表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/223

第85話 奮戦!リュービに賭けし者たち!

「さあ、リュービさんの元に戻ろうか」


 リュービからの檄を受け取った、野球帽に、ジャージの上着にスパッツ姿の、長い眉に大きな瞳の女生徒、リュービ軍武将・チョーウンは、くせっ毛髪の女生徒・ビジクの方を振り返りながら、笑顔でそう語りかけた。


「ずいぶんな余裕ですね、チョーウン」


「俺たち二人に挟まれているのを忘れたか?」


 そのチョーウンの前に立ちはだかるのは、一つ結びの緑色の髪に、狼のブレスレットを右腕につけた男子生徒・チョーコー。


 そして、黄色い短髪、鷹のブレスレットを左腕につけた男子生徒・コウランという、チョーウンと因縁のある二人のソウソウ軍の武将であった。


「そうだね。


 チョーコー、コウラン、ここは退()いてくれないか?


 これからボクらはリュービさんの元に戻らなくちゃいけないんだ」


「ほざけ!」


()くなコウラン!」


 チョーコーの制止も聞かず、コウランがチョーウンにかかっていった。


 コウランは少々手荒なところがあるが、エンショウ、続けてソウソウのもと、一線で戦い続けきた猛将である。


 すぐにチョーウンとの距離を詰め、強力な突きを放った。


 普通の者なら一撃でやられたであろうが、あいにく、チョーウンの技量は普通ではなかった。


 チョーウンは、コウランの突きとほぼ同時に姿を消したかと思うと、一瞬にしてチョーコーの真正面に現れた。


 そのあまりの速さに、歴戦の将・チョーコーでさえ目で追えなかった。


 チョーコーがチョーウンを認識した時には、すでに彼女が拳を前に突き出していた。


 チョーウンの拳が空を裂く。


 チョーコーは反射的に体を反らし、チョーウンの必殺の一撃を避けた。


 だが、大きく反らしたその体勢を戻すことはできず、彼はその場に倒れこんだ。


「チョーコー!」


 チョーコーの体が床に着くより先に、今度はコウランがチョーウンの側面に回り込み、再び突きを構える。


 コウランが突きを放とうとした、まさにその時、チョーウンはニヤッと彼に笑いかけた。


「遅いよ」


 勝負は一瞬にしてついた。


 コウランはどこをやられたのか、それは突きなのか蹴りなのかさえわからなかったであろう。


 だが、コウランは間違いなくチョーウンの一撃を受け、その場に崩れ落ちた。


「コウラン!」


 廊下に倒れこんだチョーコーが見たのは、すでに倒された後のコウランの姿であった。


「ビジク、行くよ!」


「は、はい!」


「待て、チョーウン!」


 二人を倒したチョーウンは、ビジクを抱えてスケボーに乗って走り去っていった。


 チョーウンとチョーコー・コウランとの一戦による騒動に、その前方で黄巾党の部隊を殲滅(せんめつ)するソウジュンも気付いた。


「後方が騒がしいようだけど、何事なの!」


 黄色髪をポニーテールにまとめ、小柄で精悍(せいかん)な顔つきの女生徒・ソウジュンが後ろを振り向くと同時に、一流(ひとながれ)の風とともにチョーウンが駆け抜けていった。


「リューヘキ、大丈夫かい?」


「チョーウン、助かった!」


 駆け抜ける野球帽にジャージの女生徒・チョーウンは、今まさにソウジュンの攻撃にさらされる金髪のロング髪に、ピンクの特攻服の女生徒、黄巾隊長・リューヘキに手を差し伸べた。


「さあ、早く逃げよう!」


「待ってくれ、チョーウン。


 キョウトたちが…」


 リューヘキの目線の先には、すでにソウジュン軍との戦いで倒された黄巾党の面々が横たわっていた。


「リューヘキ、残念だけど、気絶した彼らまで(かつ)いでは帰れない。


 早く今のうちに」


「すまない、みんな…」


 チョーウンはスケボーの後ろにリューヘキを乗せ、ビジクを抱えたまま走り出した。


「早くあいつらを追いなさい!」


 率いる部隊に向けてソウジュンの声が辺りに響いた。




 さらに前方、薄手のタンクトップの上から厚手のジャケットを羽織った女生徒、リュウヒョウ軍からソウソウ軍に移った武将・プンペーはリュービ本軍への攻撃を行っていた。


「リュービを逃がすな!


 奴さえ捕らえればこの戦いも終わる!」


「リュービさんには手を出させない!」


「リュービを逃がすんだ!


