第12話 不覚!取り逃がした勝利!
「お前の敗けだ!トータク!」
赤黒い髪の少女・ソウソウは生徒会室のドアを勢いよく開け中に雪崩れ込んだ。
「…誰もおらん」
「やられましたね…生徒会の書類も会長の承認印も全てなくなってます」
部屋を確認した眼鏡の男子生徒・チンキュウがソウソウに報告する。
「この手際の良さ。事前に準備していたようだな。
とりあえず生徒会室まで押さえた。エンショウ達を呼ぼう」
「とんだ失態ですわね。ここまで来てトータクを取り逃がすなんて!」
白いマントを翻し、部屋に乗り込むなり薄紫の髪の少女・エンショウの口からは叱責が飛ぶ。
「まあまあ、エンショウさん、校舎裏まで警戒してなかった我々にも落ち度がありますし」
三つ編みの女生徒・チョウバクが間に入ってエンショウをなだめた。
「チョウバク!貴方いつからそんなに偉くなったの?
この盟主である私に意見するなんて!」
エンショウの矛先がチョウバクに移る。
ソウソウ・エンショウ・チョウバクは幼馴染である。エンショウとチョウバクの二人は昔は仲が良かったが、次第に意見が対立するようになり、口論することが多くなっていた。
しかし、このエンショウの発言にチョウバクもカチンときたのか
「盟主とは私達のまとめ役のことです。
別に私達は貴方の家来になったわけではありません」
と、反論する。
「貴方は昔から私につっかかてきてましたが、もう我慢なりません。
貴方をこの連合から除名します!出ていきなさい!」
エンショウの激昂に一瞬辺りがシンと静まり返る。
「エンショウ止めろ!それは言い過ぎだ。
トータクを取り逃がした今、内輪で揉めれば連合が分裂しかねない」
「…わかりましたわ。今回は私が我慢します。それでこれからどうするのですの?」
ソウソウがエンショウをたしなめ、一応、この場は収まった。
「生徒会室をせっかく占拠した以上空にするわけにはいかない。
今日はここで寝る。学校の許可も取った」
「ここに寝る!ありえませんわ!男の人もいるのに…」
ソウソウの早すぎる行動に、怒り出すエンショウ。
「男女で別けるさ。そもそも生徒会室に全員入れんしな。生娘みたいな声を上げるな」
ソウソウはエンショウをからかうようにニヤニヤ笑いながら言った。
「き…私はまだ…とにかく!私は家に帰ります」
エンショウは顔を真っ赤にしてソウソウを怒鳴る。
「帰りたい奴は帰ればいい。どちらにしてもこの人数は多すぎる。希望者のみ残らせる」
「では、私は帰りますわ!ソウソウ、後はお願いしますわ!」
まだ顔が赤いままでエンショウは帰ってしまった。
反トータク連合は他校の生徒・トータクの暴走を止めようと集まったが、ほとんどの生徒は武力行使にそこまで積極的ではなかった。
学校への宿泊まで想定してなかったこともあり、エンショウと共に多くの生徒は帰宅していった。
「ソウソウ、私は残っていいかな?」
エンショウ達を見送った後、苦笑しながらチョウバクがソウソウに訊ねる。
チョウバク、本名、張堂麦穂。ソウソウ・エンショウと共に洛陽女学院の出身。三つ編みに眼鏡に長めのスカートと、文学少女といった出で立ちだが、テニス部の副部長でもある。この反トータク連合には部長のリュウタイと共に参加した。
「ああ、チョウバク構わんよ」
ソウソウはニコリと了承する。
エンショウとチョウバクの口喧嘩は多くなったが、ソウソウとチョウバクは今でも友人関係は良好であった。
「ソウソウ、トータクは逃げてしまいましたが、どうするのですか?中には生徒会室を取り戻したからもう終わった気でいる方もいるとか」
寝るための教室に向かいながら、少し暗い表情でチョウバクがソウソウに話しかける。
「あり得んな。学園長はまだトータクを信用している。物理的に追い出さん限りは発言力を保ち続ける。
トータクに対しては第二の矢を用意はしているのだが…」
語気を強めながら語るソウソウだったが、何かを見つけたのか、会話を止める。
「リュービ!今日はお姉ちゃんと一緒に寝よう!」
「はいコウソンサン先輩、女性の部屋はあちらですよ」
「リュービー寂しくなったらいつでも来ていいからねー」
リュービの中学時代の先輩・コウソンサンの過剰なスキンシップを引き剥がし、長い黒髪の少女・カンウが寝所に引きずっていった。
「はは…あ、ソウソウ」
自身の胸の成長を知ってか知らずか事あるごとに抱きついてくるコウソンサン先輩を義妹・カンウをようやく部屋に連れ戻してくれたと思ったら、ソウソウとバッチリ目があった。
まずいところを見られたな。いや、ソウソウに見られたからどうこうという話じゃないんだが…
「リュービ、私と寝るか?」
「え、な、何を!」
ソウソウの提案に思わずうろたえてしまった。
一方、ソウソウはニヤニヤしながら俺の反応を楽しんでいる。
「ははは、冗談だ。
カユウとジョエイはこちらで監視するから、男子部屋の方でチョーリョーの監視を頼むぞ。
それと一応、私の連絡先を教えておく。何かあったら連絡をくれ」
ソウソウがスマホを取り出すので、俺も取り出して連絡先を交換した。女の子との連絡先交換は嬉しいが、相手がソウソウだとちょっと不安。
