし、コウケンさんはリュービ殿への援軍依頼は反対派です。そういう方が使者として行かれるのはいかがなものでしょうか?」


 コウケンならば監視役として100点の人物だ。おそらく、彼の目を(あざむ)いたり、仲間に引き入れるのは無理だろう。それでは裏事情を抱えるチョーショー・ホーセーらは困ってしまう。


 だが、コウケンはなおも食い下がる。


「私は公私の区別はつける!」


 彼はそう言ったが、盟主・リュウショウ自らが彼を止めた。


「待て、チョーショーの言う通りだ。反対派のコウケンは使者に不適格だろう。


 使者はホーセー、副将にモウタツとし、兵四十人を預ける。


 リュービ殿への説得、よろしく頼むぞ」


 そのリュウショウの言葉に、改まった態度でホーセーは答えた。


「はい、かしこまりました」


 しかし、この決定にチョーショー・ホーセーらは内心ほくそ笑んでいることを、リュウショウは知らない。


 リュウショウは西校舎を運営するにあたり不安を抱えていた。その不安により部下に対する疑いの芽が既に咲いていた。その疑いの芽のためにリュウショウは外に助けを求めた。


 だが、それはチョーショーの望む形であった。これで彼女らの計画の第一段階が成った。


 それは時代を新たな段階へと押し上げる一歩であった。

 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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次回は7月8日20時頃更新予定です。

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