 敵を通すな!」


 細身に、木訥(ぼくとつ)な雰囲気の男子生徒・リュウホウが前線に立ち、ボブカットの髪型に、太めの眉とタレ目のメイド服の女生徒・コウソンサンが指示を飛ばす。


 だが、もはや、前方にはリュービを守る最低限の兵しか残っておらず、ブンペー軍の攻撃に徐々に劣勢に(おちい)っていった。


「リュービの取り巻きは後わずかだぞ!


 このまま押し込め!」


 ブンペー軍の兵士たちはどんどん突き進んでくる。


「このままでは俺たちは全滅してしまう…


 ここまでか!」


 人の上に立つことの覚悟を決めた俺だったが、それは現実とは別の問題だ。


 覚悟だけで現実の情勢が変わるほど世の中甘くないということか。


 俺たちの部隊は分断され、敗北へと向かっていた。


 だが、今この時、俺の知らないところで、新たな助けが現れていた。


「待て…私が…相手…だ!」


 ブンペーの兵士たちの前に現れたのは、長身で、腰まで伸びたポニーテールに紅のリボンをつけ、深いスリットの入った長いスカートをはいた女生徒…


「お前はまさか…」


「リョフ!」


「あれが伝説のリョフか!」


 ブンペーの兵士たちは口々に叫んだ。


 その姿はまさに生きる伝説、鬼神と恐れられた最強の女生徒・リョフ、その人であった。


「あの仮面はなんだ?」


 だが、そのリョフと思わしき女生徒は、般若(はんにゃ)の面をかぶり、その顔を隠していた。

挿絵(By みてみん)


「恐れるな!


 リョフは戦闘行為に参加すれば退学の約束があったはず。


 今の奴は戦えない!」


「私は…リョフ…では…ない!


 だから…あの…約束は…関係…ない…!」


 その般若面(はんにゃめん)の女生徒はそう答えた。


 その言葉にブンペーの兵士たちはざわついた。


「もしかしてあのお面で別人だと言い張るつもりなのか?」


「お前がリョフじゃなければ誰だと言うんだ!」


「え…えーと…


 わ…私は…チントウ…だ!」


「はっ?


 文芸部のチントウか?


 チントウがこんなとこにいるわけないだろ。」


「うる…さい!」


「ぐはっ!」


 粗を指摘されたチントウと名乗る般若面(はんにゃめん)の女生徒は、一撃でその兵士を沈黙させた。


 しかし、そのあまりの強さに、かえって周囲の兵士たちの予想を確信へと変えてしまった。


「リ、リョフだ!


 間違いなくリョフだ!」


「 リョフが出たぞ!


 リョフだー!」


「違う…!


 チントウ…だ!」


「げはっ!」


「ぐえっ!」


 面倒に思ったのかチントウを名乗る般若面(はんにゃめん)の女生徒は、リョフの名を口に出した兵士たちを次々と黙らせて回っていった。


 その光景は、防衛で手一杯の俺の目にも入ってきた。


「な、何やってんだリョフは?」


 般若面(はんにゃめん)をかぶってはいるが、その姿はどっからどう見てもリョフであった。


 間違えようもなくリョフだ。


「とにかく今のうちに渡り廊下を渡ってしまおう!


 コウメイたちも早く!」


 その間にコウソンサンが指示を飛ばし、迅速に俺たちを渡り廊下へと誘導していった。


「なんだ!


 我が軍が押し返されているぞ!」


 タンクトップにジャケットの女生徒・ブンペーは突然起きた情勢の逆転に戸惑いながらも、付近の兵たちに訊ねた。


「なんでも前方にチントウと名乗るやたら強い将が現れたそうです」


「チントウ?


 初めて聞く名前だね…


 カンウ・チョーヒ・チョーウンで出尽くしたと思っていたが、まだそれに匹敵する武将をリュービ軍は隠していたのか!


 このまま押し返されてしまう。


 やむを得ないが、ここは一度撤退して体勢を立て直すよ!」


 ブンペーは部隊を(まと)めあげると、リュービ本軍への攻撃を止め、後退した。


 俺はブンペーの撤退を確認し、ホッと胸を()で下ろした。


「どうやら敵を退けたようだ。


 助かったよ…


 で!


