第137話 邂逅!西よりの使者!
南校舎・リュービ陣営〜
俺・リュービの陣営を訪ねて、西校舎の盟主・リュウショウからの使者の女生徒がやってきた。
「リュービ殿、お初にお目にかかります。
私は美術部部長・リュウショウ配下・法道寺政、通称をホーセーと申します」
そのセミロングの黒髪に色白の肌、帽子に片眼鏡、厚手のコートに黒手袋をした女生徒・ホーセーは、丁寧な口調で挨拶し、深々と頭を下げた。
「こちらこそはじめまして。
俺が今この南校舎を取り仕切っている流尾玄徳、リュービです」
俺も彼女に合わせるように深々と頭を下げた。
それにしても先ほどチョーヒに殴られた一撃が未だに腹に響く。なんとか平静を装った声色で挨拶したが、苦悶の表情までは隠しきれず、友好の使者相手にやたら神妙な顔つきで出迎えてしまった。相手の使者が不快に思わなければ良いのだが……。
俺が使者の顔色を伺っていると、使者である彼女の方から話を切り出してきた。
「まずはリュービ殿の南校舎の盟主就任おめでとうございます。
遅くなりましたが、お慶び申し上げます」
使者・ホーセーの祝辞に、俺は感謝の言葉を述べて返した。
西校舎からの友好の使者か。西校舎の盟主・リュウショウは自分たちの独立のために頑張ってはいるが、選挙戦自体には消極的な人物だと聞いている。
今回の使者も大方、隣りにある俺たちの陣営が脅威になるか見極めにきたのだろう。確かに西校舎は欲しい。だが、現時点で敵対するのはまだ時期尚早だ。
とにかく、相手に好印象を持って帰ってもらおう。
そんな事を考えていると、相手のホーセーが続きを話し出した。
「私たちの西校舎と南校舎は隣り合う位置にありながら、先代のリュウヒョウ殿の代には協力し合うことは叶いませんでした。
リュービ殿の代におかれましては、両者助け合う関係を築きたいと望んでおります。
まずは友好を深めたいと思い、この度、参上致しました」
「それは俺たちも望むことです。ぜひ、西校舎のリュウショウ殿とは友好を深め、互いに助け合いたいと思っています」
俺はそう言いながら相手のホーセーと握手をした。
確かに我らリュービ陣営の基本方針はコウメイの提唱した天下三分の計。それに従うならば西校舎は攻略対象だ。
しかし、いくら攻略対象といえども、西校舎の人を目の前にして、お宅の西校舎は攻略するつもりですと正直に言うわけにはいかないだろう。
だが、西校舎のリュウショウと同盟が成立し、共にソウソウと戦ってくれるならばその道もありかもしれないとも考えている。使者のホーセーに言った言葉は決して全て嘘というわけではない。
「リュービ殿は南校舎の盟主となられました。
これからはどのような方針で陣営を運営されていかれるのでしょうか?」
そのホーセーからの質問に俺は少々困惑した。
俺たちの方針の第一は打倒ソウソウだ。だが、西校舎のリュウショウ陣営は長らくソウソウとは協力関係にある。
今回の使者がソウソウから俺たちに鞍替えしたいという使者なら打倒ソウソウだと話しても良いが、今回はあくまでも友好の使者。友好関係を築くためにも、ここは打倒ソウソウのところはボカして伝えよう。
「俺が目指す学園は、全ての生徒が穏やかに学園生活を送れるような場所にすることです。
今、この学園は大いに乱れ、争いは絶えず、自分の居場所のない生徒が多数おります。
この南校舎がそれらの生徒の受け皿となり、穏やかな学園生活を送れる地になるよう運営しています」
「なるほど、学園生活を第一と考えられておられるのですね。
しかし、その考えならば、ソウソウ会長とも協調できるのではありませんか? 何故、会長と戦い、その戦火を拡げるような真似をするのですか?」
片眼鏡の使者・ホーセーは穏やかな目から一転、鋭い目つきで俺を睨んだ。
まさか、向こうからソウソウの名を出すなんて……。
今回の使者は友好とは名ばかりのソウソウからの降伏勧告であったのか?
