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47話



 秋雨がマーチャントと初取引を行ってから、一週間が経過した。

 その間にも市場のどよめきやら、ヒュージフォレストファングが行きずりの傭兵に討たれたやらと、様々な進展があった。



 一方の秋雨といえば、相も変わらず冒険者ギルドと宿屋を往復する日々を送っており、悠々自適な生活が送れているといえばそうなのかもしれない。

 だがしかし、そんな傍若無人をあの男がいつまでも許すはずもなかった。



 いつものように、午前三時半に冒険者ギルドにやって来た秋雨だったが、今日はいつもと勝手が違っていた。

 今までであれば、受付にはベティーが待ち構えているはずなのだが、彼女の姿がどこにもない。



(あの男は、いつぞやの)



 ベティーの代わりに受付カウンターにいたのは、四十代と思しき青髪の男で、いつだったか残っていた仕事を片付けるために残業をしていたギルド職員であった。

 秋雨の姿を視認した男は、軽く一礼をすると秋雨が受付カウンターまでくるのをただ待っていた。



「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか?」


「これを換金してくれ」



 そう言って、いつものように薬草の入った袋をカウンターに出したところで男が口を開く。



「申し訳ありませんが、お先にギルドカードの提示をお願いできますか?」


「……これでいいか?」


「結構です。少々お待ちください」



 そう言えば、ベティーはギルドカードの提示を求めなかったので忘れていたが、基本的に受付で手続きをする際には身分証明としてギルドカードの提示が求められるのだ。

 ギルドカードを確認した男は、秋雨にカードを返却し自己紹介をしてきた。



「申し遅れましたが、私はこの冒険者ギルドで職員を務めておりますレブロと申します。以後お見知りおきを」


「そうか、よろしく頼む」



 秋雨は男に対して内心で怪訝な感情を抱いていた。

 確かに男の言うように彼はこのギルドの職員であることは間違いないのだろうが……。



(年の割にはいい身体つきをしている……まるで今も現役の冒険者みたいだな)



 そう、目の前にいるギルド職員を自称する男の身体つきは、服の上からでもわかるほど筋肉が隆起していた。それこそ不自然なほどに。

 ギルドに属するものの中で、戦闘に特化していなければならない唯一無二の役職がある。それは――。



(このおっさん……ギルドマスターだな)



 秋雨の推察通り、その役職とは冒険者ギルドの最高責任者であるギルドマスターだ。

 魔物が急激に増殖しそれらが街を襲った時、ギルドマスターは冒険者を指揮して自らも矢面に立たなければならない。

 それ故に、ギルドマスターは代々高ランク冒険者の中から抜粋されることが通例となっている。



 そして、今目の前にいる男こそ件のギルドマスターであると秋雨は結論に至ったのだ。

 レブロ本人も予想していなかっただろう。自分の身体つきによって自分の正体がバレてしまったことに。



 それを踏まえた上で、秋雨は先に釘を刺すべく口を開いた。



「レブロさん、今日は一般のギルド職員として対応してくれるという事で間違いないんだな?」


「……? ……っ!?」



 レブロも最初は秋雨の問いかけの意図が分からなかったが、すぐに気付かされた。

 つまり、秋雨は一般のギルド職員としての対応を望んでいるという事であり、それはレブロが一般のギルド職員ではないと看破しているという事の裏返しなのであると。



(この小僧、俺がギルドマスターだと気付きやがったな……)



 しばらくお互いの視線が交差し、重苦しい沈黙が場を支配する。

 ややあって、レブロは微笑みを浮かべながら、秋雨の問いに返答する。



「ええ、今日は一般のギルド職員として対応させていただきます」


「……そうか、じゃあ早いとこやってくれ」



 レブロの返答で秋雨もまた気付いた。

 一見すると、秋雨の問いにただ単純にオウム返しで答えたように見えるが、それは否である。

 レブロが敢えて秋雨の問いを復唱して答えたのは、そこに言葉以外の意味を持たせるためだったからだ。



 即ち、“お前が俺をギルドマスターだと気付いた事に気付いたぞ”という意味を持たせるために……。

 そして、そこからレブロの反撃という名の尋問が始まった。



「手続きの前にいくつか確認したいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「どうやらここ最近同じ数量の薬草を納品いただいているようですが、もしかして他にも納品していない薬草があるのではないかと思いまして」



 それはあくまでも柔らかな問いかけではあったが、所々に棘があり何よりも言外にこういっているように聞こえた。



(てめぇ、ギルドに納品してねぇ薬草あんだろうが!? とっとと吐いちまえよゴルァ!)



 当然だが、レブロはそんなことを口に出してはいないし、表情も穏やかな微笑みを湛えている。

 だが秋雨はレブロが内心でそう言っていると感覚的に気付いていたので、こう反論した。



「はてさて、何のことやら。俺は常に決まった数の薬草を採取して納品しているだけの事だ。あまり過剰に採取し過ぎると、生態系が崩れてしまうからなぁー」



 秋雨もまた、口ではそう言っているが言外に発している言葉があり、レブロもそれに気付いていた。その言葉とはこうだ。



(はぁ!? 誰が吐くかよおっさんゴルァ! 寝言は寝てから言うんだなボケナス!!)



 もう一度言うが、これはあくまでも二人の心の中で発している言葉であり、決して口には出していない。

 だが二人とも同じ穴の狢なのか、お互いの心の声が何となく聞こえているらしい。



 かくして、秋雨とギルドマスターの波乱の戦いの幕開けであった。

このままだと、埒が明かないので一週間ほど時間を空けてみた。

そして、始まる秋雨とギルドマスターレブロの初戦が……



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