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第104話 堅守!雲上の勇!

 南校舎~


 赤壁の戦いでソウソウに勝利し、その勢いのまま南校舎北部の占領を目論むシュウユ・リュービ連合軍と、それを(はば)まんとするソウソウ配下・ソウジン軍が、南校舎の中心地点を境に激突した。


 先に動いたのはリュービの義妹・カンウ、そしてシュウユ軍の女傑・カンネーの二将。

挿絵(By みてみん)


「さぁ、西の拠点を落とすわよぉ。


 よろしくぅ、カンウ。


 女の子同士、仲良くしましょうねぇ」


「カンネーさん。


 任務だから協力しますが、私はあなたの事は苦手です」


「つれないわねぇ。


 ほらぁ、今日はちゃんと服着てるわよぉ」


「当たり前です!」


 二人は各々100の兵を率い、ソウジンが防衛陣形を整えるより先に西側の拠点を強襲した。


 この西側拠点に滞陣(たいじん)するのは西校舎の群雄・リュウショウからソウソウへ出された援軍・シュウシュクの部隊であった。


 元々、戦意に乏しいシュウシュクの部隊は、カンウ・カンネーの二将の来襲を知ると、戦わずに降伏し、西側拠点は呆気(あっけ)なく攻略された。


「あっさり降伏するなんて情けない男だねぇ!


 タマついてんのかい!」


「カンネーさん!


 女性がそんな言葉大声で言わないでください!」


「あら、カンウはこういうお話は嫌いかい?


 でも、リュービのタマには興味あるだろぅ?」


「な、何を言い出すんですか!」


 攻略した西側拠点の防衛にはカンネーが残り、カンウはさらに北上、中部を守るソウジンの背後に周り、北部との交通路を断つ動きを見せた。


「我が軍の背後にカンウが(もぐ)り込んだか!


 正面のシュウユ軍と(はか)って我が軍を挟み撃ちに出来る程の兵力ではないが、指揮官があのカンウとあっては無視もできん」


 ソウジンは副将のジョコー・マンチョウの二将をカンウ討伐に赴かせたが、カンウはのらりくらりと攻撃をかわし、ジョコーらを足止めした。


「ジョコーさんたちと無理に戦うことはありません。


 ここで兵力を消耗(しょうもう)するのは兄さんの利益になりませんからね」


「カンウめ!


 俺たちを後方に釘付けにすることが狙いだったか!


 だが、カンウを無視して戻るわけにはいかん!」


 長期間、南校舎に滞在していたカンウはこの校舎の構造を熟知しており、神出鬼没の動きでジョコー・マンチョウ軍を翻弄(ほんろう)した。


 一方、南校舎軍大将・ソウジンはカンネーに占領された西側の拠点攻略に乗り出した。


「カンウも脅威だが、それ以上に脅威なのは落とされた西側の拠点だ。


 あそこを落とされたままだと、さらに部隊を我らの背後に送り込まれる恐れがある。


 早急に取り戻さなければいけない。


 あそこさえ取り戻せば、背後にいるカンウが反対に分断でき、孤立させることができる。


 ソウコウ、お前に我が軍の半分を預ける。


 すぐに西の拠点を落としてくれ。


 それとブンペー、お前は万一に備え、東側の拠点を固めてくれ。


 東側が落とされても、北部に回られるからな」


 ソウジンは副将・ソウコウに大軍を預け、西のカンネーの陣を襲撃させた。


 カンネー軍の数倍の兵を率いたソウコウの包囲を受け、カンネー軍は一気に窮地(きゅうち)に立たされた。


「カンネー隊長!


 兵力が違いすぎます!


 このままではここが陥落します!」


「情けない声を上げるんじゃないよぉ!


 この程度の攻撃じゃぁ、あたいは興奮しないよぉ!」


 カンネーの陣が陥落寸前という報はすぐに総司令官・シュウユの知るところとなった。


「ソウジンが兵の半分も割いてカンネーの攻撃に()てるとはなかなかの決断力ですね。


 カンネーを見捨てることはできませんが、半端(はんぱ)に兵を割いたのでは救出することはできません。


 どうすれば…」


 このシュウユの言葉に対し、参謀・ロシュクは反対の意見を述べた。


「シュウユ司令、我が軍の兵力は決して多いとは申せませんぞ。


 中途半端に兵を出し、カンネーの救出に手間取った挙げ句、この本陣までソウジンに落とされるようなことになれば、我らは敗北致しますぞ。


 それよりもソウジン軍の兵力が減った今、ここは全軍でもって、ソウジン本陣を攻略いたしましょう!