だが、ここで怯むわけにはいかない。まずは俺とソウソウは相容れないことを伝えなければならない。
「ソウソウ……会長は優秀な方です。統治者としての才能なら俺は足元にも及ばないでしょう。
ですが、優秀であるが故に彼女は自分自身を押し付ける。認めさせ、従わせるというやり方をする。まさに支配者です。
また、ソウソウは人物眼にも優れ、優秀な人物を活用できますが、その眼鏡に適わなければ歯牙にもかけません。
俺は彼女の支配を受け入れられない者、歯牙にもかけられない者も含めてこの学園の生徒だと思います。それが自分の目指す学園作りです。だから、ソウソウとは相容れることはできません」
我ながら上手く言えたと思うが、使者・ホーセーの口撃はまだ止まない。
「なるほど、しかし、彼女は言われるように優秀だ。勝てる見込みはあるのですか?」
まったく、彼女は本当に友好の使者なのかと勘ぐりたくなるが、ここで引き下がるわけにはいかない。俺は自信満々を装って答えた。
「ええ、あります。
ソウソウの最大の強みは戦争に強いことです。しかし、俺たちは赤壁にて彼女を撃ち破り、その不敗神話を砕きました」
「しかし、最近ではバチョウの乱を平定し、その威勢を盛り返しておりますよ」
使者・ホーセーは西北でのソウソウの勝利を持ち出す。だが、それは想定内だ。
「そもそも西北の生徒は平穏に学園生活を送っていたのに、ソウソウは脅して無理に反乱を起こさせました。自分の威信に揺らぎを感じているからこそ手頃で勝てそうな相手を選んだということでしょう。
それに西端の地を平定しても俺たちの独立には何の影響も与えません。その上、肝心のバチョウらに逃げられては威信回復には至らないでしょう」
相手のホーセーは「なるほど」と呟き、言葉が途切れたのを見計らって、俺は彼女に畳み掛けた。
彼女を納得させるのは今を置いて他にない。
「ソウソウは赤壁の敗北以降、迷走しており、彼女を討つなら今この時をおいて他にありません。
俺がいるこの南校舎は、四方が開けた交通の要衝です。このまま東のソンケンと連携を取り北上すれば、二方面からソウソウを追い詰めることができます。これにもし、西校舎のリュウショウ殿が加わっていただければ三方面から攻めることもできるでしょう。
さらに今の俺の軍にはカンウ・チョーヒ・チョーウンの一騎当千の武将たちに加えて、コーチューら南校舎の精鋭たちもおります。
ソウソウはその権勢に陰りを見せたのに対し、俺は南校舎を抑え、精鋭を揃えております。
今この時をおいてソウソウを討つ好機はないでしょう」
使者のホーセーを説得しようと、俺は手当り次第に手札を切ったが、果たして使者・ホーセーはどう受け取ってくれたのだろうか……。
不安気に彼女の顔を伺うと、ホーセーはフフフと笑い出した。
「フフフ、ハハハ……!
リュービ殿、あなたは噂以上の人物だ」
「ホーセー殿、それはどういう……?」
俺は意味がよく掴めず、彼女に聞き返した。相手のホーセーは、含みを持った笑みを浮かべて話し始めた。
「あなたはまず、他の生徒たちと共に目指すべき目標を示した。つまり、これは“道”ですね。
そして、次に今の情勢を述べ、“天”を示した。
さらに南校舎の地勢を説き、“地”を、続けて“将”を話された。
これはつまり、『孫子』の道理に則っている。
この短いやり取りで綺麗にまとめられるとは、リュービ殿、お見逸れしました」
やたら感心した様子でホーセーはこちらを見てくるが、彼女が何を言ってるのかいまいちよくわからない。
『ソンシ』というと、兵法書だったかな? よくわからないが、とりあえず同意しておくか。
「ええ、そうです、『ソンシ』です!」
俺はハッタリで自信満々に答えると、相手のホーセーはやはりといった表情でさらに聞き返してきた。
「次は順番からいって“法”となりますね。
では、お聞かせ願えますか?」
「え、あ、はい……」
ハッタリで返したのに早速バチが当たった。
“ホウ”? 砲、方、宝? どの“ホウ”だ?
