第81話 追撃!ソウソウ侵攻軍!
南校舎の生徒を加え、一気に大所帯となった俺たちリュービ陣営は、ソウソウの侵攻から逃れ、リュウバンらと合流し、戦局を立て直すために南校舎の南部へと向かっていた。
「リュービさんの支持者が現れて我が陣営の生徒数は何倍にも増えました…が、その多くは文科系の生徒で非戦闘員です。
元リュウヒョウ軍の兵士も何人かいますが、我々が戦う相手は最強のソウソウ軍、兵士一人一人が歴戦の猛者です。
単純に兵力が二倍、三倍に増したとは思わない方がいいでしょう」
目にかかるぐらいの長さの薄水色の髪、まだ幼さの残る愛らしい顔つきの、背が低く、華奢な体の女生徒、我が陣営の軍師・コウメイが冷静に状況を説明してくれる。
さらにそこに、黒と緑二色のショートの髪に、フードのついた大きめのパーカーを羽織った女生徒、同じく軍師のジョショが説明を付け加える
「おまけに人数が増えたおかげで、全体の歩みが遅くなりましたね。
リュービさん、このままでは我々はソウソウに追い付かれます。
我らだけでも先行し、リュウバン隊と合流して防衛陣地を構築した方が良いのではないですか?」
「いや、ジョショ、それは良くない。
選挙の基本は支持者がいてくれることだ。
その支持者である彼らを見捨てるような真似はできない」
コウメイの言う通り、陣営の人数こそ増えたが、それは戦力とは言い難く、また進行速度も遅くなった。
ジョショの言うように、ここは俺たちだけ先を急いで、南部の防衛を強化した方がソウソウ軍との戦いも有利に進めれるかもしれない。
だが、それはせっかく俺たちを慕って、ついてきてくれている人たちを見捨てるということだ。
俺にはそんなことはできない。
「しかし、リュービさん、このままでは…」
「ジョショさん、我々の主はこういう人なのです。
ならばそれにあった策を立てましょう」
なおも食い下がるジョショを、コウメイが止めてくれた。
ジョショには悪いが、別の策を出してもらうしかない。
そこへ、少しくせっ毛気味の髪に眼鏡の、大人びた雰囲気をもつ女生徒、俺の補佐官の一人・ビジクが急ぎ足で報告にやってきた。
「リュービさん、先程、リュウキさんより連絡がありました。
リュウキさんも南下を開始したようですが、敵のジョコー・マンチョウ軍の攻撃に遭い、先に進めない状況だそうです」
リュウヒョウの跡をその双子の弟・リュウソウが継いだため、その双子の兄・リュウキも孤立することとなった。
リュウキには俺たちとの合流を提案していたが、すでにソウソウ別動隊の攻撃を受けているようだ。
このビジクの報告に、コウメイが発言する。
「リュウキさんはコウソさんの後任になったばかりですから、その陣営に兵はそろっていますが、指揮を執る将が不足しています。
また、リュウキさん自身も戦争経験が乏しく、このままでは負けるでしょう」
ジョコーはソウソウ軍の中でも勇壮な武将として知られるし、同行するマンチョウも智勇兼備の将として有名だ。
リュウキ単独で戦うにはキツイ相手だろう。
「コウメイ、なんとか助けられないか」
「今の我が軍には、救援に向かうほど兵数に余裕がありません。
しかし、代わりに将を派遣して、リュウキさんの兵を率いさせれば、敵の追撃を振り切ることもできるでしょう」
「それでしたら私が行きます!」
名乗りを上げたのは、長く美しい黒髪の長身の女生徒、俺の義妹・カンウであった。
確かにカンウであれば、武勇の面でも、兵の指揮能力の面でも、ジョコーやマンチョウに引けを取らないだろう。
ここで彼女に抜けられるのは苦しいが、リュウキを見捨てることはできないし、彼らと合流できれば、より戦力を増すことができる。
「わかった。
カンウ、リュウキ君を頼んだ。
後で必ず合流しよう」
「はい、兄さんもお気をつけて。
カンペー・シューソー、ついてきなさい!」
カンウの号令に、カンウより少し短めの長い黒髪に、緑色のリボンをつけた女生徒、カンウの妹分・カンペー。
そして、カウボーイハットをかぶったツンツン頭の、小柄な男子生徒、カンウの弟子・シューソーの二人が答える。
カンウはその二人のみを引き連れ、隊列から離れていった。
南校舎・図書室~
一方その頃、南校舎へと侵攻したソウソウは、リュウソウらの本拠地である図書室に到着していた。
