第126話 一蹴!勇壮のジョコー!
西側・西涼陣営〜
「それでオメオメと逃げかえってきたのか、アァン!」
西涼軍のテーギン・コーセン・リカンは、ソウソウ軍の別部隊、カコウエン・ジョコーの進行を妨害しようと出撃したが、全く歯が立たず、這々の体で逃げ延びた。
その報告を受け、三人のあまりの不甲斐なさに西涼の狂犬・リョウコウはキレ散らかしていた。
「しょーがねーじゃねーかよ。
やられちまったら元も子もねーだろ」
激怒するリョウコウに対し、逃走の判断をしたコーセンは反論するが、カッコの悪さにどうにも歯切れが悪い。
「まあまあ、リョウコウ、負けてしまったのは仕方がない。
今は次の策を考えよう」
乱の首謀者、カウボーイハットをかぶった男子生徒・カンスイは、キレ散らかすリョウコウをなだめるが、彼も内心穏やかではなかった。
彼は内心、あまりに早い決着に頭を抱えていた。これが敵と自分たちとの実力差なのかという考えが頭を過ぎったが、そんなことはおくびにも出さず、周りを励ました。
東側・ソウソウ陣営〜
「よく来てくれた、カコウエン。
敵軍を早くも蹴散らしてくれたな」
生徒会長・ソウソウは、早速戦果を上げたカコウエンを手厚く出迎えた。
茶色いショートヘアー、黒いジャケット、ジーパン姿の女生徒・カコウエンは恐縮した様子で、その言葉を受け取った。
「いえ、今回の戦功は全てジョコーにあります。
私は後ろから見ていただけに過ぎません」
「そうか、ジョコー、こちらに来い。
よく敵を撃ち破ってくれた」
ソウソウに呼ばれ、赤い逆立った髪の長身の男子生徒・ジョコーが前に進み出て、礼を述べる。
「ありがとうございます」
「それで、ジョコー。
戦ってみてどうであったか? お前はどう敵を見る?」
ソウソウはジョコーに訊ねる。実際に戦った者の情報は貴重である。更に言えばジョコーは冷静な判断力・分析力を有し、ソウソウも高く評価していた。彼の話を聞くのは当然と言えた。
「はい、私見を述べさせていただきます。
敵は連合を組み、その勢いは盛んで、正面から無理に突破しようとすれば我らの被害は甚大なものになると思われます。
しかし、分散してしまえば、個々の戦力は決して強大なものではありません。
今、我々が北の廊下を抑え、北と正面、二つのルートから敵を圧迫すれば、撃ち破れるのではないでしょうか」
ハキハキと淀みなく答えるジョコーに、ソウソウは感心して聞き入った。
「なるほど。
ジョコー、北の確保は任せられるか?」
「はい、お任せください!」
ジョコーは自信満々に答える。
「よし、ジョコー、お前の副将にシュレイ・ロショウをつける。
ただちに北に赴き、橋頭堡を確保せよ!」
ソウソウは、ジョコーにシュレイ・ロショウの二将を率させ、北へと送り込んだ。
西側・西涼陣営〜
場面変わって再び西涼陣営。
彼らの陣営に、早速、ジョコーらの一軍が北へと進路を取ったとの情報が入った。
その情報を得ると、西涼陣営を率いる番長たちによる作戦会議が開かれた。本来なら会議での議論は首謀者・カンスイが牽引するが、彼は押し黙ったまま喋ろうとせず、それに引っ張られ、周囲も沈黙した。
実際、カンスイはその胸の内で必死に思考を巡らしていたが、考えがまとまらずにいた。
(参ったな、敵は北を抑えるつもりか。二ヶ所から攻められるのはキツイ。
何より、我らの切り札はバチョウ一人しかいない。同時に攻められては、バチョウを上手く使うことはできん……)
そんなことを、乱の首謀者・カンスイは一言も発さず、ただ黙って胸の内のみで考えていたが、ついに、その沈黙に耐えられなくなった男が叫ぶように言葉を発した。
「だー!
一度負けたくらいで黙ってんじゃねーぞ!