一体、何の話をすればいいんだ? こんなことなら『ソンシ』をちゃんと読んでおくんだった……
「えーと、“ホウ”ですね。ホウ……ホウ……」
俺が内心取り乱して、狼狽えていると、部屋の入口より助け舟がやってきた。
「“法”ですね。
そちらでしたら私たちがお話させていただきます」
「コ、コウメイ! それにホウトウ!」
現れたのは我らが軍師、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る顔に、背は低い華奢な体つきの女生徒・コウメイ。
そして、左目を隠すように伸ばした黒髪、口に楊枝を咥え、着物を着た、風来坊のような身なりの、隣のコウメイと同じくらい小柄な女生徒・ホウトウ。
まさにこのピンチを救ってくれる救世主が現れた。
その二人の登場に、使者のホーセーもいち早く反応し、俺に尋ねてきた。
「リュービ殿、こちらのお二人をご紹介いただけますか?」
「はい、こちらは俺の軍師・コウメイ、そして隣が副軍師・ホウトウ。ともに我が陣営の頭脳です」
俺は今回はハッタリではなく、自信満々に二人を紹介した。
「おお、やはり臥龍・鳳雛とあだ名されるお二人ですね。お噂はかねがね聞いております。
コウメイ殿が軍師を務められて居られるのは知っておりましたが、ホウトウ殿もここに居られたのですね。一体、いつからここに?」
ホーセーは既に二人を知っていたようで、感激した様子だ。そして、彼女からの質問には、副軍師・ホウトウ自らが答えた。
「あっしがここ来たのはつい先日でござんす。副軍師に任命されたのもほぼ同じ頃」
このホウトウの回答に、使者・ホーセーはえらく驚いた様子で聞き返した。
「なんと、先日から来てもう副軍師になられたのですか?」
彼女の再びの問いに、今度は俺が答える。
「はい、ホウトウはよく話してみると噂通り、いえ、噂以上の人物だと分かり、その場で副軍師になっていただきました」
俺としてはこういう自信満々に返せる質問は歓迎だ。だが、俺の答えにホーセーは雷にでも打たれたかのような衝撃を受けていた。
「なんと羨ましい……
おっと、これは失礼。
リュービ殿、今のやり取りであなた様の人となりはよくわかりました。
今からは私の話を聞いていただきたい」
使者・ホーセーは改まった顔つきとなり、膝を揃えて俺に話しかけてきた。
「は、はい。なんでしょうか?」
ホーセーは満を持した表情で答えた。
「西校舎を取っていただきたい」
その表情からそれが冗談の類でないことはわかる。しかし、それはあまりにも驚愕の一言で、俺は思わず聞き返した。
「え、西校舎?
西校舎というのは君たちの主・リュウショウの治める土地だろう。一体、どうして?」
「その今の主・リュウショウは道も示せず、時勢に疎く、地の利を活かせず、将も知らず、法も無力な状態です。彼を戴いてもこの先、ソウソウを退け、生き残るのは到底、不可能でしょう。
リュービ殿、あなたなら西校舎を生かし、天下を取ることも可能でしょう。
ぜひ、西校舎を手に入れ、ソウソウと戦うために役立ててください」
確かに俺は西校舎が欲しいと願った。そのためにコウメイらと協議を重ねてきた。
しかし、まさか、その西校舎の人物から取ってくれとお願いされるとは思ってもみなかった。
「ダ、ダメだ……
それはできない」
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