第111話 闘志!怒涛のチョーリョー!
ソウソウが治める中央校舎。そこの東南部に割拠する独立勢力、チンラン・バイセイ・ライショらは、ソウソウに対して反乱を起こした。
チンラン・バイセイは東校舎を治めるソンケンと連携し、ライショは南校舎南部に割拠するリュービと手を組み、それぞれでソウソウに対抗しようと画策した。
しかし、ソウソウ自ら軍を率い、東校舎との境界付近に布陣して、ソンケンを牽制。ソンケンはこれに対応するためチンランらへの大規模な増援を見送った。
「ソウソウが身構えてる以上、僕らは不用意に動けないな。
奴の目的はただの牽制のみか、それとも一戦を交えるつもりなのか…」
ソンケンが派兵に慎重になる一方、リュービ軍からの援軍も大幅に遅れることとなった。リュービが北上してライショと合流するためには、シュウユの領地を通行する必要がある。だが、リュービを疑うシュウユはその通行を認めなかった。
「シュウユ司令、リュービがライショ救援のために我らの領土を通過させてほしいと言ってきてます」
「リュービが軍を通過させたいですって?
援軍にかこつけて私たちを攻撃するつもりではないですか?
とても認めることはできません」
「うーん、やはり俺たちの通過をシュウユは認めないか。
なんとか説得できないものか…」
ソウソウはソンケン・リュービの不和を利用して上手くチンランらを孤立させると、武将のカコウエンらを派遣し、これを討伐させた。
指揮官・カコウエンは、東のチンランにはチョーリョー・チョーコー・シュガイを、中央のバイセイにはウキン・ゾウハ・インショを当たらせ、西のライショには自らが向かった。
最初に開戦となったのは、三勢力の中で真ん中に陣取るバイセイと、ウキンらであった。
他の勢力とも分断され、ソンケンからの援軍も期待できず孤立無援となったバイセイは、ウキンらの包囲の前に、あっさりと白旗を上げた。
黒髪ロングに眼鏡、切れ長の目の厳格な雰囲気で他を寄せ付けない様子の女武将、ソウソウ十傑衆の一人・“冷徹なるウキン”は、バイセイの投降を確認すると、スマホを取り出して、指揮官・カコウエンへ連絡を入れた。
『もしもし、カコウエンさん。
先ほど、バイセイの投降を確認しました。
如何が致しましょうか?』
姉御肌のカコウエンはしっかりした口調で、キビキビと指示をウキンへ返す。
『わかったわ。
では、バイセイの身柄はインショに、彼らの拠点の押領はゾウハに任せ、ウキン、あなたはこのまま撤収しなさい』
『よろしいのですか?
何度も反乱を起こしたバイセイのことです。
この投降を文字通り信じるのは危険ではないですか?』
バイセイらの反乱はこれが初めてではない。その経歴を知っていれば、ウキンの疑問は当然と言えた。だが、カコウエンはそれを見越した上での指示であった。
『ええ、そうね、それでいいのよ。
あなたの言う通り、バイセイの投降は本心ではないでしょう。
ここで徹底的に叩かなければ必ず再び反逆するでしょうね』
『でしたら、バイセイには規則を盾に退学させますか?』
ソウソウ十傑衆の一人・ウキンは、その冷徹の二つ名の通り、冷静に彼の退学を口にする。しかし、その強引な意見に、カコウエンは電話越しでも苦い顔つきなのがわかるような声色で返答した。
『そのやり方は強引過ぎて、ソウソウの評判にも悪影響を与えかねないわ。
今はバイセイよりも、バイセイの籠もっていた教室を確保することを優先しましょう』
『教室の方をですか?』
『ええ、バイセイが拠点にしていた教室の位置取りはチンランとライショの中間。
ここを押さえればチンラン・ライショの連携が難しくなるわ。
そしてバイセイ本人はあなたの言う通り、今の攻勢をしのげればそれで良く、本心から降伏する気はない。
おそらく、隙をみて逃亡し、チンランかライショのところへ逃げ込むでしょうね。
彼らの拠点は要害ですが、二勢力が同居するには手狭です。その圧迫感から焦りが生まれて、不和となるでしょう。
そこを総攻撃してバイセイもろとも倒すのよ』
『なるほど、わかりました。
しかし、それなら私はここに残った方が良くないですか?』
