第102話 敗走!ひび割れた天下!
南校舎・図書室~
「ソウソウ!
無事だったか!」
「どうした、カコウトン、血相を変えて。
私はこの通り無事さ」
リュービ・ソンケンの連合軍に敗れたソウソウは、幾多の困難をくぐり抜け、彼女は南校舎の拠点としていた図書室までたどり着き、今、出迎えに現れたカコウトンと合流した。
ソウソウはその赤黒い髪は真っ赤なペンキで濡れ、いつもの胸元を開け、へそ出し、ミニスカートの改造制服はソウジュンと交換したために、通常の制服へと変わっていた。
そして、その表情に見える疲労や、部下の惨状を見て、決して無傷ではないことは察せられた。
だが、今はただ帰ってきたことに、隻眼の男子生徒、ソウソウ軍副将・カコウトンは安堵の表情を浮かべた。
「お前が敗れたと聞けば血相も変えるわ!
しかし、無事に戻ってきてくれて本当に良かった」
ソウソウの敗報に、内心ではすぐに救援に赴きたいカコウトンであったが、南校舎の留守を任された以上、空けるわけにもいかず、動揺を隠して兵を落ち着かせ、情報収集に専念させていた。
「ふふ、大袈裟な奴だな。
部下に風邪が流行ったから戻っただけだ」
「また、お前はそういうことを…
いや、今はいい。
とりあえず休め」
「そうしたいが、そういうわけにもいかんだろう。
直にここにリュービやシュウユらが攻めこんでくるだろう。
早速、防衛陣形を組まねばならない。
武将たちを集めてくれ。
それとリュウヒョウ陣営を代表してカイエツもだ」
ソウソウの指示を受け、カコウトンは素早く図書室へと向かった。
ソウソウの号令により、南校舎に滞在していた武将たちが集められた。
その中に、この戦いで倒れたソウジュンの兄・ソウジンがいた。
「ソウジン、まず、私はお前に謝らねばならない。
お前の妹・ソウジュンは私の身代わりとなり、大怪我を負った。
あの子の怪我は私の責任だ」
「妹が…
いや、元はと言えば妹のワガママでソウソウに従軍することとなった。
妹も覚悟していたであろうし、ソウソウが謝ることでもない…」
「いずれソウジュンの怪我も治るであろうが、私はこのままあの子を武将として前線に復帰させる気はない」
「それがいいだろう。
妹はまた無茶をするだろうから」
ソウソウはソウジンに頭を下げると、今度はい並ぶ武将たちを方へと振り返った。
「今回の敗戦は私の油断が招いたことだ。
そのために倒れていった兵士や諸将に対し、私は詫びねばならない」
そう言うと、ソウソウは皆に対して再び頭を下げた。
「これ以上、負けるわけにはいかない。
いずれここに押し寄せてくるであろうリュービやシュウユに南校舎を明け渡すとこは断固避けねばならない!」
だが、決意を固めるソウソウの前に、またしても凶報が舞い込んだ。
「ソウソウ会長は居られますか!」
「何事だ!」
ソウソウの前に駆け込んで来たのは、黒髪のおかっぱ頭の女生徒であった。
「私はジュンイク副会長からの使者・チンキョウと申します!
ジュンイク副会長より火急の伝令をお伝えします!
現在、ソンケンが部隊を率い、中央校舎東部へ進行中!
さらに東部防衛指揮官・リュウフク殿が病気により入院!
ソウソウ会長、至急、対処をお願いいたします!」
ジュンイクよりの使者・チンキョウによってもたらされたのは東部で起きた兵乱の情報であった。
「ふふ、ソンケンか。
祭り上げられた御輿ぐらいに思っていたが、どうしてどうして、なかなか強烈な一手を打ってくるじゃないか。
だが、ソンケンには誰を派遣するか…
中央に戻したチョーリョーやチョーコーを出すか…
いや、ジュンイクがわざわざこの情報を知らせたということは…」
ソウソウはしばし思案して答えを出した。
「東部への援軍にはチョーキに兵100人を率いさせ、派遣せよ。」
そのソウソウの答えに参謀の一人・テイイクはいぶかしんで聞き返した。
「チョーキをですか?
