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第129話 獅子!バチョウの奮迅!

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「お前がソウソウだな」


 彼女は目の前の相手に対して、はっきりした口調でそう尋ねた。確認のための質問だが、彼女は確信していた。この目の前の女こそ宿敵・ソウソウであると。


 金色の髪を振り乱し、(あお)い瞳を輝かせ、傷一つない白い肌の女生徒、この乱の発起人(ほっきにん)・バチョウは、敵の波をかき分けて、ついに敵の総大将・ソウソウの元へとたどり着いたのであった。


「そうだ。


 お前がバチョウだな。よく来た」


 相手の回答はバチョウの予想した通りのものであった。


 だが、その肝心(かんじん)のソウソウは、突如、敵の首魁(しゅかい)が登場したというのに、何食わぬ顔で彼女を応対した。


 赤黒い髪と瞳、背はそこまで高くはなく、痩せ細った体型、胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートという売女(ばいた)のような服装。


 人違いや影武者ではない。彼女こそソウソウだ。


 バチョウは確信をより深めた。


 生徒会長であるソウソウはこの学園では一番の有名人。集会での演説に、校内放送、あるいは学内新聞と、直接面識はなくとも、その顔は何度も見ている。


 だが、あまりにもかつて見たままの姿だ。


 ソウソウといえば完璧超人として周知されているが、武勇に秀でているという話は聞かない。その手足もか細く、バチョウの剛勇なら軽く折ってしまえそうだ。しかし、とても勝てぬ相手が今、目の前に殺気を立てて立っているのにソウソウは表情一つ変えはしない。


 表情だけでない。顔色は青白いのは元からだが、そこから顔色も変わらず、動悸(どうき)も早まりはしなければ、息遣いに乱れもない。


 バチョウにはそれがひどく不快であった。


「お前はそれで(おび)えているのか?」


 バチョウは思わず(たず)ねた。


「私が(おび)えているように見えるか?」


「見えん。


 だから気に入らん」


「フッ、正直な奴だな」


 そのバチョウの回答に、ソウソウは軽く笑った。だが、バチョウの見たい表情はそれではない。


「ならば、諦めているのか?」


「この私がか?


 私ほど強欲で諦めの悪い女も早々おらんぞ」


「だろうな。


 ならば何故、(おび)えもせず、諦めもせずアタシの前に対峙できる。


 そのか細い体でアタシの膂力(りょりょく)は受け止めきれないぞ」


 バチョウは脅すような口調でソウソウに迫る。だが、その脅し文句にもソウソウは一切の乱れを見せない。


「私をか細いと言うが、お前の腕もそう変わらんだろう。


 だが、お前の腕は繊細で白く美しい手をしているな」


 ソウソウは優しげな目でバチョウの腕に目をやる。だが、その言葉にバチョウにますます不快感を(つの)らせた。


「世辞ならいらん」


「世辞ではない。


 手だけではない。その白き肌も(あお)い瞳もどれも美しい」


 その言葉にバチョウは半ば(あき)れたような顔で返した。


「ソウソウ。貴様は女好きとは聞いていたが、まさか、このアタシまで口説くつもりか?」


「美しいものを美しいと言っているだけだ。


 そして、何より美しいのは、君のその金髪だ。染色では出ない天然の色だ。


 ただ美しいだけではない。気高さがある。その金髪が広がる様はさながら獅子(しし)(たてがみ)彷彿(ほうふつ)とさせる」


「くだらん。褒めても手加減はせんぞ」


「構わんよ。お前が獅子(しし)ならうちには虎がいる」


 ソウソウの優しげ目は一瞬にして不敵な目へと変貌(へんぼう)する。


「なんだと!」


 その言葉と同時にバチョウは殺気を感じ、すぐに防御態勢を取った。だが、間髪(かんぱつ)入れずに、まるで砲弾のような何かが勢いよくバチョウ目掛けて飛び込んできた。


 その砲弾に弾かれて、バチョウの体は大きく後退し、ソウソウより強引に引き離された。


 バチョウをはねのけた砲弾かに思えたその物体は、手足を生やし、小柄な空手着の少女へと姿を変えた。


「ソウソウ会長! 遅れて申し訳ありません!」


「いや、よいタイミングだ。


 ちょうど今、お前の話題を出していたところだよ」


 ソウソウはニヤリと笑い、その少女に返す。そして、ソウソウは再びバチョウへと視線を移した。


「バチョウ、紹介しよう。


 うちの虎児(こじ)・キョチョだ」


 相手は小学生のように小柄な少女だが、先ほどの体当たりで、その力は充分推し量れる。なるほど、虎と名乗るだけの力はあるようだ。


 突然、現れた虎に対して、バチョウは敵意をむき出しにして(にら)みつけた。


 バチョウは内心で(ほぞ)を噛んだ。


 判断が遅れた。


 ソウソウが手を伸ばせば届く位置にいながら、そのチャンスをみすみす手放してしまった。時間にしてわずか2、3分の出来事であっただろう。そのわずか2、3分、ソウソウに手を伸ばすのを躊躇(ためら)った。


 なぜ、躊躇(ためら)った?


