第16話 蒼天!強のはじまり!
テニス部部室~
ソウソウは黄巾残党を降し、テニス部を傘下に加え、この部室を拠点に選挙活動に挑もうとしていた。
「ジュンイク、君の交渉のおかげでテニス部も黄巾残党も我が配下となった。これからも私の軍師として力を貸して欲しい」
赤黒い髪と瞳を持つ女生徒・ソウソウは傍らに侍る小柄な少女に話しかけた。
「お任せくださいソウソウ様。私が必ずあなたを生徒会長にしてみせます」
彼女は順藤幾恵、通称ジュンイク。ショートカットの黒髪に、鼻に小さな丸眼鏡をひっかけた小柄な少女だが、その頭脳を買われ、今やソウソウの右腕と目されていた。
「トータク戦で協力してくれたウキンやリテン・シカン達も引き続き我らに協力してくれることとなった。我が軍はどんどん精強になっていくな」
「つきましてはソウソウ様、一人紹介したい女性がおります」
「ほう、ジュンイクが前に紹介してくれたギシサイという子は親の都合で転校してしまって、残念に思っていたところだ。早速、紹介してくれ」
ジュンイクに招かれて部室に入ってきたのは、男子用のブレザーの制服を着た長身の女性。
「おお、写真で観るよりお美しい。あなたがソウソウ様ですね。
私は郭加奉子、カクカとお呼びください」
茶髪をポニーテールにまとめ、ツリ目、モデルのようなスラリとした体型に男用の制服、ブーツとパッと見、美男子のように見えるが、胸の膨らみや細い腰などはまぐれもなく女性であった。
「カクカは多少、素行に問題がありますが、柔軟な頭脳と、高い判断力・決断力を有しており、必ずやソウソウ様のお役に立てると思います」
「ジュンイクがそこまで評価するのなら期待できる。よろしく頼むぞ、カクカ」
「おっと、待ってくれないかいお嬢さん。まだ私はあなたにお仕えするとは決めてないよ」
「何を言い出すのですかカクカ!あなたがソウソウ様に会わせて欲しいと頼むから紹介したのですよ!」
「いつもつれないジュン君が、身も心も委ねたソウソウ様とやらを見たかっただけさ。
とりあえず、ソウソウ様の容姿は合格。
もう一つの条件に、合格したら私もソウソウ様に身も心も委ねよう」
「ほう、この私を試すというのか面白い。それでもう一つの条件とはなんだ?」
「それは…体の相性です」
「カクカ!あなた何を言い出すんですか!」
ジュンイクが顔を真っ赤にしながらカクカを叱りつける。
「まあまあ、私も狙っていたジュン君が獲られて寂しいんだよ。それに…」
カクカはソウソウに後ろから抱きつくと、その大きく開けた胸元に手を入れてまさぐった。
「ソウソウ様も噂だと女性がお好きだとか。どうです?一度私に抱かれてみませんか?」
「カクカ!ソウソウ様から離れなさい!」
ソウソウはまさぐる腕に自身の手を重ね、カクカの方を振り向いた。
「カクカ、一つ訂正だ。私は女も男も両方好きだ。
それと私からも一つ条件がある…タチ役は私だ」
「ソウソウ様も!」
「いいでしょう、たまにはネコも悪くない」
「決まりだ」
ソウソウはカクカの頭の後ろに手を伸ばすと、口づけを交わした。
「ななな!ソウソウ様!ここは部室ですよ!」
「それではジュンイク、私達はこれから入団試験をヤッてくる」
「知りません!もう勝手にしてください!」
「ははは、後でお前の相手もしてやるから」
「いりません!」
テニスコート前~
「みんなー!ソウコウのサンゴクシ、はっじまるよー!」
カメラの前で決めポーズをとるのはピンクのツインテールが特徴のソウソウの親戚・ソウコウ。
「何やったんだお前は…」
「ちょっとソウジン、今配信用の動画撮影してんだから邪魔しないでよ」
「配信用の動画?本当に何やったんだお前?」
ソウコウの前に現れたのは同じく親戚で、橙色の髪に女の子のような容姿をした男子生徒・ソウジン。
「ふふん、私はネットアイドルとしてデビューしたのよ!だからファンの子達のために新しい配信用の動画を撮っていたのよ」
「あいどるぅ~?、なんでまたそんなもんを」
「この前のジョエイ戦の時、ソウソウは私の顔が傷つけば悲しむものがいると言っていたわ。
せっかく傷つかなかったのだし、この顔で少しでもみんなを元気にできないかなと思って」
少し照れながらソウコウが答える。
顔はソウソウと似ているが、ソウソウが大人びた、カッコいい系の顔なら、ソウコウは少し幼げな、可愛らしい顔つきをしている。