彼では少々力不足ではありませんか?」
チョーキは中央校舎に残した武将の一人だが、あくまでも防衛部隊長の一人で、単独で討伐を任されたことはなかった。
「わかっている。
だが、武将を下手に動かすことが今はできん。
そもそも、ソンケン一人の侵攻ならジュンイクの判断で対処できるはずだ。
だが、わざわざ伝えてきたということは、今回の私の敗北で、ソンケンに続き連鎖的に反乱が起きる可能性を示唆している。
ソンケンが攻めてきた東部の付近は、かつてカントでエンショウと戦っていた時に度々反乱が起きた場所。
他にも北校舎にはエンショウ残党がいるし、西涼高の連中もまだ残っている。
それが動き出す事を想定すれば、私はこのまま南校舎に止まるわけにはいかないし、武将たちも引き上げさせ、南校舎だけでなく、我が領土全体的に防衛の編成をやり直さなければならないということだ。
それに備え、チョーリョーやチョーコーらはまだ動かすわけにはいかない」
「しかし、もし東部がソンケンに落とされれば、元も子もありません」
「大丈夫だ。
軍の規模からいって、今南校舎にいるシュウユ軍が本隊、残されたソンケン軍は本気で東部を攻略できるほどの戦力はないだろう。
防衛指揮官のリュウフクはいないが、あいつは非常時に備え、万全の準備をしていた。
そこへ兵100を加えれば、充分防衛できるだけの戦力になる。
防衛に徹するのであれば、無理にチョーリョーらを派遣する必要はない。
東部ならゾウハや文芸部の連中も戦力に加えることができるし、ソンケンに落とされることはない」
その回答にテイイクらも納得した。
だが、ソウソウには新たな問題が発生した。
「さて、問題は南校舎だ。
私は中央校舎へ戻らねばならない。
だが、このままこの地をリュービ・シュウユらの恣にするわけにはいかない。
誰をこの南校舎に残すか…」
「ソウソウ、南校舎防衛のその役目、俺にやらせてはくれないか」
南校舎防衛に手を上げたのは、橙色の髪、細身で中性的な顔立ちの男子生徒、先ほどソウソウより妹・ソウジュンの負傷を聞かされたソウジンであった。
「ソウジンか…
妹の敵討ちのつもりか?」
「そういうわけではない!
リュービやシュウユをこれ以上好き勝手にさせるわけにはいかないだろう!」
ソウジンはそう答えたが、妹・ソウジュンの敵討ちの意味合いもあることは察せられた。
(妹の敵討ちが主になっても困るが、この熱量を活用せん手はないか…)
「いいだろう。
ソウジンを南校舎の防衛司令官に任命する!
副将にソウコウ、ジョコー、マンチョウ、ブンペーを付ける!
お前たちは南校舎の中間、リュービが逃走する時に通った渡り廊下の手前辺りに陣取れ。
そして軍師にはチョウゲンをつける」
ソウソウの指し示した場所は東西南北を繋ぐ交通の要衝といえる場所であった。
ここが陥落すれば、そこより以南のエリアの維持はほぼ絶望視となり、今ソウソウのいる図書室の維持も難しくなる。
南校舎の喉元とも言える場所であった。
ソウソウが指示を出す中、元リュウヒョウ配下・カイエツが口を挟んできた。
「ソウソウ会長、よろしいですか?
今現在、その中間付近にはシュウシュクという武将が陣取っております」
「シュウシュク?
誰だ、リュウヒョウ陣営の者か?」
「いえ、西校舎のリュウショウより派遣された援軍です」
「リュウショウの援軍?
私は聞いてないぞ。
何故、リュウショウがうちを援軍を出した?自主的なものか?」
「いえ、ソウソウ会長が留守の間、代理のリリツ様が要請を出されて…」
「リリツだと!
すぐリリツを呼べ!」
ソウソウは赤壁の戦いで留守の間、リリツという男子生徒に南校舎の管理を任せていた。
そのリリツが呼び出されると、すぐにソウソウからの詰問を受けた。
「リリツ、何故、私に無断でリュウショウに援軍を要請した?」
「はい、リュウショウはソウソウ会長の保護を受けながら、図々しくも要求を出してきたので、私が一蹴し、援軍を出させることに成功いたしました!」
そのリリツの純粋真っ直ぐな瞳に、ソウソウは頭を押さえながら答えた。
「よく、わかった。
リリツ、君に能力以上の大役を任せたのは私の不明であった。
君は即刻、北校舎に戻り、元通りの学生生活を送って欲しい」
そう言われるとリリツは左右の兵士に腕を捕まれた。
「お待ちください、ソウソウ会長!
今一度、このリリツにチャンスをください!」
「連れていけ。
今後、この者が生徒会室に来ても相手にしなくて良い」
リリツはそのまま図書室から追い出された。
「リリツめ、余計なことを…!
どうする、リュウショウに詫びを入れるか?」
だが、そのソウソウの案に、参謀のテイイクたちは反対した。
「ソウソウ会長、それは悪手です。
今、リュウショウに謝れば、前は横柄だったのに、敗戦した途端に態度を改めたと取られかねません」
「そうだな。
ソウジン、お前たちはすぐに中間地帯に向かい、シュウシュクと連携を取れ。
彼を見捨てれば事態が悪化しかねない」
確かに今、リュウショウに詫びを入れるのは悪手だが、その援軍を見捨てるのはさらに悪手と言えた。
その言葉にソウジンは頷いた。
「それとチョウゲン、お前は南校舎軍監督兼行政管理者とする。
この図書室に残り、南校舎軍の全体を監督しつつ、リリツに代わって行政を任せる。
行政管理者はいずれ代わりを呼ぶが、しばらくは頼む」
チョウゲンもこれに返事をして答えた。
「そしてガクシン、お前もこの図書室に残り、ここを防衛しろ」
(南校舎に残しておける武将はこのぐらいか。
だが、ソウジンが血気に逸る恐れがある。
チョウゲンを図書室に残すなら、ストッパー役として、誰か別に軍師をつけたいところだが、ジュンユウ・テイイク・カクは今後のためにも手元に残しておきたい…
中央校舎から誰か派遣するか…
いや、呼ばなくてもいる!)
