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20話



「さて、これからどうっすかなー」



 冒険者ギルドを後にした秋雨は物思いに耽っている。

 時刻は午前四時を回ったくらいの早朝とも真夜中とも言い切れる時間帯だ。

 後2時間ほどで宿の朝食の時間になるのだが、戻って二度寝するには短いしかと言ってこのまま薬草などの簡単な素材を集めて回るには短い時間だ。



「急げば薬草の二十本くらいは摂れそうだけど、そんな急いでるわけでもないしな……」



 そう、秋雨のこの世界での目標は悠々自適に生活する事なのだ。

 他の人間と違って何か重大な目的を持っているわけでもなく、ただただマイペースに生きていきたいと思っていた。



 この世界に送ってくれた女神であるサファロデの口調からして、どうやらここにも魔王という存在がいるらしいことは秋雨は薄々気付いていた。

 だがサファロデは魔王を倒せということは明言しておらず、秋雨がどんな人生を送ろうとも自由だと発言している。



 彼女の言葉が本当であると仮定するならば、秋雨にとってこの世界でどう生きようとも本人の勝手だという事を認める発言に等しい。

 その言葉を鵜呑みにするのはいかがなものかと秋雨自身そう思いながらも、何も使命を与えられておらず、自由にしていいとすら言われているのであれば、好きに生きてみたいと思うのは人の心理としては当然のものであった。



(そうだな、ここは一旦宿に戻って炎と氷の魔法を少し鍛えてから、飯を食って薬草採集に行く方が危険が少なくていいかもな)



 そう判断してからの秋雨の行動は素早かった。

 白銀の風車亭にすぐに戻った秋雨は、店番をしていたケーラに帰還の挨拶をすると、朝飯を部屋に持ってきてくれるよう頼んだ後二階へと登っていった。



 その途中であのバカップルがいちゃついているかと耳を澄ませてみたが、どうやら彼らも疲れてしまったのか声は聞こえてこなかった。

 少し残念な気持ちになりながらも、秋雨は大人しく自分の部屋に舞い戻ってきた。



「ふぅー、とりあえず無事に冒険者登録は完了したな、結構結構」



 ベッドの端に腰を下ろしながら、アイテムボックスに収納したギルドカードを取り出し改めてその内容を確認していく。



【名前】:アキサメ


【年齢】:15歳


【使用する武器】:剣


【特技】:魔法(炎、氷)


【ランク】:G


【クエスト達成数】なし


【現在受注しているクエスト】:なし



「まあ最初はこんなもんだろう、とりあえず当分は朝と昼のギルドの出入りは避けて真夜中に行ったほうが無難だろうな、それでもいずれは俺の存在に気付かれるだろうが、そういう人間は少数に留めるに越したことはないからな」



 すでにその存在を知られていることに気付いていない秋雨だったが、それを指摘するものは誰もいないため話は冒険者のランクに移った。



「ランクについては任意とか言ってたが、Eランクまでは条件を満たしたら素直にランクアップを申請して、D以降はほったらかしにするべきかもな」



 秋雨にとって関わり合いになりたくない存在が5人いた。

 内訳に関しては以下の通りだ。



1、ヒロイン認定された女の子


2、冒険者ギルドのギルドマスター


3、大手の商会を務める大商人


4、貴族


5、王族



 以上の5人の存在が秋雨にとって、今後注意すべき人間だ。

 秋雨がこの世界で生きていく上で危険視しているのは、面倒事に巻き込まれるという事だ。



 自らが原因でそうなったのであれば納得もできるだろうが、それが人の手によってもたらされた物であった場合、これほど理不尽なことはないだろう。

 そして、その面倒事を持ち込んでくる可能性がある人間が先に挙げた5人だ。



 秋雨が好んで読んでいた異世界転生物の小説では、ほぼこの5人が発端となって面倒事に巻き込まれている場合がほとんどなのだ。

 逆に言えばこの5人と関わり合いにならなければ、少なくとも人為的な面倒事には巻き込まれずに済む。



 特に注意すべきは2、4、5番の人物で、秋雨は彼らが接触してくるのを極端に警戒していた。

 よくあるパターンとしては、“戦争が起きたから手を貸してほしい”だの“魔物の暴走が起きて街がヤバイから手を貸してほしい”といったようなものだ。



 さらに質が悪いことに、それらの頼み事を断った場合、十中八九国が滅んだり、街が壊滅してしまうというバッドエンディングが待っているという事だ。

 だからこそ、そういった面倒事を避けるためには面倒事を持ち込んでくる人間自体と接触しなければいいと秋雨は考えていた。



 そして、冒険者ランクを高くしすぎないように調整することは、ギルドマスターとの接触を極端に少なくするための対策だった。

 ランク自体を上げないという選択肢もあるが、それはそれで他の冒険者に絡まれたり、逆に目立ってしまいギルドマスターの目に止まる可能性があるのだ。



「しまった、俺がダブルソーサラーだと言わないで欲しいってベティーに釘を刺すのを忘れてた」



 いろいろと考えを巡らせていた秋雨だったが、すぐに自分が失態を犯している事に気付いた。

 今から冒険者ギルドに戻ってベティーに釘を刺すという選択肢もあるが、すでにベティーが誰かに話しているかもしれないし、早番の冒険者がギルドに顔を出している可能性も否めない。



「口惜しいが、今からギルドに戻った場合リスクの方がデカいか? 仕方ない、彼女への釘刺しは次の真夜中まで我慢するしかないな」



 そう結論付けた秋雨は、ケイトが朝食を持ってくるまで魔法の練習に勤しむのであった。

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