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82話



 秋雨がドスケベーノ子爵を見つける少し前、ある人物が街の大通りを歩いていた。



 ただ歩いているだけならば何の問題もないことなのだが、その人物がラビラタの街にとって重要な人物であるということが肝心であった。



 ロンドウェル・フォン・コウハナブツジーン……ラビラタの街を治める領主であり、伯爵の位を持つ男だ。



 そんなラビラタの街にとって重要人物であるはずの彼が、何故か護衛を一人もつけず街を出歩いていた。



 出歩いているといっても、さすがに顔を晒したままでは領主だとバレてしまうため、顔を隠せるようフード付きのマントを身に着けている。それによって、通りを歩く人々には彼が領主だとバレずに済んでいた。



(ふう、たまには気分転換も必要だからな。毎日執務机に噛り付いていては堪ったものではない)



 どうやら、領主としての仕事を投げ出し、部下たちの目を掻い潜って屋敷から抜け出してきたらしく、街の様子を見て回っていた。彼を護衛する立場の人間からすれば迷惑千万な話であるが、彼もたまには一人になりたいと思うことはあるため、ほんの些細な我が儘と考えていた。



 現在、彼がいなくなった屋敷は護衛や使用人が血眼になって彼を捜索しており、あと十数分もすれば屋敷の敷地内にいないことが知れ渡ってしまう。そのわずかな時間でできるだけ自らが治める街を視察して回りたいと考えていたが、その道中彼の目に飛び込んできたのは、眉を寄せる出来事だった。



(あれは、ドスケベーノ子爵か。貴族の恥さらしがまた民に迷惑を……ん?)



 子爵の行動に思わず嫌悪感を抱く彼だったが、その視線がある人物へと向けられた。それはただの偶然であったが、そこにいたのは成人したばかりと見受けられる少年がいた。



 しばらく、その少年に目を向けていた彼は突然姿の消えた少年を見て驚愕することになる。



(な、なにっ、消えただと!? ……いや、姿を見えなくしただけか。気配はある)



 いくら光学迷彩を使って姿を消そうとも、姿が消えるところを目撃されれば意味はなく、一体少年が何をしようとしているのか彼は成り行きを見守った。



 そして、秋雨にとって不運だったのは、彼……コウハナブツジーン伯爵が魔法に秀でた人物であったことだ。



(我が目を持ってその正体を見通せ。【見破りの魔眼マジックアイ】)



 魔力を目に集めることで魔法で隠されたものを見破る力。それが【見破りの魔眼】である。



 当然、秋雨が使用した光学迷彩の魔法も看破され、彼の目には秋雨の姿がはっきりと見えていた。



(あの少年一体何をするつもりだ?)



 姿を隠す魔法を使った少年の目的がわからず、そのまま静観していると、ドスケベーノ子爵が男性を魔法で殺そうとする。しかし、その打ち出された魔法は男性に直撃することなく反射し子爵に襲い掛かる。



 だが、魔法的な攻撃を無効化する魔道具を所持していることを知っている彼は、その攻撃が子爵に届くことはないと考えていた。だが、彼の予想を裏切るかのように子爵の体が宙に舞う。



(な、なんだと!? まさか、彼奴の魔法を結界を使って反射させ、その魔法が跳ね返った瞬間別の魔法を発動させたのか。しかも、その発動した魔法に物理的な攻撃力を持たせることで魔法に対して発動する魔道具を無意味なものにしただと!? さらに驚愕すべきは、姿を消す魔法を発動したままそれを成したことだ。三つの魔法の同時展開……。トリプルソーサラー……いや、魔法の練度を考えればクアドラプルソーサラーの可能性もあるか)



 その短時間で起こった出来事に、彼は驚愕を隠し切れなかった。状況を知らない人間からすれば、何かしらのトラブルで子爵の放った魔法が暴走し、その魔法が放った本人に襲い掛かったように見える。だが、状況を知る人間からすれば事実は大きく異なる。



 これは子爵が放った魔法を反射させると同時に、相手にダメージを与える細工を施し、さらには自身の姿を誰にも見られないようにすることも怠らないという完全犯罪に近い状態の行為を行っている。



 そして、その行為をまだ成人したばかりであろう十代の少年が行っていることにも驚きを隠せず、彼は誰にともなく呟く。



「あの少年、一体何者なのだ?」



 その問いに答えてくれる者などいるわけもなく、ただ彼の声が民衆の騒ぎ声に掻き消えるだけだった。



 そうこうしているうちに、ドスケベーノ子爵が復活し自分を攻撃した犯人を捜そうとしていたところで彼が介入することにし、その場を収めることには成功したものの、その騒ぎに乗じて例の少年に逃げられてしまうことになる。



(顔は覚えた。必ずやその正体を突き止めてやる)



 そんな決意を新たにする彼であったが、騒ぎを聞きつけてやってきた屋敷の人間に見つかってしまい、そのまま連れ戻されることになり、彼は大目玉を食らうことになる。



 特に彼を幼少の頃から知っている家令のバルバトの叱責は苛烈を極め、その日一日バルバトの説教を受け続ける羽目になったのであった。



 なにはともあれ、ラビラタにやって来て早々トラブルに首を突っ込むことになってしまった秋雨だが、彼はまだ気づいていない。自分の正体が警戒対象である貴族に知られてしまったということに……。



 余談だが、ドスケベーノ子爵に目をつけられた女性がどうなったかといえば、貴族に目をつけられたということで、その日のうちに荷物をまとめ夫と共に彼の故郷に移り住んだ。



 その後、四人の子宝に恵まれ、幸せな人生を送ることになるのだが、それはまた別の話である。

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