第15話 開催!生徒会総選挙
「今年もやって参りました!生徒会!総・選・挙!」
後漢学園の校内のあらゆるスピーカー・テレビを通じて元気のいい女性の声が轟いた。
「司会は私、後漢学園の女性のことならなんでも知っているサジがお送りします」
テレビに写し出されたのはオレンジ色したショートカットの、中性的な顔立ちの女生徒。
「男子もちゃんと解説してあげてね」
その隣に立つのはスーツ姿の、社会人と呼ぶにはまだ少し顔に幼さの残る、髪をサイドアップにまとめた二十代前半くらいの女性。
「解説はこの方、女子高生と寝て首が飛んだ前学園長の娘さん、竜宝協子新学園長!」
「サジさん、その説明はやめてください!」
スーツの女性・竜宝学園長は顔を真っ赤にしながらサジの口を遮る。
「さて、前生徒会長が転校したため、急遽開催されることになりました総選挙!
当初は会長選のみという話でしたが、あの騒動の時に副会長や会計は辞めていた、いや辞めてないだのと、うるさかったので生徒会総選挙という形で落ち着きました!
さて、我が校の総選挙の特徴と言えば何でしょうか、リューキョー学園長」
「愛称呼びは少し距離詰めるの早すぎませんか?」
学園長改めリューキョーは少し不満そうだが、知ったことかとさらりと流すサジ。
「そうです、全立候補制です。
我が校では『私は〇〇に立候補します』と宣言する必要はありません!我が校の生徒であればどなたに投票しても構いません。
つまり、人望さえあればどなたにでもチャンスがある。
しかし、全校生徒一万人とも言われるマンモス高校の我が校でトップに立つということは並大抵のことではありません!
「在校生一万人ってここ日本ですか?」
「でも諦めることはまだ早い!
他の役員、副会長と会計・書記・広報の三役、各委員長は新会長に任命権があります。
例年、生徒会役員には投票数二位~五位を当てる場合が多いですが、新会長擁立に貢献した人達が任命される可能性もあるわけですね。
ここで生徒会役員となり、知名度を上げて、翌年生徒会長に、なんて人も存在します。
さあ、協力するも良し、対立するも良し、皆さん生徒会長目指して頑張りましょう!」
「さて、ここからは選挙戦有力者を紹介していきましょう。今年は黄巾の乱、トータク事件と相次いで事件が発生し、多くの有名人が生まれました。
やはり、人気一位は麗しのお嬢様、前副会長・円紹子ことエンショウ!前副会長と連合軍盟主としてその知名度も抜群です!」
「実績という点ではこの方が一番でしょうか」
「続いてはエンショウさんの双子の妹、美しきお嬢様、前会計・円術子ことエンジュツ!会計の立場や実家の財力をフルに使い援助を受けた生徒も多いはず!」
「それ賄賂じゃないんですか?」
「お次は乱世の奸雄、元風紀委員・宗操ことソウソウ!連合では実質的なリーダーだったという話もあり、高い人気を誇ってます」
「この方は一年生ながら高い知名度を誇っておりますね」
「この方も忘れてはいけない。王佐の才、生徒会長代理・大印師郎ことオーイン!前の生徒会では書記でした」
「そういえば前広報って誰なんでしょうか?」
「高校の虎、新空手部主将・呉孫堅文ことソンケン!連合軍では先陣を切って活躍。しかし骨折し、引退したため、妹に任せるという話も」
「私、骨折ってしたことないんですよね。痛そうです」
「無双の鬼姫、転校生・大呂由布子ことリョフ!転校生ですが、武術の腕に関しては我が校一とも」
「あくまでこれは生徒会長選挙なんですが、武術の腕はどう響くのでしょうか」
「白馬女子、馬術部部長・公孫珊瑚ことコウソンサン!連合軍に参加して馬術部を取り戻しました。意外と武闘派という噂も」
「この学園、結構武闘派多いですね」
「では文科系も。優雅なる賢女、弁論部部長・立牧氷華ことリュウヒョウ。元々は小さな部でしたが、トータク事件中に南校舎の中小の文化部をまとめあげ、今や文化部連合の盟主というべき存在になっています」
「文化部にもそんな方がいるんですね」
「お次も文科系、孤高の群雄、美術部部長・益隆延。通称リュウエン。美術部は大きな部ですが、リュウエン部長は今年受験生。部長職を弟に譲るという噂もありますがどうなるのでしょうか、注目です」
「今のところこの二人が文化部のツートップでしょうか」
「この方々が有力視されていますが、勿論他にもいます。テニス部部長リュウタイ、弓道部部長のカンフク、水泳部部長リュウヨウ、環境委員長コウユウ、サッカー部のチョウセイ、アート部のチョウロ…等々」
「アート部って美術部と何が違うんですかね?」
「さぁ、ここに上げた誰かが生徒会長になるのか、はたまた今はまだ無名の人物がのしあがってくるのか、今後の展開にこうご期待!」
「アニキ、遅い!」
「うわ!