『ウキン、あなたは過去に投降したショウキを包囲されてからの降伏は認められないとして処刑したでしょう。
それに先ほども規則を出して退学させようとしていましたね。
そんなあなたが目を光らせていてはバイセイも動くに動けないでしょう。
あなたは後方に回って他の武将の支援に入ってください』
ウキンは如何なる判断も情に左右されることはない。過去に知人のショウキが頼ってきても、毅然とした対応で処断したし、今も厳格な処置を取ろうとしていた。彼女のそうした性質はすでに有名であった。
『わかりました。
では、私はこのまま離れます』
ウキンはカコウエンの指示に従い、ゾウハ・インショを残して、自身は後方支援に回った。
ウキンの撤収を確認すると、カコウエンの予期したとおりバイセイは逃亡してチンランの元に走り、これに合流して再びソウソウに対して反逆した。
「バイセイ、よく逃げられたな」
「それだけ奴らは我らを舐めているということでしょう。
今こそ力を結集してソウソウ軍を撃ち破りましょうぞ!」
自力で逃げられたと思っているバイセイは、チンランを焚き付けた。
「そうだな、このままここにいても窮屈なだけだ。
敵が油断しているというなら、今が好機かもしれん。
よし、ソンケンにも連絡を取り、一気にソウソウ軍を叩こう!」
チンラン・バイセイは、一斉に対陣しているソウソウ軍へ猛攻撃をかけた。さらにこれに呼応して、ソンケンは武将のカントウを援軍に送り出し、彼らに合流させようとした。
バイセイが合流し、にわかに活気づくチンラン陣営を前に、それと対陣するソウソウ軍の武将たちには一気に緊張が走った。
ここを任されていたソウソウ軍の武将は三人。
薄い青色の逆立った髪、鉢金のついたハチマキを巻き、青い道着のような服を着る屈強な男、ソウソウ十傑衆の一人・“怒涛のチョーリョー”
白い学生服を着、右腕に狼を模したブレスレットを付け、緑色の髪を後ろに一つ結びにし、細長い木の棒を手にした細身の男子生徒、同じくソウソウ十傑衆の一人・“白騎士・チョーコー”
そして、中央防衛軍から派遣された男子生徒のシュガイであった。
「チョーコー、どうやら敵が動き出したようだぞ」
「カコウエン将軍の指示の通りだな。
では、私たちで迎え撃ちましょう」
既に臨戦態勢のチョーリョー・チョーコーの二将軍に対し、シュガイが慌てて報告を入れる。
「チョーリョー将軍、チョーコー将軍。
ソンケン配下のカントウ軍がこちらに向かっているようですが、こちらはいかがいたしますか?」
今まで様子見をしていたソンケンが、ついに動いたという知らせだ。だが、この報告に対してチョーリョーは至って冷静であった。
「奴らの進む先にはゾウハがいる。
あいつならソンケン軍の侵攻を阻むことができるだろう」
ソンケン軍の行く手を遮るのがゾウハならと、彼の実力をよく知るチョーリョーはなんら心配していない様子であった。だが、それでも心配するシュガイはなおもソンケン軍の脅威を伝える。
「しかし、ソンケン軍は数百の兵士を派遣してきているという話です。
ゾウハ将軍一人で対処は難しいのではないですか?」
これには同じく落ち着いた様子のチョーコーが横から助言をする。
「今のソンケン軍にそこまでの援軍を送れるとは思えない。
シュウユが出向いてきたのならともかく、指揮官がカントウならその数は誇張だろう」
赤壁の戦いで戦ったシュウユ軍が全体で三百人であったことを思えば、ここにカントウ単独の指揮で数百人も投入するとは考えにくい、そう言ってチョーコーはシュガイをなだめた。
シュガイを納得させると、チョーリョーらは改めて前に進み出た。
「ソンケン軍はゾウハに任せ、我らは目の前のチンラン・バイセイに集中するぞ」
「敵には私とチョーリョーで当たる。
シュガイ君、君は私たちの支援に回り、敵を逃さないようにしてくれ」
「わかりました」
そう言うとチョーリョー・チョーコーの二将は自ら軍の先頭に立ち、攻めてくるチンラン・バイセイ軍に向かっていった。
「我はソウソウ十傑衆が一人、怒涛のチョーリョー!」
「同じく十傑衆が一人、白騎士・チョーコー!