 本陣が落ちれば自然とカンネーの包囲も解けますぞ」


「ロシュクの策も一理あります。


 ですが、半分減ったとはいえ、ソウジン軍はまだ多く、すぐに攻略するのは難しいでしょう。


 対してカンネーの状況は最早(もはや)一刻(いっこく)猶予(ゆうよ)もありません。


 ソウジンと戦っている間にカンネーは敵の(とりこ)となっているでしょう」


 その両者の会話を聞き、一年女子・リョモウが意を決したように話に入ってきた。


「シュウユ司令!


 カンネーさんの救出にもう時間が無いのなら、そちらを優先するべきです!


 ここの留守をリョートーに任せ、私たち皆でカンネーさんを助けに行きましょう!」


「リョモウ、何をバカなことを言うのですかな!


 リョートー1人であのソウジン本隊の攻撃を防ぎきれるわけがありませんぞ!」


 リョモウの意見を、参謀・ロシュクは一蹴(いっしゅう)しようとするが、シュウユの意見は違った。


「いえ、リョモウの意見は悪くないですね。


 リョートーは、兄・リョーソーの兵をそのまま引き継いでいるので、その分、他の者より兵は多く精強です。


 リョートー、ここの守りをお任せできますか?」


 シュウユに問われ、一年男子・リョートーが答える。


「はい、敵の総攻撃が行われたなら、一時間は耐えてみせますが、それ以上は保証しかねます」


 その答えにシュウユはにっこりと笑って答えた。


「それだけあれば充分です。


 では全軍、これよりカンネー救出に向かいます!」


 シュウユ軍はリョートーを本陣に残し、全軍を上げてカンネーを助けるために出撃した。


 その途上、またもリョモウがシュウユに進言した。


「シュウユ司令!


 私たちが敵を倒せば、敵は今私たちが通っている廊下を通ってソウジン本陣に戻るはずです。


 なのでこの廊下に机・椅子(いす)を散らかして、敵の行く手をじゃますれば、さらに追撃をかけてより大きなダメージを与えられると思います!」


「なるほど、ではリョモウ、あなたにその任を与えます。


 ここで机・椅子(いす)を散乱させ、敵が敗走してきたら、我らと合流して追撃をかけなさい!」


 シュウユは道の途中でリョモウを伏せ、ソウジン別動隊に攻めかかった。


「ちょっと、シュウユが全軍で攻めてくるなんて聞いてないわよ!」


「よーし、敵が逃げてきたぞ!


 我らリョモウ軍の力を見せる時だよ!」


 別動隊指揮官・ソウコウはシュウユ軍の総攻撃に敵わず、カンネーの包囲を解いて逃走したが、その途中にリョモウの伏兵にあい、散々に撃ち破られ、這這(ほうほう)(てい)でソウジン本陣に逃げ帰った。


 シュウユ軍はその勢いそのままに、リョモウ、さらにショーキンを先鋒に、ソウジン本陣へと進撃した。


「ソウジン将軍!


 シュウユ軍が我らのソウコウ別軍を破り、そのままこの本陣に迫ってきております!」


 その報せを受けたソウジンは、リョートー軍への攻撃を止め、防衛陣地へと急ぎ戻った。


「シュウユ軍の戦意は高いな。


 あの勢いのまま、我が軍に攻めこまれるのは危険だ。


 ギュウキン、お前に精鋭30人を預ける。


 シュウユ軍の先鋒に一撃を加え、その戦意を(くじ)け!


 だが、決して深入りはするなよ!」


「任せてください!ソウジン様!」


 ソウジンは敵の戦意を()ごうと、自身の部下である、牛のように大柄な男子生徒・ギュウキンを出撃させた。


「我こそはギュウキン!


 敵将!俺と一騎討ちだ!」


「威勢だけはいいようね!


 このリョモウが相手よ!」

挿絵(By みてみん)


 肩まで届くポニーテールに、ブラウスに赤いベストを着た女生徒・リョモウはその大柄な男子生徒に飛び込んでいった。


「ほう、えらくカワイ子ちゃんがやってきたな!


 いいだろう、可愛がってやるぜ!」


 リョモウはギュウキンが力任せに放つ拳を華麗(かれい)にかわしながらも、その腕力の圧倒的な差に次第に押されていった。


「もう、ダメ!


 とても私の力じゃ勝てないよ!」


 リョモウはついに押し切られ、ギュウキンに背を向けて逃げ出した。


「ハッハッハ、シュウユの武将とはこんなに弱いのか!


 だが、お前みたいな女の子がノコノコと戦場に出てきたことを後悔させてやるぜ!」


 ギュウキンは得意満面になり、今にも泣き出さんばかりに逃げ出すリョモウを追いかけた。


「ほらほら、急いで逃げんと捕まえてしまうぞ!」


「そこまでだよ!