 アタシがソウソウ相手に(ひる)んだというのか!


 バチョウが導き出した答え。それは彼女が決して受け入れられないものであった。


「認めん!


 アタシは認めんぞ、ソウソウ!」


 自分より明らかにか細いソウソウ相手に、気圧(けお)されたなんてあってはならない。


 バチョウは怒髪天(どはつてん)()くの言葉さながらに、その金髪を逆立たせ、まさに獅子(しし)形相(ぎょうそう)でソウソウに対して心火(しんか)を燃やした。


「なにを認めないのか知らないが、ソウソウ会長には指一本触れさせない!」


 そのバチョウの刺すような視線を、空手着姿の少女・キョチョが自身の小柄な体で(さえぎ)る。


退()け! お前に用はない!」


 バチョウは足を振り上げて、キョチョの胴体目掛けて横から()ぐような蹴りを食らわせる。キョチョは腕を(たて)にしてそれを防ぐと、そのままバチョウの足に組み付いた。


 足を(つか)まれたバチョウは、小柄なキョチョを付けたまま足を再び振り上げて、体ごと倒れ込み、足にしがみつくキョチョを床へと叩きつけた。しがみつくキョチョも背中の衝撃に思わず苦悶(くもん)の表情を浮かべ、手を離した。


 バチョウはキョチョが離れると、すぐに立ち上がり、さらに足を持ち上げて、キョチョ目掛けて床へ振り下ろした。キョチョは左に一回転して蹴りをかわすと、立ち上がると同時にバチョウの腰へと突進する。


「うぐっ!」


 バチョウは低くうめき声を上げたが、その場で突進に耐え、自身の腰に組み付くキョチョの背中へ、拳を振り下ろした。


 今度はキョチョのうめき声が()れる。


 それでもなおも腰に組み付くキョチョを、次にバチョウはその横っ腹に拳を振り下ろし、強引にキョチョを引き離した。バチョウは、キョチョを吹き飛ばすと、再びソウソウへと目を移した。


「ソウソウ…!」


「行かせん!」


 すぐさま、キョチョの蹴りが背を向けるバチョウへと繰り出される。バチョウは右足を(じく)に回転して蹴りをかわし、そのまま自身も蹴りを繰り出した。


 キョチョは(かが)んでそれをかわすと、すぐに飛び上がり、バチョウの顔面目掛けて正拳突きを放つ。バチョウも間髪(かんぱつ)入れずにかわそうとするが、キョチョの拳はバチョウの(ほお)薄皮(うすかわ)()いた。


 バチョウの傷一つないその純白の肌から、薄っすらと血がにじみ出る。その一撃はバチョウ最初のかすり傷となった。


 金獅子(きんじし)・バチョウと虎児(こじ)・キョチョの息もつかせぬ一戦は、(はた)から見るソウソウにはまったく目で追えぬ神速の戦いであった。だが、目には見えぬが、その一撃一撃は空を()く音を伝えていた。耳から知る情報だけで、凄まじい戦いが展開されていることが(うかが)い知れた。


「キョチョでも手こずる相手か、バチョウは」


 ソウソウの身辺を預かるキョチョは、軍きっての怪力を誇る。ソウソウ十傑衆の虎児(こじ)・キョチョといえば、軍内外にその名を(とどろ)かせている。


 だが、そのキョチョ相手に、バチョウは互角の戦いを見せている。


 バチョウの武勇はソウソウの予想を大幅に上回るものであった。


 未だ決着のつく気配を見せぬ両者の戦いであったが、それを終わらせようと、新たな戦力が駆けつけた。


「ソウソウ会長、虎豹騎(こひょうき)を連れてきました!」


「でかした、テイヒ!」


 ソウソウの将校・テイヒに率いられ、虎豹騎(こひょうき)が駆けつけてきた。


 虎豹騎(こひょうき)はソウソウ軍が誇る精鋭部隊。ソウソウ自ら軍中から選びに選び、中にはかつて百人の兵を率いた指揮官という経歴の者さえ含まれた。一人一人が一騎当千のエリート軍であった。


虎豹騎(こひょうき)は全軍、バチョウへかかれ!