ソウソウはジュンイクからの使者・チンキョウの方へと振り返った。
「チンキョウ、君をソウジンの軍師とする。
ともに出陣せよ」
「はい、わかりました。
ジュンイク副会長からもソウソウ会長から命を受けたらそちらを優先せよと承っておりました」
「さすがジュンイクだ。
よく気が回る」
チンキョウは文芸部のチントウの友人で、彼女もまたそこの部員であった。
かつてソンサクが文芸部へ侵攻した時に、チンキョウは一人生徒会に赴き、堂々と文芸部の重要性を主張し、ソウソウからの支援を勝ち取った。
その時、ソウソウはチンキョウの弁舌と度胸を評価し、後日、生徒会に招いたのであった。
ソウソウはチンキョウを近くに呼ぶと、彼女にそっと耳打ちした。
「お前はソウジンの身の安全を優先して考えろ。
もしもの時は中部を放棄しても構わない」
その言葉にチンキョウは頷いて応じた。
「問題は南校舎南部だ。
そこに兵を送るほど、人員も時間も余裕がない。
だが、見捨てることはできない。
カンカイ!」
ソウソウに呼ばれ、、軍帽をかぶった男子生徒・カンカイが前に進み出る。
「カンカイ、君はかつて南校舎南部の勢力で連合を組み、リュウヒョウと戦った。
その能力を見込んで頼みがある。
今より南部に赴き、中小勢力を口説いて、リュービ・シュウユらに対抗する連合軍を作ってはくれないだろうか」
兵を送れないのなら、その地にいる勢力から兵を出させようという策だ。
だが、カンカイは首を横に振った。
「それは難しいかろうと愚考致します。
確かに私はかつて南部連合を結成し、リュウヒョウに対抗致しました。
しかし、結果はリュウヒョウに敗れ、旧主・チョーゼンを失いました。
私は一度失敗した身です。
その者の言葉に再び耳を貸すとは思えません」
「そうか、難しいか」
「ですが、他の者ならやれるやもしれません。
ソウソウ会長が東で戦っている間に、新たに帰順した者がおります。
その者の名はリュウハ。
私より賢明であり、南部への影響力も持っております。
私はこの者を推薦致します」
その言葉にソウソウは早速、そのリュウハを呼んだ。
「お召しにより参上致しました。
私、竜子巴、リュウハと申します」
その金髪につり目の女生徒は、少女のような小柄な体型ながら、キビキビした動作から年齢以上のしっかりした印象を与えた。
「リュウハ、君にはこれより南部へ飛んでもらいたい」
ソウソウはカンカイに語った南部連合の構想をそっくりリュウハにも伝えた。
「なかなか難しい話かと思われますが、わかりました。
このリュウハ、学園の未来のために身命をとして賭して使命を全うしたいと思います」
こうしてソウソウは南校舎北部にガクシンを止め、中部にソウジンらの軍を展開し、南部へはリュウハを派遣した。
「では、これより私とともに他の者は元リュウヒョウ配下、さらにリュービからの捕虜も含め、すべて中央校舎に撤退する!
今より戦時下だ!
周囲すべてが敵になったと想定せよ!」
ソウソウ麾下の武将たちは力強く返答をし、ともに中央校舎へと撤退していった。
そして、南校舎の元リュウヒョウ陣営の人物たちも有無を言わさず、この撤退に同行して中央校舎へと移動することとなった。
「さすがリュービ、見事な采配だ…!
だが、リュービだけではない、シュウユでもない。
この戦場を裏で支配する別の者の存在を感じるな…
ふふふ、不快なほど面白くなってきたぞ…
リュービ、そして謎の支配者よ…!」
リュービ陣営~
俺たちリュービ軍は赤壁で敗れたソウソウを追撃していたが、ソウソウ本人の捕獲には失敗してしまった。
そこで俺たちは戦略を一度立て直すために、シュウユ軍と合流することとなった。
「リュービさん、コウメイ、ただいま戻りました」
「コウゲツエイも戻りました」
「おお、コウメイ、それにゲツエイも、よく無事に戻ってきてくれた」
シュウユとの合流により、そちらに派遣していた我が軍の軍師・コウメイ、その友人・コウゲツエイの二人の女生徒が無事帰還を果たした。
「コウメイ、君のおかげでついにソウソウを破ることができた。
しかし、肝心のソウソウには逃げられてしまった」
「大丈夫です、リュービさん。
ソウソウの件は想定の内です。
これより次の策に移ります」
「ああ、わかっている。
シュウユとともにソウソウを撃退するんだな」
「いえ、この南校舎にリュービさんの勢力を築き、リュービさんを群雄へと押し上げます!」
次回更新は12月18日20時頃予定




