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第84話 誕生!流浪の王者!

「振り返るんじゃねーぜ!


 アニキたちを信じろ!


 オレたちは目の前の敵に集中するんだぜ!」

挿絵(By みてみん)


 リュービ軍の最後尾を預かるお団子ヘアーの小柄な女生徒、無双の義妹・チョーヒは、ウキンやチョーリョーらの部隊を一兵たりとも通すまいと、身構えていた。


 対する切れ長の目の女生徒・ウキン、逆立った青髪に道着姿の男子生徒・チョーリョーらソウソウ前軍の武将たちは、リュービ軍の隊列に乱れが生じているのを確認した。


「どうやら別行動に出したソウジュンたちの攻撃が始まったようね」


「さすが、チョーヒだ。


 この状態でも微塵(みじん)(すき)も見せんな」


「チョーリョー、何を冷静に言ってるんですか!


 戦闘が始まったのに我々が指を(くわ)えて見てるわけにはいきません。


 数は我らの方が圧倒的に上です。


 私たちの部隊でチョーヒを足止めしますから、その(すき)にあなたは突撃してリュービ軍を崩しなさい。


 このままいけば、リュービを捕らえることも可能です」


「やめておけ、ウキン。


 チョーヒは、その程度の攻撃で(すき)が出来る相手ではない。


 今は全力でチョーヒを潰すことだけを考えるべきだ」


「何をやっとんだ、お前らは」


 ウキンとチョーリョーの問答の間に、一人の声が割り込んできた。


 ツンツン髪に、アゴヒゲを()やし、左に眼帯を着けた男子生徒、ソウソウ後軍に属する隻眼(せきがん)の鬼将・カコウトンであった。


 そして、その後ろには、茶色いショートヘアー、黒いジャケットにジーパン、長身の女生徒・カコウエン、橙色の髪、細身で中性的な顔立ちの男子生徒・ソウジンと後軍に属するソウソウの武将たちが並んでいた。


「カコウトンさん!


 それにカコウエンさんにソウジンさんも!


 もう後軍が追い付いたのですか!」


「先発したはずの前軍のお前たちが何をこんなところでゆっくり歩いとるんだ。


 前に何かいるのか」


「我こそはリュービが義妹・チョーヒ!


 誰でもいいからかかってきやがれ!」


 カコウトンが前に目をやると、そこにはよくよく見知ったリュービ軍の女豪傑・チョーヒの姿があった。


「なるほど。


 チョーヒ一人に手こずっているということか」


「後軍が追い付いたということは、もうソウソウ会長もおられるのですか」


「落ち着け、ウキン。


 ソウソウがいるのは後軍の中でも一番後ろだ。


 だが、このままではじきにソウソウも追い付いてしまうな。


 それまでにはあのチョーヒをなんとかしたいところだ」


 カコウトンの言葉に、ジャケットにジーパン姿の女生徒・カコウエン、橙色の髪の男子生徒・ソウジンが続ける。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「しかし、本隊が攻撃を受けてる状態でもなお、健気(けなげ)殿(しんがり)を守るチョーヒの姿はいじましいというかなんというか」


「武人なら何かしら感じるところのある姿だな」


「だが、それを我らは倒さねばならん。


 嫌な仕事だ」


 カコウトンは彼ら彼女らの言葉を締めくくった。


 しかし、ソウソウ到着まで時間もわずか、いつまでの傍観(ぼうかん)しているわけにはいかない。


 続けてカコウトンは全体に指令を出す。


「ウキン・リテン、お前たちはここで部隊全体の指揮を頼む。


 カコウエン・ソウジン・シュレイ・ロショウ、お前たちはチョーヒの左右に回り込め。


 チョーリョー、俺と共に正面から行くぞ!」


「はい!」


「わかりました」


「任せな!」


「任せておけ!」


「アグリーです」


「つまり“了解”だ」


「承知!」


 カコウトンの号令のもと、カコウエン・シュレイは右に、ソウジン・ロショウは左に散り、チョーヒを三方から取り囲んだ。


 その様子を、チョーヒはヘッと笑い飛ばす。


「これだけの武将がよってたかって、こんなか弱い女の子を倒そうなんて恥ずかしくないのかだぜ!」


「お前が本当にか弱い女の子なら良かったんだがな。


 悪いが、確実に倒させてもらうぞ!」


 チョーヒの左よりカコウエン・シュレイが斬り込む!


