第105話 振鈴!狂喜の勇!
「すみません、シュウユ司令…」
「すまないね、包囲しながらソウジンにいいようにやられちまったよ」
シュウユ軍の先鋒・リョモウ・ショーキンの二人は、敵将ギュウキンを包囲したものの、ソウジンの突破を許し、ギュウキンらを取り逃がしてしまった。
(リョモウ・ショーキン。
二人は将としての素質はあるのですが、ソウジン相手では経験値が足りませんでしたか。
彼女らの素質をもっと伸ばしたいのですが…)
この軍の総司令官・シュウユはそんなことを考えながら、二人に労りの言葉をかけた。
「ソウジンとの戦いはこれからが本番です。
今回の失敗はそれから見れば些細なことです。
二人も持ち場に戻り、これからの本番に備えなさい」
リョモウ・ショーキンの二将を配置につけ、総司令官・シュウユは全軍に指示を出した。
「我らはソウジン本陣を包囲し、敵陣はもはや陥落寸前です!
これより全軍を挙げてソウジン本陣を落とします!
今こそ決着の時です!」
シュウユは全軍を挙げてソウジン本陣に総攻撃を仕掛けた。
だが、ソウジン軍は激しく抵抗し、一向に陥落させることは出来なかった。
(我が軍が包囲しているというのに、思った以上にソウジン軍の戦意が高いですね。
ソウジンの敵中突破で、消沈していた兵士の戦意を甦らせたということでしょうか。
このまま成果がでなければ、反対に我が軍の戦意が下がるかもしれません。
ここは少し無理をしてでも戦意を高める必要がありますね…)
シュウユは朱塗りの木刀を頭上高く掲げると、自ら軍の先頭に立ち、全軍への指示を行った。
「シュウユ司令!
お戻りくださいな!
そんなところにいては危ないですぞ!」
「ロシュク、それでは全軍の士気が上がりません!
さあ、皆さん!
ソウジン軍を倒すのです!」
先陣切って木刀を振るうその美しい女性の勇姿に感化され、シュウユ軍の戦況は次第に優勢になっていった。
「サクちゃんなら…ソンサクならこうしたはずです!
なにより私にはもう時間が…」
意気が上がったシュウユ軍の猛攻により次第に劣勢へと転じ、徐々にバリケードを崩されていく自身の陣地に、ソウジンは焦り始めていた。
「シュウユ自らが陣頭で鼓舞することで勢いが増したか。
このままでは我が軍が負けてしまう。
こうなれば一か八か…」
ついにソウジン本陣の第一の防壁が崩れ、突破口が開かれた。
「敵の防壁に綻びが生じました!
今こそソウジン軍を突き崩すのです!
私に続きなさい!」
シュウユは自らの危険も顧みず、敵陣の入口へと突き進んで行った。
「シュウユ司令に遅れを取るな!
者共、続け!」
シュウユに続けと、副司令・テイフらの部隊もその入口へと突撃した。
だが、それはソウジンの罠であった。
その狭い入口の先には、その進入路を取り囲むようにソウジンの兵士たちが待ち構えていた。
「シュウユが来たぞ!
お前たち、一斉にかかれ!」
ソウジン軍は側にあった机やら椅子やら手当たり次第に投げつけた。
「キャッ!」
そのうちの一つが、シュウユの頭を掠め、シュウユはその場に倒れこんだ。
「シュウユ、大丈夫か!
この場は一時撤退だ! 退け!」
シュウユはテイフに抱きかかれられ、自陣へと撤退していった。
「防壁を犠牲にしての苦肉の策だったが、上手くいったようだ。
しかも、シュウユはどうやら怪我をしたようだ。
今こそ好機だ!
シュウユ軍へ総攻撃をかけろ!
俺に続け!」
防戦から一転、今度はソウジン軍がシュウユ本陣へと総攻撃を開始した。
「しっかりしろ、シュウユ!
お前に倒れられては我らに勝ち目はないぞ」
「う、う…
すみません、テイフさん…」
「気がついたか、とにかく本陣に戻るぞ」
だが、シュウユ負傷で勢いづいたソウジン軍は食い止めようとする敵部隊を蹴散らし、逃走するテイフに抱えられたシュウユへと迫った。
「見つけたぞ、シュウユ!
お前の戦いもここまでだ!」
シュウユを捉えたソウジンは、そこを目掛けて急行する。
「させねーんだぜ!」
だが、そのソウジンの猛攻を食い止めたのは、お団子ヘアーの小柄な少女、リュービ義妹・チョーヒであった。
「ソウジン!
シュウユの前にこのチョーヒ様が相手になってやるんだぜ!」
「チョーヒ!
なぜ、お前がここにいる!
いや、カンウが加わっているなら、チョーヒの存在も気にしておくべきだったか…」
チョーヒはリュービからの援軍として、シュウユ本陣に参加していた。
「さあ、ソウジン!
決着を付けてやるんだぜ!」
「チョーヒ、お前が相手では分が悪い!
