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31話



(ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……よっと)



 草木も眠る午前三時半、冒険者ギルドへとやってきた秋雨は匍匐前進の体勢から立ち上がり、服についた汚れを払う。

 前回ギルドに来た時と同じように、観音開きとなっているスイングドアの下部分の隙間から匍匐前進でギルド内に侵入する。



 だが彼のやっている事は全くと言っていいほど、無意味なものであった。

 仮に普通にスイングドアを押し開いてギルドに侵入しても、それに気付く人間は誰一人としていないからだ。

 つまり秋雨のやっている“スイングドアの下の隙間から匍匐前進で侵入する行為”はただのシュールな光景と化していた。



 服の汚れを払い終わると、秋雨は物音を立てないようにギルドの入り口から見て真正面の受付カウンターに向かって歩いていく。

 建物内の右部分に設営されている酒場には、相も変わらず酔いつぶれてテーブルに突っ伏している冒険者の姿が見受けられる。



 そんな冒険者の姿を一瞥したあと、視線を受付カウンターに戻す。すると、そこには受付嬢の姿があった。

 秋雨にとってその人物は見知った顔であったため、迷うことなく彼女の元へと歩いていく。



「よぉベティー、今日はちゃんと受付にいるんだな」


「た、たまたまカウンターに用があっただけですよ……それよりも、本日の用向きはなんでしょう?」


「これを買い取って欲しいんだが?」



 そう言って、秋雨は受付カウンターに茶色がかった麻袋を置く。

 ベティーがそれを受け取り「では確認いたします」と告げ、袋の中の物を検める。



「薬草ですか。ブルーム草が5本にジュウヤク草が3本、それからボルトマッシュルームが1本ですね」


「ああ。それとコイツも頼む」



 それから秋雨は懐から牙を三本取り出すと、ベティーにそれを渡す。



「フォレストファングの牙ですね、よく三匹も討伐できましたね?」



 ベティーは感心したように秋雨を賞賛する。

 ちなみに魔物の討伐に関して冒険者ギルドは、クエスト以外にも随時討伐を推奨している場合が多く、討伐したモンスターのランクに応じた報酬が支払われる事になっている。



 その際に討伐したことを証明するため、モンスター部位の一部をギルドに提出することで、報酬を受け取ることができるのだ。

 そして、今回秋雨が倒した【フォレストファング】の討伐証明部位は牙であった。



「たまたま群れからはぐれた一匹を三回倒しただけだ」


「わかりました。少々お待ちください」



 それから数分の間、ベティーは薬草や牙の状態をチェックし、一通り確認が終わると秋雨に買い取り金額を提示する。



「まず薬草関連ですが、どれも状態の良い物ばかりでしたので、ブルーム草が1本につき銅貨3枚、ジュウヤク草とボルトマッシュルームが銅貨4枚で合計で大銅貨3枚と銅貨1枚になりますがいかがでしょう?」


「ん、それで構わない」



 鑑定スキルを使い、あらかじめ薬草の買い取り金額の相場を知っていた秋雨は、相場よりも少し高いことを内心で喜びながらベティーの提示した金額を了承する。



「続いてフォレストファングの牙ですが、こちらも状態に問題ありませんので、一匹につき相場の銅貨5枚で買い取らせていただきまして、合計で大銅貨1枚と銅貨5枚になります」


「わかった」



 秋雨が提示された金額に頷くと、ベティーはすぐさま今回の討伐報酬と素材の買い取りの合計金額である大銅貨4枚と銅貨6枚を彼に手渡した。

 それを受け取った後、ベティーが秋雨に不穏なことを言ってきた。



「アキサメさん、少しいいですか?」


「なんだ?」


「実は、ギルドマスターがあなたを呼んでおりまして、一度会っていただけないかと?」


「何?」



 それを聞いた秋雨は内心で顔に汗を浮かべる思いであった。

 今彼が最も警戒している人物の筆頭であるギルドマスターからお呼びが掛かってしまったのだ。

 ギルドマスターとは、面倒事を持ち込んでくるただの迷惑キャラでしかないと秋雨自身そう考えているため、彼はどうしたものかと頭を巡らせた。



(まさか、こんなに早く奴が動いてくるとは思わなかったな……実に厄介だ。だが、やはりというべきか、俺の存在にいち早く気付いてコンタクトを取ってくるところを鑑みるに、このギルドのギルドマスターの実力の高さが窺えるな)



 秋雨はグリムファームの冒険者ギルドのギルドマスターが、只者ではないことを肌で感じ取りつつも、その能力の高さが窺える行動力に敵ながら感嘆する。

 だが、ここで素直に相手の土俵に立つのは些か癪に障るため、今回は逃げの一手を投じることにした。

 


「悪いが、俺はギルドマスターに会いたくない。だから丁重に断らせてもらおう。それから今後一切ギルドマスターと関わる気はないからその旨も伝えておいてくれ」


「え、ちょ、ちょっと、アキサメさん?」


「じゃあ、今日はこれで失礼する」


「え、あ、ああ……」



 取り付く島も与えずに秋雨は半ば強引に話を切り上げギルドを後にした。

 ギルドから出るときに、不意に何者かの視線を酒場の方から感じそちらに顔を向けたが、そこには寝ている冒険者しかいなかったため、気のせいだったと秋雨は判断した。



 今回自分が取った行動で、ギルドマスターが簡単に引き下がるとは思えない秋雨であったが、相手のペースで動けば動く程術中に嵌るのは目に見えていたため、今回のような行動に出ることで、ギルドマスターに拒絶の意思を伝えようとしたのだ。



「いずれ奴とは直接対決することになるだろうな。まあ、そうなったらそうなったでやり合うだけだけどな」



 未来にやってくるギルドマスターとの対決に内心でため息を吐きつつ、秋雨は宿に戻っていった。

 こうして、初めてギルドで報酬を受け取った秋雨は、冒険者の仕事に確かな手応えを覚えながら、次の薬草採集に出かけるのを楽しみにしていた。

次の章でちょっとした事件がギルドを騒がせる。

それに秋雨がどう関わっていくのかが、次章の見所です!!



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