北も正面も全部叩き潰せば済む話だろーが!」
狂犬・リョウコウの言葉に、カンスイはふと我に帰る。確かに追い払う以外に手段はない。複雑に考えたところでどうなるものでもない。
しかし、ジョコー相手では、まだバチョウは使えない。ソウソウとの決戦こそ本番。そこでバチョウが十二分に実力を発揮するためには、まだここで投入するわけにはいかない。
そう考えたカンスイは、目の前の男へと視線を移す。
「リョウコウ、お主に北の敵を任せても良いかな?」
「俺はいつだってそのつもりだ!」
リョウコウの荒げるような絶叫が周囲に響き渡る。
「ならば、リョウコウ……それとチョーオー。
二人は北へ行き、敵軍を撃ち破ってくれ」
カンスイもリョウコウの戦力には期待していた。コーセンらでは歯が立たなかったが、狂犬とあだ名され恐れられているこの男なら、最強と名高いソウソウ軍にも太刀打ちできるだろう。だが、その粗暴さに不安も覚える。
それを危惧したカンスイは、さらに一人追加した。
チョーオーは、リョウコウとは古い仲だし、ある程度制御してくれると期待しての任命であった。
「おい、俺一人じゃねーのか!」
「心得た。行くぞリョウコウ」
不満タラタラのリョウコウであったが、チョーオーに引っ張られる形で彼は渋々北の戦場へと向かった。
「リョウコウよ、お前と組むのは去年のリカク討伐依頼だな。
あの頃はまだダンワイもいた……」
廊下を抜け、北の戦地へ向かう道中、迷彩服の男・チョーオーはポツリと呟くように、並んで歩くリーゼントの男・リョウコウへと話しかけた。
「ケッ、忘れたぜ、そんな昔の話」
リョウコウは、何を話すのかと思えば思い出話かよとでも言いたげな様子で、面倒くさそうに適当に返した。しかし、チョーオーはそんな彼の反応お構いなしに話を続けた。
「俺たちももう三年生。
こうしてお前と組むのはこの戦いが最後になるだろうな」
「セーギのジジイじゃあるまいし、何、辛気臭せーこと言ってんだよ」
リョウコウは半ばキレ気味に返した。だが、相手のチョーオーも予想できる反応だったようで、構わずさらに話を続ける。
「リョウコウ、お前は一見、粗暴な男だが……まあ、二見、三見しても粗暴な男ではあるが……」
「喧嘩売ってんのか、テメー!」
手が出そうになるリョウコウを押し止め、改めてチョーオーは話し直した。
「だが、お前はいざと言う時には冷静な判断が下せる男だ。
そして何より信念がある」
チョーオーがあまりに真剣な面持ちで言ってくるので、リョウコウも面食らって、気持ちばかり語気を弱めた。
「気持ちわりーな、何が言いたい」
「頼りにしているということだ。
バチョウがまだどれほどのものかわからぬが、この戦いに勝利するためには、お前が協力が不可欠だ」
「ケッ、言われなくてもわかっとるわ!」
リョウコウは照れ臭そうにそっぽを向いた。そして、タイミング良く、その向いた先に敵影を捕えた。
「ほら、敵が見えてきたぞ!