一時撤退!」
一騎当千のチョーヒを前に、ソウジンは怖じ気づき、自陣へと引き戻っていった。
「ありがとうございます、チョーヒさん、それにテイフさんも。
私はもう大丈夫です!」
シュウユは何事もなかったかのように立ち上がり、自ら指示を飛ばして、一度崩れた自軍の態勢を立て直した。
その立て直されていくシュウユ軍を望見し、ソウジンは憤怒の態度を示した。
「シュウユの怪我は大したことがなかったか!
我らもここまでか…」
その様子にソウジン軍軍師・チンキョウが進言をする。
「ソウジン将軍、このチンキョウ、あなたの軍師として提言致します。
シュウユ軍の士気は旺盛なのに対し、我らは第一の防壁を突破され、士気も衰えております。
このままではここは陥落いたします!
ですので、この陣地を放棄し、我らは撤退するべきです!」
大人しそうな顔つきに似合わず、ハキハキと喋るこの女生徒の意見に、ソウジンはまだ迷いを見せた。
「やはり、撤退しかないのか…
だが、ここを死守しなければソウソウに面目が立たない…」
「ソウジン将軍、私はソウソウ会長より、将軍の身を優先せよと指示を受けています。
万一の時にはここの放棄もやむを得ないとも。
今、ソウソウ会長の意思に沿うのは、ここを放棄し、我らが撤退することです」
「やむを得ないか…
だが、どうやって退却する?
逃げればシュウユ軍の総攻撃を後ろから受けるし、我らの背後にはカンウが目を光らせている。
ここで逃げれば大打撃を受けるのは必須だぞ」
「このような事態です。
ここは救援を頼みましょう」
軍師・チンキョウは背後の図書室にいる監督官・チョウゲンへ連絡を取った。
そして、チョウゲンは中央校舎へと連絡を入れ、更なる救援を要請した。
南校舎・図書室~
チョウゲンの連絡を受け、まもなく中央校舎より新たな援軍が到着した。
「おうぅ、我が友・チョウゲンよぉ。
来てやったぜぇ、お前の友・このリツウがよぉ」
「リツウ、よく来てくれたね!」
新たに中央校舎より派遣された援軍、ソフト帽をかぶり、後ろ髪を一つ結びにして、ジャケットを羽織った男子生徒・リツウが南校舎へ到着した。
元々、南校舎の変事に備え、中央校舎と南校舎の境に待機していた彼だが、この危機的状況についに出動となった。
「では、リツウも到着したので、これより作戦会議を開きます。
現在、南校舎中央にてソウジン軍がシュウユ軍に包囲され、危機に陥っています。
そのすぐ背後にて、ジョコー・マンチョウ軍が敵将・カンウと交戦中。
さらにその後ろ、ここ図書室には僕とガクシンさん、それにリツウが加わりました。
今回の作戦はカンウを追い返し、シュウユ軍の侵攻を食い止めながら、ソウジン軍をこの図書室まで帰還させるのが目的です」
監督官・チョウゲンは地図で指し示しながら、ガクシン・リツウの両将に作戦を伝える。
「間にカンウがいやがるのかよぉ!
こいつぁ強敵だぜぇ!」
「いや、リツウ、カンウはそこまでの脅威ではないと思う。
これまでカンウはそこまで本格的な戦いを行っていない。
あくまでジョコーさんたちを引き付けるのが役目だろう。
全力で攻撃すれば退散するのではないだろうか。
それよりもシュウユ軍の攻勢に備えるべきだろう」
「だが、カンウには備えておくべきだ」
「じゃあ、ガクシンよぉ、カンウを撃退したらそのまま通行路の確保を頼むぜぇ!
その分、俺がシュウユ軍を防いでやるぜぇ!」
「大丈夫かい、リツウ?」
「当たりめぇよぉ!
それにジョコー・マンチョウらはすでにカンウとの対陣で疲弊してるだろうしよぉ、この後、この図書室が防衛拠点になんなら、できるだけガクシンの部隊が消耗するのは避けるべきだろうよぉ!
なら、俺しかいねぇだろう、なぁ!」
「リツウがそう言うのなら…」
「それでいこう」
ガクシン・リツウはジョコーと合流し、ソウジン本陣の背後を脅かすカンウ軍へ総攻撃をかけた。
「カンウお姉様!
敵がまとめてかかって来ましたわ!」
カンウの義妹・カンペーが声を張り上げながらカンウへと報告する。
「ここが退き時のようですね。
カンペー、我が部隊は撤退しますよ」
「逃げてしまうのですか、お姉様!」
「カンペー、思い違いをしてはいけません。
私たちは役目は兄さんの助けです。
ここからはシュウユさんの戦いです。
さあ、撤退です!」
「逃げるか、カンウ!」
「ジョコーさん、そういえばあなたには前に稽古に付き合って欲しいと頼まれていましたね。
稽古はまたの機会と致しましょう。
さあ、ソヒさん、引き上げましょう」
カンウは迫り来るジョコーをしり目に、副隊長・ソヒに命じ、部隊をまとめて早々に撤退していった。
「カンウめ、余裕綽々といったところか」
「ジョコーよぉ、俺たちの目的はカンウじゃねーぜぇ!」
「そうだったな、俺たちはソウジンを助けねばならん」
「俺が中央に行くぜぇ!