「私用で使っても構わんよ」
ソウソウがニヤニヤと耳元で囁く。
「そ、ソウソウ!」
「はは、じゃあおやすみ」
ソウソウはとても楽しそうに部屋に戻っていった。
校内・男子用寝所~
「ソウソウめー、からかいやがって…」
ソウソウは俺のことおもちゃかなんかだと思ってるんじゃなかろうか。なんだかこの先もからかわれそうだな。
「なぜ、お前はトータクのために働くんだ?」
「トータクのためではないリョフ様のためだ」
「では何故リョフのために戦うんだ?」
男子用の寝所として用意された教室に入ると、
そこではソウソウのいとこで隻眼の男子生徒・カコウトンが、
捕虜となったリョフ配下の青髪の男子生徒・チョーリョーに尋問を行っていた。
「リョフ様は武闘家として頂点におり、私の目標だ。故に従う」
真っ直ぐな目でチョーリョーは答える。
「では、お前は我等がこの戦いに勝利し、トータクやリョフが負ければ従うのを止めるのか?」
「最強の称号は戦いの果てに決まるもの。それが私の目標ならばその結果に私は従う」
トータク一味の中にも無法者ばかりではないようだ。まあ、崇拝者ならより質が悪いが。
「ふっ、面倒くさいが面白い奴ではあるな」
二人の話が終わると、チョーリョーは俺の方に向き直って話しかけてきた。
「貴方はリュービ殿だったか。
カンウ殿は貴方の妹だとか?」
「ああ、まあ、義理だけどね」
この言い方だと本当に家族関係があるみたいだなと言ってから気づく。
「カンウ殿は強かった。まさか、あそこまで見事にやられるとは思わなかった。
リョフ様の方が強いだろうが、彼女にはリョフ様とは違った美しさというか、可憐さというのか、そのなんというか、胸を熱くするものが…」
この青髪の武人もリョフ同様、表情の変化が乏しいというか、シリアス顔からあまり変化しない人だと思ってたが、今の表情はなんか恥ずかしそうだぞ。
こいつ、まさか、カンウに…!
「お前まさか…ダメだダメだ!
カンウはお付き合いなんてまだ早い!
大体お前みたいなどこの馬の骨ともわからん奴と交際なんて兄として許すわけにはいかない!」
「わ、私はそんなつもりで言ったわけでは無い!
あくまで武人としてだ!」
カンウは確か美少女ランキングの上位にいる程人気があるんだっけ。
確かにあれだけ美人なんだから言い寄る男も多いだろうが、変な奴なら排除しなければ、兄として。
なんかいつもと立場が逆なような…
「まあ、それはそておき、お前にやりたいものがある。俺のズボンのポケットの物を出してくれ」
一応、捕虜ということで腕を縛られているチョーリョーに代わり、彼のポケットをまさぐると中から銀色の小物が出てきた。
「何これ?笛?」
「お守り代わりだ。私は正々堂々と決着をつけてくれることを願っている」
?なんかよくわからんが、貰っておくか。
校門前~
腕を折られたソンケンは病院に行くこととなった。
「ごめんね兄者、病院付き添え無くて」
ツインテールの少女・ソンサクと一足先に病院に行ったソモを除く四騎将が兄・ソンケンを校門前で見送る。
「気にするな。お前はこの戦いを見届けてくれ。でも無茶はするなよ」
ソンケンは猪突猛進気味の妹をたしなめる。
「大将、これを渡しておきます」
四騎将の一人・テイフがポケットから立派な印鑑を出した。
「これは…生徒会長の認証印!どこで見つけた?」
生徒会長の認証印は、生徒会長の証ともいうべき印鑑だ。特注で、持ち手には立体の龍の彫刻が彫ってあるかなり凝ったものだ。
しかし、長年使われていたのだろう。色はくすみ、龍の角も片方折れている。
「廊下の隅で。おそらく運び出す途中で落としたのでしょう」
「これは届けた方がいいんじゃないのか?」
物が物だけに慎重になるソンケン。
「誰にです?誰に渡しても喧嘩になりますよ。それに大将、またエンジュツから何か言われてるんじゃないですか?」
眼鏡を直しながらテイフはソンケンに言う。空手部創建時にエンジュツの援助を受けて以降、何かと無理難題を押し付けられるソンケンを彼は見てきた。
「うーん…敵わんのぉ…
ソンサク、これをお前に預ける」
腕の使えないソンケンは顎でソンサクに渡すよう指示を出す
「え、うちに渡されても困るけぇ、兄者が持っててよ」
生徒会長の地位を狙う者は多い。その証である生徒会長の認証印の存在を、まだ一年生のソンサクは重荷に感じた。
「もうワシは引退じゃ。次の世代が引き継ぐ話じゃからのぉ。
この認証印はお前が持っててもただの判子だが、エンジュツはそうは思わん。
必ず良い条件で売りつけろ。それが空手部新部長としてのお前の最初の仕事になる」
ソンケンは早すぎる引退宣言。しかし、骨折した時からソンサクと四騎将は既にその覚悟はできていた。
「わかった、兄者。必ずうちが空手部を守る!」
「テイフ・カントウ・コウガイ、妹を頼むぞ」
「「「はい!」」」
四騎将の三人は同時に返事をした。
「さて、ソモが寂しがっとるじゃろうし、そろそろ病院に行こう、じゃあのぉ」
ソンケンを乗せた車は学校を後にした。
「兄者、私空手部を強くしてみせるよ。学校にも潰されないくらい強く!」