いざ参る!」
二人の大音声が戦場に轟く。
だが、それでたじろぐチンラン・バイセイ軍ではない。チンランは、前に飛び出る青いのと白いのに向かって真っ直ぐに指を伸ばし、二人を指し示して叫んだ。
「何が十傑衆だ!
兵士ども、あの目立つ二人に集中攻撃して討ち取れ!」
チョーリョー・チョーコーに幾人もの人間が一斉に群がってきた。だが、二人は微動だにせず、チョーリョーは両腕を前に突き出し、チョーコーは身長ほどある長さの木の棒を手に構え、迎え撃った。
「相手にとって不足なし!」
「一対他とは騎士道にもとるぞ!」
敵兵は二将目指して攻めかかったが、チョーリョー・チョーコー、この二人はソウソウ軍の中でも特に個人技に秀でた武将であった。
チョーリョーは怒涛の二つ名に恥じぬ豪快な力技で迫りくる敵兵をちぎっては投げちぎっては投げ、チョーコーは手に構えた一振りの棒で、華麗に敵兵を捌いて次々と斬り伏せていった。
第一陣で攻めかかったチンラン・バイセイの兵士たちのほぼ全てが、このたった二人の男に倒されていった。
「なんだアイツら、べらぼうに強いぞ」
「やむを得ません。一時撤退しましょう!」
二人のあまりの強さに仰天したチンランたちは急いで撤退指示を出し、先ほどまで籠もっていた教室へと急ぎ駆け戻っていった。
「敵は拠点に戻ったか。
よし、我らはこのまま敵を包囲しよう」
敵が籠もる教室は奥まった場所にあり、前の廊下も狭く、籠城されると難攻不落となる場所であった。そのためにチョーコーは包囲戦を提案した。
だが、チョーリョーは真反対の意見を出した。
「いや、このまま進んで倒そう」
「チョーリョー、それは無理だ。
奴らの籠もる教室に続く廊下は狭く、大軍で移動することができない。
強引に攻めれば被害が大きくなるぞ」
「そうではない。
道が狭いということは敵も大軍で迎え撃つことができないということだ。
つまりこれは一騎打ちの道だ。
君の望む騎士道にも通ずる道ではないのか?」
「いや、いくらなんでもその理屈はおかしいだろう。
さすがに危険が大きすぎる」
「勇士ならいけるはずだ。
チョーコー、君が拒むなら私が行くから、部隊の指揮は頼むぞ」
「待て、チョーリョー!」
チョーコーの制止も聞かず、チョーリョーは単独で敵陣に続く一本道をズカズカと突き進んでいった。
チンランの陣営は、このたった一人で向かってくる男を見つけ、ザワザワと騒ぎ出した。
「おい、一人でこちらに向かってくる奴がいるぞ」
「降伏勧告の使者でしょう。
相手にすることはありませんよ」
さすがに一人で戦いに来るはずはないだろうと、無視を決め込んでいると、構わずチョーリョーは大声で名乗り上げた。
「 我こそは張本遼、人呼んでチョーリョー!
ソウソウ十傑衆が一人・怒涛のチョーリョーである!
我と思う勇士はかかってこい!」
そのあまりの出来事にチンランたちは呆気に取られたが、ゆっくりと歩みを進めるチョーリョーを無視するわけにもいかず、やむなく兵士に攻撃命令を出した。
だが、チョーリョーの言った通り、細い一本道では否が応でも一騎打ちとなり、相手が一騎当千のチョーリョーでは数多の兵士の誰も歯が立たず、誰も彼もが倒されていった。
「たった一人相手に何を手こずっている!
遠巻きにして物でも投げつけろ!」
「そこの怒鳴っているお前!大将だな!
私と戦え!」
チョーリョーは指示を飛ばすチンランに目をつけると、一気に駆け出した。
「ヒッ!お前たち俺を守れ!」
「逃さん!」
チョーリョーは行く手を妨げる敵兵を次々と投げ飛ばし、一度も立ち止まることなく、チンランの目の前のその自身の巨体で塞ぎ、一言も発する暇を与えず、一撃で叩き潰した。
「チ、チンラン!」
「お前も大将だな!」
チョーリョーの爛々と輝く眼光が今度は狼狽するバイセイへと向けられる。
「ま、待て!待ってくれー!」
「大将ならば潔く戦って散れ!」
バイセイの断末魔と共に反乱は鎮圧された。
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