「で、本音は?」
「そりゃ金になりそうだからよ」
ソウソウそっくりにニヤッと笑い、右手でお金のポーズをとるソウコウ。
「そんなことだろうと思ったわ」
呆れ顔になるソウジン。この二人は親戚であると同時に幼馴染でもあり、互いの性格はよく知っていた。
「なによその顔!私はネット記事が書かれるくらい話題になってるんだからね!」
「なになに…『金のためならここまでやる!今話題のゼニゲバアイドル!』…なんだ、色物枠か。てか、非難か称賛か微妙な記事だな」
「なによ!話題になるならなんでもいいじゃない!それにファンだっているのよ!ソウコウファン倶楽部のみんなー!集合!」
ソウコウの掛け声一つでどこからともなく50名程の男子生徒がわらわらと集まってきた。
「嘘だろ、おい。こいつのどこがいいんだ?」
「ソウコウちゃんは積極的に俺達に話しかけてくれるし」
「気軽に肩とか手とか触ってくれるし」
「コスプレとかもしてくれるし」
ソウコウファン倶楽部の面々が、ぼそぼそとソウコウの良いところを挙げていく。
「オタサーの姫かよ、こいつら大丈夫なのか?」
「ふふ、アイドル研究部をまるごと乗っ取ってやったわ。
みんなー!今日はソウコウのために集まってくれてありがとー!」
ソウコウがファン倶楽部の面々に手を振りながら挨拶する。
「ソウコウちゃん応援してるよー!」
「金なら払うからこっち向いてー!」
「男の娘マネージャーのソウジンもがんばれー!」
「おい、今聞き捨てならんセリフが聞こえたんだが…」
男の娘マネージャー、もといソウジンが、ソウコウの肩を掴み問いただす。
「え、あ、あはは、まあ、いいじゃない。
ソウジン、女の子みたいな顔してるから一緒にいても変な反感買いづらいし、
あんたそんな顔して腕っぷし強いから何かあった時頼りになるし」
「だからって勝手にマネージャーにするんじゃねぇ!
それになんだ男の娘って!そんなもんになった覚えもないわー!」
かわいい顔が台無しになるほど歪ませてソウジンはソウコウを怒鳴り付ける。
「中学でソウジンがグレて、周りの不良にケンカ売りまくってた頃は大変だったなー。
泣いてる伯母様をなだめたり、私も襲われそうになったりしてさー」
「うぐ、それは…悪かったと思っている。だが…」
「それにこれはソウソウのためでもあるの。
彼らは選挙ではソウソウに投票してくれると約束してくれたわ。
選挙戦開幕間際の五十票は貴重よ。それにこれからもファンは増やしていくつもりよ。これは大きな戦力になるわ」
「なるほど、確かに貴重な戦力だ」
ソウジン・ソウコウ二人の前に現れたのは彼らの親族・ソウソウだ。
「ソウソウ、カクカとの面談はもう終わったのか」
「ああ、カクカなら私に忠誠を誓ってくれたさ。ベッドの上でな」
少し汗ばんでいるソウソウは、得意のニヤリ顔をソウジンに向ける。
「ソウソウ…生徒会長を目指すなら少し慎んだ方がいいんじゃないか?」
「慎んだくらいでなれるほど、会長の椅子は安くはないさ。
いるかわからない将来の支持者のために慎むより、今支持をしようとしてくれる者のために動くべきだ。
ソウジン、ソウコウのマネージャーを頼むぞ」
「う、ソウソウ、お前まで…」
「ソウジン、お願い。あなたしか頼りになる人がいないの」
「…わかった、協力してやるよ」
ソウコウ・ソウソウ、二人のお願いに根負けしてついにソウジンも折れた。
「しかし、票はいいが、こいつらただのオタクだろ?戦力に組み込んでいいのか?」
「それを鍛えるのがマネージャーの仕事じゃない」
「俺かよ!」
「じゃあ、みんなー!これからもネットアイドル・ソウコウとマネージャー・ソウジンの双子の兄妹の応援よろしくねー」
「待て、双子ってなんだ!俺とお前は親戚なだけでそこまで近くは…」
「設定よ、設定。ほら、ソウジンも手を振って!」
「ソウソウ陣営はなかなか楽しそうですね」
「君は…誰だ?」
ソウソウの前に現れたのは身長190㎝ほどもある一際長身の女生徒であった。
「私は程郁立花、テイイクと申します。ソウソウ軍への入団を希望します」
テニス部部長となり、黄巾残党を味方につけたソウソウの元には多くの武将、参謀、兵士が集まりつつあった。
これがソウソウの強のはじまりである。