ソウソウに降伏したリュウソウらは、教室の前に並んで、彼女たちを手厚く出迎えた。
「よくいらっしゃいました、ソウソウ会長。
私は弁論部副部長のサイボウです」
まず、ソウソウに挨拶したのは、長身スーツ姿の男子生徒・サイボウであった。
彼は日頃の鋭い目付きを極力抑え、腰を低くしてソウソウに応対した。
「ようこそいらっしゃいました。
部長代理のリュウソウです」
続いて頭下げるのは、リュウヒョウに代わり部長となった弟・リュウソウ。
そして、彼らの挨拶を受け姿を現したのは、赤みがかった長い黒髪、それと同じ色の眼に白い肌、相変わらずの胸元を大きく開いた服に、ヘソ出し、ミニスカートの今は仮の生徒会長、学園最大勢力の長・ソウソウであった。
「出迎えご苦労。
では、部室を案内してもらおうか」
余多の参謀・武将を引き連れて、ソウソウは悠然と図書室の奥へと闊歩していった。
「ほぉ、ここが弁論部の部室か。
では、これよりここを生徒会の南部司令室とする」
ソウソウはそのまま奥へと進み、かつてリュウヒョウがよく腰をかけていた椅子に、どっかと腰を下ろした。
そのソウソウの元に、かつてリュウヒョウが座っていた時以上に腰を落とし、膝をついて、リュウヒョウ副将・サイボウが進言する。
「ソウソウ会長、今やこの南校舎はあなた様のものです。
今、もう一人の副部長のカイエツがここに所属する部員の名簿を用意しておりますので、しばしお待ち下さい」
「サイボウ副部長。
残念だが、私たちは悠長に待っている時間はない。
現在の戦況はどうなっている?」
「我らリュウヒョウ軍本隊は既に生徒会軍に降伏いたしました。
一部に抵抗している者もいますが、直にソウソウ会長の威光にひれ伏すでしょう
会長が心を煩わせることは何もございません」
そう回答するサイボウを、ソウソウは一瞥して返した
「そういう話が聞きたいのではない。
ジュンユウ!」
ソウソウに呼ばれ、おさげ髪に、地味めな眼鏡をかけた、おっとりした雰囲気の女生徒、ソウソウの参謀・ジュンユウが前に進み出た。
「現在、北部では別動隊のソウコウ軍が三教室まで奪取、残り一教室ではブンペー軍が抵抗を続けております。
東のリュウキ軍にはジョコー・マンチョウ軍が追撃中、西のリゲン軍は行方をくらましました。
その他いくつか逃亡した部隊があるようですが、カイエツ副部長が用意しているという名簿で確認しないと、詳しい名前はわかりません」
「それで今、リュービはどこにいる?」
「今のところ、我が軍とリュービ軍との接触はありません。
恐らく南方へ逃亡したと思われます」
ジュンユウの回答を受け、ソウソウは今度はサイボウの方へと目を移した。
「サイボウ副部長、私はリュービを引き留めておくようにと伝えたはずだが?」
ソウソウの怒気を含んだ物言いに、サイボウは平身低頭して答える。
「ソウソウ会長、申し訳ありません。
リュービの奴は卑怯にも我が部員を盾にして逃走し、我らは攻撃することができませんでした」
頭を床に付けるほど下げるサイボウは、その時のソウソウの表情が冷淡なものであることを見ることはできなかった。
そんな時、ツインテールのピンク髪に、少し幼げな顔つきの女生徒、ソウソウ軍別動隊・ソウコウが戦いを終え、ソウソウの元へ参上した。
「ソウソウ、四教室を手に入れて来ました」
「戻ったかソウコウ、ご苦労だった」
ソウコウは一人の女生徒を伴っていた。
「こちらは四教室を守っていたブンペーさんです」
薄手のタンクトップの上から厚手のジャケットを羽織った女生徒、リュウヒョウ軍守将・ブンペーはやってくるなり、ソウソウの前に跪いた。
「君がブンペーか。
なぜ、私の元に来るのが遅れたのか?」
「はい、ソウソウ会長。
私はリュウヒョウ部長より北方守備を任されましたが、その役目を果たせず、会わせる顔がありませんでした」
ブンペーは目に涙を浮かべて、そう答えた。
「そうか…
ブンペー、君は忠義を知っているようだ。
君を引き続き武将として取り立てる。
今まで率いていた兵をそのまま率いよ」
ソウソウは立ち上がると、群臣の方に向き直り、命令を下した。
「これより、我がソウソウ軍はリュービ追撃戦を開始する!
