第135話 防備!リュービ軍の一幕!
遠く西の果て、西涼のバチョウと生徒会室・ソウソウとの一戦はソウソウに軍配が上がった……
場所は移って、南校舎の南部〜
ここには新たに南校舎の盟主となった、この物語の主人公・リュービが拠点としていた。
「リュービさん、以上がバチョウの乱の顛末となります」
そう締め括り、俺、リュービに報告してくれたのは、目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つき、透き通るような白い肌、背は低く、とても華奢な体躯の女の子、我が軍の軍師・コウメイ。
今、俺は彼女たちから西方の乱の報告と今後についての作戦会議を行っていた。
「ああ、うん……」
軍師・コウメイの報告を受けた俺はなんともトボけた声で返事をした。そのいまいちな反応に、何か疑問でもあるのかとコウメイは聞き返す。
「どうされましたか、リュービさん?」
「いや、なんか久々に喋るような気がして……」
「しっかりしてください。
私たちはこの間にも南校舎統治のために休みなく働いていましたでしょう」
あまりにトボけた事を言うので、年下の彼女にたしなめられてしまった。なにか久々の出番のような気がしたが、そうだな、気のせいだな。
「ごめんごめん、そうだったね。
それで敗れたバチョウたちはどうなったの?」
「カンスイさんは西北校舎に戻り、まだ独立の意思を示しているそうですが、バチョウさんたちは行方知れずのようです」
報告によればバチョウ方の四将が討たれたとのことだが、それでもバチョウら主犯格は逃走しており、まだまだ西方の不穏は続きそうな雰囲気だ。
「バチョウたちも西北校舎に戻ったのだろうか?」
俺はコウメイに尋ねたが、彼女は首を横に振った。
「断言は難しいですが、この時点でまだ行方知れずというなら、西北に戻った可能性は低いと思われます」
「そうか、西北に戻ったなら、カンスイと同じ様に意思表示をするはずだもんね」
「そう考えると、南に逃れて潜伏しているか、独立勢力のチョウロさん辺りを頼っているのではないでしょうか?」
俺はなるほどと頷くと、コウメイの隣から大きな笑い声が発せられた。
「ヒャッハッハ
リュービさん、これからでござんすな!」
そう言って、俺たちの会話に入ってきたのは、伸びた前髪で左目が隠れ、口に楊枝を咥え、着物を着た、風来坊のような身なりの小柄な少女、新たに軍師として加わったホウトウだ。
「ホウトウ、これからというのは?」
俺は軍師・ホウトウに尋ねると、彼女は口に咥えた楊枝を手に持ち、ニヤリと笑いながら答えた。
「ご存知の通り、会長はこれまで北の先代盟主や南の先代盟主と戦って、西が疎かでありやした。
しかし、この度、西北の群雄らを平定したのは、これもひとえに西側の攻略に動き出した証左でございやしょう。
リュービさんが西側への領土拡張を計るなら、会長と早い者勝ちの争奪戦となりやすな」
「な、なるほど。
確かに時間がない」
俺が頷くと、隣のコウメイが捕捉するように話を続けた。
「西校舎を先にソウソウに取られましたら、私たちはこの南校舎のみで対抗しなければなりません。
しかし、この度の西北平定は、西校舎の生徒にも動揺を与えたことでしょう」
コウメイが喋り終わると、間髪入れずにホウトウが続く。
「そうでしょーなー!
この度の会長の西側征伐は、元々、西の叛徒を討つという名目で始まりやした。
西北群雄に西の叛徒と平定されたら、次は誰の番か、それは西の生徒が一番わかってることでございやしょう」
「しかし、動揺するのはわかるけど、元々リュウショウとソウソウの仲は良好だ。
そのままソウソウに降伏してしまう可能性もあるんじゃないかな?」
二人の話が一段落して俺は尋ねた。確かに状況からして西校舎のリュウショウの勢力はソウソウの射程に入ったと言えるだろう。俺たちが西校舎取るなら急ぐ必要があるが、あっさりソウソウに降伏されると作戦を一から建て直さなければならなくなる。
俺のこの問いにコウメイが答える。
「確かに降伏論は出てくるでしょう。
ですが、組織とは人が何人も集まってできるもの、全ての意見が完全一致することはあり得ません」
「そこを利用するって寸法でさぁ」
ホウトウが茶々のような一言を入れるが、コウメイは説明を続けた。
「言い方は悪いですが、そういうことです。
今、私たちで秘密裏にリュウショウ勢力と接触を試みています。
リュービさんは今はとにかく準備に励んで、いつでも出撃できるよう軍隊を整えておいてください」
そう締め括り、この度の会議は終了した。
「……と、コウメイは言うけれども、軍隊を整えるって言ったってそんなにすることもないんだよな。
訓練はカンウ・チョーヒらがやってくれているし、後は編成くらいで……」
俺はそんなことを漏らしながら、訓練の真っ最中であろう体育館を訪ねた。
扉を開けて真っ先に目に飛び込んで来たのは、入口付近で倒れ込む数名の男子生徒であった。
「君たちは……フウシュウ、チョウナンか!