 ギュウキン!」


 ギュウキンの耳につんざくような女生徒の声が響いた。


 ギュウキンの前に現れたのは栗色の髪をポニーテールにした女生徒・ショーキンであった。


「なんだ、同じような髪型だが、今度はキツそうな女だな」


「ちょっと!


 なんでリョモウがカワイ子ちゃんで、あたいがキツそうな女なのさ!


 …まあいいわ、周りを見なさい!


 あなたの部隊はあたいたちが完全に包囲したよ!」


 ギュウキンとその部下たちは逃げ(まど)うリョモウを追ううちに、ショーキンの部隊のど真ん中に誘い出され、気付いた時には四方八方の行く手を完全に(はば)まれてしまっていた。


「しまった! 完全に包囲せれたか!


 こうなったら仕方がない!


 せめてリョモウ、お前だけでも倒してソウジン様の使命を果たそう!」


 ギュウキンはその丸太のように太い腕を大きく振りかぶり、あらん限りの力でリョモウへと殴りかかった!


 だが、リョモウはその小枝のような細腕で、ギュウキンの一撃を難なく受け止めてみせた。


「手加減はここまでだよ!」


「そんな!バカな!」


 驚愕(きょうがく)するギュウキンの顔を見て、ショーキンは思わず吹き出した。


「ハハハ、リョモウをちょっと抜けてる(すき)だらけの女の子だと思ったら痛い目見るよ」


「ショーキンさん!


 それ私のことバカにしてません!」


 ギュウキンが敵に包囲される様の一部始終は、後ろの陣地に(こも)るソウジンたちは望見されていた。


「ギュウキンめ、調子に乗りやがって!


 仕方がない、俺が助けに行く!」


 ソウジンが出撃しようとすると、おかっぱ頭の女生徒、軍師・チンキョウが止めに入った。


「ソウジン将軍、お止めください!


 30人を失ったからといって我が軍から見ればわずかな被害です!


 ソウジン将軍にもしものことがあれば、その被害は計り知れません!」


「ギュウキンは俺が新入生の中から選び、部隊長に抜擢した者だ。


 あいつは今は経験が乏しいが、一年後、二年後にはこの学園を代表する武将になる素質を持っている。


 それに精鋭30人も長らく俺と苦楽を共にしてきた戦友だ。


 見捨てることはできない!」


 ソウジンはチンキョウを振り切り、わずか10人ばかりの部隊を率いて出陣した。


「なにより新入生が倒れるところをこれ以上見たくないからな」

挿絵(By みてみん)


 ソウジンは真っ直ぐ進み、(ひる)むことなく包囲網(ほういもう)に突撃した。


 その槍のような攻勢に、敵兵はバタバタと倒され、ついに包囲網(ほういもう)を突き破り、ギュウキンのいる包囲の中心へとたどり着いた。


「ギュウキン、逃げるぞ!


 俺に続け!」


「ソウジン様!」


「まさかこの包囲を突破するなんて!


 でも、敵は少数よ、討ち取りな!」


 ショーキンの指示で、包囲兵は一斉にソウジンへと襲い掛かり、リョモウが先頭切って打ち掛かってきた。


「逃がさないよ!」


 だが、リョモウの放った拳はソウジンに受け止められ、そのまま(はじ)き返された。


「武勇は合格だが、攻撃が直線的すぎる!


 ()しい武将だ!


 見逃してやるからここは退け!」


 ソウジンはリョモウにそう言うと、ギュウキンらを率いて退却を始めた。


「ギュウキン、覚えておけ!


 練度(れんど)の低い兵士で包囲してもただの混戦になる。


 そして、このような混戦は兵の練度(れんど)の差がものを言う。


 敵を倒すことより突破することに専念し、決して(あせ)らず、兵と足並みを(そろ)えろ!」


「はい、ソウジン様!」


「やつらを逃がすな!」


 ソウジンはギュウキンらを前進することに専念させる一方、自身は迫り来る敵兵をあるいは引き倒し、あるいは(たて)に使い、敵兵の動きを撹乱(かくらん)してついに包囲網を突破した。


 だが、何人かのソウジン兵は、その途中で行く手を邪魔され、まだ包囲網の中に(とら)われていた。


 それを見ると、ソウジンは単身再び包囲網(ほういもう)に突撃し、その兵士たちを助け出すと、そのまま本陣へと帰っていった。


 ソウジンが無事に帰陣すると、大歓声をもって迎えられた。


「ああ、ソウジン将軍。


 あなたは雲の上の人です…!


 やはりあなたはソウソウ会長の覇業になくてはならない人なのですね」


 軍師・チンキョウは帰ってきたソウジンを見つめ、ため息をついてそう(つぶや)いた。

次回更新は1月1日20時頃の予定です

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