足引っ張んじゃねーぞ、チョーオー!」
「そちらこそ、先走るなよ、リョウコウ!」
再び場面はソウソウ陣営。
北の陣地確保を目指すソウソウ陣営武将・ジョコーの軍に視点が移そう。
ジョコー軍の動きは敵軍よりはるかに先行していた。敵のリョウコウ・チョーオー軍がこちらを見つけるより先に、その動向を突き止め、すぐに迎撃準備を開始していた。
リョウコウ・チョーオーがジョコー軍を発見した時には既に、ジョコー軍は陣地を構築し、迎え撃つ態勢は整っていた。リョウコウらが戦場に到着した段階で、それだけの差が開いていることを、彼らは知る由もなかった。
「あれが西北の新手か」
既に陣形を整え、準備万端のジョコーには充分な余裕があった。彼が目視で敵影を捉えた時の態度にもそれは表れていた。
その横に立つ、メガネをかけた、黒のインナーにデニムのズボン姿の男、この軍の副将・シュレイもまた、敵影を見つけたが、彼はいつもの通りのしかめっ面で、少し早口気味にジョコーへ語りかけた。
「例え新たな人材を投入しようとも、ニアリーイコールレベルのヒューマンリソースではコンシークエンスは変わらない」
「なんて?」
シュレイ相変わらずの難解な語り口に、ジョコーは思わず聞き返した。
そのやり取りを傍目で見ていた日に焼けた肌にジャージ姿の男、もう一人の副将・ロショウは少し苦笑混じりにシュレイの代わりに答えた。
「つまりだな、人が変わっても似たような種類の奴では結果は変わらないってことだよ」
ロショウの通訳で、シュレイの言いたいことを理解したジョコーはようやく合点がいった。
確かに前回撃退したコーセンらと、今回の敵はどうも似た系統、もっと言えば力押しの猪武者タイプに見える。同じような敵なら同じように対処できるというわけだ。
「なるほど、確かに図鑑なら同じページに居そうな顔ぶれだ。
だが、似たような顔ぶれだからって侮っちゃいけない。
常に敵の情報を集め、如何なる事態が起ころうとも備えるべきだ。
勝敗はその後の話に過ぎない」
シュレイの意見ももっともだが、油断してかかるのは良くない。
ジョコーは、一応敵の情報を確認し、シュレイらに指示を出した。
「情報によれば、あの顔ぶれはリョウコウ・チョーオー。の二人。
おそらくはリョウコウが突出してくる形になるであろうから、お前たち二人は防備を固めてくれ。
俺がリョウコウを相手する」
ジョコーの指示に応じ、シュレイらは速やかに自陣の指揮へと移った。
シュレイは表情の変化も乏しく、ロショウがいなければ意思疎通もままならぬ男で、煙たく思う者もいるが、仕事を任せれば充分な結果を出す武将であった。
幸い、今回組んだジョコーはそんなことで煙たく思う男ではない。むしろ、シュレイの能力を高く買っているので、安心して後方を任せられると思っていた。
準備万端、敵の情報を得て、後方に気兼ねすることもなく、余裕の様子でジョコーは敵の前へと進み出た。
敵二将がジョコー軍に近づくと、大方の予想通り、リョウコウと思わしき方が、もう一人の制止を振り切る形でジョコーへと向かってきた。
「俺は西涼高のリョウコウだ!
おい、テメーが大将のジョコーか!」
話には聞いていたが、随分荒っぽい男が出てきたなと内心思いながら、ジョコーはさらに前へと駆け出して、リョウコウの目の前にまでやってきた。
「俺はソウソウ十傑衆が一人、“勇壮のジョコー”!
今ならまだ間に合う。速やかにソウソウ会長へ投降しろ!」
「眠てーこと抜かしてんじゃねーぞ!」
ジョコーの投降勧告にキレたのか、はたまた既にキレていたのか、リーゼントの男・リョウコウは怒鳴りながら、手にしたバットを振りかざし、敵将・ジョコー目掛けて一直線に駆け出した。
しかし、彼の動きは予測済みであったジョコーにとって、その攻撃をかわすのは容易であった。
最初の一撃をかわされたリョウコウであったが、さらに負けじと、バットを縦横に振り回す。
だが、相手は歴戦のジョコー。彼がこれまでに戦ってきた学園の猛者たちに比べれば、リョウコウのバットは充分かわせる速さであった。
「このヤロー!
ちょこまかと逃げてんじゃねー!」
ムキになったリョウコウは、手にしたバットを勢いよくジョコー目掛けて放り投げた。
その攻撃に、ジョコーは咄嗟に自身の両腕を盾のように突き出して、バットを防いだ。
リョウコウの投撃を両腕に受け、本来なら無事では済まないダメージだが、しかし、両腕に命中したバットはガキリと音を立て、地面に落下した。
「テメー、袖の中になんか仕込んでやがんな!」
「ふっ、万事常に抜かりなく」
ジョコーは取り乱すこともなく、余裕の笑みで返した。
彼はバットを手放して無防備になったリョウコウ相手に、一気に距離を詰めると、リョウコウが反応を示すより早く、その頬目掛けて拳を放った。
拳を受けたリョウコウは、低くうめき声を上げながら、よろけた足取りで数歩後ずさる。
「おい、田舎のヤンキー!」
よろめくリョウコウ相手に、ジョコーは快活な声で無遠慮に呼びかける。
「俺はリョウコウだ!」
キレるリョウコウだが、お構いなしにジョコーは話を続けた。
「田舎のヤンキー!