ガクシン・ジョコーはカンウに警戒しつつ左右を頼むぜぇ!」
背後のカンウが撤退し、リツウたちが本陣に到着すると、ソウジンはすぐに撤退を開始した。
「カンウがいなくなったぞ!
これより我がソウジン軍は北上し、図書室へと向かう!
全軍、進行開始!」
だが、この好機を見逃すシュウユではなかった。
「ソウジン軍が撤退を開始しました!
この機を逃したはなりません!
全軍、総攻撃を開始しなさい!」
総攻撃を開始したシュウユ軍をソウジン軍に代わり、リツウ軍が迎え撃つ。
「ソウジンの旦那ぁ!
後は俺たちが引き受けるぜぇ!
あんたは振り返らずにそのまま進みなぁ!」
「すまない、後は頼むぞリツウ!」
「さぁ、シュウユの軍兵どもよぉ!
このリツウ様が相手になってやるぜぇ!」
リツウはトレードマークの帽子を押さえながら、颯爽とシュウユ軍に突っ込むと、先頭に立つ兵士たちを次々と蹴散らしていった。
南校舎戦に加わらなかったリツウ軍の体力は温存されており、赤壁の敗戦も伝聞でしか知らない分、士気は衰えず、むしろようやくの出番にシュウユ軍以上に士気旺盛であった。
リツウ軍の活躍により、シュウユ軍の前進は止まり、追撃の手は食い止められた。
だが、それで諦めるシュウユではなかった。
「恐れるな!
敵は大した数ではありません!
このまま押しきるのです!」
シュウユの叱咤で、兵士たちはより果敢にリツウ軍に挑んでいったが、限られた廊下の広さに数の有利を生かせず、連携のとれたリツウ軍に成す術なく倒されていった。
「焦ることはありません!
敵の体力は無限ではないのです!
絶えず攻撃を加えれば直に崩れます!」
だが、ここで一人の女生徒がシュウユ軍の先頭へと進み出た。
「いいじゃないのよぉ。
あたい興奮してきたよぉ」
「まずいぞ、カンネー隊長が、“興奮”なされた…!」
敵兵を次々と倒すリツウの耳にチリーン、チリーンと鈴の音が響いた。
「なんだぁ!この音はよぉ!」
辺りに響いた鈴の音が止むと、一瞬、静寂が訪れる。
だが、その次の瞬間、リツウの視界に茶褐色の物体が姿を現し、それと同時に弾丸のような一撃がリツウの視界を奪うかのように放たれる。
リツウはそれを間一髪でかわすが、すぐに下からの一撃が伸びてくる。
リツウはそれも足で払うと、改めて自分の前に現れた物体に目をやった。
その物体とは、セミロングの銀髪に、褐色の肌、首のチョーカーに鈴をつけた、スタイル抜群の女生徒であった。
「何者だぜぇ、てめぇ!」
「あたいはソンケン軍武将・鈴のカンネー!
いい男だねェ、潰し甲斐があるよォ!」
「あんたよぉ、最初の一撃は目潰しだなぁ!
次は金的、躊躇いもなく急所狙ってくるとはまともじゃねぇなぁ!」
「ヒャーハッハッハァ!
そいつは誉め言葉だねェ!」
次々と繰り出されるカンネーの攻撃は、顔面、喉、みぞおち、金的、脛と、人体の急所を躊躇することなく狙い続け、さすがのリツウも防戦一方となっていった。
その様子にリツウの部下たちも心配になり、駆け寄ろうと声をかけた。
「リツウ隊長!」
「こいつは俺が食い止めるぜぇ!
お前らは他の奴らを食い止めろ!」
「いいねェ!いいねェ!
興奮してきたよォ!」
カンネーは自らのシャツに手を伸ばすと、思いきりめくり、その豊満な生の乳房を恥じらいもなくさらけ出した。
「なんで胸出してんだよぉ!
何考えてやがるぅ!」
「勝つことだよォ!」
露になったカンネーの胸に目を奪われ、生じたリツウの隙をつき、カンネーはその左腕を掴むと遠慮もなく関節を引き抜いた。
思わぬ攻撃にリツウは悲鳴をあげつつも強引にカンネーを振りほどくと、脱臼した左腕を押さえてよろめいた。
「ぐぁぁぁ!
てめぇ!イってのかよぉ!」
「ヒャー!
これからイくんだよォ!」
「あんたイカれてやがるぜぇ!
あんたはなんとしてもここで食い止めねぇとなぁ!
マジでなにするかわかったもんじゃねぇぜ!」
「行くよォ!リツウゥ!」
「来いよぉ!キチガイ女ぁ!」
リツウは自らの体を奮い起こし、気丈にもカンネーに立ち向かっていった。
次回は1月8日20時頃更新予定