「チョーヒ覚悟!」


「ミッションスタート!」


 同時に、右よりソウジン・ロショウが飛びかかる!


「今度こそお前を倒す!」


「つまり“作戦開始”だ!」


 さらに正面よりカコウトン・チョーリョーが突撃する!


「これで終わりだ、チョーヒ!」


「我が名はチョーリョー!


 見せてもらうぞその武を!」


「しゃらくせーんだぜ!」


 一斉に動き出す六将に対して、チョーヒの眼光は鋭く光り、その手は一瞬にして無数の変化を生み出した!


 チョーヒは、いの一番に突進するチョーリョーを拳一つで押し返すと、カコウエンの放つ弾丸を避けながら、次に続くソウジンをカコウエン目掛けて弾き飛ばし、左右からかかるシュレイ・ロショウを()ぎ払い、真正面より現れたカコウトンを蹴り倒した。


 その一連の流れは、周囲の者にとっては、まさに一瞬の出来事であった。




 一方、ソウソウ軍の攻撃を受け、散り散りになる自身の陣容を前に、リュービは絶望に(とら)われていた。


「俺が招いたことなのか…


 俺がソウソウから逃げたばかりにこれだけの惨状(さんじょう)を招いてしまったのか…」


 後ろでは無数の兵士が倒され、数多(あまた)の生徒の叫び声が木霊(こだま)していた。


 その状況でも、俺を一番に逃がそうとする皆の献身が、この身に重たくのしかかる。


 自然と足取りが重くなる俺の横で、黒と緑二色のショートの髪の女生徒、軍師・ジョショが俺の手を引き、声をかける。


「リュービさん、今は(なげ)き悲しんでいる時ではありませんよ。


 早く逃げませんと」


「しかし、このまま俺が逃げれば事態はどんどん悪くなってしまう…」


「今、リュービさんが逃げきれば勢力はまた建て直せます」


「それは違うぞ、ジョショ!


 人を見捨てた者に、人の上に立つ資格なんてない…


 いや、そもそもそんなものは俺にはなかったのか…


 コウメイはいるか…


 コウメイを呼んできてくれ…」


 俺の口から出たコウメイの名にジョショの顔が少し(くも)る。


「コウメイを…ですか?」


「私でしたらここにおります」


 俺に呼ばれ、長めの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきの、背が低く、華奢(きゃしゃ)な女生徒、軍師・コウメイが現れる。


「コウメイ、教えてくれ。


 俺に人の上に立つ資格があるのか?


 これだけの力の差を見せつけられ、まだソウソウと戦うべきなのか?」


 ソウソウとの絶対的な力の差、そして(あらが)えば(あらが)うほど仲間が苦しむこの状況、それでも俺は戦うべきなのか、俺にはもうわからない。


 俺はその問いをコウメイにぶつけた。


「リュービさん、あなたにはそれがやれるだけの力がある。


 そう信じてここまで来ています。


 私も、カンウさんも、チョーヒさんも、ここにいる一人一人もみな同じ思いです」


「違う!


 ただソウソウが怖くて、従うのが嫌で、とりあえず着いてきた者の方が多い。


 そいつらが求めているのはリュービという名のスーパーマンだ。


 俺なんかじゃない!」


「それも本音なら、リュービさんに着いていきたいという気持ちも、また本音です」


「だからそれは俺じゃない!」


「いえあなたです!


 それが虚名(きょめい)であれ実名であれ、あなたがいて初めて成り立つものです。


 この勢力は間違いなく“リュービ”を中心に動いているのです」


「だから、虚名(きょめい)でもなんでも利用してのしあがれとでも言うのか。


 無理だ…


 そのために数百人もの学園生活を背負うなんて俺にはできない…」


「甘えた事を言ってはいけません。


 この学園の生徒会長になるということは、万の人の学園生活を背負うということです」


「ならば、そもそも俺に生徒会長は無理な話だったんだ。


 お前たちだけならまだしも、数百人でさえこれだけ重い。


 万人なんてとても俺には背負いきれない…」


「リュービさん、勘違いしてはいけません。


 一人であれ、千であれ、万であれ、億であれ、人の上に立つ責任に重さの違いもありません。


 仮に一億人の上に立ったからと言って、そのうちの一人に対する責任が軽くなるなんてことはありませんし、一人の上にしか立ってないからといって、その責任が軽くなるわけでもありません。