名前を呼んで欲しけりゃソウソウ会長に降伏しろ! そして中央に来い!
この学園は広い! 俺より強い奴がわんさかいるぞ!
せっかく学園が合わさったのに、西北の片隅に留まってるなんてもったいないぞ!」
ジョコーの朗らかな物言いに、ますますリョウコウは頭に血が上っていく。
「ナメてんじゃねー! 俺を井の中の蛙とでも思ってやがんのか!」
リョウコウはよろめきながらも、果敢にジョコーに殴りかかるが、ふらつく腕は難無くかわされ、反対に彼の一撃を腹に受けることとなった。
「絶望を知れ。そして希望を見い出せ。
それがお前の、いや、お前たちの次の一歩だ」
「ナメ…ん…じゃ…」
「止めろ、リョウコウ!」
ふらつくリョウコウを後ろから受け止めたのは、共に戦うチョーオーであった。
「離せ!
俺はまだ負けちゃいねー!」
キレて自分を掴んだ手を振り解こうとするリョウコウであったが、既にそれだけの力も残ってはいなかった。
そんな彼を同志・チョーオーは冷静な口調で説得する。
「周りを見ろ!
あいつはお前を足止めしているだけだ!
既に敵兵は我らの包囲を始めているぞ! このままでは袋の鼠だ!」
「ならその袋ごとブチ破ってやるよ!」
口だけはよく動くリョウコウは、ふらつく足取りながら、まだ敵に向かっていく気満々であった。だが、チョーオーはそれを許しはしなかった。
「武器まで失って粋がっても仕方がないだろう。
ここは一度退くぞ」
「ほう、まるで俺から逃げ切れる物言いだな」
チョーオーの言葉に、敵将・ジョコーが反応する。前回はソウソウとの合流を優先したために敵を見逃したが、今回は見逃す理由はなかった。
その敵将・ジョコーの言葉に、チョーオーは掴んだリョウコウを後ろへと押し込み、代わりに自分が前へと進み出た。
「ここは俺が食い止める。
お前は逃げろ!」
「ふざけんじゃねーぞ!
なんで俺が逃げなきゃならねー!」
「手の内を明かし、徒手空拳となったお前が食い止められる相手ではない!
それに言っただろう、お前はまだ必要だと。
お前なら冷静な判断をくだせるはずだ、リョウコウ」
「チ、チクショーが!
負けんじゃねーぞ!」
未だ眉間に皺を寄せてはいるが、観念したのかリョウコウは後ろへと振り返り、チョーオーと互いに背中を合わせ、反対の方へと駆け出した。
そのやり取りを一部始終見ていた敵将・ジョコーは、ニヤリと笑い、戦場に残ったチョーオーに語りかける。
「悪くない判断だ。
だが、より良い判断がある。
どうだ、ソウソウ会長に降伏しないか」
「御免被る!」
チョーオーはジョコーの提案を跳ね除けるのとほぼ同時に、彼の周囲へ無数の煙玉を投げつけ炸裂させ、その煙に紛れて警棒を片手に殴りかかった。
だが、彼の振り払った警棒は、ただ煙を払うばかりで、肝心のジョコーの姿はなかった。
「煙玉、警棒…全部知ってるぞ」
その声と共に現れたジョコーは、既にチョーオーの背後へと周っていた。
「言っただろう?
万事常に抜かりなく、てな!」
「なるほど」
既に勝敗を察したチョーオーは一言、それだけを言った。
次の瞬間、ジョコーの本気の一撃が炸裂し、チョーオーはその場に静かに倒れていった。
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