21話
「おっ、坊主じゃないか今からクエストか?」
現在秋雨はグリムファームの入り口である門にいた。
対応してくれたのは、最初にこの街に来た時に対応してくれた門兵だった。
あれから2時間ほど魔法の練習をして、火の玉と氷の玉を出す魔法を修得した。
宿では攻撃魔法として使用することはできなかったが、街の外ではモンスターにぶつける事で攻撃魔法としての役割を果たしてくれることだろう。
「まぁな、駆け出しだから近くの森とかで薬草採集に行くだけだけどな」
「そうか、薬草採集なら西にある森に行くといい、この時期ならかなり群生しているはずだ」
「そっか、ありがとう。さっそく行ってみるよ」
そう言いながら、秋雨はギルドで発行されたカードを門兵に提示して、街を出た。
街を出てすぐの場所に十字の分岐路があり、東側に進めば商業が盛んな都市【コンマーク】へ、西へ行くと王都である【バッテンガム】がある。
そのまま北へ進めば、他の大陸に行くための船が出ている港町【ガルポート】にたどり着く。
それだけにグリムファームという街は各都市の中継地点として重要な役割を持っている要所でもあった。
秋雨は門兵に教えられた通り、王都へと続く西の街道を進んで行く。
40分ほど歩いたところで、森の入り口が見えてきた。
「ふむふむ、俺が最初に飛ばされた森よりも森々しいな、そんな言葉があるかは別として」
秋雨の視線の先には、鬱蒼と茂った木々が広がっている。
木の幹には蔦が生えており、ジャングルの様相を呈している。
最初に秋雨が飛ばされた森と比べると、地面も草に覆われ、土の部分がほとんど見えない。
秋雨の言葉を借りるなら、今回の森はこれ以上ないほどに森々しいと言えた。
「では早速、薬草採集と洒落込みますかね」
そう呟くと、秋雨は躊躇うことなく森へと足を踏み入れた。
これといって特に変わった様子もなく、時折小動物が横切ったり鳥の鳴き声と思われる声が聞こえてくる程度だ。
しばらく歩き続けていた秋雨だったが、肝心な事を思い出してしまい、突然歩調を緩め立ち止まる。
「そうだ、俺ってどんな薬草を採取すればいいのか知らないんだった……馬鹿じゃん」
今この場に誰かいたのであれば「おっしゃる通りにございます」というツッコミが飛んでくること請け合いな状況だ。
薬草が自生している場所に来たものの、肝心の採取すべき薬草の情報を誰にも聞かなかったのだ。
「しょうがない、ここは【鑑定先生】に教えていただきましょうかね……てことで、鑑定先生! どんな薬草を採取すればいいのか教えてください! 【鑑定】!」
鑑定の結果、【ブルーム草】という秋雨の世界でいう所のヨモギに似た植物らしく、それと他の素材を調合することで初級回復薬が作れるという情報を入手した。
さっそく周囲を捜索してみると、そこらかしこにブルーム草が自生しており、秋雨は無我夢中で採取していく。
すべて取りつくしてしまうと、新しく生えてこないかもしれないので、少しだけ残してある。
「なかなかだな、この20分でこれほどとは、あの門兵の言っていたことは正しかったようだ」
秋雨の両手には数十本のブルーム草が抱えられており、青臭い匂いが鼻をくすぐる。
それをアイテムボックスにしまうと、秋雨はさらに他の薬草も鑑定先生の力を使って採取していった。
結果的に採取することができたのは、初級回復薬の素材になるブルーム草が34本とドクダミの葉に似た【ジュウヤク草】という初級解毒薬の素材になる薬草が22本、食べると身体が痺れて動くことができなくなる【ボルトマッシュルーム】という毒キノコを11本手に入れることができた。
ちなみにボルトマッシュルームは初級麻痺治療薬の素材に使われるのだが、同じ素材で麻痺薬も作れてしまうため、このキノコは取扱いに十分注意が必要だ。
そして、秋雨はここで転生者独特のミスを犯してしまったことに気付いていない。
それは冒険者として活動を始めたばかりのGクラスの冒険者が、これほど大量の薬草を採取することは不可能なのだ。
そもそもの話、薬草採集は冒険者の基本的な仕事の一つであると同時に、冒険者の資質として洞察力や観察力といった重要なものが必要な仕事であった。
にもかかわらず、最初の内からこれだけの成果を上げる秋雨は異常であり、彼と同じ成果を上げられる駆け出し冒険者はほぼ皆無であった。
田舎の村出身で日頃山で食材を採っている人間でさえ、今回の秋雨の成果の半分ほども採取できれば凄い部類に入る。
それを踏まえると、今回秋雨が採取した成果がどれだけ異常性を持っているのかお分かりいただけることだろう。
そして、残念なのがそれを本人が理解していないということなのだが、それを指摘するものは当然ながらいない。
「うん? なんだ?」
目的の薬草を手に入れることができたので、もうそろそろ帰ろうかと思い始めたその時、突如として草むらからガサゴソという音が聞こえてきた。
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