 それが人の上に立つということの重さなのです。


 それは一人でも人の上に立ったその時から、もう始まっているのです。


 それが嫌なら全てを捨てることです。


 ここで全速力で駆け抜けて行方を(くら)ませば、私も、カンウさんも、チョーヒさんも、他の誰とも関係を断つことができるでしょう」


 関係を断つ…


 その言葉に俺の脳裏に仲間の顔が次々とよぎった。


「カンウ、チョーヒ、コウメイ、チョーウン、コウソンサン、リョフ、ビジク、ビホウ、リューヘキ、ソンカン、ジョショ、リュウホウ、イセキ、ショウロウ、ついでにカンヨー…


 その他ついてきてくれた多くの仲間との関係を捨てるということか」


「そうです。


 私を含め皆さんの上に立つことの責任と、万の人の上に立つということの責任は、同じように重いのです。


 誰一人とっても軽い人なんていません。


 ですか、リュービさんはすでに我らの上に立ち、見事、背負われました。


 そのあなたが千や万の人を背負えない道理はありません」


「突然現れた重荷のように感じていたが、俺は当の昔に背負っていたのだな」


「賭けた者には賭けた者の、賭けられた者には賭けられた者の果たすべき責任があるのです」


「わかった。


 それが俺の果たすべき責任なのだな。


 すまなかった、俺は自信を失くしていたようだ。


 俺はついてきてくれた者たちに対し、その責任を果たし、君がかつていった天下三分の一つの英雄になってみせよう。


 コウメイ、そのために俺はまず何をすればいい」


「はい、リュービさん。


 まずはこの戦いを勝ち戦にすることです。


 チョーヒさんが敵を食い止め、チョーウンさんが縦横に駆け抜けてみせました。


 後はリュービさん、あなたの一押しがあればこの戦い、勝てます」


「わかった。


 それが天下への第一歩だな」


 俺は振り返り、一度深呼吸をすると、声を張り上げた。


 今、俺についてきてくれている皆に届くようにと大きな声で。


「俺に賭け、ついてきてくれた者たちよ!


 俺はお前たちを受け入れよう!


 俺は賭けられた者として今は退()く!


 だが、これは負けたのではない!


 我らの勝利はこの先にある!


 賭けた者として俺についてこい!


 俺の道はお前たちと共にある!」

挿絵(By みてみん)


 一気に叫んだ後、息を整えて再び叫んだ。


「全軍撤退!」


 リュービの大音声(だいおんじょう)は最後尾にいる義妹・チョーヒの耳にも届いた。


「アニキが叫んでやがるぜ。


 オレはアニキに賭けた者としてどこまでだってついていくぜ!」


 また、今まさに敵と対峙(たいじ)しているチョーウン・ビジクの耳にも。


「ここまできて置いていかれるわけにはいかないね」


「そうですね」


 さらには援軍に()せる義妹・カンウのもとにも。


「あれは…兄さんの声…」


 そして、リュービを追うもう一つの勢力、チュー坊軍客将・ロシュクのところまで。


「あれがリュービか」


 声を方々に届かせた俺はコウメイの方へ向き直った。


「行くぞ、コウメイ!


 天下への道はあの渡り廊下の先だ!」


「はい!」


 コウメイは満面の笑みでリュービに答えた。


「リュービさん。


 あなたはこの流浪の果てについに王者になられた。


 このコウメイ、どこまでもついていきます」


 だが、そのやり取りを(うらや)ましげに見つめる一人の女生徒には気づかなかった。


「そうか…


 私はリュービさんの元で何かを成し遂げられるかとおもっていたが…


 私の成すべきことはコウメイと引き合わせることだったんだな…


 もう役目は終わっていたのか…」


 そう(つぶや)くジョショに、リュービの声は届いてはいなかった…

次回更新は8月14日20時頃の予定です

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