 何やってんだリョフ…?」


 一息つけた俺は、般若面(はんにゃめん)をかぶったリョフに問いただした。


「リュービ…私は…リョフでは…ない…


 私は…チントウ…だ…!」


「いやいや、チントウ他にいるし」


「じゃあ…チントー…だ…!」


「いや、あんまり変わってないから」


「他に…女の子の…名前…出て…こなかっ…た…」


 チントウと言えば、文芸部の時に俺たちとともに戦ってくれた女生徒だ。


 確かにリョフもよく知った間柄ではあるが、だからって在籍中の生徒の名前勝手に使うなよ。


 だが、リョフは昔、ソウソウにつけられた条件で直接戦いに参加することはできないから、彼女なりに考えてくれた結果なのだろう。


「別にチントウも女の子っぽい名前ってわけじゃ…まあ、リョフが直接戦うと問題もあるし仕方ないか。


 とにかく助かったよ、ありがとう、リョ…チントー。


 ところでそのお面はどうしたんだ?」


「資料室の…奥に…落ちて…あった…」


「それ落ちてたんじゃないだろ。


 勝手に持ち出しちゃダメなやつじゃないか?」




 リョフ…ではなくチントーの攻撃により後退したブンペーの元に別の方向より新たな報告が入る。


「ブンペー隊長!


 何者かが一直線にこちらに向かってきます!」


「後続のリュービ軍も立て直したか!


 部隊の規模はどのくらいなの?」


「それが…三人だそうです」


「 三人?


 それはソウソウ軍の伝令か何か?」


「いえ…あれは…チョーウンです!


 リュービ軍のチョーウンです!」


「何ですって?


 たった三人でソウソウ軍を縦断したと言うの!


 とにかく奴を止めろ!


 リュービ軍に合流させるな!」


 だが、電光の如く突き進むチョーウンを、ブンペー軍の誰も防げるはずがなかった。


「駄目です!


 止められません!」


「単独で挑むな!


 十重二十重(とえはたえ)に取り囲んで身動きを止めなさい!」


「この狭い廊下ではそこまで大きな包囲網はできません!」


「出来る範囲でいいのよ!


 それとチョーウンが止められないのなら随行(ずいこう)する二人だけでも捕らえなさい!」


 そのブンペーの指示に兵士たちは一斉に視線を変えた。


 無謀にチョーウンに挑むより、抱えられた女生徒や後ろに抱きついている女生徒を相手にする方がはるかに難易度が低い。


「連れてる女を捕らえろ!」


「ビジクやリューヘキに手を出すな!」 


 チョーウンは連れていたビジクとリューヘキの二人をスケボーから下ろした。


「二人とも周りを気にせず、リュービさんの元に走れ!


 道はボクが作る!」


「はい、わかりました」


「道を空けろ!


 君たちでは勝負にならないよ!」


 身軽ちなったチョーウンは電光石火の速業で、次々と敵兵を蹴散らし、道を切り開いていった。


「ブンペー隊長、残念ながらチョーウンは真っ直ぐ包囲網を突破し、リュービ軍に合流しました」


「チョーウン一人止めらないの!」


 その後ろよりチョーウンを追って、ソウソウ軍の女性武将・ソウジュンが駆け寄ってきた。


「ブンペー、何をやってるの!


 これだけいてチョーウンを取り逃がすなんて!」


「ソウジュンさん、申し訳ありません」


「 こうなったら我らで渡り廊下を進んでリュービ軍に総攻撃をかけます!


 ついてきなさい!」


 功を(あせ)り、今にも飛び出そうとするソウジュンを、ブンペーは止めに入った。


「お待ち下さい!


 リュービ軍にはそのチョーウンにも匹敵する武勇の持ち主が、まだもう一人いるという話です。


 迂闊(うかつ)に攻めれば被害は大きくなります!」


「それじゃあリュービを見逃がせというの!」


「いや、私たちはここにいよう」


 ソウジュン・ブンペーの会話に、一つ結びの緑髪の男子生徒が割り込んできた。


 彼もまたチョーウンを追ってきたソウソウ軍の武将・チョーコーであった。


「チョーコー、今さら来て何を言ってるの?」


「そろそろ殿(しんがり)のチョーヒ隊20人がこちらにやって来る。


 私たちがここで待ち受ければ、後ろから来るウキンたちとやつを挟み撃ちに出来る。


 チョーヒを捕虜にすれば、リュービの戦力は大きく削れるでしょう」


 しかし、そのチョーコーの提案にソウジュンは難色を示した。


「チョーヒの相手には、後軍である兄さんたちを加わり、より強力な総攻撃をかけてるわ。


 今頃はもう壊滅しているはずよ」


 チョーヒの相手には、ソウジュンの兄・ソウジンを始め、カコウトンやカコウエンらソウソウ軍の猛将たちが加わったことは、すでに連絡を受けていた。


 その後、続報はないが、まさかまだ無事であるとは彼女は考えはしなかった。


「いえ、どうやらそうではないようですね。


 来ましたよ!」


 ソウジュンたちの前に、カコウトンらを抑えながら、悠々と前進する、小柄なお団子ヘアーの女生徒が現れた。


 それは紛れもないリュービの義妹・チョーヒであった。


「アニキたちは逃げ切ったようだな…」

次回は8月21日20時頃更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