おい、大丈夫か? しっかりしろ」
そこに倒れているのは新たに俺たちの陣営に加わった一年生のフウシュウとチョウナン。他にも何人か倒れているが、いずれも一年生だ。
「おう、アニキ!
訓練なら一段落ついたんだぜ!」
そう言いながら奥から現れたのは、背が低い、頭に中華風のお団子カバーを左右に二つ着けている、元気そうな雰囲気の少女・チョーヒであった。
彼女は今し方まで訓練をしていた様子で、体操服姿で首にかけたタオルで汗を拭っていた。
チョーヒは俺の義妹であり、小柄な体つきながら、この学園でも随一の戦闘力を誇る。我が軍の主力武将なので、新兵の訓練を任せているのだが、少々やり過ぎてしまうのが難点だ。
「チョーヒ、いくら訓練でもこれはやり過ぎだよ。
一年生が軒並み倒れてるじゃないか」
「そうは言うけど、こいつらすぐ潰れやがったんだぜ。
こんなんじゃ、この先思いやられるんだぜ」
「そりゃ、入学早々チョーヒの相手が務まる相手はそんなにいないよ」
俺はたしなめるつもりで言ったのだが、それに対してチョーヒは照れながら返した。
「いやー、アニキ、そんな褒めたって何も出ないんだぜ。
あー、でもアイツはそこそこ根性あったぜ。あのギエンって奴は」
「そうか、チョーヒの眼鏡にもかなう子がいたか。ギエンは面接でもやる気がある感じだったからな。
それでそのギエンはどこに?」
「ああ、そこで伸びてるのがそうだぜ」
チョーヒの指差す方へと目を向けると、男物の学ランに、頭にハチマキをつけ、下駄を履いた、まるで応援団のような姿の女生徒がうつ伏せになって寝転がっていた。
彼女は新入生のギエン。出会った時は大声を張り上げる元気っ子だったが、チョーヒの洗礼を受けた今は見る影も無い有様だ。
「うわ、ボロボロじゃないか!
おい、大丈夫か、ギエン?」
俺が彼女に声をかけるとウーと低く唸るような声を発して返答をする。どうやら完全に気は失っていないようで、なるほど、チョーヒの言うように根性はあるようだ。
「チョーヒ、もう少し加減しないと、これじゃあみんな潰れちゃうよ」
「でもよーアニキ、こんなんで音を上げてちゃ、それこそ本番の戦いで潰れちまうんだぜ!」
チョーヒはまったく悪びれる様子もなく答える。彼女なりの考えあってのことのようだけど、よい状況とは言えない。
「そうかもしれないけど、順序ってもんがあるよ。
チョーヒ、君は部下や後輩に対して厳しすぎる。その上、厳しく接した彼らを側に置いている。
そんなやり方じゃいつかやり返されるよ」
「戦闘員ならやり返すくらい元気がある方が良いんだぜ!
それにカン姉のやり方じゃ優しすぎるんだぜ!」
その言葉に俺は思わずウーンと唸った。
彼女がカン姉と呼ぶのは、チョーヒの義姉で俺の義妹、カンウのことだ。彼女も武勇においては学園随一で、我が軍の主力を務めている。
チョーヒは部下や後輩に厳しすぎるが、カンウは優しすぎるところがある。自分より弱い者に決して本気は出さない。出さないのはいいのだが、怪我しない程度に軽くあしらって終わってしまう。こちらはこちらで優しすぎてあまり訓練にならない。
カンウもチョーヒも共に強すぎて実力差があり過ぎる故に、両極端な接し方になってしまい、どうにもちょうど良い訓練ができない。
我が軍の武将というと他にチョーウン、コーチューらがいる。チョーウンは少々放任主義、コーチューは根性論に行くところがあるが、この二人に比べれば加減が出来ている方だろう。
しかし、全軍の訓練をこの二人だけに任せるのは負担が大きいし、何よりカンウ・チョーヒはうちの主力武将であるからこそ、良い加減を学んで欲しい。
「そう言えば、カンウやチョーウンは?