ソウジュン・ブンペー!
お前たちに先鋒を任せる!
すぐに追撃せよ!」
「わかりました!」
「お任せください!」
黄色髪をポニーテールにまとめ、小柄な精悍な顔つきのソウジンの妹・ソウジュンが前に進み出、プンペーとともに答えた。
「その他の武将も準備が出来次第出陣せよ!
なんとしてもリュービを捕らるのだ!」
ソウソウの号令により、武将たちは忙しく出陣の準備を開始した。
東校舎・チュー坊陣営~
赤紫の髪に太陽の髪飾りをつけ、少年のような顔体つきの男子生徒、姉ソンサクの後を継ぎ、東校舎の主となったチュー坊の元に、二人の女生徒が参進した。
「チュー坊様。
ソウソウが南校舎への侵攻を開始したようです」
まず発言したのは、金髪の長い髪に、白い肌、整った顔立ち、ゴスロリ風の衣装をきた美女、チュー坊軍副将・シュウユであった。
「そうか…」
しかし、彼女の言葉に、チュー坊はそっけなく一言だけ答えた。
「いえいえいえいえ、チュー坊様!
これは由々しき事態ですぞ!」
しかし、その静かな空間を打ち破るように、喧騒な声が響き渡る。
声の主はシュウユの隣に立つもう一人の女生徒であった。
灰色の長い髪に黒いリボンをつけ、ブラウスの上から黒いローブを羽織ったその女生徒は、チュー坊陣営に新たに加わった客将・ロシュク。
ロシュクは手に持った扇子を振り回しながら、話を続けた。
「南校舎は4校舎と通じる交通の要衝であり、所属する生徒数も多い校舎。
おそらく、この地を誰が手に入れるかが今後の選挙戦に大きく影響するでしょう。
その南校舎を今、ソウソウ・リュウソウ・リュウキ・リュービと各勢力が争っています。
今、我らが動かなければ不利になるのは明らかですぞ」
「ではロシュク、どうすればいいんだ?」
「はいはいはい、そう来なくては。
私をリュウヒョウへの見舞いの使者として南校舎へ派遣してください。
その時に今、誰と手を組み、誰と戦うべきか判断してきましょう」
チュー坊は少し考えて、シュウユの方に向き直った。
「シュウユ…君もこれに賛成か?」
「はい、ソウソウが南校舎を手に入れれば次は東か西です。
今、動かなければ座して死を待つのみです」
シュウユの発言にチュー坊は納得して、ロシュクに向かって言った。
「わかった。
ロシュク、行ってきてくれ」
「はいはいはい、すべて私にお任せあれ!」
ロシュクとシュウユの二人は教室を出た。
「ロシュク、今回の鍵を握るのは恐らくリュービです。
彼がソウソウに対抗し得るかどうか、それを見極めるのがあなたの役目です」
「ええ、わかってます、わかっておりますとも、シュウユさん。
しかし、リュービには私も個人的に興味をもっておりましたが、まさかこのような形で会うことになるとは思いもよりませんでしたぞ」
「頼みましたよロシュク。
私はなんとしてもソンサクの帰る場所を守らなくてはいけないのです。
例えどんな手を使おうとも…」
次回は7月24日20時頃更新予定です