 キョチョ、虎豹騎(こひょうき)に任せてこの場は退()け!」


 ソウソウの指示が辺りに響く。


 既にキョチョとの一戦で体力を削られたバチョウに、続いて虎豹騎(こひょうき)が襲いかかる。圧倒的な暴威をふるうバチョウといえども、さすがに勝敗は決したかと思われたその時、後方より今度はバチョウの援軍が到着する。


(わか)、ご無事ですか!」


「バチョウ、すまない。遅くなった」


 バチョウを追って現れたのは、長い髪に(わし)の羽飾りをつけ、民族衣装をきた彼女の部下・ホートク。そして、学帽に片眼鏡、マントを羽織った従兄弟(いとこ)のバタイ。


 二人の男子生徒の到着で、戦局は再びわからなくなった。それを瞬時に察したソウソウの護衛・キョチョは急ぎソウソウの元へ駆け寄った。


「ソウソウ会長、失礼します」


 キョチョは有無を言わさず、その小柄な肩に、自分より背の高いソウソウを担ぎ上げた。


「キョチョ、この運び方は少々乱暴ではないか?」


「すみません。これが一番早いので」


「スカートへの配慮が欲しいのだが……仕方ない、今日は大目に見よう」


「ありがとうございます」


 だが、キョチョに担がれ、逃げ出すソウソウをバチョウは目ざとく見つける。


「逃げるな! ソウソウ!」


 バチョウは行く手を阻む虎豹騎(こひょうき)の一人の胸ぐらを(つか)むと、そのまま軽々と振り上げて、ソウソウとキョチョ目掛けて投げつけた。しかし、キョチョはそれを悠々(ゆうゆう)とかわし、渡り廊下を目指して逃げ出した。


「逃げるな! 虎なら背を見せるな!」


 バチョウは敵に背を向けるキョチョを激しく(ののし)るが、キョチョにとっての第一はソウソウの安全。自身の名に傷が入ろうとも意に返さず、振り向くことさえなく突き進んだ。


(わか)、この者たちは我らで相手します」


「だから、バチョウはソウソウの元へ!」


 部下のホートクはバチョウの前に進み出て、従兄弟(いとこ)のバタイはバチョウへ手を差し伸べる。


「頼むぞ、二人とも!」


 バチョウはバタイの差し出した手、さらに肩を踏み台にして、宙高く舞い上がり、群れ成す虎豹騎(こひょうき)の頭上を軽々と飛び越えた。


 虎豹騎(こひょうき)を追い越し、爆速で追いかけてくるバチョウの姿に、危機感を覚えたキョチョは、渡り廊下いっぱいに詰めるソウソウ軍の中に力づくで割り込んでいった。


「すまん、みんな。


 後でいくらでも謝る」


 キョチョの移動はまさに強引の一語に尽きる。


 前で整然と並び、粛々(しゅくしゅく)と移動するソウソウ軍の中に割り込み、むりやり前の生徒を追い抜かし、引き倒し、わざとジグザグに()うように進んだ。


「なんだ!」「押すな!」「何が起きてるんだ?」「敵がここまで来てるのか!」


 むりやり押し退けられるソウソウ軍の兵士は阿鼻叫喚(あびきょうかん)に包まれる。


 そのキョチョの強引な移動はソウソウ軍に混乱を招き、次第に秩序は失われ、先ほどまでゆっくりと進んでいたその歩みは徐々に早足となり、駆け足となっていった。


 その光景にキョチョはダメ押しで叫んだ。


「敵の襲撃だ! 逃げろ!」


 その言葉で一転、ソウソウ軍の統制は崩壊した。


 渡り廊下に満ちるソウソウ軍から一斉に絶叫が響き、(せき)を切ったように我先にと前の生徒を押し退けて、出口へ殺到した。


 だが、これだけの生徒が同時に出口に殺到すれば、あっという間に通路は()まり、道は(ふさ)がれる。それは当然の結果であった。


 これにより渡り廊下の移動は困難を極めた。


 しかし、それはバチョウの行く手を(はば)む完全な防壁の完成でもあった。


退()け! ここを通せ!」


 バチョウは列に強引に割り込もうとするが、もはや手遅れ。自力で動けない相手に退()けと言って動くわけもなく、一人ずつ引き抜いていては到底間に合わない。


(わか)、その道はもう進めません!


 ここは一旦引きましょう!」


 部下・ホートクの声が後ろより響くが、それに従うバチョウではなかった。


「まだだ!


 まだ“上”がある!」


 バチョウは俊敏(しゅんびん)に敵兵の肩を踏み台にして飛び()ねると、天井と兵士の頭の間を器用に通り抜け、渡り廊下の左右の壁を蹴り飛ばし、八艘(はっそう)飛びの要領で高速でソウソウを追いかけた。


「ソウソウ!


 必ずお前を倒す!」

 最新話まで読んでいただきありがとうございました。


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次回は4月29日20時頃更新予定です。

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