コーチューは今日は見張りの当番だったと思うが、あの二人もここにいるはずだよね?」
「ああ、カン姉とチョーウンは今は自分たちの訓練をやってるんだぜ」
チョーヒに案内され、体育館の裏手に回ると、今まさにうちの主力武将、カンウ・チョーウンの手合わせが行われていた。
「行きますよ、チョーウン!」
「来なよ、カンウ!」
向かい合う腰まで届く長く美しい黒髪の女生徒が俺の義妹・カンウ。いつもの制服ではなく体操服姿に着替え、その長い髪を一つ結びにまとめている。お嬢様のような雰囲気を漂わせているが、手の構えは戦闘態勢を表している。
対する野球帽をかぶったボーイッシュな女生徒はチョーウン。こちらも我が軍の主力武将の一人だ。ジャージの上着にスパッツ姿だが、こちらはいつも通りの格好だ。
「カンウとチョーウンの戦いか。
これが古代なら夢の対決と言われそうだね」
「カン姉はザコには情けをかけるが、相手がチョーウンじゃそうもいかないんだぜ!
訓練とは言え、いい勝負が見れそうだぜ!」
先に動いたのはチョーウンだ。彼女は自慢の素早さを活かして、目にも止まらぬ速さでカンウと距離を詰めると、カンウ目掛けて突きを放つ。
対してカンウは最小限の動きでそれをかわすと、相手の懐へと両手を伸ばす。カンウの指が彼女の襟に届かんとするその刹那、チョーウンは瞬時に屈みつつ背後へと周り、カンウの腰を掴む。
しかし、チョーウンが次の動作へ移るより先にカンウは振り向きつつ、中段へ突きを入れる。それをチョーウンは後転して躱すが、カンウの攻撃は終わらない。続け様に距離を詰めるとそのまま流れるように彼女の背後を取り、そのまま後へと投げ飛ばす。
投げ飛ばされたチョーウンは空中で瞬時に態勢を立て直して着地すると、投げの姿勢のカンウに飛びかかり、その突き出した右腕に抱きついた。チョーウンはそのままカンウを引き倒そうとするが、カンウは腕を振り回し、チョーウンを地面へと叩きつけようとする。
地面に接するそのタイミングでチョーウンは素早く腕より離れ、バク転してカンウより距離を取る。
「うーん、さすがの戦いぶりだ。
素早さや敏捷さならチョーウンに分がありそうだが、カンウにはその全てを捌く戦闘技術がある」
しかし、両者の動きは目にも止まらぬ速さだ。俺もカンウやチョーヒの特訓を受けていなかったら、とても目で追えなかっただろう。
次の瞬間、両者の眼が鈍く光るのを感じた。それと同時に、チョーヒは手に持っていたタオルを二人に投げつけた。
「そこまでだぜ、カン姉、チョーウン!
それ以上は訓練じゃないんだぜ」
チョーヒの言葉に、二人は拳を納めた。俺は反応出来なかったが、どうやら先ほどの眼の光は本気の合図であったようだ。
「そうですね。思わず本気になってしまいました。
チョーウン、この戦いは引き分けとしましょう」
「いや、先に本気になったのはボクの方だ。
ボクの負けでいいよ」
二人は互いにそう声を掛け合った。
カンウ・チョーヒ・チョーウン、この三人はとにかく強い。この三人なら俺の留守も任せられるかな。
「カンウ・チョーウン、お疲れ様。
二人とも凄かったよ」
「ああ、兄さん。ありがと……
待ってください! それ以上近付かないでください!」
俺が声をかけると、カンウは一瞬笑顔になったが、突然、声を上げ、後退りした。
「え? な、なにかなカンウ?」
俺は何かやらかしたのかと彼女に確認した。そう聞くとカンウは恥ずかしそうにこう返した。
「あの、兄さん……今、汗をかいているのでそれ以上近付かないでください……」
顔を赤らめながら話す彼女に、配慮が足りなかったなと俺は思わず謝った。
「そ、そうだね……ごめん」
俺とカンウのやり取りを見て、俺のすぐ隣にいるチョーヒは気まずそうにおずおずと尋ねてきた。
「なあ、アニキ……
もしかしてオレ、汗臭いのかだぜ?」
「え、いや、そ、そんなことは……クンクン……」
俺がチョーヒの匂いを嗅いだその瞬間、鉛をぶつけられたかのような衝撃が俺の腹を通り抜け、その場に昏倒した。
「ア、アニキ!
匂いを嗅ぐなんてデリカシーないんだぜ!」
「あー、リュービさん。それは駄目だよ」
俺は遠退きつつある意識の中、チョーヒに怒声に、チョーウンのダメ出しを微かに聞き取りながら、本当に配慮が足りなかったなと反省した。
そんな状況の中、我が軍の軍師・コウメイが駆け足で俺たちの元にやってきた。
「リュービさん、リュウショウさんから使者が来ました!
おや、何寝てるんですか。早く準備してください!」
どうやら、休ませて貰えそうにないな。
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