イタタタ…」
校内放送も終わった放課後、俺・リュービは、お団子ヘアーの小柄な美少女・チョーヒにしごかれていた。
「アニキが鍛えてくれって言うから特訓付き合ってんだぜ。もっと本気で叩き伏せるくらいの気持ちで来てくれなきゃダメだぜ!」
俺は充分本気なのだが、まるで歯が立たない。
黄巾の乱、トータクの変と、俺は大して戦力にならなかったから少しでも鍛えようと思ったんだが、この一騎当千の義妹・チョーヒとでは力の差がありすぎたか。
先ほどから何度もチョーヒに向かっていってるのだが、足払いで倒されたり、投げ飛ばされたりと散々だ。チョーヒはカンウほど投げ技は得意ではないと聞いてたんだが、うーん、力量の差かな。
「さぁ、アニキ、ごちゃごちゃ考えてないでかかってきな!」
「よし、ダァー!」
「兄さーん!チョーヒー!」
彼方より長く美しい黒髪をなびかせ、おしとやかな雰囲気をまとった美少女が俺達を呼びながら歩み寄ってくる。もう一人の義妹・カンウだ。
「カンウ…」
俺は声のする方に目を移す。
「アニキ、勝負の最中によそ見は禁物だぜ!」
「え、ちょっ、うわー」
ふにょん
俺が叩きつけられたのは柔らかな大地であった。固い地面を想像していたが、ここはなんとも心地よい。このまま寝てしまいたいくらいだ。
「兄さん…
なにいきなり抱きついてんですか!」
「カンウ!いや、これは事故で…」
「問答無用です!」
カンウの地面より硬い拳で俺は撃沈した。
「だいたい兄さんがそうエッチだからいけないんです。フラフラフラフラ他の女性ところばかりうろちょろして…」
「で、カン姉、そんな急いでどうしたんだぜ?」
「そうでした!兄さんバカやってる場合じゃないですよ。ソウソウさんが動き出しました」
「ソウソウが!」
ソウソウと聞いては俺も寝てる場合ではない。
カンウの話をまとめるとこうだ。
ソウソウは、トータク追放以降、自身の地盤固めに集中。広く人材を集めていた。
日増しに勢力を拡大するソウソウを頼る者も増えてくる。チョウバクもその一人だ。
一時鳴りを潜めていた黄巾党の一部が再び集結。彼女の所属するテニス部にちょっかいを出し始めた。
テニス部部長リュウタイはこれを撃退しようとするが、返り討ちにあい入院。
副部長であるチョウバクはテニス部がソウソウ傘下に入ることを約束し、ソウソウに黄巾党討伐を依頼。
しかし、ソウソウは黄巾党をただ討伐するのではなく、彼等を従え、自分の勢力に組み込んだ。
これによりソウソウはテニス部・黄巾党を従え、一大勢力となった。
「まだエン姉妹程ではないですが、ソウソウさんは校内有数の勢力になりつつあります。
エン姉妹が二年、オーインさんが三年であることを思えば、一年でこれだけの勢力を拡大したのは驚異的です」
「アニキ、こうしちゃいられないぜ。オレ達も動き出そうぜ!」
チョーヒが座っている俺の腕を掴んで立ち上がらせようとしてくる。
「え、動き出すって?」
「決まってます。兄さんが生徒会長になるための活動です!」
カンウも反対の腕を掴み、俺を引っ張る。
「ま、待ってくれ!俺は生徒会長になる気なんてないぞ」
突然の話に驚く。俺が生徒会長って何の冗談だよ。
「何を弱気なこと言ってんだぜ!オレ達は黄巾の乱やトータク事件で大活躍したんだぜ!」
「それにまたトータクみたいなのを生まないためにも兄さんが立ち上がるべきなんです!」
「わかった、わかったって」
二人は俺の鼻先すれすれにまで顔を近づけて力説してくる。俺も根負けしてしまった。しかし、俺が生徒会長…務まるのか…まあ、そう簡単になれるもんでもないし、少し二人に付き合ってみるか。
「そうですね。今年は会長は無理でも、誰かと協力して生徒会役員、実績作って来年会長というのが現実的でしょうか。
せっかく連合に参加してコネ作ったんですから、誰かと協力して知名度を上げていきましょう」
「うーん、誰に会うかな。ソウソウは…」
『続きがしたかったらもっとイイ男になって私の下に来い。
その時は最後までしてやる』
ああああ…ダメだ。さすがにすぐには会いにいけないな。
と、なると…コウソンサン先輩のところに行ってみようか。